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脱炭素

カーボンインセットとは?カーボンオフセットとの違いや取り入れるメリットを解説

カーボンニュートラルの実現が求められる中、多くの企業は自社の温室効果ガス排出削減に取り組んでいます。カーボンオフセットに加え注目されているのが、バリューチェーン内での排出削減を目指す「カーボンインセット」です。本記事では、カーボンインセットの概要やメリット、企業の事例を紹介します。持続可能な経営を実現するために、ぜひお役立てください。

カーボンインセットとは

カーボンインセットとは

カーボンインセットとは、企業が自社のバリューチェーン内で直接的に温室効果ガスの削減を図る取り組みです。自然保護などの活動を自社のバリューチェーン内で実施し、温室効果ガスの吸収や削減効果を通じて排出量と相殺します。脱炭素の手法の一つとして、フランスの非営利団体IPI(International Platform for Insetting)が普及しました。

カーボンインセットの特徴は主に自然に基づく解決策に焦点を当てていることです。森林や湿地といった炭素吸収源の保全・再生を促進し地域社会や生態系への貢献を重視し、企業による自然への投資を拡大するための戦略的メカニズムとして推進しています。

現在の「カーボンインセット」は広範な意味で使用され、バリューチェーン内の再生可能エネルギーの導入やエネルギー利用の効率化などを含む場合があります。

■IPI(International Platform for Insetting)とは?
IPI(International Platform for Insetting)は、2013年12月にフランスで設立された非営利組織で、カーボンインセットの定義やガイドラインの整備を担っています。ネットゼロと自然共生型経済への移行を推進することを目的とし、企業が自社のバリューチェーン内で自然由来の排出削減策を効果的に実施できるよう支援しています。

カーボンインセットが注目される背景

地球温暖化の加速に伴い、企業にはScope 1〜3を含む温室効果ガスの排出量の可視化と削減が求められています。各国の法規制強化に加え、SBTiやCDPなどの国際的なイニシアチブの後押しもあり、企業がバリューチェーン全体で責任ある行動をとる戦略的手段として、カーボンインセットが注目を集めている状態です。

カーボンインセットはカーボンオフセットとは異なり、自社の影響範囲内で温室効果ガスを削減しながら、自然や地域社会への共益をもたらす取り組みです。企業が社会と調和しながら気候課題に取り組む手段として、大きな価値があります。

カーボンインセットの具体例

カーボンインセットの取り組みとしては次のような例があります。

・原材料調達先での森林保全事業
・環境負荷の少ない農法による生産
・自社サプライチェーン内における再生可能エネルギーの利用 など

これらの取り組みは、企業の持続可能な事業運営の基盤を築くだけでなく、ステークホルダーからの信頼獲得やブランド価値の向上にも寄与します。結果として企業の競争力強化にもつながることが期待できます。

カーボンインセットとカーボンオフセットとの違い

カーボンインセットとカーボンオフセットとの違い

カーボンオフセットとは、自社で削減が難しい温室効果ガス排出量を、他の場所で実現された削減や吸収によって相殺する仕組みです。

たとえば、他社の森林保全活動や再生可能エネルギー事業によって創出された排出削減効果をクレジットとして購入することで、自社の排出量を「埋め合わせ」できます。自社のサプライチェーン外で行われる排出削減や吸収量であることが特徴です。

一方、カーボンインセットは自社のサプライチェーン内で直接的に温室効果ガスを削減・吸収を行う取り組みです。原材料の生産現場での森林再生や再生可能エネルギーの導入など、事業活動の一部として排出量の削減を行う手法です。

企業がカーボンニュートラルを実現するには、まずインセットを通じて自社の影響範囲内で排出を削減する努力が求められます。そのうえで、削減しきれない排出については、信頼性のあるオフセットを活用することが重要です。

カーボンインセットとカーボンニュートラルの関係

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収・削減量を差し引いて実質ゼロ(ニュートラル)な状態にすることです。カーボンニュートラルの実現には、温室効果ガスの排出削減が大前提ですが、排出を避けられない部分は吸収または除去が必要になります。

