企業が注目しているCSV(Creating Shared Value)経営をご存知でしょうか。
企業を取り巻く環境は日々変化しており、従来からあった社会的責任(CSR)の考え方にも変化が起きています。
サービスを提供することへの責任だけではなく、サービス提供の先にある「共通価値」に着目した考え方は、企業が今後継続していく上でも必要不可欠になっています。
そこで、本記事では、「CSV経営」をキーワードに、企業に求められるもの、そのメリットやデメリットについて解説していきます。
現在では、顧客の志向変化により、「選ばれ続けるために」求められることが変化しています。
これから求められる企業像について、新しく注目されているCSV経営を取り込むことで、選ばれる企業として必要な要素を整理していきましょう。
目次
経済効果と社会的価値の創出を目指す「CSV経営」
CSV経営とは、どのような考え方なのでしょうか。
CSV経営とは何か、注目される背景について紹介します。
多くの企業が着目する理由について知ることで、自社において必要な概念であるかを検討する材料となります。
CSV経営とは何か
CSVとは、アメリカの経営学者であるマイケル・ポーター博士が2006年に提唱した概念である「Creating Shared Value」の略で、日本語では「共有価値の創造」という意味を持っています。
この概念は、企業が日々変化している顧客ニーズや社会的環境の変化に対応し、課題の解決をすることで社会的価値を創造し、結果的に経済的価値(企業の成長や利益)をも創造することを示しています。
企業はサービスを提供する上で守るべき責任があります。
CSV経営の概念を取り込むことで、これらの責任を果たすことだけではなく企業成長にも繋げていく必要があることを示しています。
米国を中心に企業責任を果たす方法として寄付や慈善事業により社会問題を解決に取り組んできた各国においても、CSV経営の概念は注目されており国内のグローバル企業をはじめ多くの企業がCSV経営の取り組みを開始しています。
なぜCSV経営が注目されているのか
では、なぜ多くの企業がCSV経営に着目しているのでしょうか。
前述の通り、多くの企業においては企業責任を果たす方法として寄付などをはじめCSRの概念を取り入れた活動を行っていました。
しかし、社会的ニーズの変化や環境変化の波は大きく、企業だけではなく利用者が抱える課題の変化も大きなものとなっています。
こうした課題の変化の対応、そして、CO2排出削減などの環境問題への取り組みも企業だけが取り組む課題ではなく消費者側の取り組みが必要だと考えられ多くの家庭での取り組みが開始されました。
こうした取り組みは、2015年の国際サミットで、持続可能な開発目標(SDGs)が定められたことで加速しています。
このような背景を受け、企業は消費者側と一緒に環境問題への取り組みなどを始めとする企業責任を果たす活動が必要となったことで、CSV経営に着目し取り組みを開始しているのです。
CSRとは何が違う?
企業が取り組むCSV経営と比較されるのがCSRです。
次に、この2つの違いを比較してみましょう。
【CRSとは】
CSRとは、以下に定義付けできます。
Corporate Social Responsibility の略で、「企業の社会的責任」を指します。ステークホルダーと関係を良好に維持するために企業が取り組む活動のことです。サービスを提供する以外に、法令遵守や社会的貢献活動のことを指し、利益に直結する活動のみを示してはいません。 |
これに対して、CSV経営では、社会問題をステークホルダーと共に解決することだけではなく、自社の利益活動に繋げていくことを指します。
このように、それぞれが目指す形や意味の点で違いがあります。
企業においては、求める目的や目標に合わせて2つを上手く識別し、必要に応じて融合した活動が求められています。
環境問題から見たCSV経営の重要性
CSV経営については、環境問題への取り組みとしての期待があります。
環境問題への取り組みは、既に企業だけの課題ではなくサービスを利用する人、地球に住む全人類の課題でもあります。
そのため、CSV経営における環境問題への取り組みや解決に向けた活動も注目されています。
地球温暖化
地球温暖化の問題について、知らない人がいない現在、多くの企業が取り組みを開始しています。
また、日常生活における対策を講じている人も多く、私達にとっても他人事で済む問題ではなくなっています。
地球温暖化は日常でCO2削減の取り組みを行っている人も多いため、CSV経営の中で課題として取り組んでいる企業も多くいます。
地球温暖化が加速することで、
・気温の上昇
・海面水位の上昇
・農作物を始めとする食材への影響
などの懸念があります。
このように、地球温暖化は私達を取り巻く様々な場面で大きな影響を与える課題です。
