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CSDDDとは?概要や企業に求められる対応までわかりやすく解説

CSDDDとは?概要や企業に求められる対応までわかりやすく解説

EUで採択されたCSDDDは、企業にサプライチェーン全体での人権や環境対応を義務付ける新指令です。対応は選択ではなく、法的な責務となっていくなか、企業はどのような対応を取ればよいのでしょうか。本記事ではCSDDDの概要と、日本企業への具体的な影響について解説します。ぜひ参考にしてください。

CSDDDとは?

CSDDDとは、「企業持続可能性デューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive:以下CSDDD)」の略称で、企業に対し自社の人権・環境リスクを調査・評価し、必要な予防・是正措置を講じることを法的に義務づけるEUの法制度です。

欧州議会と理事会によって採択され、2024年7月25日に発効しました。企業とそのバリューチェーンにおいて、責任ある行動を促進することを目的としています。

対象となる企業は自社の事業活動が人権や環境に及ぼすリスクに対しそれを未然に防ぎ、発生した場合には適切に対処することが求められます。日本企業もEU域内で一定規模の事業を行う場合、対応が求められるため注視が必要です。

CSDDDにおける直近のトピックス

2025年2月26日、欧州委員会はCSDDDを含む持続可能性関連法令の簡素化を目的としたオムニバス法案を公表しました。

法案にはデューデリジェンスの対象縮小ステークホルダーの範囲の限定などの簡素化が盛り込まれましたが、EU理事会と欧州議会で引き続き審議される予定です。

なお、国内法への移行期限を2027年7月26日に、適用開始を2028年7月26日に延期する修正案は、2025年4月に可決されました。これにより、予定されていた3段階での適用開始は、第1段階と第2段階が同時期となります。

出典:ジェトロ(日本貿易振興機構)「2025年5月版 EU人権・環境デューディリジェンス 法制化の最新概要

CSDDDとCSRDの違い

CSDDDとCSRDは、どちらもサステナビリティに関するEUの法制度ですが、目的と内容は異なります。

CSDDDは、人権・環境リスクへの対応などデューデリジェンスの実施に焦点を当てた規制です。一方CSRDは、企業に対しサステナビリティに関する情報の開示を義務づけ、透明性の向上を目的としています。

両者は国際基準に準拠しつつ相互補完的な関係にあり、CSRD対象企業はCSRDの報告によってCSDDDの開示義務を果たすことが想定されています。

CSRDについて詳しくはこちら

CSDDDで企業に課される主な義務

CSDDDで企業に課される主な義務

引用:ジェトロ(日本貿易振興機構)「2025年5月版 EU人権・環境デューディリジェンス 法制化の最新概要

CSDDDでは、企業活動が人権や環境に及ぼす悪影響に対処するため、リスクベースの人権・環境デューデリジェンス(DD)の実施が義務づけられています。ここでは、企業に求められるDDの具体的な内容について詳しく解説します。

デューデリジェンスの企業方針やリスク管理システムへの組み込み

企業は、CSDDDに基づき、人権・環境デューデリジェンスを企業方針やリスク管理システムに統合することが求められます。これには、長期的視点による対応方針、子会社や取引先に対する行動規範、実施手順の明示などが含まれます。

方針策定時には従業員と協議を行い、既存のリスクや対応結果も考慮することが必要です。また、少なくとも24カ月ごとに方針の見直しと更新が義務づけられています。

負の影響の特定・評価・優先づけ

企業は、自社・子会社・ビジネスパートナーにおける人権・環境上の負の影響を特定・評価・優先づけするため、適切な措置を講じる義務があります。具体的には、事業活動全体を把握したうえで、以下のステップが必要です。

①リスクが発生しやすく深刻な分野を特定(リスクマッピング)
②それらの詳細な評価を実施
③深刻度と発生可能性に基づく対応の優先順位付け(リスクベースアプローチ)

