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TSVCM(ICVCM)とは?自主的炭素市場のトレンドを解説!

TSVCM(ICVCM)とは?自主的炭素市場のトレンドを詳しく解説

脱炭素社会に関する取り組みの中で、TSVCM(Taskforce on Scaling Voluntary Carbon Markets)という単語を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。TSVCMは新しくできたカーボンマーケットに関する民間主導の組織です。本記事では、TSVCMにどのような特徴があるのか、カーボンマーケットとは何かを、カーボンマーケットのトレンドとあわせて解説します。

TSVCMとは?クレジットの種類と違いを分かりやすく解説!

TSVCM(Taskforce on Scaling Voluntary Carbon Markets)は、カーボンマーケット(自主的炭素市場)に関する組織です。主に、カーボン・クレジットの品質と評価枠組みの整理、取引の透明性・流動性向上を行っています。

カーボンマーケットは、温室効果ガスの削減量や吸収量に応じて生み出されるカーボン・クレジットという価値を取引するための市場です。カーボンニュートラルな社会を目指すために大切なものと位置づけられています。

次に、カーボン・クレジットの意義を3点ご紹介します。

・効率性:市場主義という考えのもと、技術・経済が変化する時間軸に応じてクレジットの価格が決定し、限界削減費用の低い取り組みから温室効果ガスの排出削減が加速する。

・網羅性:排出量取引制度・炭素税などは、対象となる産業が限定される可能性があるが、カーボン・クレジットではあらゆる産業が対象とできる。

・価格性:炭素削減価値に価格が付与され、市場が確立することで、カーボンプライシングとして機能する。結果、温室効果ガス削減が収益に繋がり、民間資金が流入し事業化が加速される。

上記の点を踏まえて、TSVCMはその他のカーボンマーケット関連組織とどのような違いがあるのか解説します。

TSVCMは民間セクターが主導するボランタリー・クレジット

TSVCM

TSVCMは、効果的かつ効率的にカーボンマーケット(自主的炭素市場)の拡大に取り組む民間主導の組織で、ボランタリー・クレジットの管理を行っています。

ボランタリー・クレジットは、民間(NGO・企業・団体・個人など)が発行するクレジット(環境価値)です。温室効果ガスの削減や吸収率として取り扱えるため、世界中で幅広く扱っており注目を集めています。

TSVCMはマーク・カーニー国際気候行動特使(元イングランド銀行総裁)が中心となり、ビル・ウィンターズ(スタンダードチャータード銀行・グループCEO)が委員長を務める組織です。世界的にも素晴らしい人材が運営しており、国際金融協会がスポンサーについています。日本企業は諮問グループとして三菱商事が入っているものの、メンバーとしては入っていません。

国連・政府主導で行うクレジット

民間が主導であるボランタリー・クレジットとは異なり、政府が主導しているクレジットには主に次のようなものがあります。

国連主導の京都メカニズムクレジット

京都議定書で定められた、先進国のCO2排出量の削減目標に基づいたクレジットであるJIとCDMについて説明します。

・JI(共同実施):先進国におけるCO2削減プロジェクトの結果であるCO2削減量に応じて、クレジットを発行する。京都議定書にてCO2削減量の数値目標が課せられている国同士でクレジットの取引を行う。

・CDM(Clean Development Mechanism):CO2削減量の目標が課せられている先進国がCO2削減量の目標が定められていない発展途上国でCO2削減プロジェクトを行った際に、その結果であるCO2削減量に応じてクレジットを発行する。先進国の目標達成に利用することができる。

日本の行政機関主導のクレジット

日本国内の制度であるJ-クレジット制度と、二国間の制度であるJCMについて説明します。

・J-クレジット制度:省エネ設備や再生可能エネルギーの活用などによるCO2削減量、森林の適切な管理などによるCO2吸収量に基づいてクレジットが発行される。経済産業省、環境省、農林水産省が管理者である。