この図のように我が国のCO2排出量の約6割が、衣食住を中心とする「ライフスタイル」に起因していると説明されています。
環境省では、日常生活においてできる少しの工夫でも環境に優しい生活ができると発信しており、様々な情報が発信されています。
その他にも、環境問題とは何かなどについても学べる情報も公開しています。
世界的なSDGsへの取り組みの拡大
注目が集まっている活動にSDGsの活動があります。
SDGsとは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことです。
2015年9月の国連サミットで採択された、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書に記載されています。
SDGsは、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会などに関する国際的な目標を17のカテゴリで目標と169のターゲットを設定し、企業活動での取り組みを促進しています。
現在では、SDGsの活動にCSV経営の概念を活用する企業が増えています。
SDGsの活動をより具体的な目標設定する上で、CSV経営の概念を取り入れることで、より効果的な活動として促進することができます。
CSV経営のメリット
ここまでCSV経営が着目されている理由などを紹介してきました。
次に、こうした取り組みを企業が取り組むことで得られるメリットについて、より具体的に解説していきます。
CSV経営に取り組む場合だけではなく、既に取り組んでいる場合においても定期的に再考することは目標達成度合いの測定などにも有効です。
自社において最も有益度が高いものにフォーカスすることでより効果を発揮できる場合もあります。
ブランド力の向上
CSV経営の最大のメリットは「企業ブランド力」の向上です。
現在の企業運営は、法令遵守だけを行っていればいいということではありません。
サービスを利用する者だけではなく、企業を取り巻くステークホルダーにおいても、企業の活動内容や社会的貢献度合いにも着目し、選ぶ時代だからこそ、CSV経営におけるブランド力向上は企業存続にも大きな影響を与えます。
企業が選ばれ続ける事で事業運営を継続できる時代だからこそ、CSV経営を積極的に行い企業活動の内容を公開することが必要になっています。
社会課題解決への貢献
企業は個々人の活動よりも大きな社会的課題解決の責務を担っています。
SDGsなどにおいてCSV経営の概念を利用し活動を促進することで企業における社会的課題への対策を講じることは、様々な課題への取り組みや改善に貢献することに繋がります。
こうした活動を通して、企業は社会的課題への取り組みを積極的に行うことができます。
企業を取り巻く環境の変化や、課題解決には単体の企業の力だけでは不足しています。
多くの企業がCSV経営を通じステークホルダーと課題を共有することでこそ、課題解決の促進に繋がるのです。
新たなスキルやノウハウの習得
企業がCSV経営に取り組む上では、従来のサービスや製品の提供プロセスを見直す必要があります。
こうした活動は、従来の在り方を見直す上で大きなメリットがあります。
企業の在り方自体の変更にも関わるこうした見直しプロセスは、新たなスキルやノウハウの蓄積にも繋がります。
このようなノウハウ蓄積は新たなサービス提供などにも繋がり、企業成長にも大きな意味を持ちます。
CSV経営をはじめるための戦略を考えよう
では実際に、どのような手順でCSV経営を進めていけばいいのでしょうか。
これからCSV経営に取り組む際に押さえておきたいポイントや手順について解説していきます。
ここでご紹介する内容を参考に自社におけるCSV経営の計画を立案していきましょう。
自社製品および市場の見直し
CSV経営に取り組む際には、まず何から着手していけばいいかが不明な場合が多く、実際に踏み出すことができない企業が多いと言われています。
そこで、まず取り組みを行う際には「自社製品や市場の見直し」から着手していきましょう。
自社製品や市場の見直しとは、いったい何をポイントにしていけばいいのでしょうか。
そのポイントとは、
・自社製品がどのような社会的課題を解決しているのか
・自社製品がどのような市場影響を与えているか
という観点での分析を行うことです。
自社のサービスや製品が提供されるのには、何かしらの目的やニーズが存在しています。
こうした目的やニーズを果たすことで、社会的問題の何を解決しているのか、
そして、社会的問題への解決効果がどの程度あるかについて分析を行います。
例えば、環境課題を解決するCO2排出量が従来品に比べ何%削減されているかなどです。
こうした製品が持つ特徴は、市場においてどの程度の影響を与えているかについても分析が必要です。
