CO2排出量削減が世界的な課題となるなか、地熱発電の活用が進んでいます。しかし、太陽光発電や風力発電などと比べると、いまひとつ仕組みや運用方法がイメージできないという方もいるのではないでしょうか。
今回は地熱発電とは何か、発電の仕組み、2種類の発電方式、地熱発電の割合や発電量、メリット・デメリット、国内の地熱発電所の事例などを解説します。地球温暖化対策や脱炭素に向けた取り組みを検討する参考にしてください。
目次
地熱発電とは
地熱発電とは、地中深く井戸を掘って蒸気や熱水を取り出し、その熱を動力にして発電する方法です。CO2排出がほとんどなく、持続可能なエネルギーであるため、太陽光発電や風力発電と同じように再生可能エネルギーに分類されます。
日本は地熱発電に適した国で、アメリカ、インドネシアに次いで世界第3位の豊富な地熱資源量を持っています。石油や天然ガスなどのエネルギー資源が少ない日本にとって、地熱資源は貴重であり、そのポテンシャルが期待されています。
しかし、どこでも地熱発電ができるわけではありません。一定以上の地熱を確保する必要があるため、地熱発電所は火山や地熱地域が多い東北と九州に集中しています。
地熱発電の仕組み
地熱発電をするには、地熱貯留層と呼ばれる温度が高い地下に井戸を掘ります。地熱貯留層とは火山や温泉、噴気孔などがある、地下1,000〜3,000メートルほどの地層です。
地中に大きな配管をつくり、そこから蒸気と熱水を取り出します。地熱貯留層は自然を利用してボイラーの役割を果たします。工場などのボイラーは燃料を燃やして水を温める必要がありますが、地熱発電は地中の同様の効果を利用します。
次に蒸気を抽出して、蒸気の力で回転運動するタービンという機械を回します。タービンは発電機につながっており、回転に応じて発電できます。
また、地熱や太陽光・水のように自然界に存在する資源を利用して作られるエネルギーを、「再生可能エネルギー」といいます。再生可能エネルギーは永続的に資源の補充が可能です。また、再生可能エネルギーは、発電時に二酸化炭素を排出しないことから、地球温暖化への対策として、新たなエネルギーとして注目されています。
再生可能エネルギーの解説や、どのような発電方法が存在するのかなどについて、下記の記事にて詳しく説明しています。ぜひあわせてご覧ください。
2種類の発電方式
地熱発電の種類は、フラッシュ方式(フラッシュ発電)とバイナリー方式(バイナリー発電)の2つです。現在主流なのはフラッシュ方式ですが、バイナリー方式も増えつつあります。それぞれの特徴や仕組みについて解説します。
フラッシュ方式(フラッシュ発電)
フラッシュ方式(フラッシュ発電)は200℃以上の地熱を得られる場所での発電に向く方式です。フラッシュ方式はさらに以下の2種類に分けられます。
シングルフラッシュ方式
シングルフラッシュ方式は、取り出した蒸気と熱水をセパレータ(気水分離器)で分離し、蒸気の力でタービンを回して発電する方式です。
ダブルフラッシュ方式
ダブルフラッシュ方式は、蒸気の他に熱水からも低圧の蒸気を取り出して動力源として活用する方式です。これによってシングルフラッシュ方式に比べて、約20%出力を増やせます。
バイナリー方式(バイナリー発電)
バイナリー方式(バイナリー発電)は、200℃以上の地熱を得られない場所での発電に向く方式です。バイナリー方式では取り出した蒸気の熱で、沸点の低い媒体(沸点36℃のペンタンなど)を沸騰させます。そして、沸点の低い媒体の蒸気でタービンを回して発電します。
バイナリー方式は100~150℃程度の中低温度の地熱でも発電が可能です。この温度は温泉地帯でも確保できるので、地熱発電の可能性が広がります。さらに、大規模な開発工事と設備が要らないため、景観をあまり損なわないのもメリットです。
日本における地熱発電の割合と発電量
地熱発電の電力消費量と電源構成割合は次のとおりです。他の発電と併せて紹介します。
最終消費電力(億kWh) | 2010年 | 2015年 | 2020年 | 2021年 |
合計 | 11,494 | 10,404 | 10,008 | 10,327 |
地熱 | 26(0.23%) | 26(0.25%) | 30(0.30%) | 30(0.29%) |
太陽光 | 35(0.30%) | 348(3.34%) | 791(7.90%) | 861(8.34%) |
風力 | 40(0.35%) | 56(0.54%) | 90(0.90%) | 94(0.91%) |
バイオマス | 152(1.32%) | 185(1.78%) | 288(2.88%) | 332(3.21%) |
