ファストファッションは、気軽に衣類などを購入できることから若い世代を中心に人気を集めています。しかし、ファストファッションは環境汚染や人権問題など、多くの問題を抱えていることをご存知でしょうか。
ファストファッション産業は、大量生産と低価格が特徴です。このため、多くの衣類が大量に生産され、短期間で廃棄されることがあります。これにより、廃棄物が増加し、環境問題の要因の一つとなっています。
ファストファッションが引き起こす環境問題は深刻で、世界のアパレルブランドではさまざまな解決策が講じられています。
この記事では、ファストファッションが抱える問題を解説するとともに、問題の解決に向けた企業の取り組みについて紹介します。
目次
ファストファッションとは
ファストファッションとは、最先端の流行を取り入れた衣料品を大量生産し、低価格で販売するファッションブランドやその業態のことです。ファストファッションの「Fast(ファスト)」とは「早い」という意味で、素早く手軽に購入できる食事のファストフードが由来となっています。
ファストファッションは大量生産により製作コストを下げることで、低価格で販売することができます。流行の服を安く手に入れられることから、2000年代後半頃より流行し、今やファストファッション・ブランドは世界中に存在しています。
ファストファッションの構造について
ファストファッションは一着数百円から数千円で洋服が購入できるのが特徴。
これは、サプライチェーンが短く大量生産しているので出来る事です。
例えばパリコレに代表されるようなモード系ファッションは通常展示会からコレクション発表、小売販売まで約2年かかります。
一方、ファストファッションのビジネスモデルは、流行を加味し短期間で商品を製造・販売する事を目指しています。
この方法であれば商品開発にかかる時間とコストを大幅にカットでき、さらに売れ残りを減らす事も可能です。しかしながら流行を追うビジネスモデルのため他ブランドとの差別化は困難となります。
差別化が難しいため、メーカー各社はセールスポイントを「価格」にせざるを得ません。
そのため大量生産・販売を前提として、商品を短期間に入れ替える事で消費者にアプローチしているのです。
日本におけるファストファッションの現状
現在、日本の小売市場で販売されている衣類のうち、日本製のものはほとんど見られません。約98%は海外から輸入されたもので、主に中国やインド、東南アジア諸国で作られています。なぜなら、人件費が安い国に衣類の制作を発注することで、コストを削減できるからです。
日本における衣類の供給量は年々増加している一方で、衣類一枚の価格は下がっており、大量生産・大量消費が当たり前の状態になっています。それに伴い、懸念されているのが衣類の大量廃棄です。
服を手放す場合、リサイクルに出すか資源として回収する方法があるにも関わらず、約65%はゴミとして廃棄されています。
ファストファッションが引き起こす環境問題
なかでも、ファストファッションは衣類を低価格で提供できる一方、環境や人権などに関する問題を引き起こしています。どのような問題があるのか見てみましょう。
エネルギーの大量消費によるCO2の排出
ファストファッションは大気汚染などの環境問題を起こす要因となっています。例えば原材料の調達や輸送、紡績や染色、裁断、縫製など、衣服を生産するためには多くのエネルギーを消費します。なんと製品化までの間に原料調達から製造段階までに産業全体として年間約90,000ktもの二酸化炭素を排出しているのです。
また、輸送するためにはエネルギーが必要であり、工場で効率よく生産するためには多くの機械を稼働させ、大量のエネルギーを使わなければなりません。
特に、ポリエステルなどの石油から作られる合成繊維は製造過程で大量のエネルギーを消費することから、二酸化炭素排出量が多い原材料です。服1着をつくるのに排出される二酸化炭素排出量は、約25.5㎏にも及びます。
▼二酸化炭素(CO2)排出の影響について詳しく知りたい方は下記をご覧下さい
有害物質やマイクロファイバーによる海洋汚染などの環境問題も