現在、多くの商品は、こうした環境問題を始めとする社会的問題に取り組んだ製品が増えてきており、商品やサービスを選択する消費者が選ぶポイントにもなっています。
逆に言えば、環境に悪い商品は選ばれないという風潮が出ているといえます。
このように自社製品が与える影響がどの程度であるか、そして、それは改善できる余地があるかと言う視点で分析を行うことがCSV経営における第一歩となります。
バリューチェーン(価値連鎖)における生産性の再定義
次に行うのはバリューチェーンにおける生産性の再定義です。
バリューチェーンとは、製品やサービスの製造や販売、それらを開発する上で必要とされる労務管理など、すべての活動を「価値の連鎖」を指します。
このバリューチェーンについて、無駄や非生産的な箇所がないかを分析し、生産性向上のために再定義を行います。
例えば、従来の電力供給方法について環境面や価格の上昇などの課題を予測し、別の方法での安定的供給先を見つける活動などが該当します。
こうしたバリューチェーンの分析や再定義、再構築には時間や労力がかかります。
しかし、継続的な活動を行うことで将来的には従来の方法とは全く異なる方法を見つけることができ、安定的な利益確保や利益率の向上に繋がっていきます。
企業の多くは、CSV経営とは別にバリューチェーンの再定義を行っている場合も多く、CSV経営を取り入れることでより具体的な目標値の設定などに繋げることができます。
産業クラスターの形成
産業クラスターとは、資源や資材の供給、生産、流通などを行う企業や金融、教育、研究などを行う支援機関が地域的に集中することで、競合しながらも効果的に結びついていることを示します。
CSV経営を実践する際には、こうした産業クラスターの形成も大きな意味を持ちます。
実際に、異なる情報や得意分野を持つクラスターが連携することで、自社だけでは到達できない目標を達成することが可能になります。
こうした連携は、地域や分野を飛び越え国単位で行われる場合もあり、より効果的な産業クラスターとは何かを模索する必要もあります。
CSV経営の企業事例5選
次に、CSV経営に取り組んでいる企業事例として5社、紹介します。
今後CSV経営に取り組む場合や、今の活動を見直す際には他社の事例を参考にすることで新たな気付きを持つことができます。
ここで紹介する5社以外にも、インターネット上ではCSV経営に取り組む企業事例が紹介されている記事が多数あります。
事例を参考にする場合には、自社と環境が似ている企業などを参考にすることで、計画や実践の参考になります。
また、異業種であれば新たな気付きを得ることも多々ありますので、ぜひ事例を参考に自社の取り組みに活かしてください。
味の素
普段の生活でも身近な商品を提供している味の素では、CSV経営とSDGsの活動を積極的に取り組んでいます。
活動の原点となるのは、従来から行ってきたASV(Ajinomoto Group Shared Value)です。
ASVとは、CSV経営を整理し自社オリジナルの活動として定義付けたものです。
この定義付けには、SDGsを活用することで社内への啓蒙活動や浸透を促進しています。
味の素では、アミノ酸製品の開発で生活習慣病の予防につながるような商品の開発などを通して、フードロスや食資源の枯渇をはじめとする社会課題への取り組みを行っています。
住友商事株式会社
住友グループでは、CSV経営について以下のように発表しています。
住友グループは、400年の歴史に培われた「住友の事業精神」をベースに持続的な発展を実現してきました。「住友の事業は住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならない」という考えは、現代でいうCSV(共有価値の創造)に通じるものです。
引用元:住友グループ|SDGsと住友 ~未来のつくり方~
多種多様な事業展開を行っている住友グループは、1つのテーマだけの活動ではなくグループ全体として様々な活動を行っている特徴があります。
具体的な活動としては、地球環境との共生をテーマに地域の活性化や気候変動への対策などを行っています。
その具体的な活動については、公式HPでも紹介されており参考事例として取り上げられることも多くCSV経営の先駆者的な位置付けとなっています。
CSV経営を促進する際にもSDGsを活用しているため、SDGsの目標設定の事例として取り上げられることもあります。
ネスレ
グローバル企業としても有名なネスレは、CSV経営をIRとしても活用していることで知られています。
コーポレートサイトには、以下のような表記があります。
企業が長期的に繁栄し株主の皆さまに価値を創出するためには、同時に社会にとっての価値も創出しなければなりません。私たちはこれを「共通価値の創造」と呼びます。
引用元:ネスレ日本|共有価値の創造(ネスレのアプローチ)
ステークホルダーの定義として最も重要視しているのが株主であると定義付け、IRにおいても明確に定義することで、活動の理解度を促進しています。