これらの対応内容は記録として5年間保管することが求められます。

潜在的な負の影響の防止・軽減、実際の負の影響の停止・最小化

企業は、CSDDDに基づき、自社・子会社・ビジネスパートナーに起因する潜在的または実際の人権・環境上の負の影響に対し、適切な措置を講じる義務があります。

潜在的な負の影響に対しては行動計画や契約条件の見直し、パートナーへの支援などにより防止・軽減を図ることが必要です。また、実際の負の影響が発生した場合には可能な限り早期に停止・最小化して、必要に応じて救済措置を講じる義務があります。

改善が見込めない場合は、是正行動計画の策定や取引停止などの最終手段を慎重に検討しますが、その判断には慎重な配慮と説明責任が伴います。

負の影響の回復

企業は、単独または連帯して、人権・環境上の負の影響を引き起こした場合には、影響の回復を目的とした救済措置を講じる義務があります。

救済には金銭的・非金銭的手段が含まれ、被害者や地域社会、環境を元の状態に近づけることを目指さなければなりません。企業が直接関与していない場合でも、影響力を行使してビジネスパートナーに救済を促すことが期待されます。

ステークホルダーエンゲージメントの実施

企業は、デューデリジェンスの各段階で、ステークホルダーエンゲージメントを行う必要があります。これは、従業員や地域住民、労働組合、専門家など、企業活動によって影響を受ける可能性のある人々の声を把握し、企業の意思決定に反映させる取り組みです。

企業は、情報をわかりやすく提供し、守秘性や匿名性に配慮しながら、対話を進める必要があります。対話が困難な場合には、専門家の助言を得ることも可能です。透明性と信頼性の確保が求められます。

とくに、負の影響の特定や是正措置の検討、取引停止の判断など重要な局面での実施が義務づけられています。

通報制度および苦情処理手続きの構築・維持

企業は、潜在的または実際の負の影響に関する通報制度と、公正かつ透明性のある苦情処理手続の構築・維持が義務づけられています。

通報については、影響を受けた個人や団体、労働者代表などが匿名で行えるよう守秘性を確保し、報復防止措置を講じることが必要です。通報者には、手続の進捗報告を受け、企業との協議の機会を得る権利があり、判断理由の開示請求権が認められます。

企業は、根拠ある苦情について誠実に対応し、必要に応じて改善策を講じなければなりません

実効性の評価・モニタリング

企業は、デューデリジェンスの実施状況とその効果を定量的指標で評価・モニタリングすることが求められます。評価の対象は、子会社やビジネスパートナーを含む負の影響への対応状況です。

2025年2月に評価頻度については緩和案が提案され、原則5年ごと、または事業環境に顕著な変化があった場合に速やかに実施します。評価結果やステークホルダーの意見を踏まえ、方針や是正措置の見直し・更新することが必要です。

デューデリジェンスに関する情報開示

企業は、デューデリジェンスに関する年次報告書を、少なくとも毎年1回、自社ウェブサイト上で公表する義務が課されています。報告には、取り組みの概要、特定された負の影響、講じた対応措置などを含める必要があり、EU域外企業は代理人情報も開示対象です。

CSRDに基づく報告と重複する部分は免除される見込みで、詳細な報告要件は今後EU委員会により定められることになっています。

気候変動緩和のための移行計画

企業は、以下に適合する移行計画の策定と実施が義務づけられます。

・持続可能な経済への移行
・パリ協定の1.5℃目標
・欧州気候法に基づく2050年気候中立目標および中間目標

計画には、2030年・2050年までの5年ごとの削減目標(Scope 1〜3)、達成手段、投資計画、経営陣の役割などを記載し、年1回以上見直す必要があります。なお、CSRDに基づき公表済みの計画は、CSDDDの要件を満たすとみなされます。

CSDDDの対象企業と適用スケジュール

CSDDDの対象企業と適用スケジュールについて解説します。

対象企業

CSDDDの対象企業は、2事業年度連続で一定の基準を満たす企業とされ、業種を問わず共通の適用基準が設けられています。EU域内企業とEU域外企業それぞれの基準の内容について、下記の表でまとめています。