原子力 | 2,882(25.07%) | 94(0.90%) | 388(3.88%) | 708(6.86%) |
石炭 | 3,199(27.83%) | 3,560(34.22%) | 3,102(31.00%) | 3,205(31.04%) |
天然ガス | 3,339(29.05%) | 4,257(40.92%) | 3,899(38.96%) | 3,555(34.42%) |
石油など | 983(8.55%) | 1,006(9.67%) | 636(6.35%) | 764(7.40%) |
水力 | 838(7.29%) | 871(8.37%) | 784(7.83%) | 778(7.53%) |
参考:資源エネルギー庁|令和3年度(2021年度)エネルギー需給実績(速報)
他の電力と比べると地熱電力の割合は低い水準です。また、同じ再エネと比較すると、太陽光やバイオマスのように利用が伸びず、横ばい傾向であることがわかります。
地熱発電のメリット
地熱発電の消費電力は全体の0.3%以下と低水準にとどまっていますが、ポテンシャルは高いといわれています。ここでは地熱発電のメリットとして環境負荷が少ないこと、安定供給できること、熱を再利用できることを解説します。
環境への負荷が少ない持続可能なエネルギー
地熱発電はCO2排出量がほぼゼロの発電方法です。地球内部の熱源が生み出す蒸気、熱水を利用するため、ほとんどCO2が出ません。
他の再エネと比べても、CO2排出量が少ない傾向があります。原材料の精製や施設のメンテ・廃棄などのプロセスをすべて含めた「ライフサイクルCO2」でみると、地熱発電の国内排出量は13.1[g-CO2/kWh]です。
この数値は太陽光(事業用)58.6、太陽光(住宅用)38.0、風力発電25.7などの再エネと比べても低い水準です。
加えて、地熱発電はエネルギー枯渇の心配がありません。持続可能なエネルギーとして長期運用が見込めます。
天気や時間帯に影響されず安定して発電できる
1,000~3,000mの地下にある地熱貯留層は、絶えず天然の蒸気、温水を噴出させており、天候や時間帯に関係なく安定して発電できます。この安定性は太陽光発電や風力発電にはないメリットです。
安定性の観点から付け加えれば、地熱発電は燃料調達のリスクがないのもメリットです。地熱発電はその場でエネルギーを取り出せます。このため、例えば火力発電のように、化石燃料を十分輸入できなくなったり、燃料価格が高騰したりする心配がありません。
発電に使用した蒸気や熱水を再利用できる
地熱発電は発電に使用した蒸気や熱水を再利用できるエコシステムです。発電を終えた後の蒸気、熱水はまだ熱いため、農業用ビニールハウスの暖房や、魚の養殖などに利用できます。
例えば、岩手県八幡平市では、地熱温水利用ビニールハウスが1980年代から実用化されています。豪雪地帯の八幡平市は、ビニールハウス栽培で採算を取るのは困難でしたが、地熱の再利用によってピーマンの出荷が可能になりました。
このように地熱発電は地域の省エネ、そして地方創生にもつながっています。一般的には地熱発電で利用した蒸気、熱水は再び地中に戻されますが、今後はさまざまな活用方法が検討されていくでしょう。
地熱発電のデメリット
良いこと尽くしのようにみえる地熱発電ですが、デメリットもあります。ここでは地熱発電の場所が限られること、景観を損ねる可能性があること、開発コスト・リスクが高いことについて解説します。
建設できる場所が限られる
地熱発電所を建設できるのは、地熱貯留層と呼ばれる高温の地層が存在する場所だけです。日本は世界的にみても豊富な地熱貯留層を持つ国ですが、それでも北海道・北陸・東北・九州エリアに限られます。
地熱貯留層があったとしても、その上が山だと深く採掘しなければなりません。そのため、コスト面を考えると、海抜が低い場所に限られてしまいます。
さらに、法律の規制をクリアする必要があります。再エネ発電所の建築にあたっては、周辺の雨水・土砂の流出、地すべりなどを発生させる恐れのある土地の利用が認められていません。
景観を損ねる可能性がある
地熱発電は大規模な採掘工事と発電設備が必要になるため、景観を損ねる可能性があります。地熱発電に適した地域は温泉地や観光地、公園などになっているケースも多く、大きな開発ハードルになる場合があります。特に開発規模の大きいフラッシュ方式では、地元住人から反対運動が起きることも想定されるでしょう。
また、資源エネルギー庁のガイドラインでは、「環境保全、景観保全のための適切な土地開発の設計を行うように努めること」という項目が設けられています。このため、環境保全、景観保全のための追加コストが発生する場合もあります。
