e-dash事例

「世の中にとってめちゃくちゃ良い会社になりたい」 e-dashを活用した「ぎふしんSLL」第1号企業が目指す未来

岐阜信用金庫 木曽川支店 丹羽功太さん(左)、堀江織物株式会社 代表取締役社長 武田浩志さん(右)

堀江織物株式会社 代表取締役社長 武田浩志さん
岐阜信用金庫 木曽川支店 丹羽功太さん、ソリューション営業部 春日井琢也さん

企業のサステナビリティに関する目標達成に応じて、金利が優遇される「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」。

愛知県一宮市でポリエステルを中心とした布への印刷・加工を手がける堀江織物株式会社は2023年8月、この制度を使って資金調達をしました。

堀江織物が利用したのは、岐阜信用金庫が独自に開発した「ぎふしんSLL」。CO2排出量削減に特化した中小企業向けのSLLで、CO2排出量のモニタリング機能には「e-dash」が活用されています。

実は、堀江織物は「ぎふしんSLL」で融資を受けた初めての企業。さらに、独自スキームによるSLLの実行として、本件は「信金業界初(※1)」の事例でもあります。

SLL実行に至るまでの経緯は。そして、SLLを今後どう会社の成長に繋げていくのか。

堀江織物の武田浩志社長、岐阜信用金庫の丹羽功太さん、春日井琢也さんにインタビューしました。

※1:岐阜信用金庫調べ

「『未来のあるべき姿』に合わせていかないと生き残っていけない」

──武田さんはもともと脱炭素に対して高い関心を持っていらっしゃったそうですね。意識し始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

武田浩志さん(以下、武田):きっかけは、2019年から服の受注生産、いわゆるオンデマンドアパレルを手がけるようになったことです。

アパレル業界では、大量に商品を生産し、売れ残りは最終的に廃棄処分してしまうのが通常です。しかし、発注を受けた分だけ生産するという事業を始めてから、従来の生産のあり方に疑問を持つようになり、環境全般への意識も高まっていきました。

「せっかくのオンデマンドアパレルなのに化石燃料を燃やす電力を使って生産するのは正しいのだろうか」などと、今までは気にもしていなかったことも考えるようになりましたね。

世の中もサステナビリティや脱炭素の方向に急速に動いています。未来は「お客さんの役に立っていれば、社会に害毒を流してもいい」という世の中にはどうしたってならないでしょう。それならば、企業として「未来のあるべき姿」に合わせていかないと、この先生き残っていけない。

一方で、脱炭素に関しては「一体どこからどうやって手をつけていいものか」となかなか一歩を踏み出せずにいました。

──そんな中、2022年12月に「e-dash」を導入いただきました。「e-dash」のことはどのように知ってくださったのですか。

武田:岐阜信用金庫の木曽川支店の支店長さんから「e-dash」の話を聞きました。その時は本当に嬉しかったですよ。1万円でCO2排出量が分かるの?って。

これまでも他の金融機関などから脱炭素を支援するサービスの説明は受けたことがあったのですが、最初から何十万円、何百万円の費用がかかるものばかり。初めて取り組むことに対していきなり大きなお金を払うのは不安に感じていました。

でも、月1万円から始められて、いつでも辞められるなら手を出しやすい。さらに、CO2排出量の可視化ができるだけではなく、脱炭素に関するアドバイスもいただけると知り、こんな良いサービスはないと感じたのを覚えています。

また、週に何度も当社に顔を出して下さるなど、日頃からの信頼関係のある岐阜信用金庫さんから勧めていただいたツールだったという点も、導入にあたっての安心材料になりました。

SLLの提案「チャンスをいただいたような感覚」

丹羽功太さん(以下、丹羽):私は現在、岐阜信用金庫木曽川支店にて堀江織物さんの担当をしています(23年11月時点)。武田さんがサステナビリティへの高い意識を持っている経営者であることは、支店のみならず本部にも広く共有されていました。ですから、「e-dash」や「ぎふしんSLL」についても、堀江織物さんにはいち早くご案内させていただきました。

武田:「ぎふしんSLL」については、岐阜信用金庫常務理事の大野さんがわざわざお見えになり、非常に熱心にご案内してくださったんです。

この制度を利用すれば、サステナビリティについてこれまで迷いながらできていなかったことに取り掛かる資金的余裕も生まれるし、客観的な目標や評価のもとに脱炭素を進めていける。まさにチャンスをいただいたような感覚でしたね。

CO2排出量の報告にあたって「e-dash」で可視化した数字をそのまま使うことができ、手間やコストが少ないという点も魅力に感じました。

【「ぎふしんSLL」について】

「ぎふしんSLL」は、中小企業にも利用しやすい、脱炭素特化型のサステナビリティ・リンク・ローンです。

これまで大企業への大口SLLは実施されてきた一方で、中小企業向けSLLは、ローン締結時に定める目標(SPT、サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)のモニタリング体制が中小企業側で不足している、融資先企業負担となる第三者評価のコストがかさんでしまう、などの理由から伸び悩んできました。

こうした背景から開発されたのが「ぎふしんSLL」です。

手間なく正確にCO2排出量の可視化ができる「e-dash」をモニタリング体制に組み込むことで、企業にかかるモニタリングの負担を軽減。さらに、株式会社格付投資情報センターよりフレームワークの整合性評価を受けることで、企業が個別に第三者評価を取得する必要がなくなり、コストの課題も解消しました。

