「SBT認定企業という言葉を最近よく目にするけど、いったいどんな企業なの?」
「そもそもSBTって、どういう意味ですか?」
SBTという言葉が使われることが多くなりましたが、意味を理解している方は意外と少ないかもしれません。
本記事では、SBT認定企業や、SBTの制度について詳しく解説していきます。
目次
SBTとは?
SBT(Science Based Targets)は、パリ協定が求める水準と整合した温室効果ガス排出削減目標です。パリ協定では「世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準に抑えて、また1.5℃に抑えることを目指すもの」を水準としています。
環境省では日本国内の企業がSBTに取り組む際の参考となるマニュアル・ガイドブックを公開しています。SBTに認定されている日本国内の企業に関しては後ほど詳しく解説しますが、日本国内では大企業を中心にSBTに取り組む企業が増えています。今後はSBT認定取得への取り組みが、中小企業にも広がっていくことが期待されます。
SBTについて
SBTが削減対象とする温室効果ガス排出量は「サプライチェーン排出量」によって設定されます。
サプライチェーン排出量とは、事業者自らの排出のみならず、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量のことです。
サプライチェーン排出量の計算式は下記の通りです。
サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量
Scope1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
各フェーズにおける温室効果ガス排出を削減していくことが、SBTにおいて求められています。
SBT認定企業とは
SBT認定企業とは、SBTの設定要件を満たした企業を指します。日本国内におけるSBT認定企業は大手企業が中心ですが、中小企業でも設定要件さえ満たせばSBT認定企業として認可されます。
次に、SBTの設定要件について詳しく解説します。
SBTに認定されるにはどうしたらいいのか?
SBTに認定されるためには、設定要件を満たす必要があります。温室効果ガス排出の削減に取り組んでいる企業すべてがSBTに参画しているとはいえません。公的な認定を経て初めてSBT認定企業として認定されます。
認定要件について
それではSBTの設定要件について確認していきましょう。
SBTの設定要件は下記の通りです。
項目 | 内容 |
バウンダリ(範囲) | 企業全体(子会社含む)のScope1およびScope2をカバーする、すべての関連するGHG(温室効果ガス)が対象 |
基準年・目標年 | ・基準年はデータが存在する最新年とすることを推奨(未来の年を設定することは認められていない)・目標年は申請時から最短5年、最長10年以内 |
目標水準 | ・最低でも、世界の気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃以内に抑える削減目標を設定しなければならない→SBT事務局が設定するSBT手法に基づき目標を設定する→総量同量削減の場合は、毎年4.2%削減 ・Scopeを複数合算した目標設定が可能→ただし、Scope1+2およびScope3でSBT水準を満たすことが前提 ・他者のクレジットの取得による削減、もしくは削減貢献量はSBT達成のための削減に算入できない |
Scope2 | 再生エネルギー電力を1.5℃シナリオに準ずる割合で調達することは、Scope2排出削減目標の代替案として認められる |
Scope3 | ・Scope3排出量が「Scope1+2+3排出量合計の40%以上」の場合にScope3目標の設定が必須・Scope3排出量全体の2/3をカバーする目標を以下のいずれか、または併用で設定すること ―総量削減:世界の気温上昇が産業革命以前の気温と比べて、2℃を十分に下回るよう抑える水準(毎年2.5%削減)に合致する総量排出削減目標―経済的原単位:付加価値あたりの排出量を前年比で少なくとも7%削減する経済的単位―物理的原単位:部門別脱炭素化アプローチ内の関連する部門削減経路に沿った原単位削減、もしくは総排出量の増加につながらず、物量あたりの排出量を前年比で少なくとも7%削減する目標―サプライヤー/顧客エンゲージメント目標:サプライヤー/顧客に対して、気候科学に基づく排出量削減目標の設定を勧める目標 |
報告 | 企業全体のGHG(温室効果ガス)排出状況を毎年開示 |
再計算 | 最低でも5年ごとに目標の見直しが必要 |
SBTに参加するメリットとは
SBTに参加する企業は、世界標準の温室効果ガス削減に取り組んでいる企業として投資家などに認知されます。ここでは、SBTに参加するメリットについて解説します。
信頼できる企業
SBTへの取り組みは、企業にとって金銭的負担が大きくなりますが、SBT認定企業として認知されることには多くのメリットがあります。環境への配慮や温室効果ガス削減への取り組みは、社会的な責任へのコミットメントの証明や持続可能な社会への積極的な姿勢をアピールすることができます。
企業姿勢から、誠実性や社会問題への積極的な取り組みは信頼につながります。信頼できる企業だと認知されることで、投資家からの出資を募ることができます。
ブランド価値の上昇
SBT企業に認定されることで、CSR活動の強化が期待されます。企業が社会的責任を果たすことは持続可能な経営において重要だとされています。社会的責任に対する活動は、企業の認知度やブランド価値が向上することが期待されます。
認知度や好感度の上昇
SBTに参加する企業は、プロモーションにおいても効果的です。SBT参加企業としての広告は、潜在的な取引先や消費者などからの認知度や好感度の上昇につながります。SBT企業への関心が高まっていることもあり、メディアなどに取り上げられることで更なる認知度の上昇なども期待できます。
SBT認定企業になるための課題や解決策とは
SBT認定企業には多くのメリットがあることを紹介しました。
それでは、認定企業になるための課題にはどのようなものがあるのでしょうか?
