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TCFDについてわかりやすく解説!開示項目や例もご紹介

TCFD の旗

TCFDは、日本では「気候関連財務情報開示タスクフォース」と呼ばれています。

あまり耳慣れない言葉ですが、企業などに対して気候変動への取り組みを具体的に開示することを推奨する国際的な組織のことをいいます。

現在32人のメンバーで構成されていますが、その中には日本人も含まれています。

この記事ではこれから注目のTCFDについて詳しくご紹介していきますので、ご興味のある方はぜひご一読ください。

TCFDは気候変動に対する取り組みのひとつ

TCFDは気候変動に対する取り組みのひとつ

TCFDTask force on Climate-related Financial Disclosuresの略であり、日本では「気候関連財務情報開示タスクフォース」と呼ばれています。

TCFDG20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により2015年に設置された民間主導の機関です。

メンバーはマイケル・ブルームバーグ氏を議長とする32人。

この中には日本人2名も含まれます。

TCFDの役割は

  • 気候変動関連リスクと機会に関する組織のガバナンス(Governance)
  • 組織の事業・戦略・財務への影響(Strategy)
  • 気候関連リスクの識別・評価・管理の状況(Risk Management)
  • 指標と目標(Metrics and Targets)

についての開示を推奨することです。

これは2017年6月に公表されたTCFD報告書によるもので、実際の開示状況をまとめたステータスレポートは2018年より毎年公表されています。

TCFD賛同企業の現状

TCFDの役割は企業に対して環境への取り組みを求めるものではなく、気候変動によって企業が受けるインパクトの調査・分析と開示の推奨です。

「TCFD報告書」の公表後、TCFDへの賛同を表明する企業は世界中で増え続けています。

2022年5月時点において、世界全体でTCFDへの賛同を示した企業数は約3,395社

日本でも878社の企業・機関が賛同を公表しています。

日本の企業数は、アメリカ、イギリスを抑えて、世界でもトップの数です。

≫TCFDについての詳しい解説はこちら

TCFD設立の背景

TCFD と白くま

TCFDが設立された大きな理由は、世界的に深刻化している地球温暖化問題であるといわれています。

また、世界全体の環境問題への意識の高まりによって、企業の価値が財務状況以外の部分(非財務状況)で判断されるようになったことも理由の一つのようです。

地球温暖化への対策

地球温暖化問題は、1985年にオーストリアのフィラハで開催された地球温暖化に関するはじめての世界会議をきっかけに、大きく取り上げられるようになりました。

2015年のパリ協定では、地球温暖化への長期的かつ具体的な取り組みが以下のように掲げられています。

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃よりさらに低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
  • できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスをとる

地球温暖化を防ぐためには、個人の意識だけでなく、企業の協力が不可欠です。

TCFD企業に向けて気候変動関連情報の開示を推奨するといった大きな役割を果たしています。

ESG投資との関係性

ここ数年、社会的な存在価値や環境問題への取り組みを重視する企業が増えてきました。

企業を支える投資家の中には、企業が社会や消費者から支持され、長期的に安定して発展していくかを評価し重視した「ESG投資」を行う投資家が増えています。

ESG投資とは

  • Environment(環境)
  • Social(社会)
  • Governance(ガバナンス)

の3つの頭文字をとった言葉です。

現在、財務諸表だけでは見えない非財務状況を「TCFD報告書」で開示する重要性が高まっています。

TCFDへの賛同は、企業側にとってもメリットが大きいと言われており、とくに中小企業では自社の取り組みをアピールする機会にもなるため、今後も賛同する企業は増えていくと予想されています。

TCFDによる4つの開示項目

TCFDには4つの開示項目があります。

それぞれの内容について詳しくご説明します。

ガバナンス

ガバナンスとは「統治・支配・管理」を示す言葉です。

企業におけるガバナンスは

「健全な企業経営を目指す、企業自身による管理体制」

を指します。

TCFDにおけるガバナンスは、企業自身が気候変動への取り組みを自社で管理することです。

TCFDの最終報告では企業に対して、気候変動をどのような体制で検討しているかの開示が求められています。

経営陣が気候変動問題にどの程度関与しているか、また会社全体が気候関連の課題をどれだけ考えているかを開示することが重要となっているのです。

戦略

戦略とは、短期・中期・長期にわたり、企業がそれぞれどのような気候変動に見舞われるリスクや機会があるかを考え、開示すること。また、気候変動によって自社のビジネスや財務状況、戦略にどのような影響を及ぼし、企業経営にどのように影響を与えるかの開示を指します。