なお、2025年2月時点のオムニバス法案でも基準変更は提案されていません。

区分基準
EU域内企業・前事業年度の全世界での売上高が4億5,000万ユーロ超かつ平均従業員数が1,000名超の企業
・連結グループ単位で上記を満たす企業グループの最終親会社
・EU域内のフランチャイズまたはライセンス契約を展開する企業またはグループの最終親会社で、前事業年度におけるロイヤルティが年間2,250万ユーロ超、かつ全世界での売上高8,000万ユーロ超の企業
EU域外企業・前事業年度のEU域内での売上高が4億5,000万ユーロ超の企業
・連結グループ単位で上記を満たす企業グループの最終親会社
・EU域内のフランチャイズまたはライセンス契約を展開する企業またはグループの最終親会社で、前事業年度の前年度におけるEU域内でのロイヤルティが年間2,250万ユーロ超、かつEU域内での売上高8,000万ユーロ超の企業

適用スケジュール

適用年EU域内企業EU域外企業
2028年7月26日
(2027年7月から1年延期)
前事業年度の全世界での売上高が15億ユーロ超かつ平均従業員数が5,000名超の企業前事業年度のEU域内での売上高が15億ユーロ超の企業
2028年7月26日前事業年度の全世界での売上高が9億ユーロ超かつ平均従業員数が3,000名超の企業前事業年度のEU域内での売上高が9億ユーロ超の企業
2029年7月26日上記以外のCSDDD適用対象企業

2025年4月に採択されたオムニバス法案により、施行スケジュールが1年延期されました。

EU加盟国は、2027年7月26日までに国内法整備を完了する必要があります。企業への適用は規模に応じて段階的に適用されることになっており、最初の対象企業は2028年7月26日から適用が開始される予定です。

日本企業に求められる対応

日本企業に求められる対応
・適用対象の確認と早期準備
・体制・戦略の見直し
・サプライチェーン全体のリスク管理
・社内外の連携の強化
・情報収集

CSDDDの適用を目前に、企業はどのように対応していけばよいのでしょうか。以下に具体的に解説します。

適用対象の確認と早期準備

まずは自社がCSDDDの適用対象かどうかを確認することが重要です。EU各国の国内法化により、基準が厳しくなる可能性もあるため、早期の情報収集と準備が求められます。

適用対象外であっても、取引先から対応を求められるケースが増加しています。事前の備えが、信頼獲得や競争力向上にもつながるでしょう。

体制・戦略の見直し

企業には、人権・環境の観点から事業体制や方針の見直しが求められます。既存のCSR調達方針や行動規範を補強し、実効性ある制度設計が重要です。

とくに気候変動対策や人権尊重に関する企業方針の整備・更新が急務となります。CSDDD対応は、取引先との信頼構築や事業継続にも直結するため軽視できません。

サプライチェーン全体のリスク管理

企業は、サプライチェーン全体にわたる人権・環境リスクについて、負の影響の特定・評価・優先づけが求められます。直接取引だけでなく間接取引先に対しても、行動規範の遵守や情報提供を求める体制が重要です。

CSDDDの国内法化により、より厳格な対応が求められる可能性があります。新規事業や製品導入時にも、リスク評価と対応策の更新ができる体制づくりが必要です。

社内外の連携の強化

CSDDD対応には、社内の複数部門が連携する体制の構築が不可欠です。人権・環境課題は部門横断的な対応が求められ、サステナビリティ部門だけでは完結しません。

社外では労働者やNGOなどのステークホルダーとの対話を通じて信頼関係を築くことが重要です。こうした連携が、実効性あるリスク管理と企業価値の向上につながります。

情報収集

CSDDD対応に向けて、EUおよび各加盟国の法整備やガイドラインの最新動向を継続的に把握する必要があります。とくに報告義務や監査要件の変更に備え、柔軟な対応が必要です。

情報収集は一過性ではなく、制度改正や実務運用の変化に応じた継続的な取り組みが欠かせません。正確な情報に基づく判断が、対応力の向上につながります。

CSDDDを踏まえた持続可能な経営の実現へ

人権・環境への責任ある行動を求める新たな基準であるCSDDDへの対応は、持続可能な経営への転換のチャンスにもなります。企業は、制度の本質を理解し、社内体制の整備やステークホルダーとの連携、継続的な情報収集に取り組むことで、長期的な競争力の向上が可能です。CSDDDへの対応を契機に、企業の価値創造と社会的責任の両立を目指しましょう。

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