・JCM(Joint Crediting Mechanism):二国間文書に署名したパートナー国(途上国など)で脱炭素技術・製品・システムなどの普及や対策を行うことでクレジットが発行される。CO2削減の成果は二国間で分け合われ、日本では削減目標達成のために活用される。

クレジットの種類における違いは法的拘束力の有無

クレジットの種類によって、法的拘束力の有無が異なります。

国連・政府主導のクレジットには法的拘束力があることによって自由度が下がるため、排出量削減に向けた取り組みで不具合が生じる可能性があります。

その反面、ボランタリー・クレジットには法による拘束力がありません。自由に取り扱えるため、残余排出量(不具合で生じた削減できなかった部分)を相殺できる点がメリットです。また、プラスチック削減などもクレジットのひとつとして取り扱えます。

TSVCMの特徴や動向を具体的に解説!

TSVCMは2020年に民間セクターとして設立され、現在のクレジット市場を15倍以上にする必要性を提言しました。新しく設立した機関であるICVCM(THE INTEGRITY COUNCIL)にて、クレジットの品質や評価枠組みの検討が継続的に行われています。

具体的に、どのような特徴や動向があるのかを解説します。

2050年の目標に向けた20のアクションプラン

TSVCMが立てた2050年に向けた目標には、次のようにあります。

『地球温暖化による気温上昇を1.5℃に抑える』ことを前提として

・2030年までに現在の温室効果ガス排出量を半分まで減少、2050年に実質ゼロへ
・自主的炭素市場は現在の15倍以上を創設

この目標のため、20のアクションプランを立てています。

1:コア・カーボン原則と属性分類法を確立
2:コア・カーボン原則を守っているかについての評価
3:信頼性の高い供給の拡大を達成
4:コア・カーボンのスポット取引・先物取引を導入
5:活発な流通市場を設立
6:相対取引市場の透明化・標準化
7:大量の取引ができる既存のインフラ構築・活用
8:回復力のある既存のポストトレード(取引後の業務全般)におけるインフラ構築・活用
9:高度なデータインフラの実装
10:金融の仕組み化の促進
11:オフセットの利用に関する原則を確立
12:企業向け債権でのオフセットについてのガイダンスの統一化
13:効率的で正確な検証の実施
14:AML(Anti-Money Laundering:資金洗浄)や、KYC(Know Your Customer:本人確認手続き)のグローバルなガイドラインを作成
15:法的枠組み・会計的枠組みの確立
16:市場を利用する人々と市場の機能を管理する機関を設立
17:オフセットに関する一環した投資家向けガイダンスの提供
18:POSシステム利用などによる利用者の信頼性・認知度向上
19:業界同士の協力、コミットメントの増加
20:デマンドシグナル(要求信号)のための仕組みを構築

が行われていなかったり制度が不十分であったりする点が懸念視されています。上記アクションプランを実施し、地域による排出量削減や取引の活性化への推進力に貢献しようとしています。

ボランタリー・クレジットの市場を左右する多大な影響力

TSVCMにより、ボランタリー・クレジットの市場拡大が期待されています。市場拡大のためには透明性や流動性が向上するようにルールやガイドラインなどを整備する必要があるためです。

日本の市場においても同様に、ルールやガイドラインの整備が重要です。TSVCMが自然由来除去クレジット(植林・農地貯留等)をターゲットとしていることを踏まえ、クレジット活動事業者の評価やインセンティブの設計を行う必要があります。

他のボランタリー・クレジットとの差別化に繋がるSDGsへの考慮

将来、企業が取り組んでいる環境対策への投資家の注目が更に集まっていくことが予想されます。数多くあるボランタリー・クレジットと差別化するためにも、SDGsへの考慮も重要視しているTSVCMが管理する市場に目を向けておきましょう。

TSVCMを知る上で重要な自主的炭素市場とコアカーボン原則を解説!

