
SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定に整合した温室効果ガス削減目標を企業が設定し、第三者認定を受ける国際的な枠組みです。脱炭素経営の重要な指標として、多くの企業が導入を進めています。本記事では、SBTの基礎から認定企業の状況、取得のメリット、要件や申請の流れまで解説します。中小企業向けのSBT認定についても紹介するので、脱炭素に取り組む担当者はぜひ実務にお役立てください。
目次
SBTとは?
SBTの基本的な知識を解説します。SBTの定義から注目される背景、SBTiとの違いを見ていきましょう。
SBT(Science Based Targets)の定義
| SBTとは パリ協定の水準に基づいた、温室効果ガス削減目標のこと。CDP、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4つの組織が共同で運営する国際的なイニチアチブ。 |
SBTは「Science Based Targets」の略称で、パリ協定と整合する科学的根拠に基づいた、温室効果ガス削減目標です。
パリ協定では、世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回り、1.5℃に抑えることを目標に掲げています。SBTでは企業に対して、5~10年先の目標を設定し、温室効果ガス削減へのコミットを求めています。
SBTが注目される背景
気候変動に対する国際的な取り組みは、ここ数十年で拡大してきました。2015年にはCOP21にてパリ協定が、同年にはSDGsも採択されています。これらの動きが、SBTを含め気候変動に取り組む新たな枠組みを生み出し、加速させてきました。
また、消費者や投資家の間でも、環境配慮を重視する動きが強まっています。企業にとって、環境に配慮した取り組みを行うことは、信頼獲得のためにも必要不可欠です。
企業でのSBTの導入は、削減目標の信頼性を担保し、企業価値の向上や市場での競争優位性の確保につながります。さらに、共通基準に基づく評価は、ステークホルダーとの円滑なコミュニケーションにも寄与します。
SBTi(Science Based Targets initiative)との違い
SBTiは、CDP、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4つの団体が共同で運営する国際的な団体です。
SBTが温室効果ガスの「削減目標」そのものを指すのに対し、SBTiはこの取り組みを推進し評価する「団体」を指します。
SBTiは、企業が掲げた削減目標が、気候科学に沿っているかをガイドラインに基づき審査し、妥当と判断した場合にSBT認定を与えます。企業はSBTiが提示する基準に沿うことで、信頼性の高い気候変動対策を進めることが可能です。
中小企業版SBTとは?
中小企業版SBTは、通常のSBTよりも達成すべき要件が緩和されたガイドラインのことです。SBT事務局が、リソースが限られる中小企業に向けて設定しました。これまではSBT認証を求められるのは大企業が中心でしたが、近年では中小企業に対しても求められるようになっています。中小企業版SBTでは、通常のSBTと比較して削減対象範囲が狭く、費用が低い点などが特徴です。
企業がSBT認定を取得する3つのメリット
SBT認定の取得により、企業が受ける恩恵は少なくありません。ここでは、3つのメリットについて解説します。
ESG投資を受けやすい
SBT認定を取得した企業は、ESG投資の対象として評価されやすくなります。ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素をふまえて評価される投資のことです。
気候科学に基づく国際基準であるSBTに認定されることで、より高い信頼性を得られます。脱炭素化への具体的な取り組みをアピールできるため、投資先として選ばれやすくなるでしょう。その結果、これまで難しかった規模の事業展開につながる可能性があります。
企業の信頼性を高めて競争力を強化できる
SBT認定は、脱炭素化を科学的根拠に基づいて推進しているという証です。そのため、認定されると顧客や取引先、投資家、社員など幅広いステークホルダーからの信頼向上につながります。
前提として、SBTi自体は営利を目的とする枠組みではありません。しかし、環境目標の達成に向けた取り組みは結果的にブランド価値を高め、競争力の強化や中長期的な企業成長を後押しします。環境配慮型企業であることを明確にアピールできるため、企業間の共同開発や取引機会の創出にも寄与するでしょう。
取引先から求められる脱炭素に応えられる
SBT認定は、企業の温室効果ガス削減方針を国際的な共通基準で客観的に示す指標であり、社内外からの信頼性を高める好材料です。
SBT認定のもと温室効果ガスの排出削減を進めることで、取引先やサプライチェーンからの脱炭素要請に応えやすくなり、将来的な取引リスクの低減や新たなビジネス機会の獲得につながる可能性があります。
さらに、明確な削減目標は技術開発や業務改善を促し、イノベーションの創出を通じて中長期的な競争力強化を後押しできるでしょう。