発電効率が他の方法に比べて低い
地熱発電のエネルギー変換効率は、他の発電方法に比べて低いのがデメリットです。エネルギー変換効率とは、「地熱→電力」のように異なるエネルギーに変換する際の効率です。エネルギー変換効率が高いほど発電効率が良く、低いほど悪くなります。
地熱発電の発電効率は8%であり、太陽光発電と比べるとやや劣ります。また、風力発電と比較すると半分以下、水力発電と比べると10分の1程度に過ぎません。
開発コストとリスクが高い
エネルギー庁の試算によると、地熱を得るための井戸を掘るのにかかる費用は1本数億円です。しかも、事前調査をしたとしても、期待したような蒸気、熱水を得られるとは限りません。このため、地熱発電の開発リスクは高いのが特徴です。
さらに、地熱発電所を運用するまでには、おおよそ10年間かかります。地熱貯留層を探すところからはじめて地熱発電所を建設し、運用をスタートするまで長い期間を費やすのがデメリットです。
ただし、経産省と独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の支援を受けられます。支援内容は地熱資源の調査、データの提供、調査のための採掘井戸の引継ぎなどです。
日本の地熱発電への取り組み
日本の地熱発電への取り組みを簡単に振り返ってみましょう。
1925年 | 日本初の地熱発電に成功(大分県) |
1966年 | 日本初の地熱発電所「松川地熱発電所」が運転スタート(岩手県) |
1970年代 | 石油ショックを契機に代替エネルギー需要が高まり、地熱資源開発が急拡大 |
1996年 | 地熱発電の出力50万kWを達成 |
2012年~現在 | 地熱発電が再エネとして固定価格買取制度(FIT)の優遇処置を受けられることから地熱資源開発が注目され、現在に至る |
気になる今後の見通しですが、地熱発電の急拡大は予想されていません。次世代の技術開発も進んでいますが、2030年までの活用は限定的とみられているためです。資源エネルギー庁は地熱発電の設備容量を、現在の約140万から155万kWに増やすことを目標に掲げています。
日本の地熱発電の事例
ここまで地熱発電の仕組みや全体のメリット・デメリットなどをみてきましたが、いまひとつ具体的なイメージがわかないという人もいるかもしれません。そこで実際の事例として、山葵沢(わさびざわ)地熱発電所と上の岱(うえのたい)地熱発電所の2つを紹介します。
山葵沢(わさびざわ)地熱発電所
秋田県湯沢市にある山葵沢(わさびざわ)地熱発電所は、2019年5月に運転を開始しました。出力は国内4位の46,199kWです。
山葵沢地熱発電所の発電方式は、蒸気のほかに温水も動力として利用する高効率のダブルフラッシュ方式です。これによって一般家庭9万世帯ほどの消費電力をまかなう日本有数の発電所となっています。
山葵沢地熱発電所の発電基地は標高860~930mに建設され、発電後の熱水を地下に戻す還元位置は標高620~700mの位置に設置されました。この高低差を利用した熱水輸送配管は、長さ2.4kmにも及びます。施設が広範囲に渡ることから、光ファイバーを利用した通信機器などで運転を常時モニタリングしています。
上の岱(うえのたい)地熱発電所
秋田県湯沢市にある上の岱(うえのたい)地熱発電所は1994年に運転を開始しました。発電量は2020年時点で128,800kWです。
上の岱地熱発電所の発電方式はシングルフラッシュ方式です。運営に手間がかからない設計となっており、24時間監視とパトロールはしていますが、基本的に遠隔監視・操作で運用されています。
上の岱地熱発電所は、地熱発電を実際に見てみたい人におすすめの施設です。コロナ禍の影響によって2023年3月時点では見学会は休止中ですが、地熱発電の仕組みを知るためのPR館があります。また、山小屋風の背の低い発電所や、自然になじむ落ち着いた色の配管などは、景観対策の参考になるでしょう。
地熱発電のデメリットへの対策を含め、今後の発展が期待されている
地熱を動力に変えて発電する地熱発電は、CO2の排出量がほとんどない再生可能エネルギーです。発電から消費までをすべてトータルしたライフサイクルCO2でみると、太陽光や風力発電より排出量が少なく、環境負荷が少ない発電方式です。
一方で発電場所が限られることや、開発コスト・リスクが高いなどの課題もあります。実際、2010年から現在に至るまで、地熱発電量はほぼ横ばいです。今後の技術開発や企業の参画が待たれるところです。
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