記録的猛暑、激甚化する災害等近年の異常気象の背景には、人為的起源による温室効果ガス(二酸化炭素)の増加がもたらした地球温暖化の影響があります。
地球温暖化を含む気候変動問題は、災害の激甚化にとどまらず、これまでになかった感染症等健康へのリスク、生態系への影響、食糧生産問題まで広がり、今後さらに日本の産業への打撃が大きくなることは間違いありません。
脱炭素経営が差別化・ビジネスチャンス獲得に結び付く流れが始まる今、ビジネスパーソンが知っておきたい気候変動問題について解説します。
目次
40℃の日々は日常に?
2024年の夏(6月~8月)の日本の平均気温は、前年の2023年同様、気象庁が1898年(明治31年)に統計を取り始めてから最も高くなりました。
さらに全国で観測された猛暑日(最高気温35℃以上)の地点数の積算は、2010年以降の主な高温の年と比較してもひと際多かったことが見て取れます。
国内の最高気温の記録は41.1℃。35℃以上の猛暑日日数は2000年代入って特に増加しており、40℃を超える日はさほど珍しくなくなりました。
熱中症で亡くなる人は2000年代に入って毎年1000人を超えるようになりました。
環境省では2024年4月の気候変動適応法改正に併せ、熱中症の危険度が高くなる際に発表する熱中症警戒アラートを法に位置付け、2030年までに死亡者数を半分に減らすことを目標としました。
もはや猛暑そのものが命を奪う気象災害となっています。
参考:厚生労働省ホームページ 人口動態統計 全国熱中症死亡者数
気温を底上げしているのは地球温暖化
近年では、ある個別の現象にどの程度地球温暖化が影響したかを科学的に示すことができるようになりました。「イベント・アトリビューション」と呼ばれる解析手法で、地球温暖化が進んでいない地球と温暖化が進んだ現実の地球とをシミュレーションした上で比較し、猛暑や大雨等の個別の現象にどの程度温暖化が影響したかを評価することができます。
イベント・アトリビューションによる解析では、2004年夏の記録的な暑さは地球温暖化の影響がないと仮定した場合、「ほぼ発生しない」という結果になりました。
また、7月下旬に発生した東北日本海側の大雨についても、温暖化の影響によって48時間の積算雨量が20%以上多くなったことが分かっており、近年の極端な高温や豪雨は地球温暖化が寄与していることが科学的に明らかとなっています。気温が高くなると大気中の水蒸気も多くなるため、極端な豪雨や強大な台風も発生しやすくなるのです。
世界規模で見ても2015年以降の気温上昇が顕著であることが分かります。2023年は 世界全体の年平均気温が1891年の統計開始以来最も高くなりました。
同年(2023年)の世界の主な異常気象(30年に1回程度の現象)を表した地図を見ると、東アジアから東南アジア、中央アジアから北アフリカ北部、北米北部、北米東部から南部、南米中部など広い範囲で異常な高温となったことが示されています。
気温は地球上で起こるエルニーニョ・ラニーニャ現象等の自然に発生する現象によっても変動しますが、近年は、長期的な地球温暖化によって気温が底上げされています。
海に囲まれた日本にとって近年特に海面水温が高くなっているのも気温が上がりやすくなっている状況を作り上げています。
数十年に1度程度の現象を数年に一度と頻度を上げたり、35℃を40℃に押し上げたりと異常気象を増加させる原因は地球温暖化にあります。
人為影響は疑う余地がない
地球温暖化の原因は熱を吸収する性質を持つ温室効果ガスの増加です。
産業革命以降、経済の発展と共に化石燃料の使用が増えたことに伴って、人為起源による二酸化炭素(CO2)排出量が増加しており、特に1900年代後半から急速に増加はしています。
温室効果ガスのうち7割以上を占めるCO2を減らすことが地球温暖化の進行を食い止める上で必須です。
参考:Our World in Data CO2 emissions Annual CO2 emissions by world regionより作成
人為起源のCO2と地球温暖化についての科学的証拠は、気候変動に関する政府間パネル (IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)によって示されています。
IPCCの目的は、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることで、世界中の科学者の協力の下、文献や論文等に基づいて定期的に報告書を作成し、気候変動に関する最新の科学的知見の評価を提供しています。
1990年から5年程度で更新され、最新の第6次評価報告書では、人間活動が及ぼす温暖化への影響についての評価について「疑う余地がない」と非常に高い確信度を示しています。
1.5℃を超えた未来は
2015年に開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定では、気候変動による深刻な影響を回避するために世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5℃以内に抑えることが目標とされました。
1.5℃未満に抑えるためには2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする必要があり、2020年以降、日本を含め多くの国や地域が「カーボンニュートラル宣言」を掲げています。
しかし、欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービス(C3S)の研究によると、2023年2月から2024年2月の1年間で見ると、世界平均気温は産業革命前に比べて初めて1.5℃を越えてしまいました。
IPCCが掲げるシナリオによると、1.5℃を越え、2℃、4℃とさらに気温が上がるごとに、熱波、大雨、干ばつ等の異常気象はさらに増え、海面上昇もより深刻になります。
このまま対策を強化せずにCO2を排出し続けた場合、2050年以降は気温上昇がさらに加速します。異常気象の増加のみならず、日本では例のなかった感染症の拡大や、動植物や海草等生態系に及ぼすリスク、食糧生産への影響が深刻になることが予想されています。
参考:IPCC第6次評価報告書SPMより作成
“ニューノーマル”の時代に企業があるべき姿
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、近今の暑さについて「地球は沸騰化の時代」に入ったと指摘しました。専門家は「地球温暖化などで高温が当たり前となりる今、「ニューノーマル」のフェーズに入ったかもしれない」と述べています(東京大学先端科学技術研究センター中村尚教授)。
CO2は大気中に留まる時間が長いため、すぐに効果は表れません。対策の効果が表れるのは数十年先であるからこそ、今やらなければならないと取り返しが付かない時代に来ています。
国内のCO2排出量の割合は産業部門が30%以上と最も多くなっています。運輸、家庭等各部門で脱炭素に向けた対策を前進させることが必要ですが、2030年に向けて加速化するためには企業の力が重要なことが分かります。
気候変動対策には、その原因物質である温室効果ガス排出量を削減する(または植林等によって吸収を増加させる)緩和策と、気候の変化に対して自然生態系や社会・経済システムを調整することにより気候変動の悪影響を軽減する(または気候変動の好影響を増長させる)「適応」の両輪からのアプローチが必要です。
緩和策にあたる「脱炭素経営」は、これまでCSR活動の一環として行われることが多かったですが、2020年の日本政府による「カーボンニュートラル宣言」を始め、気候変動に対応した経営戦略の開示(TCFD)が始まったことも相まって、全社を挙げて取り組む企業が増加しています。
今起きている気候危機を乗り越え新たな希望へと導くためには、脱炭素社会を加速的に進めていくことが重要課題の一つということは間違いありません。