戦略ではリスクや機会による具体的な財務状況への影響を特定しておくことや、それに対する十分な戦略が立てられているかが重視されます。 

シナリオ分析の必要性と推奨内容

シナリオ分析とは戦略の中心的な役割を果たすもので、企業がどのような未来においても事業を継続できるのかどうかの判断材料となります。

シナリオ分析の推奨内容については以下のとおりです。

経営陣の理解を得た後、シナリオ分析にあたっての分業体制、分析対象、時間軸を設定する。(事前準備)
企業が直面しうる気候変動によるリスクと機会を洗い出し、財務上どのような影響を与えるか考え、それらの重要度を判断する。(リスク重要度の評価)
平均気温の上昇温度別に、それぞれのシナリオを想定する。(シナリオ群の定義)
想定したシナリオごとに、事業や財務面にどのような影響を与えるかを評価する。(事業インパクト評価)
これまでの分析結果を踏まえ、企業としてどのような対策ができるか検討する。(対応策の定義)
分析したシナリオ、事業インパクト、対応策を文書化し、情報を開示する。(文書化と情報開示)

参照:環境省|TCFDを活用した経営戦略立案のススメ

リスク管理(リスクマネジメント)

リスク管理(リスクマネジメント)は、

気候変動のリスクについて、どのように特定、評価し、またそれを低減しようとしているか

引用元:TCFD Consortium|TCFDとは

が重要です。

開示するのは気候関連のリスクや機会を識別して評価するプロセスと管理するプロセスです。

組織全体のリスク管理への適切な対応も問われます。

目標

目標とは、

リスクと機会の評価について、どのような指標を用いて判断し、目標への進捗度を評価しているか

引用元:TCFD Consortium|TCFDとは

を明確にするものです。

企業は気候関連のリスク・機会の評価に用いる指標を明確に加え、目標に対するこれまでの実績も開示します。

TCFDへの賛同方法と開示の原則

TCFDへの賛同は、TCFDによる提言内容を組織として支持することを表明するものです。

実際に情報開示を行う立場にある事業会社のほか、金融機関・業界団体・格付機関・証券取引所・政府など、多様な組織が賛同を表明しています。

TCFDへの賛同のためには、TCFD公式ウェブサイトにアクセスし、必要事項を英語で記入して提出する必要があります。

【必要事項】
<会社情報>会社名業界地域国webサイトのURL時価総額運用資産
<担当者情報>氏名Eメールアドレス電話番号役職

TCFDに賛同している機関は、TCFD公式ウェブサイト Supporters より確認できます。

日本の団体については 経済産業省日本のTCFD賛同企業・機関 にも随時掲載されています。

TCFD の推奨事項(4つのテーマ領域)

<ガバナンス>

  • リスクと機会に対する取締役会の監督体制
  • リスクと機会を評価・管理する経営者の役割

<戦略>

  • 短期・中期・長期のリスクと機会
  • 事業・戦略・財務計画に及ぼす影響
  • 2℃以下シナリオを含むさまざまな気候関連シナリオに基づく検討を踏まえた、組織戦略のレジリエンス

<リスク管理>

  • リスクの選別・評価のプロセス
  • リスク管理のプロセス
  • 組織の総合的リスク管理への統合

<指標と目標>

  • リスクと機会を評価する際に用いる指標
  • Scope1,Scope2と該当するScope3のGHG
  • リスクと機会を管理するために用いる目標とそれに対する実績

日本におけるTCFDへの対応状況

TCFD研究会

TCFD提言とはTCFDが2017年6月に公表した、投資家が企業の気候関連リスク・機会を適切に評価するための開示フレームワークです。

TCFD 提言では、企業の持続可能な成長を図っていく上で、気候変動問題に対して、どのように向き合っていくのかという企業経営者の戦略等を開示することが求められています。

経済産業省が開催するTCFD研究会では、企業の企画担当や財務担当の役員の方々を中心に、TCFD 提言の意義や、企業が TCFD 提言に対応した情報開示をしていく上での参考となる方策をとりまとめています。

TCFD研究会を通じて、企業が TCFD 提言に対応した情報開示を進め、地球温暖化問題に対する日本企業の貢献や強みが国際的に評価されることが期待されています。

TCFDコンソーシアムの設立

2015年12月に採択されたパリ協定以降、金融業界を中心に、気候変動が投融資先の事業活動に与える影響を評価する動きが世界的に広まっています。

日本でも経済産業省が、「気候関連財務情報開示に関するガイダンス(TCFD ガイダンス)」を2018年12月に公表するなど、TCFD提言への対応に向けた気運が高まっています。

