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LCAをわかりやすく徹底解説!脱炭素に向けた取り組みを知ろう

LCAをわかりやすく徹底解説!脱炭素に向けた取り組みを知ろう

現在、世界の多くの国々で脱炭素化に取り組んでいます。日本でも菅元首相が2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指す、と表明しています。

この取り組みに重要な役割を果たしているのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)という手法です。LCAを使えば、製品・サービスが生まれてから、使い終わるまでの一連の流れで、どれくらいの温室効果ガスが排出されているのかを知ることができます。

脱炭素化のスタートは、まずどんなものにどれくらいの有害物質が含まれているのかを知ることからです。

本記事でLCAについて学び、脱炭素化に向けた取り組みを知ることから始めていきましょう。

LCA(ライフサイクルアセスメント)とは

LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、「製品・サービス」を作る過程で温室効果ガスがどのくらい排出されているのかを、定量的に知ることができる手法のことを指します。

脱炭素化を目指すためには、現状の問題を把握することが必要です。問題や原因がわかれば対策をたてることができます。脱炭素化を達成するために企業がLCAに取り組むことは重要ですが、日本国内ではまだまだ広まっておらず、今後、多くの企業が取り組まなければならない課題となっています。

LCAに取り組み、CO2排出量を減らすことで、地球温暖化を遅らせることができます。

一方で、CO2を減らすために電気自動車化が進んでいますが、EV車を作る過程でのCO2排出量は、ガソリン車以上になるという課題があります。

このように、LCAの取り組みには一時的にCO2削減のためにCO2が増えてしまうなどの、トレードオフの関係が発生します。

LCAが広まりつつある背景

LCAが広まりつつある背景

LCAは、環境問題への取り組みとして国際社会全体で広がりを見せています。2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指す活動も、日本やアメリカを始め多くの国で取り組まれています。

LCAの原点は、アメリカ飲料メーカーの「コカコーラ」だと言われています。コカ・コーラの委託先、フランクリン研究所が実施した「飲料容器に関する環境影響評価に関する研究」によると、洗えばリサイクルして使用できるビンとアルミ缶(当時はリサイクル不可)のどちらがエネルギー消費量が少ないのかを調査したことが始まりだと言われています。

ISOによるLCAの規格化

現在、ISO(国際標準化機構)が定める、環境マネジメントの国際規格としてLCAは規格化されています。ISO14040〜ISO14043の4つに体系化される。

・ISO14040=目的・調査範囲の設定

・ISO14041=インベントリ分析

・ISO14042=影響評価

・ISO14043=解釈

ISOにより規格化された背景もあり、日本でもLCAの認知度が高まっています。最近では企業のCSR報告書にも導入されるなど、信頼性の高いデータになっています。

脱炭素社会の目標との関係性

日本では菅首相が「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指す」と表明しています。

脱炭素化は世界が賛同している動きであり、今後ますます取り組みは加速していくでしょう。

脱炭素化社会を目指すためには、段階的に温室効果ガス排出量を減らしていかなければなりません。

大手企業では、LCAの取り組みを始めている企業が大半です。一方、中小企業ではLCAという言葉自体、知らない企業も多いのではないでしょうか。

企業がLCAに取り組むことによって、脱炭素化に向けた問題点が明らかになり、対策を立てることができます。

LCAを実施する手順

LCAを実施する手順

LCAを実施するには、ISO(国際標準化機構)が定めた4つの手順を経て実施していきます。
一つ一つの手順を正確に行い、製品のあらゆる工程を深掘りし調査を進めていきましょう。