TSVCMをより深く知っていくため、自主的炭素市場(カーボンマーケット)コアカーボン原則について解説します。

自主的炭素市場はカーボン・オフセットを行う場所

カーボン・オフセットとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を相殺することをいいます。再生可能エネルギーや省エネルギー・植林などへの参加や投資により、どうしても避けられない温室効果ガスの排出量を相殺します。そして、カーボン・オフセットを行うための場所を自主的炭素市場と言います。

ただし、カーボン・オフセットについては気を付けなくてはいけない点があります。例えば、詐欺や人権侵害に繋がる可能性がある点や非科学的な根拠による結果への懸念から発表したレポートが批判されることもあります。

上記の点を解決するため、カーボン・オフセットやクレジットを監視する組織のVCMI(Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative)が発足しました。目的は、カーボン・オフセット・クレジットに対する排出量削減評価のガイダンスを提供することです。

VCMIが提案する10の原則のうち、カーボン・オフセット・クレジットにおいて気候変動対策を促進するための項目として以下の3つを挙げます。

・企業はカーボン・オフセット・クレジットの購入により、気候変動緩和の大きな投資を行うべきである
・活動範囲、カーボン・クレジット使用の透明性を確保するため、民間企業は進捗状況・学習結果などを報告すべきである
・炭素市場の気候変動対策における持続可能な利益を最大化するため、企業はクレジット活動をNGOや地元のステークホルダーなどと調整すべきである

これにより、カーボン・オフセットの信頼性・透明性が向上され、より拡大されることが期待できます。

カーボン・オフセットはカーボン・クレジットで行うことも可能

カーボンオフセットはカーボンクレジットで行うことも可能

カーボンオフセットは、カーボン・クレジット取引によって行うことができます。日頃の生活・経済活動では温室効果ガスの排出を避けられない場面があり、この削減できない排出量についてクレジットを購入(=投資)することで相殺ができます。

カーボン・クレジットは、再生可能エネルギーやエネルギー効率の良い機器の導入によって温室効果ガス排出量を削減している企業、植林などの森林管理によって温室効果ガス吸収量を増加させている企業が創出した価値です。

カーボン・クレジットを購入することで、カーボンオフセットが可能になりますが、クレジットの再利用を防ぐために「無効化/取消口座」にクレジットを移動しなくてはなりません。クレジットは電子システム上口座にて、『t-CO2』という単位で管理されます。

カーボンオフセットの購入の流れ

そして当社では、このカーボン・オフセットを気軽に行うことができるサービスである「e-dash carbon offset」を提供しています。カーボンオフセットへの取り組みには難しい印象がありましたが、e-dash carbon offsetを利用することでカーボン・オフセットが身近なものとなるでしょう。

また、J-クレジット制度の導入により、クレジットを経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成に利用することができます。認証企業のクレジットを購入し、カーボン・オフセットを行うだけで参加が可能です。

この制度を利用することで社会全体のために貢献ができるため、環境対策への関心がある購買層にリーチできるためメリットとなります。

公平なカーボン・オフセットを実現するコアカーボン原則の概要

TSVCMではカーボン・オフセットの取り組みについて透明性や公平性を確立するため、コアカーボン原則を8つ作成しています。

コアカーボン原則

原則詳細
I.明確で透明性のあるアカウンティングの基準と方法論・実際の削減であること。・現実的で信頼できるベースラインに基づくこと。・MRVされた削減量。・永続的であること。・リーケージの最小化。・二重発行または売却の禁止
II.危害を及ぼさない環境的および社会的リスクを考慮し、関連する危害を軽減するための行動を取ることを保証。
III.プログラムガバナンス政府またはNPOが組織の役割、責任など含め、透明性のある方法で管理。
IV.プログラムの透明性とパブリックの参画パブリックステークホルダーコンサルテーション(ルール手続き、算定の方法論など)
V.第三者検証機関に対する要求事項スタンダードは第三者検証機関に対する要求事項を公表すること。また、ISO14065認定の資格を有すること。
VI.法的根拠ユニットの発行に関し、その権利など法的根拠があること。
VII.登録簿へのアクセス発行されたユニットを追跡し、関連する基本機能を有する登録簿が必要。
VIII.登録簿の運用登録簿の運用に関する手続きが必要。
引用元:IGES|自主的炭素市場拡大タスクフォース等に関する動向

上記のような原則に基づくことで、より信頼性のある取引が行えるようになります。

自主的炭素市場の現状は?現在のトレンドを分かりやすく解説!

