持続可能な世界を目指して作られたSDGsは、社会全体で取り組むべき課題です。社会への責任を果たすことにもつながるため、SDGsの取り組みに力を入れる企業も増加しています。
一方、なかには企業の理念や方針とSDGsの取り組みに齟齬があり「SDGsウォッシュだ」と指摘された企業もあります。正しく取り組みを導入して継続するには、知識を深めつつ準備を進めることが必要不可欠です。
今回は、SDGsウォッシュの言葉の意味と原因、実例から学ぶ対策について解説します。
目次
SDGsウォッシュとは?

SDGsウォッシュとは、「見せかけのSDGs」「SDGsをやっているふり」という意味があります。ごまかしや粉飾という意味を持つ「ホワイトウォッシュ(whitewash)」とSDGsを組み合わせてできた造語です。
SDGsに相反するSDGsウォッシュは、本来の持続可能な世界の実現につながることはありません。そのため、社会ではSDGsウォッシュが問題視されています。
SDGsウォッシュと似た意味を持つ言葉に、「グリーンウォッシュ」があります。SDGsウォッシュは、「グリーンウォッシュ(green wash)=環境問題に取り組むふりをする」が由来となった言葉です。
SDGsウォッシュと指摘された企業の事例

SDGsへの取り組みを行っている企業の中には、過去にSDGsウォッシュと指摘されてしまった企業があります。
企業自身はSDGsへの取り組みを行っていると思っていても、他者から見てSDGsに相反していると判断されれば、SDGsウォッシュと指摘されることを理解しておきましょう。
ここでは、実際にSDGsウォッシュとして指摘されてしまった企業と指摘された内容について解説します。
株式会社ユニクロ
ユニクロでは、製品の生産過程における人権や労働環境に配慮していると明言しています。
しかし、中国のウイグル自治区における強制労働が話題となり、ウイグル自治区で作られた素材を使用していたユニクロにも強制労働の事実があるのではないかと疑惑の目が向けられました。
ユニクロは、政治問題であるとして強制労働について明言を避けています。労働環境の不透明さや十分な説明がないことに、不信感を持つ消費者も多く見られました。
Nestle(ネスレ)
世界的食品メーカーであるNestleは、森林破壊を防ぐためにパーム油業者との取引をやめると宣言していました。パーム油の使用を減少させることは、森林伐採を防ぐだけでなく労働・人権上の問題解決にもつながります。
しかし、取り組みを宣言してからも、パーム油業者との取引は継続していることが判明し、環境対策への虚偽報告があったとしてSDGsウォッシュが指摘されています。
みずほ銀行
みずほ銀行では、主要グループ会社全体のCO2削減を環境方針に掲げています。CO2の削減は、地球温暖化の抑制につながる取り組みです。
しかし、みずほ銀行の環境方針と実務には乖離があるとして、SDGsウォッシュが指摘されました。環境保全に取り組む姿勢を世間に見せる一方で、石炭産業に投資していることが発覚したためです。
みずほ銀行では、SDGsウォッシュと指摘されたことを受けて、環境方針と実務に乖離が生じないための抜本的な変革を行っています。
ジョンソン・エンド・ジョンソン
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、「黒人の同僚や協業者への支持」「人種差別に戦う姿勢」を表明していました。2020年には、さまざまな肌色に馴染むカラーバリエーションが豊富なバンドエイドを発売しています。
一方、人種差別問題が激化しているタイミングと商品発売が重なったため、世間からは宣伝や営利目的の取り組みであると捉えられたのです。また、ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、美白クリームも販売していたため、多様な肌の色を認めるという企業の姿勢に矛盾することも批判され、販売中止となりました。
H.I.S
H.I.Sの関連子会社は、2021年にパーム油を燃料としたバイオマス発電所の操業を開始しました。バイオマス発電には、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証油を使用するとしています。
しかし、複数の環境NGOは「大量のパーム油を使うこと自体が問題である」と批判。環境保全への取り組みを行うとしながら、実際には課題に十分に対応していないことがSDGsウォッシュと指摘された理由です。
SDGsウォッシュが起こる原因