※2:国内初、大手監査法人によるCO2排出量可視化サービスの第三者検証を実施(2022年6月30日)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000095916.html

年間4.2%の削減へ。鍵はCO2排出量の6割を占める電力

──「ぎふしんSLL」のKPI(重要業績評価指標)はCO2排出量の削減です。実際の削減目標であるSPTはどのように設定したのですか。

岐阜信用金庫 ソリューション営業部 春日井琢也さん

春日井琢也さん(以下、春日井):「e-dash」で可視化した現状のCO2排出量をもとに、堀江織物さんと相談をしながら設定をしました。

融資を受ける企業の立場としては目標は達成しやすいよう低いに越したことはありませんが、それではSLLがグリーンウオッシュ(編注:本当は環境に良くない商品やサービスをあたかも良さそうに見せること)と批判を受けかねません。ですから、客観的な基準として、パリ協定の⽔準と整合した企業のCO2排出削減⽬標であるSBT(Science Based target)を参考にしました。

具体的には、2025年3月期から2028年3月期まで、2022年3月期比で年間4.2%のCO2排出量削減をSPTとして設定しています。

ただし、SBTは削減率を「総排出量」に定めていますが、本融資では「売り上げあたりの排出原単位」を採用しています。たとえば、事業拡大等により生産量が増加するとCO2排出量が増えてしまい、生産調整せざるを得ない状況となることが想定されます。そのため、企業の脱炭素への意欲を削がないためにも、この形を採用しました。

──具体的にどのようにCO2排出量削減に取り組む予定ですか。

武田:「e-dash」でCO2排出量を可視化したところ、当社のCO2排出量の6割を電力が占めていることが分かりました。年間4.2%の削減は決して簡単な目標ではありませんが、この部分を減らせれば達成が見えてきます。

早速、数週間前に本社工場とオンデマンド工場の屋根に太陽光発電設備を設置しました。これでまかなえない電力については今後、電力契約をCO2フリー電力に切り替えることを検討しています。

排出量全体の3割占めるプロパンガスについては、まだどのように減らしていけるか見当が付いていません。今後、e-dashさんに色々教えていただければと思っています。

「サプライチェーンで選んでもらえる」企業を目指して。中小企業版SBT取得へ

──堀江織物は「e-dash」を通じて、中小企業版SBT(※3)の取得も進めていらっしゃいます。

武田:今回の「ぎふしんSLL」でもSBTを参考とした削減目標を立てましたし、自分でも色々勉強する中で、今の日本ではSBTが客観的に最も認められた削減目標なのだと強く感じました。

認定を通して、見せかけではなく、本当に、本気でCO2排出量の削減に向けて取り組んでいるということを対外的にきちんと示していきたい。そうすることで、サプライチェーンでの当社の存在感を高め、取引先から選んでもらえる可能性が上がると思っています。

「選んでもらう」という点では、オンデマンドアパレルの生産は優先して再生可能エネルギーでまかなうことを予定しています。当社はオンデマンドアパレル業界では新参者のため、この点を他社との差別化ポイントにしていきたいからです。

春日井:SPTのご相談をする中で、このままのペースであればSBT達成は十分可能であると考えましたし、堀江織物さんの大口取引先もSBTを取得していることが分かりました。であれば、早く認定取得をするに越したことはない。そう考え、私たちからも強く勧めさせていただきました。

※3:大企業が利用する通常のSBTとは別に、中小企業向けのSBTがある

企業と近い地域の信用金庫だからこそ、脱炭素の最初の「相談窓口」に

──「ぎふしんSLL」第1号として、今後の抱負をお願いします。

武田:世の中にとって「めちゃくちゃ良い」会社になりたい。そして、後継者の息子の代まで、2030年も、2050年も、ずっと続いていく会社を目指したい。そのために脱炭素への取り組みは絶対条件です。

第1号の名に恥じないよう、今後5年間でしっかり結果を残していきたいと思います。

──岐阜信用金庫は今後、「ぎふしんSLL」の利用拡大も含めて、地域の脱炭素の推進にどう貢献していきたいと考えていますか。

春日井:脱炭素は、企業にとって、取り組まなければ将来的に市場から排除されるリスクもあるほど重要な経営課題になっています。そんな中、地方の信用金庫発で、中小企業の脱炭素を後押しするSLLを構築・実行できたことを大変嬉しく思っています。

今後もe-dashさんと連携しながら、脱炭素の入り口である「可視化」から金融機関の本業である「融資」、その後の排出量「削減」まで、地域企業の脱炭素を一貫して支援し、企業価値の向上や地域経済の発展に貢献していきたいと思います。

丹羽:地域の信用金庫の強みはお客さんに近いこと。お客さんも「いつも来てくれる人」の言うことには耳を貸そうと思うし、相談もしやすい。私は脱炭素の専門家ではありませんが、この強みを生かして、今後もお客さんに脱炭素を呼びかけ、最初の相談窓口となっていきたいと思っています。

堀江織物株式会社

所在地:〒491-0125 愛知県一宮市高田字七夕田28
業種:製造
事業内容:ポリエステルを中心とした布への印刷全般、広告宣伝幕やアニメグッズの縫製、紅白幕、のぼりポールやスタンドなど取り付け器具の販売。
URL:https://horieorimono.co.jp/

岐阜信用金庫

所在地:〒500-8833 岐阜県岐阜市神田町6丁目11番地
業種:金融
事業内容:預金業務、貸出業務ほか
URL:https://www.gifushin.co.jp/