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インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?わかりやすく解説!

新芽

企業が継続的にビジネスを成功させるために、環境への取り組みが重要になりました。

それでは、具体的にどのような手法をとるべきでしょうか?

インターナルカーボンプライシング(ICP)は、企業が炭素排出に対する内部価格を設定することで、環境対策の取り組みを経済的に進める手法の一つです。

この手法は、炭素排出のリスクを予測し、環境にやさしい経営を促進するためのツールとして世界中の先進企業に取り入れられています。

本記事では、インターナルカーボンプライシング(ICP)の仕組みやメリット・デメリットについて、わかりやすく解説します。

インターナルカーボンプライシング(ICP)の基本情報

緑の植物の背景に透明な地球と新芽
緑の植物の背景に透明な地球に新芽。環境保護と持続可能な社会のイメージ

この章では、インターナルカーボンプライシング(ICP)について、その基本的な内容と特徴を解説します。導入の背景や目的、そして具体的なメカニズムについて簡潔にお伝えしていきます。

そもそも「カーボンプライシング」とは?

「カーボンプライシング」は、炭素の価格付けとも呼ばれます。温室効果ガスの排出に価格をつけ、排出を抑えるための行動変容を促す政策です。

具体的には、排出の多い企業等にコストを負担させることで、環境負荷の低減を促進しようとする取り組みです。

このカーボンプライシングには下記の通り大きく3種類の方法が存在します。

  1. 政府や規制団体による正式な制度としてのカーボンプライシング(「炭素税」・「排出量取引制度」など)
  2. 企業が自主的に設定するインターナル(企業内)カーボンプライシング(企業が独自に自社のCO2排出量に対し価格を付ける)
  3. 民間セクターが取り組むクレジット取引

これらの手法を通じて、企業や組織は環境負荷の低減と経済的な利益を両立させることが期待されます。

インターナルカーボンプライシング(ICP)とは、企業がCO2の価格付けを行う仕組み

インターナルカーボンプライシング(ICP)は、企業が独自に価格設定できる点が特徴です。

具体的には、ある企業が最初に設定したICPの価格が、状況や経済的な変動に応じて価格の上げ下げを後から変更することが可能です。この柔軟性が、多くの企業にインターナルカーボンプライシング(ICP)の導入を促しています。

企業が独自に価格設定が出来る点が特徴

カーボンプライシングへの取り組みが世界中で進む中、多くの企業がその第一歩としてインターナルカーボンプライシング(ICP)を導入しています。

最大の特徴は、企業が自由に価格を設定できる点にあります。企業ごとの戦略や目的に応じて、最も適した価格を決定することができるという自由度が高い制度となっており、経営判断を下す際のリスク分析や戦略的投資の指針として利用されています。

インターナルカーボンプライシング(ICP)が注目される背景

先述したカーボンプライシングの3つの方法のうち、「インターナル=企業」に焦点を当てた手法のため、環境への影響を金銭的に可視化することで、企業経営の中に組み込むことができます。具体的な進め方や評価方法に関して、環境省がガイドラインを公開しており、さらに多くの企業がICPを導入する動きが加速しています。

世界で2000社が導入済み

近年、インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入は急速に進んでいます。2018年から2019年の間に、世界で1,500社以上がこの手法を採用しました。さらに、2020年にはその数は2,000社に拡大しました。

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)でもICPの重要性が言及されており、今後も導入企業が増えることが予想されます。この動向は、ICPの価値が国際的にも認識されているためと言えるでしょう。

「活用ガイドライン」での価格設定方法は4種類

計算機とボールペン

この章では、環境省のガイドラインに基づき、インターナルカーボンプライシングの価格を設定する方法を説明します。具体的には主に下記の4つのパターンがあります。

  1. 外部価格の活用
  2. 同業他社の価格をベンチマークとしての参照
  3. 低炭素投資を促す社内協議
  4. CO2削減目標に基づく数理的な分析

それぞれの設定方法について、具体的に解説します。難易度・温暖化対策の実効性を考慮し、自社が取り組みやすい方法を選択すると良いでしょう。

①外部価格の活用

IEA(国際エネルギー機関)は2050年のネットゼロに向けて、必要とされる炭素価格の予測値を公表しています。この予測値は、企業が自社のカーボンプライシングの価格を設定する際に、直接自社の価格に適用することも可能です。