いくら企業がSDGsの取り組みを行いたくても、対策が不十分だと意図せずSDGsウォッシュが起きてしまう場合があります。
SDGsウォッシュが起こる主な原因は、下記の3つです。
・SDGsへの理解不足
・本来の事業と取り組み内容の関連性のなさ
・サプライチェーンへの浸透が不十分
ここでは、SDGsウォッシュが起こる原因について詳しく解説します。
SDGsへの理解不足
SDGsウォッシュの原因の一つが、SDGsへの理解不足です。
SDGsを流行りの一つとして安易に導入すると、SDGsウォッシュを引き起こしやすくなります。まずは、SDGs本来の目的やSDGsに関する取り組みの具体的な内容を、正しく理解しましょう。
また、SDGsを自社の事業や理念に落とし込まずに闇雲に取り組みを始めると、理想と実態が相反する事態に陥りやすくなります。SDGsへの取り組みを単体として扱うのではなく、企業活動の一環として捉えることが重要です。
本来の事業と関連性のない取り組みを行っている
SDGsは、企業のイメージアップ効果が期待できます。しかし、SDGsは企業のイメージアップの手段ではなく地球社会への貢献が本来の目的です。
本来の事業と関連性のない取り組みを行うと、違和感や不信感などを抱かれやすくSDGsウォッシュと指摘される可能性が高まります。さらに、事業と関連性のない取り組みを行う場合、優先順位が下がりやすくなるため注意しましょう。
企業がSDGsに関する取り組みを行う場合は、事業を通じてSDGsに貢献できる内容になっているか検討する必要があります。
サプライチェーンまで取り組みが行き届いていない
サプライチェーンまで取り組みが行き届いていないことも、SDGsウォッシュを引き起こす一因です。
企業がSDGsへの理解を深めて事業に関連のある取り組みを行ったとしても、サプライチェーンまで理念が伝わっていなければSDGsウォッシュと指摘される可能性があります。
企業内に矛盾が生じないようにするには、製品や商品の製造ラインや配送の過程においても、SDGsへの共通理念を持つことが大切です。
SDGsウォッシュによるリスクとは

企業がSDGsウォッシュを指摘されると、さまざまなリスクを負うことになります。SDGsの導入を検討している場合は、SDGsウォッシュのリスクを理解しておきましょう。
SDGsウォッシュにより悪影響を受けやすいポイントは、次の3つです。
・顧客や社会からの信頼度
・経営面
・従業員のモチベーション
ここでは、SDGsウォッシュと指摘されることで具体的にどのようなリスクがあるのか、詳しく解説します。
企業・ブランドのイメージダウン
SDGsウォッシュにより、企業イメージやブランドイメージは大きなダメージを受けます。
方針と実務の乖離や虚偽が公になれば、これまで築き上げてきた顧客や社会との信頼関係の低下は避けられません。信頼を失った結果、SNSで炎上することもあります。
情報が人々に届きやすい時代だからこそ、SNSの炎上がきっかけで不買運動につながるケースも少なくありません。イメージダウンや不買運動は、売上低下に直結しやすいため注意が必要です。
株価下落・資金調達が困難になる
SDGsウォッシュを指摘されると、株価が下落し資金調達が困難になります。投資家や株主などのステークホルダーは、企業の姿勢や取り組みを冷静に判断するため、SDGsウォッシュは企業にとって命とりになりかねません。
近年、環境・社会・ガバナンスにも考慮したESG投資が注目されており、SDGsウォッシュとみなされるとESG投資の対象から外されてしまいます。
SDGsウォッシュは、ステークホルダーからの信頼が低下するだけでなく、新規株主が増えにくくなることも大きなデメリットです。資金調達が難しくなれば、経営面で大きなダメージを受ける可能性があります。
従業員のモチベーションの低下
SDGsウォッシュによるリスクの一つが、従業員のモチベーションの低下です。
世間から自社がSDGsウォッシュであると批判されると、従業員や組織全体のモチベーションが低下しやすくなります。自社の価値が落ちたことにショックを受けたり裏切られたと感じたりする従業員も少なくありません。
従業員のモチベーションが下がると愛社精神が低下するため、「離職者が増える」「生産性が下がる」などの悪影響が懸念されます。
SDGsウォッシュを避けるための対策