気候変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定の目標は、2050年のカーボンニュートラルの実現です。これを受け、日本を含む2021年11月時点で世界の154カ国・1地域が、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを表明しました。カーボンインセットは、このカーボンニュートラルを達成するための重要な取り組みのひとつです。

カーボンインセットにより自社サプライチェーン内での温室効果ガス排出量を削減しつつ、クレジットなどのカーボンオフセットを活用して、社会全体としてカーボンニュートラルを目指すことが求められています

カーボンインセットへの取り組みで企業が得られるメリット

・複数の環境保護対策に貢献できる
・生産性向上につながる
・サプライチェーン全体の連携を強化できる

カーボンインセットは、単なる温室効果ガス削減にとどまらず、企業にさまざまなメリットをもたらします。ここでは、企業が自社のバリューチェーン内で温室効果ガスの排出削減に取り組むメリットについて紹介します。

複数の環境保護対策に貢献できる

カーボンインセットは、直接的な温室効果ガスの排出削減を目指す取り組みのため、生態系保護、森林再生、資源循環といった幅広い環境保全活動にもつながります

環境負荷の少ない農法の採用や森林再生プロジェクトにより地域社会や生産者への支援などの多面的なメリットも得られます。企業は、環境と社会に配慮した持続可能な成長を目指せます

生産性向上につながる

カーボンインセットの導入は、温室効果ガス排出量削減だけでなく、企業の生産性向上という副次的なメリットももたらします。バリューチェーン内での排出削減には、資源の有効活用やエネルギー効率の改善が不可欠です。

こうした取り組みは、生産工程の見直しや設備の最適化を促し、結果としてコスト削減や業務の効率化を通じて、企業全体の生産性向上にもつながります。

サプライチェーン全体の連携を強化できる

原材料の調達先や製造委託先など、バリューチェーン上の関係企業との協働は、排出削減の取り組みを加速させます。あわせて、信頼関係や共通目標に基づくパートナーシップの構築にもつながります。

こうした連携は、単なる排出削減にとどまるものではありません。新たなビジネス機会や技術革新(イノベーション)の促進にもつながり、結果として、企業の持続可能性と競争力の双方を高める可能性が広がります

カーボンインセットの課題

・初期投資費用がかかる
・測定と検証が難しい
・認証する国際基準がない

カーボンインセットで企業が得られるメリットが大きいですが、課題も存在します。ここではカーボンインセットの課題について解説します。

初期投資費用がかかる

カーボンインセットの導入には、設備や技術、プロジェクトへの初期投資が必要です。

これらの費用はプロジェクトの規模や内容によって大きく異なりますが、特に中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。政府や自治体による財政支援や助成制度の効果的な利用が重要となるでしょう。制度や支援の情報を集めることが対策の第一歩です。

測定と検証が難しい

カーボンインセットではその効果を正確に測定・検証することが大きな課題です。

企業のバリューチェーン内で行われる削減量の把握には膨大なデータ収集と分析が求められ、各活動がどの程度温室効果ガス削減に寄与しているかを正確に測定するのは容易ではありません。たとえば農法の転換や植林による削減効果を数値化するには高度な技術と費用を要します。

正確な測定と信頼性の高い検証のためには、業界全体の連携や、政府によるガイドライン整備など公的支援が不可欠です。

認証する国際基準がない

カーボンインセットは現在、その効果を認証する統一の基準が存在しないという課題があります。

温室効果ガス排出量の算定にはGHGプロトコルが国際的な統一基準として広く用いられていますが、Scope 1~3の分類を前提としており、カーボンインセットの取り組みによる削減はその枠組みが適合しない場合があります。そのためGHGプロトコルの枠組み内でのカーボンインセットの評価や報告には限界があるといえるでしょう。

