
Scope 2の算定にあたり、ロケーション基準とマーケット基準の違いや適切な使い分けを理解しておくことは大変重要です。現在はこの2つの基準が併用されているため、それぞれの利点や課題について把握しておきましょう。この記事ではそれぞれの基準の特徴や排出係数の取り扱い、算定時の留意点などを詳しく解説します。
目次
Scope 2とは?
Scope 2とは、企業が他社から購入して使用する電力・熱・蒸気などのエネルギー使用により間接的に排出される温室効果ガス(GHG)を指します。自社敷地外で発生する排出ですが、企業活動と密接に関係するため、排出量の算定上重要な区分とされています。具体的には、購入電力を使用することで発電時に発生する二酸化炭素(CO2)などが該当します。
算定方法には、国や地域の排出係数を用いる「ロケーション基準」と、電力の契約内容に基づいた排出係数を用いる「マーケット基準」の2つがあります。いずれも排出量管理や脱炭素戦略の判断材料です。
ロケーション基準とは?
ロケーション基準は、企業が使用した電力に対し、地域の平均的な排出係数を用いてGHG排出量を算出する方法です。
排出係数に地域の発電構成が反映されているため、立地によって排出量に差が出るのがロケーション基準の特徴です。日本では現在、国内の地域差を考慮せず全国平均の排出係数を用いる算定が一般的となっています。
マーケット基準とは?
マーケット基準とは、企業が契約している電力会社や選択した電力メニューに基づいた排出係数を用いる算出方法です。この方法では、「どのような電気を選んだか」によって排出量が変わります。
再生可能エネルギーなど低排出の電力を選べば、企業の排出量を実質的に削減することが可能です。企業の能動的な選択と脱炭素への取り組みが数値に反映されます。
マーケット基準の算定においては「基礎排出係数」や、「調整後排出係数」が使用されます。
基礎排出係数と調整後排出係数の違い
基礎排出係数(非化石電源調整済) | 調整後排出係数 | |
定義 | 電力会社が供給する電力のうち、非化石証書・グリーン証書・再エネ由来J-クレジットを反映して算出した係数 | 基礎排出係数に加えて、再エネ由来以外のJ-クレジットやJCMクレジットを反映した係数 |
主な意味合い | 「GHGプロトコル Scope 2ガイダンス」に則した係数 | 削減努力を反映した「報告用」の係数 |
選択のポイント | 開示などに用いられる | 過去との比較や一貫性を重視したい場合に用いる |
基礎排出係数と調整後排出係数の最大の違いは、再生可能エネルギー由来以外の環境価値(J-クレジットやJCMクレジットなど)を反映しているかどうかです。それぞれ詳しく解説します。
基礎排出係数とは?
令和6年度(2024年度の報告、対象は2023年度実績)以前の制度において、基礎排出係数とは、電力会社が供給する電力に伴って排出されるCO2の量を示す指標でした。具体的には、電力会社が発電した電力や、他社から購入した電力を含めた「電力全体」に対するCO2排出量をもとに算出されていました。
令和7年度(2025年度の報告、対象は2024年度実績)以降、この基礎排出係数は算出方法が変更されました。これまでは電力全体の排出量を単純に算出していましたが、今後は以下のような環境価値を持つ取り組みによって削減された分をあらかじめ控除したうえで排出量が計算されます。
■反映されるもの ・非化石証書:再生可能エネルギーなどの「CO2を出さない価値」を証書化したもの ・グリーン電力証書:再エネ由来の電力を利用したことを証明するもの ・再エネ由来のJ-クレジット:再生可能エネルギーによる排出削減分をクレジット化したもの |
調整後排出係数とは?
調整後排出係数は、基礎排出係数で反映された非化石証書等に加えて電力会社独自の再エネ由来以外の環境価値(J-クレジットやJCMクレジットなど)を反映し、算出される排出係数です。過去からこれらを使用してきた企業については、変更による影響を考慮し、引き続き使用可能な選択肢とされています。
■反映されるもの ・非化石証書・グリーン電力証書・再エネ由来のJ-クレジット ・再エネ由来以外のJ-クレジットやJCMクレジット |
【2025年】基礎排出係数の算定方法における制度変更のポイント

出典:環境省「令和7年度報告からの温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の変更点について」
前述の通り令和7年度から、基礎排出係数の算定方法が見直されました。
従来、基礎排出係数は「非化石電源の環境価値を含まない」、いわば電力会社の平均的なCO2排出係数とされていました。一方で調整後排出係数は、企業が自社の電力契約などに基づいた削減努力を表現するために算出することが一般的でした。
しかし、今回の改正では、環境価値面での一致を図ることを目的に、「基礎排出係数(非化石電源調整済)」という係数が新設され、実態に近い数値を直接反映する形に変更されました。従来の基礎排出係数は「未調整排出係数」とされ、企業のCO2排出量の算定には用いられなくなりました。
また、「GHGプロトコル Scope 2ガイダンス」に照らし合わせると「調整後排出係数」には再エネ由来以外のJ-クレジットやJCMクレジットでのオフセット分が考慮されているため、新設の基礎排出係数(非化石電源調整済)の方が「GHGプロトコル Scope 2ガイダンス」に沿った排出量を算出するための係数としての活用が期待されます。
これにより、今後は「基礎排出係数(非化石電源調整済)」に、自社で取得した証書による控除を加えてマーケット基準(market-based)を算出する運用へとシフトする企業も多くなると見込まれます。
なお、GHG排出量を継続的に開示している企業などでは、算定基準を大きく変更せず、これまで通り調整後排出係数を用いることも選択可能です。今後は、各社の開示方針や算定実務に応じて、適切な係数を選択することが求められます。
ロケーション基準とマーケット基準の違い