ここでは課題や解決策について解説します。
温室効果ガス排出削減の目標設定と達成
SBT認定企業になるためには、温室効果ガス排出削減の目標を設定し、達成状況を認証機関に報告する必要があります。しかし、業種によっては温室効果ガス排出削減の目標の達成は簡単ではありません。特に、目標設定や経過が十分でない場合は達成が難しくなるでしょう。
正確な計測と信頼性の高い報告体制の確立
企業は温室効果ガスの排出量の正確な計測が求められます。また、信頼性の高い報告体制を確立する必要があります。計測や報告体制には専門的な知識や技術が必要で、体制が十分でない場合には、認証機関による認定が拒否される可能性があるので注意が必要です。
環境変化への順応性や対応能力への強化体制
持続可能な社会に向けた法律や規制もさることながら、市場や新技術も刻一刻と変化しています。導入の判断や取捨選択など、企業として迅速な対応能力が求められるだけでなく、変化する環境への順応性が求められます。
SBT認定企業と成功事例についてご紹介!
それでは最後に、SBTに認定されている企業を紹介しましょう。
日本国内の企業でSBTに認定されている企業は下記の通りです。
・住友林業
・積水ハウス
・花王
・帝人
・小松製作所
・日産自動車
・日立製作所
・オムロン
・セコム
・電通
・ベネッセコーポレーション
・イオン
・KDDI
・ソフトバンク
・NTTドコモ
・野村総合研究所
・大日本印刷
・富士通
・パナソニック
・シャープ
・京セラ など
日本では、上記の21社を含む247社の企業がSBT認定を取得しています。日本の大手企業を中心に、今後も日本国内の企業のSBT認定の取得は進んでいくでしょう。
SBT認定企業の成功事例
ここでは、SBT認定企業の一部の事例についてご紹介します。
野村不動産株式会社
野村不動産株式会社は、2030年までに自社の温室効果ガス排出量を50%削減(2013年度比)を目標に設定しています。
他にも、再生可能エネルギーの導入や省エネルギーの促進、排出量の監視・報告など、持続可能性に関する多数の取り組みを行なっています。
イオン株式会社
イオン株式会社は、2025年までに自社の温室効果ガス排出量を50%削減(2015年度比)を目標に設定しています。
他にも、自社ビジネスにおける環境負荷を軽減するための取り組みを進めており、イオンは再生可能エネルギーの導入や、廃棄物の削減・リサイクルなどの取り組みを行っています。
パナソニック株式会社
パナソニック株式会社は、2050年までに自社の温室効果ガス排出量を50%削減(2012年度比)を目標に設定しています。
他にも、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入、エコ製品の開発など、持続可能な経営に向けた取り組みを行なっています。
三菱電機株式会社
三菱電機株式会社は、2050年までに自社の温室効果ガス排出量を80%削減(2010年度比)を目標に設定しています。
他にも、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入、省資源・循環型社会の実現など、持続可能性に関する取り組みを行なっています。
東京ガス株式会社
東京ガス株式会社は、2030年までに自社の温室効果ガス排出量を30%削減(2013年度比)を目標に設定しています。
他にも、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入、地域エネルギーの活用、排出量の削減・報告など、持続可能性に関する取り組みを行なっています。
インテル株式会社
インテル株式会社は、2030年までに自社の温室効果ガス排出量を50%削減(2010年度比)を目標に設定しています。
他にも、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入、循環型ビジネスの推進、サプライチェーンの持続可能性など、持続可能性に関する取り組みを行なっています。
ソニー株式会社
ソニー株式会社は、2030年までに自社の温室効果ガス排出量を42%削減(2015年度比)を目標に設定しています。
他にも、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入、省エネルギー技術の開発、サプライチェーンの持続可能性など、持続可能性に関する取り組みを行なっています。
ゼネラル・モーターズ株式会社
ゼネラル・モーターズ株式会社は、2040年までに自社の温室効果ガス排出量を90%削減(2010年度比)を目標に設定しています。
他にも、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入、電気自動車の開発など、持続可能性に関する取り組みを行なっています。
シュナイダーエレクトリック株式会社
シュナイダーエレクトリック株式会社は、2030年までに自社の温室効果ガス排出量を50%削減(2017年度比)を目標に設定しています。
他にも、省エネルギー技術の開発や再生可能エネルギーの導入など、持続可能性に関する取り組みを行なっています。
SBT認定企業について
SBT認定企業の数は、日本の大手企業を中心に増加傾向にあります。世界的な温室効果ガス排出の削減が進んでいく中で、今後SBTに参加する日本企業は更に増えていくと予想されます。大企業のみならず、中小企業のSBT参加も進んでいく可能性が高いでしょう。
SBTに参加することで、温室効果ガス削減に取り組む企業としてグローバルな知名度を高めることが可能です。SBT認定を取得するためには、SBTの設定要件を満たすことが必要ですが、世界の投資家から出資を募りやすくなりますので、これからグローバル展開していきたい企業にとってもSBTへの参加はおすすめです。
本記事で解説した内容を参考にして、SBT認定取得を目指していただけると幸いです。
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