SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」は、陸上の生態系を守ることを目指しています。自然環境の変化を食い止める、動植物の多様性を維持するなど、対象は多岐に及びます。
では、具体的にはどのような取り組みが行われているのでしょうか。今回はSDGs目標15の内容を確認しながら、目標達成を目指す企業や団体の取り組みについて解説します。
目次
SDGs目標15とは?

SDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」は、生物多様性の維持や絶滅の回避を目的にしています。例えば、絶滅の危機に瀕している生物は2019年の調査の時点で鳥類が全体の14%、針葉樹34%、哺乳類25%、両生類14%でした。こうした絶滅数を少しでも減らすことが多様性の維持につながるでしょう。
また、生物種だけでなく生き物が暮らす環境も危機にさらされています。世界では砂漠化や酸性雨などにより、年間約470万ヘクタール以上もの森林が消失しています。
災害や気候変動にさらされず、人類がこれからも生きていくには生物の多様性は必要不可欠です。SDGs15では失われつつある生物や森林を守るために9個の達成目標を設定し、陸上の生態系を守ることを目指しています。
陸の豊かさを取り巻く現在の環境・課題

人間の歴史や文明は自然環境の豊かさによって支えられてきました。しかし、産業革命以降再生産よりも消費のペースが上回った結果、自然環境が急激に変化しています。陸地で起きている自然環境の変化や、われわれが抱える課題について確認しましょう。
砂漠化
1970年代から世界では砂漠化が進んでおり、特にアフリカ諸国などの開発途上国で深刻な問題となっています。砂漠化の問題点はまず人間を含む動植物の環境が脅かされることです。痩せた土地では食料を確保することが難しくなり、その地域にいる動植物は生息数を減らしたり外来種に対する抵抗力が弱まったりします。
農作物を育てられず、定住が難しくなった人々が他の地域に流入することで難民となるケースも少なくありません。これは住環境の悪化だけでなく、移住先での食糧問題や貧困問題にもつながります。森林の面積が減少することで自然災害が起きやすくなるなど、砂漠化は複数の問題に密接に関係している課題です。
森林火災
近年、地球温暖化や気候変動により地域によっては干ばつや乾燥が起こりやすくなり、森林火災が発生しやすくなっています。森林火災は早期に鎮火できなかった場合、広範囲に燃え広がり、消火までに広大な面積の森が消失してしまいます。
日本では森林火災はあまり大きなニュースにはなりませんが、実は1年間に約1,300件の森林火災が発生し、約600ヘクタールの面積が消失しています。さらに、世界の乾燥地帯では一度に約4,000平方キロメートルの面積が燃える火災も起きました。発生する二酸化炭素の量も膨大であり、地球温暖化の加速も懸念されています。
森林の荒廃
森林を健全な状態に保つには適切な管理が必要です。しかし、日本では外国からの安価な輸入木材が増えたことから、林業に従事する人が減少傾向にあります。
さらに、日本の人工林のうち約7割は戦後の樹木需要があった時期に植えられたスギやヒノキです。一つの樹種でできた森は多様な木が生えている森よりも人間の手入れを必要とします。管理者が少ない中でこうした手間のかかる森が多く放置され、結果として森林の荒廃が進みました。
地球温暖化
地球温暖化の原因となっている温室効果ガスの排出量は年々増え続けています。大気中の二酸化炭素濃度が増加することで、世界の平均気温が上昇しつつあります。このままの状況が続けば動植物の安全な生育環境は脅かされてしまうでしょう。
例えば、地球温暖化によって北極の氷が溶け、1901~2010年の間に海面が19cm上昇しました。沿岸地域では高潮や氾濫、海岸浸食などによる被害が出ています。また、海水温の上昇によって台風の発生頻度も増え、大規模な水害の原因となっています。
絶滅危惧種の増加
地球上には175万種の生物が確認されていますが、1975~2000年までの間に平均4万種が絶滅したと言われています。生物種は自然に絶滅することもあるものの、土地開発・土地の汚染、乱獲・密漁、外来種の持ち込みといった人間の生産活動も大きく関わっています。
人間が現在の生産活動を変えなければ、将来的にはさらに絶滅のペースが上がるでしょう。ある研究によれば、このままでは現在の10倍もの速さで絶滅が進むという研究報告もあります。生物の多様性を維持するには生産活動の方向転換が求められています。
SDGs目標15に向けた取り組み事例