衣類の製造過程で使用される化学物質や、合成繊維から発生するマイクロファイバーが海洋に対して環境問題を引き起こしていると言われています。近年、世界的に問題になっている海洋プラスチックは、合成繊維から抜け落ちたマイクロファイバーも原因の一つとされています。
合成繊維を洗濯すると、何万本もの細かなプラスチックの繊維、つまりマイクロファイバーが抜け落ちます。抜け落ちたマイクロファイバーは、水と一緒に河川へ放出され、海へ到達し、海洋生物の生態系への影響が懸念されています。
また、ファッション産業で使われている染料や加工剤などの化学物質は、自然に分解されず環境中に残留するため、水質汚染が問題視されています。
▼環境問題を解決するための取り組みについて詳しく知りたい方は下記をご覧下さい
低価格を実現するために労働環境問題を引き起こしている
ファストファッションにおいて見直していくべき事の一つには労働者の環境問題も挙げられます。衣類を低価格で販売するためにはコストを削減していかなければなりません。そのため縫製工場などの設備において、充分な安全確保ができていないことも多々あります。
過去には痛ましい事故が発生したこともありました。例えば、2012年にはパキスタンの縫製工場で火災が発生し、防災設備も避難経路もなかったため、約300人もの命が犠牲に。
他にも、工場で使用される化学物質の中には有害なものがあり、労働者が長期間にわたって吸入または接触することによる健康被害が指摘されています。
このような労働環境で長時間の労働を強いられているにもかかわらず、労働者へは充分な賃金が支払われていません。
ファッション業界に求められるサステナブルファッション
ファストファッションによる環境問題は深刻です。これを解決するため、衣類の生産から着用、廃棄されるまでのプロセスが見直されつつあります。結果、環境問題や社会経済、そして人権などに配慮し、将来にわたって持続可能であることを目指す取り組み「サステナブルファッション」が誕生しました。
サステナブルファッションの背景には、2019年の先進7か国首脳会議(G7)で発表された「ファッション協定」が影響しています。
ファッション協定とは、気候変動、生物多様性、そして海洋保護の3つの分野で共通の実践目標を設定し、それに取り組むことを成約したものです。欧米を中心としたラグジュアリーブランドやスポーツブランド、ファストファッションなど、幅広いブランドが参加しています。
ファッション協定が発表されたことで、世界のファッションブランド企業はサステナブルファッションの取り組みに注目し始めました。リサイクル素材の利用や労働環境問題の改善など、さまざまな取り組みがなされています。
製造上での環境問題について着目し、改善していく
製造する上でどの程度環境に負荷がかかるのか知っておかなければなりません。
例えば、服一着製造するためにCO2は25.5kg排出され、水は2300ℓ必要となります。加えて大量生産は、その分綿などの原材料を育てるために化学肥料も必要とし土壌汚染などの環境問題につながっています。
これらの環境問題は大量生産されている昨今、増大する一方です。
今、企業は売上だけでなく、環境問題にも着目し改善していくよう求められています。
サステナブルファッションとは
サステナブルファッションとは、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮したファッションの事です。サステナブルとは「持続可能な」という意味です。
特にアパレル産業においては、衣服を提供する企業活動が環境問題を引き起さず、次世代に引き継いでいく事が重要なポイントとなります。
サステナブルファッションを推進していくため、グローバル・ファッション業界は「ファッション業界気候行動憲章(Fashion Industry Charter for Climate Action)」を発表。
国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局のもとで、人気ファッションブランドや小売業者、納入業者団体や関係者が、環境問題を解決するため一丸となって取り組んでいく事となりました。
この憲章では、202050年までに廃棄物を完全循環させ、二酸化炭素(CO2)排出量を正味でゼロにする「ゼロ・エミッションを達成する」という目標を掲げています。
