
カーボンプライシングとは、炭素排出に価格をつけ、企業や個人に削減を促す仕組みです。
日本政府は2021年6月18日にグリーン成長戦略を策定しました。
この戦略は、2020年10月に菅内閣総理大臣が宣言した「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた産業政策に位置づけられるものです。
その取り組みの一つとして、環境省と経済産業省が連携し、「カーボンプライシング(CP)」の本格的な制度設計の検討を進めています。
本記事ではグリーン成長戦略の内容を踏まえて、カーボンプライシングの概要を解説します。
目次
カーボンプライシングとは?

カーボンプライシングとは、CO2を排出した量に応じて、企業や個人にコストを負担させる仕組みのことです。CO2の排出にお金がかかることで、企業は排出を減らす努力をし、より環境にやさしい取り組みを進めやすくなります。
この政策の目的は、環境への影響を経済活動のコストとして反映させ、脱炭素化を進めることです。これにより、企業や消費者がより持続可能な方法で生産や消費を行うように促されます。
カーボンプライシングが広がる背景
近年、環境問題への関心が高まり、企業も脱炭素への取り組みを強く求められるようになりました。その背景には、パリ協定に基づき、多くの国が温室効果ガス削減目標を設定し、2050年のカーボンニュートラルを目指して政策を進めていることが挙げられます。また、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資の拡大により、企業の脱炭素経営の重要性が高まっていることも事実です。これに伴い、各国で排出量取引や炭素税の導入が進み、カーボンプライシングの普及が加速しています。
実際、カーボンプライシング市場の規模は急速に拡大しています。世界銀行の2024年版「カーボンプライシングの現状と傾向」報告書によると、2023年における炭素税や排出量取引制度(ETS)を通じた世界全体の収入は、前年比90億ドル増の1,040億ドルとなり、初めて1,000億ドルを超えました。
◎パリ協定とは? 2015年にパリで開かれたCOP21で合意された、全世界で取り組む国際的な協定 |
◎SDGsとは? 「Sustainable Development Goals」を略したもので、日本語では「持続可能な開発目標」と呼ばれている |
出典:世界銀行「カーボンプライシングの現状と傾向」
【世界】カーボンプライシングの現状
カーボンプライシングは今後もいっそう活性化することが予想されるでしょう。ここでは、世界での動向について解説します。
欧州連合(EU)
EUは2005年に世界初の大規模な排出量取引制度(EU ETS)を導入し、以降も制度の強化と拡大を続けています。2023年6月にはEU ETSを改正する指令が施行され、2050年までの気候中立目標に向けた取り組みを加速させています。
中国
中国では、2019年時点ではエネルギー起源の炭素排出量が世界一多く、世界全体の約30%を占めていました。そこで、2021年に全国規模の排出量取引制度を開始し、現在は電力部門を対象としています。さらに、鉄鋼、セメント、アルミニウムなどの産業部門を追加する計画を発表し、市場の拡大を進めています。
韓国
韓国は2015年にアジアで初めて排出量取引制度(K-ETS)を導入し、現在は第3次計画期間(2021~2025年)を運用中です。この期間中、制度の改善や対象範囲の拡大が検討されています。
【日本】カーボンプライシングの現状
日本では、2012年から地球温暖化対策税を導入し、現在はCO2排出量1トンあたり289円の負担を企業に課しています。また、2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、年間10万トン以上のCO2を直接排出する企業を対象に、2026年度から排出量取引制度を本格導入する方針を発表しました。この制度により、排出枠の売買を通じて企業の削減努力を促すキャップ&トレード方式の導入が進められる見込みです。
これに先立ち、企業の自主的な取り組みとして試行的な排出量取引が開始されています。
そのほかにも、東京都や埼玉県で独自の排出量取引制度を運用し、大規模事業所に対して排出量の上限を設定するなど、さまざまな取り組みが行われています。
カーボンプライシングの3つの種類と特徴

カーボンプライシングは、大きく3つの種類に分けられます。それぞれにいくつかの手法があるため、その種類や特徴を見ていきましょう。
明示的カーボンプライシング
明示的カーボンプライシング(Explicit Carbon Pricing)とは、CO2の排出量に直接的な価格を設定する政策手法のことを指します。具体的には、炭素税や排出量取引制度が代表的な仕組みです。
この方法では、CO2を排出する企業や組織が排出量に応じたコストを負担することになり、排出削減のインセンティブが生まれます。
炭素税 燃料や電気などを利用してCO2を排出した企業に対して、排出量に比例した課税を行う方法です。コストをかけずに導入できるという課税側のメリットもあります。 |