ロケーション基準とマーケット基準は、どちらも電力由来のGHG排出量を示しますが、反映される環境価値や活用目的に違いがあります。報告先や準拠する基準によって、どちらかの方式を用いる、あるいは両方の算定が求められるケースもあるため、各基準の特徴を正しく理解しておくことが重要です。
排出係数の違い
ロケーション基準とマーケット基準では、Scope 2の算定に用いる排出係数が異なります。ロケーション基準では、日本においては一般的に「全国平均係数」が用いられます。
一方、マーケット基準では、企業が契約している電力の内容や再生可能エネルギーの活用状況を反映しています。基礎排出係数(非化石電源調整済)や調整後排出係数が使用されるため、より「GHGプロトコル Scope 2ガイダンス」に沿った数値の把握が可能です。
反映できる環境価値の違い
ロケーション基準では、地域全体の平均排出係数を用いて算定するため、再エネの使用有無にかかわらず同一の排出量として扱われます。企業独自の取り組みは反映されません。
一方、マーケット基準では、非化石証書や再エネ電力の利用によって得られる環境価値を排出量に反映できます。自社の取り組みをアピールできるという点では、マーケット基準の活用が有効です。
算定の目的・活用シーンの違い
ロケーション基準は、地域全体の平均的な排出係数を用いるため、特定の企業の電力調達内容に左右されません。そのため、他社との比較や拠点ごとの排出傾向の把握、長期的なモニタリングに適しています。
一方、マーケット基準は、自社が契約している電力の種類や非化石証書の活用状況を反映できます。脱炭素への具体的な取り組みを可視化でき、ESG情報開示やサステナビリティ報告書、CDP回答といった外部向け報告で活用できるでしょう。
データ取得・算出プロセスの違い
ロケーション基準は、政府などが公表する全国平均係数を用いて算定するため、必要なデータがすでに整備されており、算出が比較的簡単で再現性も高い点が特徴です。
一方、マーケット基準は、非化石証書の購入記録や再エネ調達の契約内容に基づいて排出係数を算定するため、証明書の取得や係数の確認などの追加作業を要します。
GHGプロトコルでは、両方の基準を併用して報告することが推奨されていますが、実務上は企業の電力契約や調達状況に応じて利用可能な基準を判断し、報告の精度と算定負荷のバランスを考慮することが重要です。
Scope 2の算定方法

CDPなどの国際的な情報開示では、Scope 2排出量についてロケーション基準とマーケット基準の両方で算出・開示することが推奨されています。以下では、それぞれの基準を用いた算定方法の特徴を紹介します。
ロケーション基準を活用した算定方法
ロケーション基準では、環境省が公表する「電気事業者別排出係数一覧」の全国平均排出係数を用いて、電力使用に伴うGHG排出量を算定します。具体的には、事業所や工場などで消費した電力量(kWh)に、地域ごとの排出係数(t-CO2/kWh)をかけることで、Scope 2の排出量を求めます。計算式は以下のとおりです。
【計算式】 電力使用量(kWh)×全国平均排出係数(t-CO2/kWh) |
マーケット基準を活用した算定方法
マーケット基準では、企業が実際に契約している電力会社や電力メニューに基づき、該当する排出係数を適用してScope 2排出量を算定します。たとえば、再生可能エネルギーを積極的に導入している電力会社と契約している場合、その低い排出係数を使って排出量を計算します。計算式は以下のとおりです。
【計算式】 電力使用量(kWh)×(基礎・調整後)排出係数(t-CO2/kWh) |
非化石証書などの環境価値を加味することも可能であり、結果として企業の再エネ活用や脱炭素の取り組みをより正確に反映した算定ができます。
Scope 2算定を正しく行い、信頼される排出管理を実現しよう
Scope 2の算定は、企業のGHG排出管理やESG対応の基盤となる重要なプロセスです。ロケーション基準とマーケット基準には算定方法や反映される環境価値に明確な違いがあり、それぞれに適した活用シーンがあります。
自社の取り組みを的確に反映し、信頼性の高い情報開示を行うためにも、まずは各基準の特徴を理解しましょう。マーケット基準での算定が可能な場合はロケーションベース方式とあわせて両方を報告するなど、GHGプロトコルの方針に沿った形での活用が重要です。
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