加えてその目標を達成するために、生産段階の脱炭素化や、環境問題の要因にならない素材の選択、低炭素の輸送など取り組むべき課題も提示されました。
署名団体はその中で、目標達成に向け具体的な行動を決め実践しています。
ファストファッションが引き起こす環境問題の解決のためにできること
サステナブルファッションが注目され、多くの取り組みがなされているものの、以前としてファストファッションは多くの環境問題の要因になっています。があります。環境問題を少しでも解決するためには、企業だけでなく消費者一人ひとりのアクションも重要です。
ファストファッションの課題を解決するために、企業と消費者個人でできる取り組みを紹介します。
サステナビリティ(持続可能性)について詳しく知りたい方は下記をご覧下さい。
今持っている服を長く大切に着る
【環境問題を改善するために企業ができる取り組み】
・長持ちする服作り
ていねいに作られ、長期間に渡って着用できる服の商品企画・開発をしましょう。
・リペアサービスの提供
自社製品が破損した場合、リペアを行うのも有効です。リペアサービスを提供すれば、1枚の衣類を長年着用してもらえるでしょう。
【環境問題を改善するために消費者ができる取り組み】
- 1着を大切に長く切る
所有している服をあと1年長く着ることで、日本全体で約4万t以上の廃棄量削減が可能です。
- 破損したら手を加える
破損したからといってすぐに破棄するのではなく、リペアなどしながら手を加えましょう。イギリス発祥の修繕方法「ダーニング」などを施し、服をアップサイクルすることもおすすめです。
リユースでファッションを楽しむ
【環境問題を改善するために企業ができる取り組み】
- サブスクリプションの導入
月額料金制で衣類をレンタルできるサブスクリプションサービスを導入すれば、売れ残ってしまった服から収益を得られます。
- リユースへの参入
着用されていない衣類を買い取り販売するなど、リユース事業を検討してみましょう。
【環境問題を改善するために消費者ができる取り組み】
- 服をシェアする
近年、服をレンタルできるシェアリングサービスが注目を集めています。気軽にさまざまなファッションを楽しめるうえ、似合わないからといってせっかく購入した服を破棄してしまうという事態を防げます。
- セカンドハンド(古着)を利用する
古着を購入したり、着用しなくなった服は捨てずに古着として販売しましょう。
サステナブルな社会のため出来る事について詳しく知りたい方は下記をご覧下さい。
先のことを考えて買う
【環境問題を改善するために企業ができる取り組み】
- 売れ残りを防ぐ在庫管理
事前予約で販売数を予測してから発注する、売れ行きの良くないものはアウトレットで販売するなどすれば、売れ残りを抑えられます。
- 衣類の短期サイクルの見直し
シーズン終了間際にセールを行い、次のシーズンでは前シーズンの衣類が販売されないことが一般的になっていますが、シーズンをまたいでも販売する取組みが推奨されています。
【環境問題を改善するために消費者ができる取り組み】
- 本当に必要か考える
「衝動的に購入したけれど一度も着用しなかった」ということがないよう、本当に必要かどうかをよく考えてから購入しましょう。
- 長く着られる品質のものを選ぶ
安い服を短期間だけ着るのではなく、品質を重視して作られ長く着用できるものを選ぶことも大切です。
ファストファッション問題に対する企業の取り組み事例
ファストファッションは環境問題や労働条件問題などを引き起こしており、企業はこれらの課題に対処しようと努力しています。
以下に、企業がファストファッション問題にどのように対応しているか具体的な取り組み事例をご紹介致します。
ZARA(ザラ)の取り組み事例
ZARAは、Inditex Groupの一部として運営されているスペインのファッションブランドであり、環境問題に対する取り組みを行っています。
例えば、オーガニックコットンや再生ポリエステルなどのサステナブル素材を使用する取り組みを行っています。これにより、水と化学物質の使用を大幅に削減する事に成功しました。
他、製品の生産においてエネルギー効率を向上させ、廃棄物の削減を図り、環境負荷を軽減させています。