2019年5月27日に設立総会が開催されたTCFD コンソーシアムは、一橋大学大学院・伊藤邦雄特任教授をはじめとする計5名が発起人となり設立しました。TCFDコンソーシアムでは、今後企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取り組みについての議論が行われる予定です。

TCFDコンソーシアムによる活動指針の宣言


私達は、気候変動問題は世界共通の課題であると認識し、その解決のためにはイノベーションを起こすとともに、その成果を社会の隅々にまで普及していくことが不可⽋だと考えます。私達は、気候変動対策におけるビジネスの役割の⼤きさを認識し、気候変動に伴うリスクを適切に管理するとともに、積極的にイノベーションに取り組み、それを開⽰していきます。また、その情報を活⽤し、イノベーションに取り組む企業に資⾦を供給し、「環境と成⻑の好循環」を実現していきます。私達は、効果的な情報開⽰の在り⽅や開⽰された情報の活⽤の仕⽅について、本コンソーシアムにおいて積極的な対話を⾏い、相互の理解を深め、国際的にも発信していきます。
私達は、効果的な情報開⽰の在り⽅や開⽰された情報の活⽤の仕⽅について、本コンソーシアムにおいて積極的な対話を⾏い、相互の理解を深め、国際的にも発信していきます。

経済産業省によるTCFDサミットの開催

2019年6月のG20大阪サミットで合意した「環境と成長の好循環」

この宣言を実現するためには、ファイナンスの流れをイノベーションに向けるグリーン・ファイナンスの推進が重要です。

2019年10月、東京で開催されたTCFDサミットでは、世界の先進的な取り組みを行っている産業界・金融界のリーダーが集結し、TCFDの課題や今後の方向性を議論しました。

世界で賛同機関数が増加しているTCFDにおいて、日本では世界最多の290機関(2020年7月27日時点)がTCFDに賛同しています。よって日本ではTCFD提言を実務に定着させるための国際的な議論をリードする役割が求められています。

日本企業による取り組み

日本でTCFDの取り組みを発表している企業は、こちらで確認できます。

賛同企業の一部をご紹介します。

ピジョン

ベビー用品やマタニティ用品などの製造・販売を行っているピジョンがTCFDへの賛同を表明したのは、2021年12月です。

ピジョンでは今後、TCFDの提言を踏まえて、気候関連リスクや機会の分析を行い、ガバナンス・戦略・リスク管理の観点から情報開示を積極的に行っていくと述べています。

森永乳業

乳製品の販売・製造を行う森永乳業は、2021年3月 からTCFDへの賛同を表明しました。

サステナビリティへの取り組みについては

「省エネルギー、廃棄物削減に取り組みながら安全・安心な商品を製造し、サステナブルな社会づくりに貢献します」

という基本方針を策定し、原材料の調達から消費、廃棄までの全ての過程において環境に与える悪影響を最小化させ、環境にやさしい商品の開発・製造を実施しています。

OKI

情報通信事業やメカトロニクス事業を主軸とするOKIは、2019年5月にTCFDの提言に沿った情報開示・発信と、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを強化すると発表しました。

環境に関する取り組みとして、2019年4月にOKIグループ中長期環境ビジョン「OKI環境チャレンジ2030/2050」を発表し、気候変動の緩和や適応に向けた活動を推進しています。

また、気温が3℃から4℃上昇した場合の気候が財務にあたえるリスクのシナリオ分析を行い、戦略を策定しました。

その内容は、グループが作成するIR資料の中で報告されています。

TCFDへの賛同は自社の課題発見にも繋がる

TCFDへの賛同は自社の課題発見にも繋がる

TCFDへの賛同機関数は、創設当初の約100社から4年間で約22倍に増加しています。

日本では2022年4月から一部の上場企業で、主要国の金融当局が立ち上げた「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づく気候変動リスクの情報開示が実質的に義務づけられることになりました。

TCFDへの賛同を示すことで、企業は将来の地球環境や気候変動に対するリスクに関心を持ち、その対策について社会に表明できます。

それは、サステナビリティな社会の実現につながるだけでなく、投資増加やリスク耐性強化といったメリットを企業にもたらします。

TCFD提言に沿った情報開示は、はじめから完璧である必要はなく、開示に取り組み、段階を踏んでブラッシュアップしていくことが重要です。

自社の課題発見にもつながるTCFD

まずは開示に取り組んでみることが大切なのではないでしょうか。

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