SBT認定企業の状況
企業のSBT認定取得の動きは、世界的に急速な広がりを見せています。SBT認定を取得した企業、または2年以内に取得することを約束(コミット)した企業数は、2025年時点で日本が世界最多です。ここでは、国内外の企業の認定状況について解説します。
日本企業のSBT認定状況と業界別の例
日本のSBT認定企業、または2年以内に取得することを約束した企業は2025年12月時点で2,000社を超え、着実に増加しています。
出典:環境省「4. SBT参加企業」
下記は、業種別の日本のSBT認定企業の例です。
| 業種 | 企業例 |
|---|---|
| 建設 | 清水建設、住友林業、積水ハウス、大東建託、大成建設、大和ハウス工業、東急建設、長谷工コーポレーション、前田建設工業、LIXILグループ |
| 食料品 | アサヒグループホールディングス、味の素、カゴメ、キリンホールディングス、サントリー食品インターナショナル、日清食品ホールディングス、日本たばこ産業、明治ホールディングス、ロッテ |
| 繊維製品 | 帝人 |
| 化学 | 花王、コーセー、資生堂、住友化学、積水化学工業、ユニ・チャーム、ライオン |
| 医薬品 | アステラス製薬、エーザイ、大塚製薬、小野薬品工業、参天製薬、塩野義製薬、第一三共、武田薬品工業、中外製薬 |
| 金属製品 | YKK AP |
| ガラス・土石製品 | TOTO、日本板硝子、日本特殊陶業 |
| 非鉄金属 | 住友電気工業、古河電機工業、YKK |
| 機械 | 小松製作所、DMG森精機、日立建機 |
| 電気機器 | オムロン、カシオ計算機、京セラ、コニカミノルタ、シャープ、セイコーエプソン、ソニー、東芝、日本電気、パナソニック、日立製作所、富士通、富士フィルムホールディングス、ブラザー工業、三菱電機、村田製作所、ヤマハ、リコー、ローム |
| 輸送用機器 | 日産自動車 |
| 精密機器 | 島津製作所、ニコン |
| 印刷 | 大日本印刷、凸版印刷 |
| 海運 | 川崎汽船、日本郵船 |
| 情報・通信 | エヌ・ティ・ティ・データ、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、日本電信電話、野村総合研究所 |
| 小売 | アスクル、イオン、ファーストリテイリング、ファミリーマート、丸井グループ |
| 不動産業 | 東急不動産ホールディングス、東京建物、野村不動産ホールディングス、三井不動産、三菱地所 |
| サービス | セコム、電通、ベネッセコーポレーション |
電気機器・化学メーカーなどで温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みの導入が進む一方、製造業、医薬品、電機・精密機器、建設などの業種での広がりも顕著です。大企業はもちろん、中小企業の割合が高いのも日本の特徴で、企業規模を問わず脱炭素対応が広がっています。
日本企業の認定数は、今後も伸びていくことが予想されます。
世界全体のSBT認定企業の状況
世界全体では、2025年12月時点で、SBT認定を取得または2年以内の取得を約束する企業の数が1万社を超えました。このことからSBTは、企業の気候変動対応の信頼性を示す国際的な指標として定着しているといえます。
出典:環境省「4. SBT参加企業」
欧米を中心に多くのグローバル企業がSBTに参加しており、専門サービス業や食料品製造業、不動産業など幅広い業種で取り組みの導入が進み、投資判断や取引条件にも影響を与えています。
SBTの目標設定とScopeごとの要件
SBT認定を取得するにあたり、いくつかの要件を満たす必要があります。以下で、SBTの目標設定の考え方と、その基準について解説します。
SBTの目標設定の考え方
目標設定にあたっては、将来の事業成長やデータ精度の向上を見据え、達成可能性と国際的整合性の両立を意識することが重要です。
SBTの目標設定では、自社の排出量だけでなく、原材料調達から製品使用・廃棄までを含むサプライチェーン全体の排出量を対象とします。
排出量はGHGプロトコルに基づき、Scope 1(直接排出)、Scope 2(エネルギー起源の間接排出)、Scope 3(その他の間接排出)に分類されます。
出典:環境省「SBT(Science Based Targets)について」
| Scope | 意味 | SBTでの考え方 |
|---|---|---|
| Scope 1 | 事業者による温室効果ガスの直接排出 | ・目標設定が必須 ・セクター共通の水準としては「総量同量」削減とする必要がある※ |
| Scope 2 | 他社供給による電気・熱・蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出 | |
| Scope 3 | Scope 1,2以外のサプライチェーンにおける温室効果ガスの間接排出 | ・Scope 3が総排出量の40%以上を占める場合、Scope 3目標の設定が必須 ・次のいずれかを満たす「野心的な」目標を設定する(総量削減か原単位削減、あるいはサプライヤー/顧客エンゲージメント目標) |
