温室効果ガスの削減に向けた取り組みの一つに、カーボンニュートラルがあります。日本は、2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言しました。また、カーボンニュートラルを実現するための一歩として、2030年中間目標が掲げられています。今回は、カーボンニュートラル実現に向けた2030年目標について解説します。
目次
カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルは、世界的な取り組みです。ここではカーボンニュートラルの意味やCOPの開催状況に触れつつ、カーボンニュートラルを宣言した国の一例を紹介します。
カーボンニュートラルの意味
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする取り組みです。経済活動や日常生活において温室効果ガスの排出は避けられませんが、植林や森林管理を行うと温室効果ガスの吸収量を増やせます。温室効果ガスの排出量と吸収量が同じであれば、理論上は新たな温室効果ガスが発生していないことになります。
しかし、従来のとおり温室効果ガスを排出し続けると、温暖化が加速して自然災害や経済的な被害が誘発されかねません。国や自治体だけではなく、企業や個人も協力してカーボンニュートラル実現に向けて取り組む必要があります。
カーボンニュートラルを宣言した国
COP(気候変動枠組条約締約国会議)とは、「気候変動枠組条約」の参加国が年に1回集まって行われる会議です。2021年には「COP26」が開催され、日本を含む約130カ国以上がカーボンニュートラルについて話し合いました。
前回のCOP25が終了した2019年12月時点では、121カ国がカーボンニュートラルを宣言しました。また、COP26が終了した2021年11月時点では、G20を含む約150以上の国と地域が、カーボンニュートラルを宣言しています。
2050年におけるカーボンニュートラルの実現のため、中間目標として2030年に向けた気候変動対策が求められています。
カーボンニュートラル実現に向けた2030年目標とは
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、各国が温室効果ガスの削減に関する「2030年目標」を掲げています。以下では、日本政府や各国の2030年目標を解説します。
日本政府が掲げる2030年目標
2030年に向け、日本政府は「2013年と比較して、国内の温室効果ガスの46%削減を目指す」という目標を掲げました。ただし、「46%削減」はあくまでも最低限の目標であり、50%削減に挑戦を続けていく意向です。
日本政府はカーボンニュートラル実現に向け、オフィスの縮小化をはじめとする社会経済の変革を進めています。他にも、地球温暖化対策推進法の改正により、地域の再エネを活用した脱炭素化への取り組みが定められました。ZEH・断熱リフォーム支援のような、省エネにつながる施策も実施されています。
各国が掲げる2030年目標
各国が掲げる2030年目標を一部紹介します。
国・地域 | 削減目標 | 基準年 |
中国 | GDPあたりのCO2排出量を-65%以上 | 2005年 |
アメリカ | -50~-52% | 2005年 |
インド | GDPあたりの排出量を-45% | 2005年 |
ロシア | 排出量を-30% | 1990年 |
日本 | -46% | 2013年 |
EU | -55%以上 | 1990年 |
韓国 | -40% | 2018年 |
ブラジル | -50% | 2005年 |
イギリス | -68%以上 | 1990年 |
中国・アメリカ・インドなど、温室効果ガス排出量が多い国も削減目標を表明しています。
特に、世界の温室効果ガス排出量の約30%を占める中国について、取り組みが注目されています。
カーボンニュートラル実現に向けた主な取り組み
カーボンニュートラル実現に向けた、国内の具体的な取り組みを解説します。政府の定めたグリーン成長戦略などの施策により、各地域や企業は具体的なアクションを考えやすくなりました。
グリーン成長戦略の策定
日本政府は、カーボンニュートラルの実現に向けて「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。グリーン成長戦略とは、地球温暖化への対応を成長の機会と捉え、経済と環境の好循環を目指すための施策です。
再エネ・水素発電・蓄電池の活用など、グリーン成長戦略ではさまざまな選択肢による脱炭素化への取り組みが示されています。
ゼロカーボン・ドライブの推進
「ゼロカーボン・ドライブ」とは、走行時のCO2排出量を抑制する取り組みです。環境省は、電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)・燃料電池自動車(FCV)の活用を推奨しています。
特に、「再エネ100%電力」を目指す個人や団体には、EVなどの購入時に補助金が支給されます。再エネ100%電力とは、事業活動で消費する電力をすべて再エネでまかなう取り組みです。
加えて、国立公園や国民公園においては、EVとFCVの駐車料金が無料化または一部割引となります。
省エネ・再エネ事業への支援
環境省は、エネルギー対策特別会計(エネ特)を活用し、脱炭素化に向けた取り組みを支援しています。エネルギー対策特別会計の目的・用途は以下の4つです。
・エネルギー需給構造高度化対策
・燃料安定供給対策
・電源立地対策
・電源利用対策
エネ特の一例として、太陽光発電などの再エネ設備に関する導入補助・EVカーシェアリングの導入支援・建築分野におけるCO2削減などが挙げられます。
カーボンニュートラルに向けた企業の取り組み
日本政府の施策に基づき、各企業はカーボンニュートラルへの取り組みを始めました。以下では、各企業のカーボンニュートラルに向けた具体的な取り組みを紹介します。
国本工業株式会社
国本工業株式会社は、自動車部品の製造や金型の設計・製作に従事する企業です。同社は、自社工場へ太陽光発電システムを設置しただけではなく、グリーン電力を購入して脱炭素化を達成しました。
同社は作業効率の改善にも取り組み、生産性の向上と使用電力の削減を目指しています。また、トラックでの物流や、従業員の出勤などで排出される温室効果ガスの削減にも前向きです。
マテックス株式会社
マテックス株式会社は、東京都豊島区で建築用ガラスやサッシの卸売りなどにたずさわる企業です。同社は「2030年までに2013年比でCO2排出量を55%削減すること」を目標に、カーボンニュートラルの実現に取り組んでいます。
同社は排出量の見える化・照明のLED化・設備や運用の改善などにより、エコな企業としてのイメージを確立しました。グリーン電力やEVへの切り替えも検討中です。
東洋アルミエコープロダクツ株式会社
東洋アルミエコープロダクツ株式会社は、食品容器や成型品、包装資材の製造・販売に従事する企業です。
同社は、脱プラスチック素材の提案や販売に取り組んでいます。リサイクルが容易な紙やアルミニウム容器は、プラスチック素材と比較すると環境に配慮した素材です。また、同社は紙コップの堆肥化を目指す実証実験にも参画しました。紙コップは生分解性の素材から製造されており、堆肥を野菜栽培に利用することで循環型システムの実現を目指しています。
カーボンニュートラルの実現に向けた一歩を
カーボンニュートラルは、すぐに効果が表れるものではありません。まずは2030年目標を目指して、地道に温室効果ガスの削減に取り組む必要があります。
日本政府は、再エネや省エネ向けの施策としてグリーン成長戦略などを定めました。各企業も、太陽光発電などの再エネ設備の導入や排出量の見える化、環境に配慮した素材の利用などの取り組みを始めています。カーボンニュートラルに向け、今後も一層の努力が求められます。