なお、IPIはカーボンインセットの取り組み自体についてはIPS(Insetting Program Standard)というガイドラインを提供しています。

企業がIPSに準拠した取り組みであることを公的に表明する場合には、第三者認証機関による審査を受ける必要があります。対象となるのは、各カーボンインセットのプロジェクトやプログラムの管理単位であり、IPSに対する総合的なパフォーマンス(パフォーマンス指数)が60%以上であることが必要です。

参考:IPS「INSETTING PROGRAM STANDARD

GHGプロトコルについて詳しくはこちら

カーボンインセットの取り組みへの承認プロセス

カーボンインセットの取り組みは下記のプロセスを経てIPIにより承認されます。

1. IPSに準拠したカーボンインセットの取り組みを選ぶ
2. カーボンインセットを実行し温室効果ガス削減量を測定する
3. IPIが認める第三者機関により審査を受ける
4. IPIにて基準への適合状況を評価がなされる
5. カーボンインセットの取り組みが承認される

第三者認証機関とはEcocert (※)またはIPI理事会が認定したその他の認証機関とされています。しかしEcocert以外の認証機関はIPSに明記されていないため、その都度確認する必要があります。

IPIが定義するカーボンインセットの取り組みはプログラム管理システムとプロジェクトにわかれ、それぞれ認証機関が異なります。

※Ecocert(エコサート)……1991年にフランスで設立されたオーガニック認証機関

参考:IPS「INSETTING PROGRAM STANDARD

カーボンインセットに取り組む企業の事例

カーボンインセットに取り組む企業の事例

カーボンインセットを実施し、成果をあげている事例にはどのようなものがあるのでしょうか?ここでは企業のカーボンインセットの具体的な取り組みについて解説します。

出典:IPI「ケーススタディ

LOREAL

化粧品大手LOREALが取り組んでいるのは、ブルキナファソでのシアバターの持続可能な調達を通じたカーボンインセットです。同国でシアナッツを収穫する女性たちと連携し、省エネ型の調理コンロを導入することで森林伐採の抑制と温室効果ガス排出削減を実現しています。

2019年には、5,000トン以上の薪の消費を削減し、CO2排出を約10,500トン削減しました。さらに、女性の労働負担を軽減し、現地ではかまど製造による雇用も創出されています。

この取り組みは、環境保護と地域社会の経済支援を両立する優れた実例です。

参考「IPI(International Platform for Insetting)ケーススタディ:LOREAL

NESPRESSO

NESPRESSOは、気候変動の影響を受けやすいコーヒー生産地域において、カーボンインセットの取り組みを推進中です。現地の農園や周辺に在来種の樹木を植えることで炭素吸収源を創出し、土壌や水資源、生物多様性の保全といった再生型農業を実現しています。

2014年から2019年にかけて約300万本の樹木を植樹し、果樹の導入により農家の収入源も多様化しました。8,000人以上の生産者が恩恵を受け、温暖化対策と地域の連携強化を両立した好事例です。

参考「IPI(International Platform for Insetting)ケーススタディ:NESPRESSO

カーボンインセットの仕組みを理解し脱炭素経営に組み込もう

カーボンインセットの特徴は、企業がバリューチェーン全体を巻き込んで温室効果ガス削減に取り組む点です。これは排出削減と同時に、資源効率向上や信頼構築といった競争力強化につながります。原料調達地の自然を守り生産者を支援することは、環境負荷の低減だけでなく企業のブランド価値や競争力の向上にも効果的です。

カーボンインセットによりバリューチェーンを強化し、脱炭素を実現する持続可能な経営は、社会的責任の履行と企業価値向上を同時に実現する戦略といえるでしょう。

弊社の「e-dash」では、「脱炭素を加速する」をミッションとして掲げています。クラウドサービスと伴走型のコンサルティングサービスを組み合わせ、脱炭素にまつわる企業のあらゆるニーズに応える支援を行っています。

以下の資料では、企業が取り組むべきCO2排出量の削減方法について詳しく紹介しています。こちらもぜひ参考にしてください。

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