環境問題への配慮や取り組みが広く取り沙汰されるなか、SDGs目標10に関連する事例を知りたい方も多いでしょう。世界では著しい経済格差や性別、人種、年齢、宗教などを理由にさまざまな不平等が生じています。このような状況下で、不平等をなくすことを目標に掲げているのがSDGs目標10です。
今回は、SDGs目標10の取り組み事例を紹介します。実際に、SDGs目標10の達成に向けてどのような取り組みが行われているのかを把握し、自社、あるいは自分自身の取り組みの参考にしてください。
目次
SDGsが掲げる目標10とは?

SDGs10では、「人や国の不平等をなくそう」という目標が掲げられています。
地球全体に目を向けると、多くの国で所得格差が広がっているのが現状です。豊かな人がますます豊かになる一方で、貧しい人は食事や医療、教育の機会などが十分に与えられない状況になっています。
SDGs目標10は、年齢や性別、障害、人種、民族、出自、宗教、経済的地位、そのほかの状況による差別をなくし、誰一人取り残されない社会を目指すものです。目標10の実現に向けて、国や自治体、企業などがさまざまな取り組みをしています。
SDGs目標10の実現に向けた企業や団体による主な取り組みの内容

雇用や経済活動の主体でもある企業は、SDGs10にも深く関わっているといえます。SDGs目標10の実現に向けて、企業や団体が行っている取り組みの内容を紹介します。
雇用や評価における不平等をなくす
現在、日本国内では非正規雇用と正社員の賃金格差が問題となっています。仕事内容が同じでも、雇用形態が違えば、賃金が変わるという状態は平等とはいえません。雇用形態に関わらず同じ職務に対し、同じ賃金を支払うことが所得格差の是正につながります。
また、性別や人種、障害などに関わらず、採用、昇進、昇給などを公平にすることも重要です。日本ではまだこうした平等を安定的に実現するだけの社会的な規範が十分でなく、継続的で細やかな配慮を必要としています。
女性が活躍しやすい環境を整備する
日本の男女間賃金格差は、ほかの先進国と比べると大きいことが、さまざまな調査から指摘されています。したがって、企業は女性が採用や昇進で不平等な扱いを受けないよう、働きやすい環境を整備しなければなりません。
現在は多くの企業で、仕事と家庭の両立がしやすい制度の導入、管理職への採用なども行われています。一方で、非正規雇用労働者の割合は女性のほうが多く、ひとり親家庭の場合は男性のひとり親に比べて、女性のひとり親が経済的に不利な状況にある等、課題もたくさん残されているのが現実です。
フェアトレード(公平貿易)製品を選ぶ
フェアトレードとは、貧困問題の解決に向け、弱い立場にある生産者と強い立場にある消費者が対等に行う貿易のことです。途上国で生産された商品は、先進国に安く買いたたかれがちであり、途上国の労働者は不当に安い賃金で働いているため、貧困が解消されません。この状況を打破すべくフェアトレードによって適切な賃金の支払い、労働環境の整備などが行われています。
国内でも活動が広がっており、フェアトレードにより生産された製品を仕入れ、販売する企業も増えています。また、一人ひとりが消費者としてフェアトレード商品を選ぶことも重要性を持ちます。
募金や寄付を通して活動を支援する
募金や寄付を通して目標10の実現に向けた活動を支援することもできます。実際、積極的な募金や寄付によって目標10に取り組んでいるのが、以下のような団体です。
・日本ユニセフ
・プランインターナショナル・ジャパン
・アムネスティ・インターナショナル日本 など
さまざまな団体があり、教育支援や就業・自立支援、心の支援など目標10に関連した活動を行っています。私たちが個人で募金箱に寄付をすることや、支援人として団体に登録し、定額の支援を続けることも可能です。
パラスポーツを支援する
パラスポーツとは障がい者スポーツ全般を指す言葉です。社会的に不利な立場に立たされやすい障がい者ですが、スポーツの舞台で活躍すること、それを支えることは、差別や格差の是正につながります。
企業によるパラスポーツ支援で行われているのは、パラアスリート日本代表チームへの協賛、パラスポーツ用品の開発、パラアスリートの雇用など、さまざまな取り組みです。また、企業として障がい者雇用を実施し、障がいのない社員と障がいのある社員同士の交流を目指し、パラスポーツの観戦や応援、ボランティアなどへの参加を推進する企業も多数あります。
SDGs目標10の実現に向けた企業の取り組み事例