SDGs目標15を達成するためには、生産から輸送・消費に至る一連の経済活動そのものを大きく転換する必要があります。森林保護・動物実験廃止など、それぞれの分野に関わる団体や認証制度を以下で紹介します。
FSC認証
FSC認証とは、森林の活用や保全を目的とした認証制度です。森は放置しているだけでは上手く育たず、むしろ土砂崩れなど災害の要因になってしまいます。FSC認証制度では適切な管理を行って森の管理・保全に貢献している製品を選定することで、こうした活動を支援しています。
社会・経済・環境など、さまざまな面の基準をクリアした製品にはFSCロゴマークが付与されます。FSC認証の製品を選ぶことは、適切な森林管理を行っている林業者・自治体・団体の応援や評価につながるでしょう。
クルエルティフリー認証
クルエルティフリー認証とは動物実験をせずに開発されたということを示します。クルエルティフリー認証をチェックする団体は世界にいくつかあり、認証マークもさまざまな種類があります。そして、それらの多くの団体がウサギの意匠を使っています。
星とウサギをあしらったリーピングバニーのロゴマークは国際的に認知度が高く、審査が厳しいことでも有名です。生き物の命を尊重し、自然環境にも意識を払う企業を選びたいなら、ウサギのマークに注目してみましょう。
WWF(世界自然保護基金)
WWF(世界自然保護基金)とは世界100カ国以上で活動する環境保全団体です。絶滅のおそれがある野生生物を救うため、1961年に活動が始まりました。WWFのトレードマークでもあるパンダのロゴは普段の暮らしでも目にしたことがあるのではないでしょうか。
WWFは当初野生動物の保護を目指して発足しましたが、近年はより包括的に動物を守るため地球温暖化の防止や持続可能社会の実現に向けて取り組んでいます。生物多様性の回復も大きな目標として掲げているため、彼らの活動を支援することで陸の生き物の保全にもつなげられるでしょう。
グッドインサイドマーク
グッドインサイドマーク(UTZ認証)とは、コーヒーの生産から加工・流通に至るまで社会や環境に配慮している商品に与えられる認証マークです。日本ではまだ知名度が低いですが、近年では大手メーカーのUCCが加工・流通過程管理認証を取得しました。
グッドインサイドマークの目標はコーヒーにまつわる生産者や加工者、自然環境が今後も持続して活動できることです。目標の実現のため、オンライントレーサビリティシステムを通じた生産履歴の確認制度などを提供しています。
グリーン・コモディティ・プログラム
グリーン・コモディティ・プログラムとは主に農作物の生産形態を改善するためのプログラムです。国連開発計画が中心となって実施しており、現地政府関係機関の人材育成、生態系や生物の多様性を維持できる農法への転換などを目指しています。
分かりやすく言うと、不健全な農業活動によって起きる環境や人の暮らしへの影響を改善するための取り組みです。自然に負担をかけることなく今後も持続可能な生産形態を実現できるよう、農家だけでなく現地の政府や団体にも働きかけています。
SDGs目標15に対する企業の取り組み事例を紹介

企業もSDGs目標15の実現に向けてさまざまな取り組みを実施しています。各企業の取り組みや実績について以下で確認しましょう。
フロムファーイースト株式会社
フロムファーイースト株式会社は環境の保全と経済発展の両方を目指し、「使うほどに環境がよくなる」無添加のオーガニック石鹸や化粧品の製造・販売を行っています。
同時に「森の叡智プロジェクト」を立ち上げ、カンボジアの荒地に植林を行うなどの積極的な保全活動にも携わっています。自然環境の保護に役立つ商品や活動を広げることで、森林減少や貧困問題を解決することが最終的なゴールです。
サラヤ株式会社
サラヤ株式会社は家庭から企業、福祉の現場で使える石鹼や消毒剤を製造・販売するメーカーです。業界に先駆けて環境に優しい洗剤を製造するなど自然保護に関する関心が高く、現在もサステナビリティ推進方針を制定して環境保全や資源の持続可能な活用を目指しています。
近年では、2010年より持続可能なパーム油を使った商品を販売しています。また、2019年には「持続可能性レポート2019」が高い評価を受け、環境省の環境報告部門生物多様性報告特別優秀賞を受賞するなど、長期的な取り組みを続けている企業です。
ピープルポート株式会社
ピープルポート株式会社では、環境に負荷が少ないエシカルパソコン「ZERO PC」を開発しました。ZERO PCは使用済みのPCから寿命の長いパーツを回収し、新しい筐体に組み上げています。再利用できないパーツもすべてをリサイクルし、廃棄物の削減やレアメタルの再使用に貢献しています。
製造時も100%再生可能エネルギーを使用し、製造過程における二酸化炭素の排出量を90%削減しています。加えて、難民労働者の自活支援も行うなど、現代の生活に欠かせないPCという商品を通じて多方面から問題の解決に取り組んでいる企業です。
UCC上島珈琲株式会社
UCC上島珈琲株式会社では、UCCサステナビリティチャレンジとしてフードロスの削減や持続可能なコーヒー栽培などに取り組んでいます。コーヒー栽培は生産者の厳しい労働環境に近年注目が集まっており、同社では会社全体を挙げて働き方の改善と自然環境の保護に力を入れています。
彼らの掲げる目標は、環境や生産者に配慮した持続可能な農法で生産されたコーヒーの普及です。ハワイやエチオピア、ベトナムなどで保全や教育活動を行っています。2009年には、グッドインサイドの加工・流通過程管理認証を全7つの工場で取得しました。
住友林業株式会社
住友林業株式会社は国内に総面積約4.8万ヘクタールの森林を保有しており、生物多様性の保全を含めた適切な森林管理を行っています。これは日本の国土の約1/800に相当する面積です。蓄積したノウハウを全国の自治体・林業事業者に向けて発信し、森林・林業の地域活性化を支援しています。
さらに、国内にとどまらず、インドネシア、パプアニューギニア、ニュージーランドの森林の管理も行っています。各地域の特性を生かし、現地の暮らし方や自然に適した森林事業を展開していることが特徴です。
陸の環境を守り持続可能な事業へ

SDGs目標15に向けて、多くの企業が森林の管理・トレーサビリティの向上などさまざまな取り組みを行っています。生物多様性の危機は国内だけでなく地球規模で考えるべき課題です。目標15の真の達成には、国内の森林保全だけでなく、海外の労働環境にも目を向ける必要があるでしょう。
しかしながら、大規模な保全活動に参入することは簡単ではありません。まずは認証マーク製品の購入や植林活動への参加など、身近な活動から始めてはいかがでしょうか。