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ブルーカーボンとは?特徴や仕組みから企業・自治体の事例まで紹介

海草と魚

ブルーカーボンとは、海草や藻などに吸収された炭素です。ブルーカーボンを含んだ海洋生態系は、CO2の吸収源として脱炭素につながります。このため、ブルーカーボンの保全、拡大に取り組む企業も増えてきました。

本記事はブルーカーボンとは何か、種類、気候変動の緩和に対するポテンシャル、国や企業の取り組み事例などを解説します。カーボンニュートラルに向けた取り組みの参考としてお役立てください。

ブルーカーボンとは?

アマモ

ブルーカーボンとは、海草(うみくさ)や海藻(うみも)などの浅瀬に住む海洋生態系に取り込まれた炭素のことです。つまり、ブルーカーボンは地球温暖化の原因となるCO2の吸収源として働きます。

対して、グリーンカーボンとは植物が大気中のCO2を吸収し、光合成反応により作りだされた炭素をさします。それでは、ブルーカーボンの特徴や仕組み、グリーンカーボンとの違いをみていきましょう。

ブルーカーボンの特徴と仕組み

海草や海藻などの海洋生態系であるブルーカーボン生態系は、以下のような仕組みでブルーカーボンを形成しています。

  1. 大気中から海水にCO2が溶け込む
  2. ブルーカーボン生態系の光合成によって、CO2が水と炭素に分解される
  3. ブルーカーボン生態系が炭素を吸収する
  4. 枯れたブルーカーボン生態系と、食物連鎖によってブルーカーボン生態系を食べた魚の死骸が海底に体積して炭素が固定化する

注目すべきは、ブルーカーボンが効率的かつ長期的なCO2吸収源であることです。CO2は水に溶けやすい性質があるため、海中のCO2濃度は大気中の約50倍です。このため、ブルーカーボン生態系は効率的に炭素を吸収できます。また、海底に体積した炭素は無酸素状態であるため微生物によって分解されにくく、数千年にわたって蓄えられる性質があります。

ブルーカーボンとグリーンカーボンとの違い

ブルーカーボンとグリーンカーボンとの違いは、炭素を吸収する生態系です。ブルーカーボンは海草や海藻であるのに対して、グリーンカーボンは森林や草木です。

光合成によってCO2を水と炭素に分解する仕組みは同じですが、ブルーカーボンは海中の植物、グリーンカーボンは陸上の植物という違いがあります。

もともとブルーカーボンはグリーンカーボンの一種でした。しかし、2009年10月の国連環境計画(UNEP)の報告書でブルーカーボンという名称が付いてから、区別されるようになりました。

ブルーカーボン生態系は4種類

光と亀

ブルーカーボン生態系は「海草(うみくさ)藻場」「海藻(うみも)藻場」「湿地・干潟」「マングローブ林」の4種類に分類されています。種類ごとの特徴や具体例を紹介します。

海草(うみくさ)藻場

海草(うみくさ)藻場は、砂や泥などの堆積物に根を張って固定している植物です。植物学上は、根・茎・葉が分かれている「維官束植物(いかんそくしょくぶつ)」といいます。具体的には、アマモ、コアマモ、スガモなどがあります。これらの海草藻場は温帯・熱帯の穏やかな砂浜、干潟の沖合に生息するのが特徴です。

海藻(うみも)藻場

海藻(うみも)藻場は、岩などに固着する根・茎・葉の区別がない植物です。代表的な植物は、緑藻のアオサや、褐藻のコンブやワカメ、紅藻のテングサなどがあります。海藻藻場の主な生育場所は、寒帯や沿岸の潮間帯(潮が満ちると海面下になるが、潮が引くと干上る場所)などです。

湿地・干潟

湿地・干潟は、ヨシ(アシ)や、塩生植物(高塩濃度に耐えられる種子植物)が多く生息するため、ブルーカーボン生態系の一つです。例えば、山口県周南市の大島干潟や、神戸港周辺の兵庫運河などが挙げられます。ブルーカーボン生態系になり得る湿地・干潟の特徴は、砂や泥が堆積しており、水没と干出を繰り返す場所です。

マングローブ林

マングローブ林は、オヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギなどのマングローブ植物が密生した場所です。マングローブ林は河川水と海水が混じり合う「汽水域」に存在し、日本では鹿児島県と沖縄県の海岸に分布しています。マングローブ林は大型植物として生育するなかで大量のCO2を吸収し、さらに枯死した後も枝や根が体積して炭素を蓄積し続けます。

ブルーカーボン生態系の現状と緩和ポテンシャル

グラフデータとビジネスマンのイメージ

ブルーカーボン生態系は、世界全体の温室効果ガス排出量の約0.5%を吸収していると試算されています。2018年の国連環境計画によると、世界全体の温室効果ガス排出量は553億トンなので、約2億8,000万トンを吸収している計算になります。

一方、日本のブルーカーボン生態系が気候変動の緩和にどのくらい貢献しているのかについて、国が算出したデータはありません。このため、後ほど解説する国の取り組みでも、ブルーカーボンの算出が大きな課題となっています。