②同業他社価格のベンチマークを参照

CDPの回答などの公表されたデータを元に、同業他社のカーボンプライシング価格を参照する方法があります。さらに、自社のサプライチェーンに関わる企業の価格情報を取得し、調査することも効果的です。これにより、業界のトレンドや基準価格を把握することができます。

③低炭素投資を促す価格に向けた社内討議から算出

企業が過去に行った意思決定を検証することで、ICP価格の影響を知ることができます。例えば、ある投資対策の採用を逆転する(した)であろうICP価格を明らかにすることは、具体的な低炭素への投資を進める上で有益です。

④CO2削減目標によって数理的に分析

企業が定めたCO2削減目標到達に向けて、例えばLEDや再生可能エネルギーの導入などを挙げ、それへの対策にかかる総コストと累積削減量(t-CO2)をもとにICPの価格を計算することができます。この手法により、費用対効果の高い低炭素取り組みを選択し、効率的に目標達成に取り組むことが可能です。

参考:企業ごとに設定した価格一覧

緑の背景に地球に新芽。持続可能な社会
緑の植物の背景に透明な地球に新芽。環境保護と持続可能な社会のイメージ

インターナルカーボンプライシングは、a.価格の設定方法・b.活用方法で3タイプに分けることができます。

  1. Shadow price(シャドープライス):
    a.価格の設定方法=「明示的」で、想定に基づき炭素価格を設定する。
    b.活用方法=資金のやり取りは無し。
  2. Implicit carbon price(暗示的カーボンプライシング):
    a.価格の設定方法=「暗示的」で、過去実績等に基づき算定して価格を設定する。
    b.活用方法=資金のやり取りは無し。
  3. Internal fee(内部炭素課金):
    a.価格の設定方法=定義なし
    b.活用方法=資金のやり取り有り。社内で排出量に応じて、資金を実際に回収・低炭素投資等へ活用

日本国内の企業が実際に設定した価格や、ICPタイプを紹介します。

企業名業種ICPタイプICPの活用用途価格意思決定のプロセス
コクヨ製造シャドープライス1,100森林保全(間伐)にかかったコストを吸収量で割った数値を使用
TEPCO(東京電力)エネルギー暗示的カーボンプライシング電源入札の際に使用1,500ガイドラインに基づき、系統平均より高い原単位の電源には15ドル/tCO2eを追加して評価
ベネッセサービス地域循環型クレジットを一部購入1,500イベント来場者の交通分を考慮
KDDI通信暗示的カーボンプライシング省エネ設備投資判断時に活用1,000~2,000東京都排出量取引の罰金価格を参考
デンカ素材(化学)暗示的カーボンプライシング新規投資に利用2,000外部価格活用(EU ETSの数値)
川崎汽船運輸(海運)暗示的カーボンプライシング投資判断に利用8,500重油価格に対しカーボンプライスを想定

インターナルカーボンプライシング(ICP)導入におけるメリット

メリット

インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入が企業にどのような利点をもたらすのか、本章ではそのメリットを具体的に解説していきます。

数値化する事で設備投資における回収目処をたてやすい

CO2排出に関連するコストを数値化できるため、設備投資の際の回収目処が立てやすくなります。この数値的な明確さが、経営判断の基盤となり、投資の効果やリスクを具体的に評価することができるようになるのです。

日本政府が掲げる環境目標に協力できる

温暖化の防止を目指す京都議定書やパリ協定が締結され、低炭素社会の実現は急募の課題となっています。日本も「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」というカーボンニュートラルを目指すことを宣言しており、ICP導入はこの目標達成に協力する道を開くものとなります。

投資家(ステークホルダー)へのアピールにつながる

現在、投資家からの信頼を得ることは企業にとって重要です。ICP導入は投資評価の向上に寄与し、CO2削減を客観的な数値で示すことができます。これにより、企業の環境に対する取り組みが評価されることになります。

社内での脱炭素への意識が高まる

ICP導入は、低炭素投資や省エネ活動の促進だけでなく、社内の行動変容も引き起こします。多くの企業が社内行動の変化を求めてICPを採用しており、これが脱炭素への社内意識を一層高めることとなります。

インターナルカーボンプライシング(ICP)導入にデメリットはある?