SDGs目標10の実現に向け、企業では具体的に、どのような取り組みが行われているのでしょうか。ここでは4つの企業を例に挙げ、実際に行われている取り組みを紹介しま
日本航空株式会社
日本航空株式会社では、性別や年齢、国籍、人種などに関わらず、活躍できる職場環境の整備に力を入れています。同社が大きな課題として掲げているのが、D&I、すなわちダイバーシティ&インクルージョン(多様性と受容)です。人財本部のなかにD&I推進を担う専門部署を置き、公正で公平な人材の採用、女性やグローバル人材が活躍しやすい配置・管理職への登用なども行っています。
また、社外経験のある人材の採用・登用、LGBTQへの理解促進、障がいのある社員の活躍なども、格差是正に対する取り組みの一部です。多様性と互いの尊重は、SDGs目標10の実現に向けた対応でありながら、企業として生産性を高める施策でもあるのです。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンクでは、女性が活躍できる環境を整えるため、性別による賃金格差の解消に向けた取り組みを行っています。これはソフトバンクが目指すダイバーシティの第一歩としての取り組みです。
女性の活躍推進を目指すため、育児休業期間や短時間勤務制度の拡充、出産祝金制度、育児サポートなどの制度も充実していることが特徴です。これらは法定のものではなく、法定を上回るソフトバンク社独自の取り組みが含まれます。さらに、キャリア支援として女性社員を対象とした研修の実施、社員コミュニティーづくりの支援なども行っています。
もちろん女性の活躍に留まらず、障がい者の採用、LGBTQに対する取り組み、さらに子育てだけではなく介護と仕事との両立支援など、幅広い活動を進めています。
アート引越センター株式会社
アート引越センター株式会社では、女性が働きやすい環境を目指し、女性活躍推進プロジェクト「Weチャレンジ」を立ち上げています。メンバーは女性従業員で、当事者の意見を取り入れつつ社内コミュニケーションの充実、社員の健康増進、社会貢献活動にも取り組んでいるプロジェクトです。
また、アート引越しセンターは保育事業であるアートチャイルドケア株式会社を運営しています。こちらは子育てサポート認定企業「くるみん」を取得するとともに、保育士が働きやすい環境づくりに尽力していることも特徴です。
さらに、子ども虐待防止オレンジリボン運動への支援、児童発達支援教室の展開など、子どもや障がい者の支援という観点からも幅広く活動しています。
株式会社ウエーブ
ネット印刷や自動化機器開発製造を行う株式会社ウエーブでは、事業を通じてSDGs実現のための取り組みを行っています。同社の取り組みは複数の目標に対して多種多様に行われていますが、とりわけ目標10に関連した取り組みとしては、公正で誠実な競争による事業活動の推進、育児休業の積極的な活用、ダイバーシティの推進などが挙げられます。
性別、学歴、国籍や年齢に左右されずに誰もが平等な機会を与えられ、キャリア形成を図れるような人事体系を確立し、ダイバーシティ(多様性)の実現に貢献していることが特徴の一つです。女性はもちろん、障がいのある人、外国籍の人なども等しく勤務しており、リーダー研修などの充実した研修を受け、また昇進の機会も得ることができています。
SDGs目標10の実現に向けた自治体の取り組み事例

SDGs目標10に関しては、自治体でも実現すべく取り組みが行われています。ここでは、長野県と神奈川県の2つの自治体について、具体的な取り組み内容を紹介します。
長野県
長野県ではSDGsの目標実現に向けて、複数の目標に対して、さまざまな取り組みを行っています。このうち目標10に関連する取り組みとして、「信州こどもカフェ」を設置していることが特徴です。信州こどもカフェは特定の1カ所ではなく、県内のいくつもの施設がこどもカフェとして登録を行っています。子どもに対して学習支援や食事提供、悩み相談などを行っており、事情のある子どもたちが頼れて、格差を是正するための一助として機能する施設です。
また、誰もが学べる環境づくりとして、信州タウンキャンパス構想の実現を目指しているほか、長野県SDGs推進企業登録制度を導入し、企業の価値強化をかねてSDGs実現に向けた取り組みを行っている中小企業を支援しています。
神奈川県
神奈川県では、「ともに生きる社会」を実現するため、障がい者雇用、パラスポーツ支援、女性の活躍応援団などに取り組んでいます。この「ともに生きる社会」は、神奈川県で起きた障がい者差別事件をきっかけとし、偏見や差別のない世界を目指して2016年に憲章として策定されたものです。憲章の根本となった障がい者差別、格差の排除活動はもちろんのこと、配偶者等からの暴力根絶や経済的格差の是正、性別による不平等をなくす取り組みも行っています。
「ともに生きる社会啓発プロジェクト」の一環としては、啓発ポスターの作成や意見交換会などを実施しています。県の施策として当事者目線の支援を打ち出し、2022年には「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例~ともに生きる社会を目指して~」を公布しました。
SDGs10への取り組みで格差のない社会を実現しよう!

本記事にて見てきたように、現在では、多くの企業や団体がSDGs目標10の実現に向けた取り組みを行っています。特に、女性の活躍推進や障がい者雇用、グローバル人材雇用に力を入れている企業が多いことが見てとれます。これは日本社会が抱えるジェンダー格差の大きさゆえでもありますが、歴史的、文化的な価値観を背景とした大きな格差があるからこそ、企業にとっては取り組みやすい課題でもあるはずです。
もちろん取り組みのなかには、障がい者や多国籍の従業員など、ダイバーシティ的な取り組みも多く見られました。今回、紹介した事例をヒントに、ぜひ自社で取り組める活動を考えてみましょう。