ただし、桑江氏らによる「浅海生態系における年間二酸化炭素吸収量の全国推計」によると、2013年を基準にして毎年100万トン超のCO2吸収量があると見積もられています。日本は世界第6位の海岸線を持ち、藻場が約20万ha、干潟が約5万ha、マングローブは約900haほどあることから、ブルーカーボンのポテンシャルは高いと考えられています。

ブルーカーボンの算定に向けた日本の取り組み

厚生労働省/環境省 中央合同庁舎第5号館

ブルーカーボンの算出方法は、国際的に統一されていません。このため行政機関は、状況を正確に把握し市場を活性化させるために、ブルーカーボン算定に取り組んでいます。ここでは国土交通省、農林水産省、環境省の主要な取り組みを紹介します。

国土交通省での取り組み

国土交通省では、「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」を主催しています。行政関係者と有識者が集まるこの検討会は、脱炭素社会の実現のために、ブルーカーボン生態系の活用方法を検討しています。

具体的には、海草・海藻藻場のデータ収集・算定システムや、マングローブ林、湿地・干潟によるCO2吸収の方法論などの技術的な検討です。また、ブルーカーボンを売買するクレジット制度や、温室効果ガス排出抑制に関する啓発活動の指針なども検討しています。

農林水産省での取り組み

農林水産省では「ブルーカーボンの評価手法及び効率的藻場形成・拡大技術の開発」というプロジェクトに取り組んでいます。2020~2025年まで実施される本プロジェクトの目的は、ブルーカーボンの評価手法と効率的な藻場の形成・拡大技術の開発です。

具体的には、全国の海草・海藻藻場を評価するための「吸収係数」というパラメーターの確定や、藻場分布面積の全国集計を進めています。また、気候や経年変化によって海藻が消失する「磯焼け」対策のための技術開発も実施しています。

環境省での取り組み

環境省は「温室効果ガス排出量算定方法検討会 森林等の吸収源分科会」を取りまとめています。この分科会の背景にあるのは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)です。UNFCCCの批准国には、自国の温室効果ガス排出・吸収目録(イベントリ)を作成して提出する義務があります。

イベントリは国の政策・措置を検討する重要な情報です。このため、分科会ではブルーカーボンの吸収量を含めた温室効果ガスインベントリにおける排出・吸収量の算定方法を検討しています。また、活動量、排出係数などのパラメーターが、可能な限り実態に即した数値になるように整理、検討しています。

ブルーカーボンへの企業や自治体・団体の取り組み

地球深部探査船ちきゅうを空撮

ここでは、企業や自治体の取り組み事例を3つ紹介します。ブルーカーボンの拡大事例のほか、クレジット制度やゼロからブルーカーボンに取り組む事例など幅広く取り上げますので、自社施策のヒントとして参考にしてみてください。

セブンイレブン

セブンイレブン(一般財団法人セブン‐イレブン記念財団)では、これまで海草(うみくさ)藻場の一つである、アイモを東京湾で生育してきました。ブルーカーボンを増やす資金となっているのは、店頭で集められた募金や企業、団体からの寄付金です。

さらにセブンイレブンでは、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が発行する「Jブルークレジット・カーボンオフセット」に参画しました。これにより、CO2を排出せざるを得ない企業が、セブンイレブンのブルーカーボンをクレジット化した権利を購入して、CO2排出削減に貢献できるようになっています。

福岡市

福岡市は「福岡市博多湾ブルーカーボン・オフセット制度」を運営し、ブルーカーボンの普及に努めています。このオフセット制度は、博多湾のアマモなどの藻場が吸収・固定化したCO2の量をクレジット化して、「博多湾ブルーカーボン・クレジット」として販売する試みです。

クレジットは0.1トンあたり880円(税込)と小口であるのが特徴です。これなら中小事業者や個人事業主も参加しやすいのではないでしょうか。

ちなみに、国民一人あたりの年間CO2排出量は約1トンです。したがって、クレジットを8,880円(税込)購入すれば、一人あたりのCO2排出量の収支を実質的にゼロにできます。

ブルーカーボンネットワーク

ブルーカーボンネットワークは、ブルーカーボンに関心を持つ企業や自治体などのプラットフォーム、ネットワークとして構築された団体です。活動内容は以下の5つに分類できます。

  1. 国内外のブルーカーボンや藻場再生の取り組みに関する情報共有および支援
  2. 気候変動・海の生態系などに関する情報共有
  3. ブルーカーボン・クレジットやブルーファイナンスに関する情報共有
  4. ウェブサイトやセミナー等を通じた情報発信・情報共有・支援の場づくり
  5. 会員および活動に必要な支援金の募集

例えば、ブルーカーボンネットワークの参画企業は、ブルーカーボンの体験プログラムに参加して、ブルーカーボンの現状や活動について研修を受けられます。また、企業の所在地や持っている技術などに応じて、具体的なアプローチ方法についての相談、支援を得られます。

温暖化対策として今後ブルーカーボンの注目が高まっていく

沖縄の海

海草(うみくさ)や海藻(うみも)などのブルーカーボンは、効率的かつ長期的にCO2を吸収できます。四方を海に囲まれた日本はブルーカーボン生育に適した場所が多く、そのポテンシャルが期待されています。ブルーカーボン活用によって、企業は脱炭素の実現に貢献できるのではないでしょうか
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