排出量取引制度 政府によって業界や企業ごとにあらかじめCO2の排出量の上限を設定し、超過分や過少分を市場で排出枠として取引できるという方法です。決められた排出量の枠内で取引することで、全体の排出量の上限を超えず、総量の削減が実現できます。 |
暗示的カーボンプライシング
暗示的カーボンプライシング(Implicit Carbon Pricing)とは、CO2の排出に対して直接的な価格を設定するのではなく、間接的にコストを負担させる政策手法です。代表的な制度として、「エネルギー課税」「固定価格買取制度」「炭素国境調整措置」「クレジット取引」の4つがあります。
明示的カーボンプライシングと異なり、炭素排出に明確な価格を付けるのではなく、さまざまな政策を通じて企業や個人に排出削減を促す仕組みです。
エネルギー課税 エネルギー消費量に基づいて化石燃料の輸入時、製造所出荷時、消費者供給時の3段階で課税される仕組みです。ガソリン税や石油ガス税などのエネルギー消費への間接的な課税により、他のエネルギーへの移行を促す効果があります。 |
固定価格買取制度 太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電電力を、電力会社が一定期間定額で買い取る仕組みです。買取費用は電気料金に「再エネ賦課金」として上乗せされ、再生可能エネルギーの普及促進に活用されます。 |
炭素国境調整措置 温室効果ガスの価格が低い国からの輸入品に対して、自国との価格差を事業者に負担してもらう仕組みです。国内産業保護と温室効果ガス対策の緩い国への製造拠点移転を防止する目的もあります。 |
クレジット取引 温室効果ガスの削減・吸収量をクレジット化し、市場で売買取引を可能にする仕組みです。排出量の多い企業がクレジットを購入することで、削減・吸収事業の拡大費用を捻出でき、温室効果ガス削減の効果も見込めます。 |
インターナルカーボンプライシング
インターナルカーボンプライシングとは、政府が導入するものとは別に、それぞれの企業が独自的に自社のCO2排出に対して価格を付ける仕組みです。自社の排出量の価値を確認することで、脱炭素経営に生かします。
これは、企業の低炭素投資や各種対策を推進するための取り組みでもあり、企業それぞれの行動変容を促す狙いがあります。
カーボンプライシングのメリットとデメリット
カーボンプライシングは環境問題に対する取り組みとして、メリットがある一方でデメリットも存在します。カーボンプライシングのよい側面と課題点を見ていきましょう。
メリット
カーボンプライシングを導入するメリットとして、まず挙げられるのが環境問題へ貢献できる点です。企業はCO2排出量を削減する取組みから、環境対策と経済対策の両立を実現できます。
CO2排出量の削減は、温暖化対策につながるだけでなく、脱炭素社会の実現に必要な技術革新です。
デメリット
カーボンプライシングのデメリットとしては、日本経済へ悪影響を及ぼす可能性があることです。
日本はエネルギーコストが高く、カーボンプライシングを導入することでさらにコストが上昇し、各種産業への影響が出ることが懸念されます。また、導入してもCO2排出量が減少するとは限らず、企業の移転によって排出量が他国で増える可能性もあるでしょう。
カーボンプライシングに関するよくある質問
カーボンプライシングについて詳しく知ると、さらに疑問が浮かぶこともあるでしょう。ここでは、カーボンプライシングに関するよくある質問に回答しています。理解を深めるためにも、最後までチェックしてください。
Q.カーボンプライシングと炭素税の違いは?
A.カーボンプライシングは炭素に価格をつけ、企業や消費者が行動を変えるように促す政策手法のことです。一方炭素税は、化石エネルギー使用時の炭素含有量に応じて、金銭的負担が発生する税法を指します。
Q.カーボンプライシングは日本でいつ始まった?
A.日本では、2012年10月に「地球温暖化対策のための税」(炭素税)を導入したのが、カーボンプライシングの始まりとされています。この税は、化石燃料に課されるエネルギー対策税に上乗せする形で導入され、CO2排出量に応じた課税を行う仕組みです。
Q.成長志向型カーボンプライシング構想とは?
A.日本政府が掲げる「経済成長」と「脱炭素化」の両立を目指したカーボンプライシングの仕組みです。2023年2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」の中で正式に打ち出されました。
この構想では、カーボンプライシングを単なる排出抑制のための負担ではなく、企業の成長や技術革新を促進する仕組みとして活用することを目指しています。
カーボンプライシングは日常生活にも影響するテーマ
カーボンプライシングは、脱炭素社会の実現に向けた有効な施策の一つとして注目されています。
わたしたちの日常生活に欠かせない石油やガスにも影響が及ぶテーマです。まだ自分には関係のない話だと思わず、自分自身でもカーボンプライシングの動向に目を向けてみましょう。
弊社の「e-dash」は、「脱炭素を加速する」をミッションに、クラウドサービスと伴走型のコンサルティングサービスを組み合わせ、脱炭素にまつわる企業のあらゆるニーズに応える支援をしています。
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