※総量同量削減は手法の1つであり、SDA(Sectoral Decarbonization Approach)という考え方もある
なお、業種によってはセクター特性を踏まえた算定法であるSDA(Sectoral Decarbonization Approach:セクター別手法)も用意されており、自社の事業実態に即した現実的かつ野心的な目標設定が求められます。
SBTの基本的な削減経路は次のとおりです。
| SBTの基本的な削減経路 ①目標水準と設定手法を選択 ②削減経路を算出 ③SBT目標年を提出年より5年~10年の範囲で設定 ④目標値の決定 |
SBTの目標設定の基準
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| バウンダリ(範囲) | ・企業全体(子会社含む) |
| 基準年 | ・データが存在する最新年とすることが推奨される |
| 目標年 | ・申請時から最短5年、最長10年以内 |
| 水準項目 | ・Scope 1・2:1.5℃水準(年間最低4.2%以上の温室効果ガス排出量削減) ・Scope 3:2℃水準(年間最低2.5%以上の温室効果ガス排出量削減) |
SBTの目標設定では、まず対象とする排出範囲を明確にし、排出量を算定する基準年を定めます。そのうえで目標年を設定し、パリ協定と整合した削減水準を確保しなければなりません。
削減水準は、SBTiが認定する2つのSBT手法に基づいて設定します。1つは総量同量削減で、Scope 1・2は年4.2%以上の削減が必要です。もう1つはSDA(セクター別手法)で、業種特性を踏まえた水準が求められます。
SBT認定取得の際の申請の流れ
SBT認定取得には、まずSBTiの検証ポータルに登録します。2年以内に目標を策定し申請することを宣言する「コミットメント」を表明するかどうかは任意です。
SBTiの基準要件・ガイダンス等に沿って削減目標を策定し、検証ポータル内で直接申請しましょう。検証後、認定されれば企業のSBTが公開されます。さらに年1回、進捗状況の報告・開示が必要です。
最新のSBT認定の動向!「企業ネットゼロ基準」の改定について
SBTへの参加を検討する際は、「SBTネットゼロ」もあわせて押さえておきましょう。そもそもネットゼロとは、温室効果ガスの排出量と、吸収・固定される量を差し引きしてゼロにすることです。この考え方は、さまざまな環境目標値において利用されています。
上記をふまえて「SBTネットゼロ」とは、ネットゼロの考え方を取り入れたSBTiが定める指針です。SBTiは、2021年に企業ネットゼロ基準を公表しました。これにより、温室効果ガスの削減に向けて企業が設定すべき目標水準や期限、進捗管理の考え方が定められました。
さらに、2025年3月にはSBTiが「企業ネットゼロ基準V2.0」のドラフト(改定案)を公表、11月にはその後の検討をふまえ新基準案のドラフトが公表されています。最新ドラフトの公表によって、企業の温室効果ガス削減に向けての方針や仕組みがより明確になっていきます。
今後、SBTは実行力と説明責任をより重視する方向へ進化しており、企業には最新基準を踏まえた継続的かつ戦略的な対応が求められています。
SBTに関するよくある質問
SBTの概要を理解すると、実務面での具体的な疑問が出てくる方も多いでしょう。ここでは、SBTに関してよく寄せられる質問と回答をまとめました。
Q.中小企業でもSBT認定を取得できる?
A.中小企業もSBT認定を取得できます。要件を満たせば、中小企業向けに簡素化された「中小企業版SBT」の利用が可能です。日本ではSBT認定・コミット企業に占める中小企業の割合が高く、多くの企業が脱炭素経営の第一歩として活用しています。
Q.SBT認定にかかる費用は?
A.SBT認定では、主に申請・更新時に費用がかかります。短期目標の場合は$13,000~26,000、ネットゼロ目標の場合は$11,000~18,000です。一方、中小企業向けでは、短期目標・ネットゼロ目標ともに$1,250もしくは$2,000と、負担を抑えて申請できます。
Q.SBTを取得した後はどうすればいい?
A.SBT取得後は、毎年の排出量と削減進捗を年次報告として公表することが求められます。あわせて、目標達成に向けた具体的な削減施策を実行し、結果を社内外へ発信することで、脱炭素経営の信頼性や企業評価の向上につながります。
SBTを起点に進める企業の脱炭素戦略
本記事では、SBTとは何かという基礎から、認定企業の動向、Scope別の目標設定要件、申請の流れ、最新のネットゼロ基準改定までを体系的に解説しました。
SBTは単なる宣言ではなく、科学的根拠に基づき、サプライチェーン全体で排出削減を進める実効性のある枠組みです。最新動向を踏まえた正しい理解と継続的な対応が、これからの脱炭素経営には欠かせません。
SBT認定に向けた取り組みには、排出量の算定や目標設計、申請・報告業務など専門的な対応が求められます。
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