LCAの実施手順は下記です。

1.目的・調査範囲の設定

2.インベントリ分析

3.影響評価

4.解釈

1.目的・調査範囲の設定

まずは、LCA対象の「製品・サービス」を選定し、調査の目的を設定します。調査の目的の基準は4つです。

・調査結果をどう活用するか決める

LCAの調査結果をどのように活用し、脱炭素化に貢献できるか、事前に設定します。

(例)製品の製造工程で温室効果ガスの削減に活用する。後継機種の販売に先駆け、消費エネルギーの削減ができているか確認する。消費者への情報開示に活用する。など

・評価項目を設定する

どの環境問題に対して調査を行うかを策定します。

(例)地球温暖化・水質汚染・大気汚染・酸性化など

・対象の製品・サービスを決める

自社のどの「製品、サービス」を対象にLCAを行うか選定します。

・調査範囲を決める

該当製品のライフサイクルで、どこからどこまでを調査対象とするのか設定します。

(例)製造工程まで、材料調達からリサイクルまで、など

2.インベントリ分析

調査範囲で設定したライフサイクルにおいて、投入した資源(インプット)と、排出した資源(アウトプット)を洗い出し、明細を作成します。

・投入した資源(インプット)とは、

原材料・素材・エネルギーなど、製品を作るために必要な資源のこと。

・排出した資源(アウトプット)とは、

製品自体や製造時に出る排出物のこと。

目に見える形で、明細を出すことによって、分析結果を全体的に把握することができます。

3.影響評価

インベントリ分析で作成した、インプット・アウトプットの明細をもとに、環境へ与える影響を定量評価します。

影響評価は別名インパクトアセスメントとも呼ばれています。

「目的・調査範囲」で設定した評価項目(地球温暖化など)に対して、測定項目(CO2など)がどれくらい影響を及ぼすかを確認します。

4.解釈

LCAの調査目的に照らして、インベントリ分析・影響評価を、単独または総合して評価・解釈していきます。

解釈では大きく3つの工程があります。

・重要項目を特定(環境への影響が大きいものを選定)

設定した評価項目(地球温暖化など)に対して、影響の大きい、重要項目を特定します。

(例)EV社のリチウムイオン電池製造工程でのCO2排出量が、製造工程全体の30%を締めているなど。

ここで、重要ではない項目を評価してしまうと、全体としての効果が薄れます。環境問題に対して、大きく影響する項目を正しく特定することで、効果の高い環境対策を実施することができます。

・データの信頼性をチェック評価

解釈では、データに誤りがないか、データの根拠は充分か、改めて確認をします。信頼性の高いデータに基づいて解釈を行わなければ、せっかく出した結論があらぬ方向へ向かってしまいます。正確にデータが取れているのか、十分注意して確認しましょう。

・結論を分析の依頼者へ提言する

LCAの結果を、調査依頼者へ報告します。この際、ライフサイクルのどの工程で、何が問題なのか、詳細に報告することが大切です。

  

LCAの取り組み例

LCAの取り組み例

温室効果ガスの排出量を定量的に示すことのできる、LCAを使った企業の取り組みとして「エコリーフ環境ラベルの登録」「CSR報告書などによる報告」を紹介します。

エコリーフ環境ラベルの登録

エコリーフ環境ラベルとは、LCAを用いて環境負荷を定量的に算出し、情報開示をしていることを示す、日本生まれのラベルのことを指します。

エコリーフ環境ラベルの登録を行うことで、読み手に対して自社の取り組みを公表し、環境への影響を配慮した「製品・サービス」を作ることが可能になります。エコリーフで特徴的なのは、開示された情報について良し悪しを決めるのではなく、その評価を読み手に一任していることです。

2017年4月に、エコリーフとCFP(カーボンフットプリント)プログラムが統合されたため現在では、統合版「SuMPO環境ラベルプログラム」内の「エコリーフ宣言」として取り扱われています。

SuMPO環境ラベルプログラムでは、「エコリーフ宣言」、「CFP(カーボンフットプリント)宣言」という2つの宣言があります。

2つの宣言の違いは、対象影響領域(気候変動・酸性化・富栄養化・資源消費など)が異なることです。

・エコリーフ宣言=対象影響領域が複数(3つ以上)