具体的には、エコフレンドリーな生産プロセスの採用、廃棄物のリサイクル、再生可能エネルギーの利用などを促進しています。
さらにZARAは、古着の回収プログラムを実施し、古着を再販売またはリサイクルする流通経路を確立させました。このようなプログラムは、ファッションアイテムの延命と廃棄物削減に寄与しています。
これらの取り組みは、ZARAが環境問題に対処し、持続可能なファッション産業に貢献しようとしている一部です。ファッション業界全体が環境問題に向けて取り組む中で、ZARAはその一環として社会的責任を果たすべく努力しています。
UNIQLO(ユニクロ)の取り組み事例
UNIQLOは、日本を拠点とする世界的なファッションブランドで、ファーストリテイリンググループに属しています。
ファーストリテイリング社は2021年12月、「LifeWear」のコンセプトを改めて問い直し、「服」の新たな産業を目指すというビジョンを掲げ、具体的な計画が発表されました。「PLANET」「SOCIAL」「PEOPLE」の3つの分野に分けて、様々なサステナビリティの取り組みを行っています。
その一つが製品開発。UNIQLOでもサステナブル素材の使用に力を入れてます。UNIQLOの「リサイクルダウン」製品やオーガニックコットン製品をよくみかける事でしょう。これらの製品開発・製造は、農薬の使用を削減した農業改革に一役買っています。
他ユニクロでは、エネルギーによる環境問題対策に努めています。2030年度までに、自社運営施設でのエネルギー使用に由来する温室効果ガス(GHG)排出量を2019年度比で90%削減。サプライチェーンでも20%削減を目指します。
さらに店舗や主要オフィスの電力を100%再生可能エネルギーとし、取引先工場とも削減計画を策定する方針です。
加えてユニクロは、「長く愛用して頂くために」をモットーに流行に左右されないデザインの衣類を提供しています。今後ともシンプルで上質・丈夫な衣類を提供するため東レ株式会社と研究開発を進める予定だそうです。
このようにUNIQLOでは環境問題など社会的な側面も考慮しながらビジネスを展開しているのです。
▼企業の環境に配慮した戦略指針をもっと詳しく知りたい方は下記をご覧下さい!
Forever 21(フォーエバー21)の失敗事例
Forever 21は米ロサンゼルス発祥のファストファッションブランドです。2019年に本国で経営破綻し、日本からも撤退しました。環境問題に関連したいくつかの失敗事例があります。
Forever 21は、低価格で流行のファッションを楽しめるとして若者から大きな支持を集めてました。しかし低価格と大量生産に重点をおいた結果、生産プロセスが非常にエネルギーと資源を浪費していました。このようなビジネスモデルは言うまでもなく、環境問題を増大させてしまいます。
一方でForever 21の製品は、品質に欠ける事が多く使い捨て文化を促進するとみられサステナビリティー意識の高まりとともに人気を失っていきました。そして2020年、フォーエバー21は破産を宣言し、多くの店舗が閉鎖。今後はアダストリアグループと伊藤忠商事をパートナーとして再出発するそうです。
Forever 21の失敗事例は、ファストファッションモデルの持つ環境問題に関連した課題を浮き彫りにしました。企業はこの失敗事例から学び、サステナブルファッションに焦点を当てたビジネスモデルを採用していかなければなりません。
ファッションにもサステナブルが求められる
ファストファッションは、流行のデザインの衣類を安く購入できるため、多くの人々に利用されています。
しかし、その背景には、安い賃金かつ劣悪な環境で長時間働かれている人々がいることや、大気汚染や海洋汚染などのリスクをはらんでいることを覚えておく必要があるでしょう。
今や、国際的な課題解決には、ファッションにおけるサステナブルな取り組みも重要です。企業や個人で、どのようなアクションができるか考えてみてはいかがでしょうか。
e-dashでは、サステナブルな取り組みを総合的にサポートしています。組織でサステナブルな取り組みをしたいとお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。