SDGsウォッシュを指摘されると、世間の反応やイメージが大きく変わり、企業は苦境に立たされることになります。ピンチを招かないためにも、SDGsを導入する前にSDGsウォッシュを避けるための対策を講じておくことが重要です。
ここからは、SDGsウォッシュと指摘されないために、企業が取り組みの中で注意すべきポイントを解説します。
全社的に情報を共有する
SDGsの取り組みを行うにあたり、全社的に情報を共有する仕組みを整えておくことが大切です。
特に規模が大きな企業や部門が複数ある企業の場合、SDGsに貢献するには全社的に同じビジョンを共有する必要があります。また、取り組みを行う理由やメリット、SDGsウォッシュのリスクについても知識を深めておくことが大切です。
社内で正しく情報を共有するために、まずはSDGsに関するレポートラインを統一しましょう。部門間でも情報を密に共有し合うことで、各部門の取り組みが相反するリスクを回避できます。
短期的な取り組みはしない
SDGsへの貢献は短期的な取り組みでは実現できません。なかには、イメージアップの手段としてSDGsに取り組む企業もありますが、本来の目的にそぐわない短期的な取り組みはSDGsウォッシュを誘発しやすくなります。
SDGsへの参加自体を目的にするのではなく、地球の環境や社会に貢献するという本来の目的を達成できるように取り組みましょう。企業価値や人材採用率の向上などは、あくまで長期的にSDGsに取り組んだ先にあるメリットと言えます。
サプライチェーンを強化する
SDGsウォッシュを避けるなら、サプライチェーンの強化が必須です。自社だけが真摯に取り組んだとしても、関連子会社や取引先でSDGsに相反する取り組みを行っていれば、SDGsウォッシュと批判される可能性があります。
SDGsウォッシュのリスクを軽減するには、生産から物流までの過程で誰がどのように携わっているのかを把握し、リスクに素早く対応することが大切です。
また、取引先のESGへの対応をチェックするなどパートナーの見極めも徹底しましょう。普段から関連企業や各団体と協力して信頼関係を築き、包括的なアプローチを行うと効果的です。
SDGsコミュニケーションガイドを活用する
SDGsへの取り組みを自社に活かすには、適切なタイミングで外部に情報発信することが必要です。せっかくSDGsに貢献していても、効果的にアピールできなければ自社へのメリットは薄れてしまいます。
SDGsウォッシュを避けて適切に情報発信するために、電通が作成した「SDGsコミュニケーションガイド」を上手く活用しましょう。SDGsに関する企業向けのガイドラインとなっているため、SDGsへの取り組みをスタートした企業や興味を持っている企業におすすめです。
SDGsウォッシュの事例から原因や対策を理解し、自社の取り組みを見直そう!

SDGsに貢献するつもりが、対策が不十分でSDGsウォッシュと指摘される企業も少なくありません。SDGsウォッシュで炎上する主な理由は、「SDGsへの理解不足」「本来の事業と取り組み内容の関連性のなさ」などです。
SDGsへの取り組みは、社会的に必要とされています。一方で、SDGsウォッシュと指摘されれば大きなリスクが生じるため、原因や対策を理解した上で慎重に進めることが重要です。
SDGsへの取り組みに真摯に向き合い、地球社会への貢献と自社の成長を目指しましょう。