・CFP宣言=対象影響領域は気候変動のみ

どちらの宣言も、LCAを用いてライフサイクルからの環境負荷を算出します。

エコリーフの情報開示については、「SuMPO環境ラベルプログラム」の認定製品一覧ページへ「エコリーフ環境ラベルの登録番号」を入力することで閲覧することができます。

CSR報告書などによる報告

現在、環境問題に対する企業の社会的責任に関心が高まってきています。そこで多くの企業で、環境報告書(CSR報告書)を公表しています。CSR報告書はサステナビリティ報告書とも呼ばれます。

CSR報告書では、自社の環境、労働、安全衛生、社会貢献などに関する情報や、事業活動に伴う環境負荷などを幅広く公開しなければなりません。

このCSR報告書へLCAを導入することで、自社は社会持続性に貢献している企業であることを示すことができます。

LCAの問題点には何がある?

脱炭素化に向けた国際社会で、LCAは重要視されており、LCAを活用して自社の優位性を保つ企業も増えています。メリットが注目されがちですが、LCAはいくつかの問題点を抱えています。

コストの問題

LCAを活用して環境負荷を特定するためには、それなりのコストがかかります。環境負荷を特定するためにはさまざまな工程の確認が必要です。

・原材料の入手

・製品部品の生産

・原材料〜製品の輸送

・「製品・サービス」の使用

・廃棄にかかるコスト、など

こうした環境負荷原因の特定に、大きなコストがかかります。

また、LCAの結果を受け入れ、環境負荷へ対応するためにも大きなコストが発生します。

・原材料の調達先変更

・輸送時に再生可能エネルギーの使用

・製品の消費エネルギーを下げるために新規開発、など

このような費用の問題について解決されないと、中小企業ではLCAの導入は厳しいといった意見もあります。

設備が評価の対象外

LCAでは、「製品・サービス」について環境負荷を定量的に算出するため、その評価範囲が限定されています。原材料の入手先の設備や、製品作成時のエネルギー調達先に大きな問題があった場合、企業だけでは対策を取ることができません。

製品・サービスに限定されず、もう一つ広い視野で、評価できる仕組みづくりが必要になるでしょう。

精密な計算が難しい

LCAでは、環境負荷について定量的に算出するため、あらかじめ定数が定められてしまっています。しかし実際は、「製品・サービス」を使用するのは消費者であり、一つ一つの製品が異なる使い方をされていきます。

たとえば、エアコンをLCAで評価する場合で考えるとこのような問題が生じます。

「企業側で設定した使用環境=7月〜9月に冷房を28℃設定で、1日8時間使用。」と想定してLCAを評価した場合でも、実際の消費者の使用環境はさまざまです。

・24時間、25℃で冷房をつけっぱなしの人

・梅雨の時期に、洗濯物を乾かすために除湿運転で使用する人、など

想定単位の設定が大きくずれてしまうと、LCAの評価も異なってしまいます。

また、すでに環境対策に取り組んでいる企業でも、精密な計算は難しくなります。たとえば、企業で環境対策として再生エネルギーを使用している場合、LCAで定めている原単位を使用することができません。

どこまでを再生エネルギーで賄っているかは、企業ごとに異なるため、自社で独自の原単位を定めて測定する方法しかありません。

今後、LCAを使った評価をする際、基準となる数値を明確化していくことが大切です。 

大手企業も参加する日本LCA学会とは

大手企業も参加する日本LCA学会とは
画像出典元:日本LCA学会|日本LCA学会について

日本LCA学会とは、LCAのライフサイクル的な思考を、社会持続活動の基本理念として活動する団体です。LCAの企業活動などを蓄積・発展させより良い社会を目指す活動を行っており、多くの大手企業も参加しています。