自主的炭素市場の現状は?現在のトレンドを分かりやすく解説!

自主的炭素市場(カーボンマーケット)は、どのような現状なのでしょうか。4つのトレンドについてそれぞれ解説します。

民間セクターにおける取引需要の加速

民間セクターにおける取引需要の加速

民間セクターによるボランタリー・クレジットの取引が活性化しています。2017年から2018年にかけてボランタリー・クレジットの取引が増えています。ネットゼロに向けた新たなガイダンスが策定された結果、2050年前後までに世界全体で温室効果ガスの削減に向けた取り組みとしてボランタリー・クレジットが必要であるとされたためです。

特に、森林吸収・農地貯留のプロジェクト実施などによるクレジットがボランタリー・クレジットとして有効活用されていて、注目を集めています。

国際航空におけるカーボン・オフセット(CORSIA)の開始

民間セクターの自主的な活用拡大の動きを受け、国際航空によるクレジットの活用が活発になっています。国際航空部門のCO2排出量は、世界全体の2%を占めています。排出量の削減を最優先で行う必要がありますが、世界経済の発展に伴って排出量が増加することが懸念されています。

この結果を受け、CORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)が2021年より開始され、クレジット需要は最大25億トンと予想されています。クレジット市況の把握をする上では注視すべき事柄であると考えられます。

SDGsへの取り組みの重要性

SDGsへの取り組みの重要性

近年、持続可能な社会をつくるためにSDGsへの取り組みが重要視されています。クレジットの活用は、SDGsへの貢献にも繋がります。そのため、排出量削減以外での副次的な効果を評価するフレームワークとして、制度の開発が進んでいます。

これにより、「通常のボランタリー・クレジット」と「SDGsラベル付きボランタリー・クレジット」が区別され、CO2削減価値以外の評価軸が生まれるのではないかと予想されています。

ボランタリー・クレジットを購入する際の3つの問題点を解説!

ボランタリー・クレジットを購入する時の問題点を3つ解説します。

問題点

・クレジット価格が不透明
・市場の変動が激しく価格が不安定
・炭素税などの影響を受ける可能性

クレジット価格が不透明

クレジット価格が不透明であることが、問題点のひとつです。価格情報が一般に公開されておらず、相対価格にて取引されるため、事業計画を立てることがとても困難です。クレジットの透明性を確保するため、様々な試みが実施されています。

市場の変動が激しく価格が不安定 

透明性を確保した市場でのクレジット取引の結果、巨大資本企業によってクレジットの市場価格が激しく変動することが懸念されます。安定した価格で長期的に取引できる仕組みを整えることが急がれています。ボランタリー・クレジットの市場価格は刻々と変化するため、安定調達が必ずしも保証されないので注意が必要です。

炭素税などの影響を受ける可能性

炭素税は、環境破壊・資源枯渇に対処する取り組みを促す税金(環境税)です。化石燃料の中に含まれている炭素の量に応じて税金がかかります。化石燃料の価格を引き上げることで需要を抑制できるため、CO2排出量を抑える経済的な手段として活用されています。

日本では、2012年から化石燃料の輸入対象者に向けた税金が導入されています。今後、一般企業に対して炭素税が課せられる可能性があります。カーボン・オフセットの実施時に排出量取引に応じた炭素税が発生するとボランタリー・クレジットが影響を受ける可能性があるため今後の動きに注目が必要です。

TSVCMによってカーボン・クレジット活用の加速が期待される

TSVCMによってカーボン・クレジット活用の加速が期待される

TSVCMの取り組みや今後の世界市場がどのように動くのかをご紹介しました。カーボン・クレジットは、より身近な取引となっていくことが予想できます。様々なリスクを理解したうえで環境対策のひとつとして民間でも取り組みを広げていくことで、脱炭素社会の実現が加速すると期待されます。