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CDPとは?取り組みやスコア基準、メリットとデメリットまで徹底解説!

CDPとは?取り組みやスコア基準、メリットとデメリットまで徹底解説

近年、企業に求められる環境情報の開示が加速するなかで、「CDP」に対する注目が高まっています。とくに2024年は、CDPの質問書にいくつかの大きな変更が加えられました。

本記事では、CDPとは何かを解説するとともに、スコアの評価基準や回答のメリット・デメリットなど初めての方にもわかりやすくお伝えします。環境情報の開示の参考にぜひご活用ください。

CDPとは?

CDPは、2000年にイギリスで設立された国際的な環境非営利団体(NGO)です。発足当初は二酸化炭素排出量や気候変動への取り組みが中心だったため、「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(Carbon Disclosure Project)」が正式名称でした。

現在はカーボン(炭素)だけでなく水セキュリティ、フォレストなども対象となったため、略称のCDPが正式名称となっています。

世界中の機関投資家や企業が、環境リスクへの対応状況を把握するためにCDPを活用しており、対象企業にはCDPから質問書が送付されます。

CDPの開示システムを利用する企業や自治体は、世界の190以上の国や地域に拡大し、日本でも2005年から活動を開始しています。

CDPの目的

CDPでは、「将来世代を守るために、アースポジティブな意思決定を可能にする新しい情報を提供する」ことを目的として掲げています。

目的の達成に向けてCDPが行うのは、企業や自治体に対する、気候変動や水資源管理、森林保全などの環境リスクに関する情報開示の促進です。この活動は、企業の環境リスクへの取り組みを加速させる仕組みを構築し、世の中の投資家や企業の意思決定に大きな影響を与えています。

CDPの活動内容

CDPの具体的な活動は、年1回の質問書を通じて情報を収集し、その内容をもとにしたスコアの付与・公開です。

2024年からは中小企業向けの質問書も導入され、さらに幅広い企業の開示が進んでいます。CDPは、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などの国際的なESG関連の開示基準と整合させながら、透明性と科学的根拠に基づいたデータを提供し、投資家や企業、政策決定者の持続可能な意思決定を支えているといえるでしょう。 

CDPで作成される質問書

CDPの質問書は毎年改定されていますが、2023年から2024年で大きく改訂されました。ここでは、3つの大きく変更された点について解説します。

質問書の統合

CDPは2024年に、CDPは「気候変動」・「フォレスト」・「水セキュリティ」の3つの質問書を統合し、新たに「プラスチック」・「生物多様性」を追加した「コーポレート完全版質問書」を導入しました。

その背景には、気候変動への対応だけでなく、生物多様性や資源利用など自然資本全体への包括的な取り組みの重要性が高まっていることがあります。

これまで企業は、課題ごとに重複する質問に何度も回答する必要がありましたが、統合により開示における負担は軽減されたといえるでしょう。また、生物多様性や資源利用などの相互関係も可視化しやすくなり、ステークホルダーにとっても一貫した情報把握が可能になりました。

今後は、環境課題間の相互関係を可視化し、企業の戦略的な意思決定を支援する役割も期待されています。なお、スコアリングは従来の気候変動・フォレスト・水セキュリティの3項目が対象です。    

【最新の質問事項と概要】
モジュール質問事項概要
モジュール1イントロダクション企業概要、報告対象、回答責任者など
モジュール2依存・影響・リスクと機会の特定、評価および管理環境への依存・影響、リスクと機会の特定・評価・管理に関するプロセスなど
モジュール3リスクと機会の開示環境関連リスクと機会の財務インパクトなど
モジュール4ガバナンス環境課題に対するガバナンス構造、責任の明確化など
モジュール5事業戦略気候関連リスク・機会の財務影響、バリューチェーン・体制整備など
モジュール6環境パフォーマンス 連結アプローチ各環境テーマにおける報告範囲など
モジュール7環境パフォーマンス 気候変動CO2排出量の算定・報告・削減努力、エネルギー使用・目標など
モジュール8環境パフォーマンス フォレスト森林関連リスクの管理・持続可能な調達など
モジュール9環境パフォーマンス 水セキュリティ水資源管理の実態や課題認識など
モジュール10環境パフォーマンス プラスチックプラスチック使用の実態や削減・循環の取り組みなど
モジュール11環境パフォーマンス 生物多様性生物多様性の影響評価、重要地域での事業活動の有無と詳細など
モジュール12環境パフォーマンス 金融サービスセクターサステナブルファイナンス・タクソノミーへの準拠状況、金融活動に伴う排出量の算出と内訳など
モジュール13追加情報、最終承認補足情報、回答内容の最終確認など