日本企業によるLCAの活動例

ここでは日本企業が取り組んでいるLCAの活動をいくつか紹介します。

花王株式会社:超濃縮液体洗剤「アタックZERO」

洗濯洗剤でみなさんご存知であろう「花王」でもLCAの取り組みを行なっています。

ここでは、超濃縮液体洗剤「アタックZERO」を例に、どのような取り組みを行なっているのか見ていきましょう。

まず、「アタックZERO」の原材料は、アブラヤシという木の油を使用しています。このアブラヤシが育つのは、赤道をはさんだ南北緯度10度くらいまでの熱帯地域のみです。

自社が定める調達ガイドラインに従い、熱帯地域の生態系を壊さぬように原材料の調達を行なっています。

アタックZEROの原材料
画像出典元:花王|エコにつながる、花王のモノづくり
~「アタックZERO」の場合~

生産工場については、「資源はムダなく使う!」というスローガンを掲げており、製品を作る際に出るプラスチックの破片は、全て再利用しています。さらに太陽光発電システムの導入でCO2削減に取り組んでいます。

製品輸送については、CO2排出量がトラックに比べて少ない「船舶・鉄道」を多く使用しています。トラックを使用する際も、一度により多くの製品を載せるため、荷積の仕方を最適化してCO2削減に取り組んでいます。

製品輸送
画像出典元:花王|エコにつながる、花王のモノづくり
~「アタックZERO」の場合~

製品作成時のCO2削減以外にも、使用時のCO2削減にも取り組んでいます。「アタックZERO」は、他社の洗剤よりも洗浄力を高くし、すすぎも1回で済むように作られています。そのため、家庭で洗濯機を使用する時間が短縮され、CO2排出の削減に成功しています。

廃棄時のCO2削減としては、詰め替え用品の販売があります。詰め替えにより、製品ボトルの廃棄を減らし、廃棄物の割合も詰め替え用品が増えることで、廃棄物自体が少なく済みます。

このように花王では、製品のライフサイクル全体でCO2削減に成功しています。

富士通株式会社:製品LCAの取り組み

富士通では、1998年から環境配慮設計の開発強化を目的として導入した「グリーン製品」評価制度に製品のLCAを用いています。

最近では製品のサービス化が進み、IoT製品や、シェアリングサービスが多く展開されています。特にシェアリングサービスの展開では、製品販売からメンテナンス、使用後の廃棄に至るライフサイクルで環境廃棄物を削減する重要性が高くなっています。

そこで、2019年度から、環境配慮設計に基づいたグリーン製品がへLCAを導入し始めました。

以下、富士通製品のライフサイクル例

製品のLCAの評価範囲
画像出典元:富士通|製品LCAの取り組み

2019年度の一つの事例として、サーバーのクラウドサービスとオンプレミアの比較があります。クラウドにサーバーを集約することによって、保守メンテナンス部品の削減や、廃棄物の削減、リサイクルでも高効率に資源改修を行うことができるため、環境廃棄物の削減をすることができました。

自社サービスにおけるLCAのサイクルフローも定めており、更なる環境廃棄物の削減をし、持続化社会への貢献を深めています。

【LCAのサイクルフロー】

サービサイジングのLCAの評価範囲
画像出典元:富士通|製品LCAの取り組み

LCAの実施には深い理解が必要

LCAとは、企業が「製品・サービス」を作る過程で温室効果ガスがどのくらい排出されているのかを、定量的に知ることができる手法のことです。

温室効果ガスの排出量を把握することで、製品ライフサイクルでどの工程を見なおしていけば、脱炭素化社会に貢献できるのかがわかるようになります。

しかし、LCAにはいくつか問題点があり、参入できる企業が限られてしまっているのが現状です。

今後ますます、国際社会で脱炭素化が進み、LCAの必要性も増していくでしょう。今後について日本政府が、LCAの問題点をうまく解消して、企業全体で持続可能な社会を目指すことが必要です。

弊社の「e-dash」は、脱炭素への取り組みを総合的にサポートするプラットフォームです。エネルギーの最適化からCO2削減まで、貴社の脱炭素経営をトータルにお手伝いします。低コストでスタートできるプランを用意しているため、まずは気軽にお問合せください。