デメリット

インターナルカーボンプライシング(ICP)は、環境対策や経営判断の助けとなる有益なツールとして認知されています。しかし、導入する際にはいくつかのデメリットや課題も考慮する必要があります。以下の項目では、ICPの導入における主なデメリットについて解説していきます。

社内で対応できる人が限られてしまう

インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入や管理には専門性が求められ、通常業務との兼務などでの対応が難しいと言われています。価格の設定や見直しには分析と議論を伴うため、専門部署を設置しない場合は十分な対応ができない可能性があります。そのため、持続的な取り組みのためには、企業内での専門部署の設置や外部の専門家への依頼などが必要となります。

導入・実施に時間を要する

環境面だけでなく経済面にも大きく関与します。そのため、環境省と経済産業省の連携が不可欠で、この協力関係を築くこと自体が時間を要しています。現状では、ICPを国内で本格的に取り入れられるまでの道のりは長いといえるでしょう。

国内企業のインターナルカーボンプライシング(ICP)導入事例

国内・身延山・山頂からの眺め・山梨

日本国内の企業がどのようにインターナルカーボンプライシング(ICP)を導入し、環境への取り組みを進めているかを、具体的な事例を通して解説していきます。

トヨタ自動車株式会社の導入事例

トヨタ自動車は、1992年に制定し2000年に改定した「トヨタ地球環境憲章」をもとに、環境に対する姿勢を示しています。この憲章には、持続可能な社会実現のための取り組みが明記されており、さらに2015年10月には「トヨタ環境チャレンジ2050」を公表し、環境負荷の大幅な削減を目指しています。2020年には継続的な取り組みとして「第7次トヨタ環境取組プラン(2025年目標)」を公表しました。

NTTグループの導入事例

NTTグループは、2021年9月28日に「NTT Green Innovation toward 2040」という新たな環境エネルギービジョンを策定しました。この中で、2030年度までの温室効果ガス排出量80%削減と、モバイルやデータセンターにおけるカーボンニュートラルの実現を掲げ、2040年度までの全体的なカーボンニュートラル実現を目指しています。NTTの取り組みは、ICTの導入をリードする環境戦略として注目されています。

KDDI株式会社の導入事例

KDDIは、2030年度までに自社の事業活動におけるCO2排出量を実質ゼロとする目標を掲げています。加えて、KDDIグループ全体としては、2050年度までのCO2排出量実質ゼロを目指しています。携帯電話基地局における太陽光発電パネルの設置など、再生可能エネルギー発電設備の導入を積極的に進めています。

アステラス製薬株式会社の導入事例

アステラス製薬は、インターナルカーボンプライシングを導入するため、社内体制の整備に力を入れています。東京本社の内部責任専門チームで適切な価格設定を行い、低炭素投資の推進を進めているのです。

海外企業のインターナルカーボンプライシング導入事例

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海外の企業がどのようにインターナルカーボンプライシングを導入し、環境への影響を低減させているのかを、具体的な事例を通して解説していきます。

Microsoft社の導入事例

Microsoftは2030年までのカーボン・ネガティブ達成に本格的な取り組みを始めています。具体的には、2030年までに直接的な排出だけでなく、関連する排出を含めて、CO2排出量を半分以下に削減するという野心的な目標を掲げています。

CO2排出と除去の報告の透明性に関して業界標準をサポートし、自社に対してもそれを適用していくと宣言しました。

Unilever社の導入事例

Unileverは、2016年にICPを導入し2030年までに炭素排出量を半減させるという目的を掲げ、世界中の自社工場からの温室効果ガスを75%削減しました。この成果は、使用エネルギーの51%を再生可能エネルギーに切り替えることで達成されました。

更に、ICPの効果は新製品の開発やエネルギー効率の向上などに現れ、持続可能なブランドイメージを高めることに繋がりました。

Tetra Pak(テトラパック)社の導入事例

テトラパックは、CO2削減量分の金額を投資回収の収益に見込む手法を採用しており、これにより投資回収年数を引き下げています。さらに、価格を年に2回更新することで、最新の市場動向に合わせた最適な投資を促しています。このように、経済的利益と環境保護の両立を目指して、テトラパックは継続的な改善を進めています。

まとめ

二酸化炭素削減 CO2

インターナルカーボンプライシング(ICP)は、環境と経済を調和させる手段として世界の多くの企業で導入が進んでいます。本記事を通じて、ICPの基本的な仕組みから、その導入に際するメリット・デメリット、国内外の具体的な導入事例まで幅広く紹介しました。環境問題の深刻化が進む中、企業が持続的に成長し続けるためには、このような取り組みが不可欠です。

ICPで企業の環境負荷を数値化し、具体的な行動に移すための重要なステップを理解することで企業価値の向上にも繋がります。各企業の独自の取り組みや戦略を参考に、より多くの企業が持続可能な未来を目指して進んでいくことが期待されます。

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