出典:CDP「CDP2024コーポレート質問書概要」より作成

生物多様性・プラスチックに関して

CDP2024では、生物多様性・プラスチックに関する開示範囲が拡大されました。

生物多様性に関する質問はこれまで気候変動の開示企業に限られていましたが、中小企業・公的機関を除くすべての企業に対象を広げ、基本項目の入力が求められます。

プラスチックに関する質問もこれまでの水セキュリティ対象企業だけでなく、中小企業・公的機関を除くすべての企業へと対象が拡大しました。

とくに環境影響の大きいセクターには詳細な設問が課され、廃棄物や水管理、金融商品の提供など、取り扱う活動範囲も広がっています

金融サービス企業向けの質問事項に関して

CDP2024では、金融サービス企業向けに3タイプの質問が用意されました。全業種共通の質問に加え、金融特有の詳細なデータやセクター固有の質問が導入されています。

これにより、投資ポートフォリオやサステナブルファイナンスの開示精度が向上しました。また、IFRS S2(国際財務報告基準:気候関連開示)やEUタクソノミーとの整合性強化も金融業界にとって重要な要素となっており、今後の開示対応に大きな影響を与えると考えられます。

国際フレームワークとの整合性強化

CDP2024では、国際的な気候関連の開示基準との整合性が強化されています。

各国の異なるフレームワークを統一することは困難です。しかしCDPでは、IFRS S2やTNFD、GHGプロトコルなどと整合性を持たせることで、グローバルな開示基準の標準化を進めています。

これにより、企業や金融機関は環境影響を適切に測定・理解し、対応できるようになるでしょう。具体的には、Scope 1・2の排出量内訳や炭素クレジットに関する質問が追加・改訂されるなど、開示内容の透明性が向上しました。

中小企業向けの質問書の導入

CDP2024では、中小企業(SMEs)向けに新たな質問書が導入されたことも、大きな変化の一つです。従業員1,000人未満・売上2.5億ドル未満の企業が対象で、簡略化された設問により開示のハードルが下がりました。

スコアリング対象は気候変動に限られますが、フォレストや水セキュリティにも関連項目が含まれており、中小企業の理解と対応を促進します。多くの中小企業が大企業のサプライチェーンに属するなかで、持続可能性への貢献が期待されるでしょう。

CDPによる格付けとESG投資の関連

CDPスコアは、財務情報では把握しにくい企業の環境対応状況を可視化するため、投資家が企業を評価する上で、重要な指標の一つです。近年ではCDPスコアは株価情報にも掲載されるようになっています。

そのため、CDPスコアが高い企業は投資家からの評価が向上し、競争力の強化にもつながるでしょう。つまり企業のESG戦略においても、対策が欠かせない要素です。              

CDPのスコアリングの基準

CDPが行うスコアリングは、4段階に分かれています。ここではそれぞれのレベルについて解説していきます。

情報開示レベル

情報開示レベル(Dスコア)は、CDPの質問書に対して基本的な情報を開示した企業への評価です。

環境課題に対する対応や計画はまだ不十分ですが、情報公開の第一歩を踏み出した段階として評価され、今後の改善の基盤となります。なお、無回答の企業にはFのスコアが付与されます。

認識レベル

認識レベル(Cスコア)は、企業が自社の環境課題に関するリスクや影響をある程度認識しているものの、具体的な対策やアクションにはまだ至っていない企業に与えられます。

情報収集や課題の特定は進んでいますが、実施レベルには達していない状態です。

マネジメントレベル

マネジメントレベル(Bスコア)は、環境リスクや機会の把握が進み、企業として目標や行動計画を明確にしている企業に与えられます。

自社の排出量や環境影響を理解し、ポリシーや管理体制を整えている一方で、全体的な戦略の実行にはまだ改善の余地がある状態です。

リーダーシップレベル

リーダーシップレベル(Aスコア)は、環境課題に対して科学的根拠に基づいた対応を行い、戦略的かつ実践的な取り組みをしている企業に与えられます。

環境リスクの解決策を先進的に実施し、業界をリードする存在です。

CDPの質問書に回答するメリット

・自社における環境問題やリスクが把握できる
・複数の取引先や投資家へ情報開示ができる
・企業イメージが向上する

企業の環境対応が注目されるなか、CDPの質問書に回答することは単なる義務対応にとどまらず、企業にとってさまざまなメリットをもたらす取り組みといえます。ここでは、具体的なメリットを紹介します。

自社における環境問題やリスクが把握できる

質問書に回答するには、自社の状況の把握が必要です。企業はそのプロセスにおいて、あらためて自社のリスクが把握できるため、環境問題を考慮した戦略の策定ができます

自社の脱炭素経営への取り組みを見直すことで、持続可能な事業活動にもつながるでしょう。

したがって、質問書への回答において自社として「できていること」・「できていないこと」の把握ができる点はメリットの一つです。

複数の取引先や投資家へ情報開示ができる

CDP質問書に回答することで、CDPに参加する投資家や取引先企業が環境情報にアクセスできるようになります。

情報開示がもたらすのは、現状の把握に加え「情報開示を行っている企業」という複数の投資家や取引先企業からの評価です。

一方で、回答しない企業には情報開示の姿勢に消極的な印象がついてしまう恐れがあります。

企業イメージが向上する

前述したとおり、CDPの質問書への回答とスコア評価は、世界中の投資家や企業に公開されます。

高い評価を得ることでESG投資家や取引先だけでなく、一般消費者からも信頼が向上し、環境対応への積極的な姿勢をアピールできるでしょう。

また、ブランド価値の向上や投資家の関心を引く要因となる可能性もあり、コーポレートガバナンス・コードで求められる情報開示の充実にもつながります。

CDPの質問書に回答するデメリット

CDPへの回答には多くのメリットがある一方で、注意すべき点や負担も存在します。回答を検討する際には、こうした側面についても事前に把握しておくことが重要です。

回答事務費用が必要

CDPは環境非営利団体です。非営利団体の利益は事業をより良くする目的以外で利用できないため、参加企業と投資家が回答事務費用の一部を負担しなければなりません

標準的な費用は310,000円(税別)ですが、標準的な費用を支払う立場にない企業や、より多くの支援を希望する企業のために、別の料金オプションが用意されています。

また、エンハンストレベルではより多くのベネフィットがあるため、さらに充実した開示対応が可能です。

2024年時点の費用。年度ごとに費用は異なるため、確認が必要です。

適用レベル費用ベネフィット(受けられる支援)
ファンデーション310,000円(税別)・CDPポータルを通じた回答
・CDPの各種ツールの利用(開示フレームワークやガイダンス)
・CDPを通じた情報開示による対話の機会
・参加人数制限があるCDPイベントへの優先的な参加申込権限(ただし、該当するイベントがある場合、1イベントのみ)
エンハンスト740,000円(税別)上記に加え
・CDPサポーターバッジ(ロゴデータ)の付与
・CDPサポーターとしてCDPウェブサイトへの組織名の掲載
・CDP比較分析レポートの作成(英語のみ、同業他社10社との開示内容の比較)
・CDP認定ソリューションプロバイダーの紹介など

出典:CDP「よくある質問(FAQ)

回答の準備に時間がかかる

CDP質問書に回答を行う場合、それぞれの質問項目に合わせて自社の状況を把握し、回答を作成する必要があります。

特に初年度の回答となると、多くの時間と労力がかかるでしょう。回答に時間を要すという点をふまえ、早めに準備に取りかかることをおすすめします

【事例】CDPに取り組む日本企業

日本でのCDPの活動は2005年に開始され、今日まで多くの日本企業が回答に取り組んでいます。

CDPレポート2023では、最高位のAリストを獲得した日本企業は気候変動が102社、フォレストが6社、水セキュリティが36社という結果でした。

ここではすべての分野でAランクの評価を獲得した、花王株式会社と積水ハウス株式会社の事例を紹介します。

出典:CDP「CDP気候変動レポート2023:日本版
出典:CDP「CDPフォレストレポート2023:日本版
出典:CDP「CDP水セキュリティレポート2023:日本版

花王株式会社

花王株式会社は、「Sustainability as the only path(サステナビリティこそ唯一の道)」というビジョンを掲げ、ESG経営を軸に脱炭素・水資源保全・サステナブルな原料調達を推進しています。

これらの取り組みはCDPとも連携し、サプライチェーン全体の環境負荷低減を目指したものです。

こうしたバリューチェーン全体を通じた脱炭素・資源循環・持続可能な調達への姿勢が評価され、花王はCDPレポート2024を含む5年連続で、気候変動・フォレスト・水セキュリティのすべてにおいてAリスト入りを果たし、トリプルAを獲得しています。

具体的な取り組み例は以下の通りです。

取り組み例
・スペイン工場へのバイオマス熱利用プラントの導入・食器用洗剤の詰め替え容器を軽量化することで、プラスチック使用量を約40%削減
・「パームダッシュボード」でのRSPO認証・小規模農園支援などの情報の開示
・水消費削減に貢献する節水効果の高い製品の提供

出典:花王株式会社「花王、4年連続でCDPから「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」の分野で最高評価を獲得
出典:花王株式会社「花王、5年連続でCDPから「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」のすべての分野で最高評価を獲得

積水ハウス株式会社

積水ハウス株式会社が行うのは、バリューチェーン全体にわたる具体的な環境対策の継続的な実施、サプライヤーとも連携した取り組みです。

ESG経営を推進するなかで、国際的な枠組みに基づく情報開示や脱炭素・資源保全への先進的な取り組みが評価されています。    

積水ハウス株式会社は、2023年CDPで気候変動・フォレスト・水セキュリティの3分野すべてでAリストに選定され、国内住宅・建設業界で初のトリプルA企業となりました。また、CDPレポート2024でもフォレストと水セキュリティでAリスト企業に認定されています。

具体的な取り組み例は以下の通りです。

【取り組み例】
・サプライヤーと連携した2030年までの目標設定
・「木材調達ガイドライン」に基づいたフェアウッドの積極調達
・「5本の樹」計画による都市緑化と生物多様性保全の両立
・工場内での循環水利用などの効率的な水使用の推進
・中長期的な水リスク評価とサプライチェーンへの配慮

出典:積水ハウス株式会社「CDP「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」全分野最高の「Aリスト」国内住宅・建設業界初のトリプルAに選定、先駆的な取り組みと情報開示が評価
出典:積水ハウス株式会社「CDP フォレストと水セキュリティの2分野で「Aリスト」選定

CDPについてよくある質問

ここでは、CDPに関するよくある質問とその回答をわかりやすくまとめました。対応を検討する際の参考にご活用ください。    

Q.CDPの調査対象企業は?

A.主な対象は東京証券取引所のプライム市場上場企業全社です。

CDPは調査対象企業に回答要請を送付します。要請が来ていなくても、回答することも可能です。

また、中小企業であっても機関投資家や取引先企業からCDPの回答を求められる可能性があり、2024年度からは中小企業専用の質問書も導入されました。

調査対象企業は年々増加し、今後も増加していくことが予想されています。

Q.CDPの回答はどうやって行う?

A.CDPポータルから回答が可能です。

CDPへの回答は、専用ポータルにログインすることから始まります。

その後提出リード(代表担当者)・料金・企業情報や環境課題の設定を含む質問書の初期設定を完了させることが必要です。設定が完了すると、各項目に回答を入力し、進捗を確認しながら最終提出へと進めます。

回答の送信は料金の支払い後で、提出リード(代表担当者)のみが行えることを覚えておきましょう。

2025年の情報開示スケジュールは以下の通りです。詳しい回答方法は、CDP公式サイト「情報開示の方法」をご覧ください。

【2025年スケジュール】
項目該当期間
回答要請機関(署名金融機関、サプライチェーン     メンバー等)のポータルオープン4月28日の週
回答開始6月16日の週
スコアリング対象となる回答提出期限9月15日の週

Q.回答費用はどんなときに免除される?

A.一部の国やプログラムからの要請に基づいてCDPに回答する場合に免除されます。

CDPへの回答には通常、回答事務費用が必要です。ただし、特定の条件を満たす以下のいずれかの団体から回答要請を受けている企業は、費用が免除されます。

・サプライチェーン・メンバー
・バンクプログラム・メンバー
・プライベートマーケッツ・メンバー
・RE100イニシアチブ

ウクライナに本社を置く企業は費用免除、ロシアおよびベラルーシに本社を置く企業は支払いの受付不可など、地域による特例もあります。

持続可能な事業推進のためにCDP回答への準備を始めよう    

持続可能な事業を推進するうえで、CDPへの回答は重要なステップの一つです。

CDPは、気候変動や自然資本に関する取り組みを国際的に可視化できる枠組みであり、今後の情報開示義務や企業評価にも直結していくことが予想されます。

まずは、自社の取り組み状況を客観的に見直し、どこから着手すべきかを整理することが対応の第一歩です。CDPへの回答を通じて、社内外への信頼性ある情報発信を実現し、持続可能な成長の土台づくりを進めていきましょう。

弊社の「e-dash」は、企業の脱炭素への取り組みを総合的にサポートするプラットフォームです。CDP回答支援もご提供しており、「専門用語が多く何を答えれば良いか分からない」「膨大な質問量に対して、担当者のリソースが足りない」「関連部署の協力が必要だが趣旨の説明が難しい」などお客様の課題に応じて丁寧に伴走支援を行っています。

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