また、実際の活動においても公式HPで取り上げ、株主以外の消費者への理解を促進している特徴があります。
CSV経営においては、気候変動や環境上の脅威に対しての取り組みをテーマ別に具体化し紹介しているため、より多くの理解と共感を得ることで目標達成に向けた活動へ繋げています。
オムロン
大手電機機器メーカーであるオムロンでもCSV経営に取り組んでいます。
企業活動の理解が難しいとされる活動において、活動をより具体的に公開している企業の1つでもあります。
公式HPでは、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)の中長期目標を明確に定義し公開することで、その活動を具体的に理解してもらえる工夫を行っています。
実際に、公式HP内には環境への取り組みを以下の様に定義しています。
※一部抜粋
脱炭素・環境負荷低減の実現 | · 自社から直接・間接排出されるGHG排出量の削減(Scope1・2) 2016年度比▲53%· 国内全76拠点のカーボンゼロを実現(Scope2)· 自社が販売した製品の使用から排出されるGHG排出量の削減(Scope3)において新商品の省エネ設計を実施· 循環経済への移行対応としてのビジネスモデルの変革、環境配慮設計、回収とリサイクル、持続可能な調達の実施 |
この様に企業として取り組み目標を数字などで明確に定義することで、目標への責任や活動の達成度合いが分かる仕組みを設けています。
こうした目標は、オムロンが掲げる「事業を通じて社会価値を創出し、社会の発展に貢献し続けること」が企業の存在意義であるという考えを基に定義されています。
株式会社伊藤園
緑茶飲料市場の中で35%近いシェアを実現している伊藤園もCSV経営における代表事例です。
伊藤園では「持続的な農業の発展に向けた貢献」をテーマにお茶の栽培面積や生産量、農業従事者が抱える課題解決に貢献できるよう活動を行っています。
また、2020年には中長期環境目標を設定し「容器包装」「気候変動」「水資源」に関する目標を定めています。
日本人にとって日常生活において欠かせない緑茶を通して、環境問題に取り組んでいます。
こうした活動は、他の飲料メーカーにも影響を与えており、利用者にとっても身近な製品を利用することで目標達成に貢献できます。
CSV戦略に対する今後の課題
最後にCSV戦略の立案や実施における今後の課題についてご紹介していきます。
CSV経営を行う上で、どのような課題があるかを予め理解しておくことで、対策の検討や対応策の立案ができれば、より効果の高いCSV経営を実現することに繋がります。
明確なガイドラインの制定
CSV経営における明確なガイドラインが定義されていないことが、CSV経営の促進においては課題として定義されています。
そのため、新たにCSV経営に着手したいと考えた場合においても、指針がなく何を基準としていいか不明なため断念する企業があることも事実です。
そこで、国内におけるCSV戦略の促進にはガイドラインの策定が急務であるとの声も多数あります。
しかし、ガイドラインがない現時点でも多くの企業がCSV戦略を立案し企業運営に盛り込んでいることも事実です。
そのため、各社における製品やサービスの社会的価値を伝える方法や課題への目標を設定するなどの指標を設けることを先行して行うことで、CSV経営の促進を図る必要があります。
今後、CSV戦略立案におけるガイドラインの策定が進むことを待つだけではなく、企業としての課題定義や活動方針の立案を先行して行うことも国内のCSV戦略促進を加速化させる方法の1つです。
CSV経営による自社へのリスクと対策の把握
CSV経営を促進することだけに着目することにはリスクがあります。
実際にCSV経営を促進するために、製品を製造するコストが倍増しては企業経営に大きな問題を生じさせます。
このように、企業が抱える課題のみに着目することは企業経営のリスクを増加させる要因になりかねません。
CSV経営を促進するためには、課題の定義だけではなく課題解決を促進する上で想定されるリスクの分析、そして対策までを整理する必要があることを忘れないでおきましょう。
こうしたリスク回避の施策を予め講じることは、企業経営を円滑に行う上でも必要不可欠な視点であること、そして、CSV経営を行う上で目標達成を図る上でも必要な視点になります。
自社の事業全体でCSVに取り組む必要がある
CSV経営の活動は、自社における1つの部門だけでけで行っても効果は少ないといえます。
企業を取り巻く環境の変化や課題は大きなものです。
そうした環境の中で、企業価値や利益を追求するためには1つの部門だけではなく自社の事業全体で取り組む必要があります。
また、自社だけの活動で得られる効果にも限界があることを理解しておく必要があります。
今回ご紹介している5社の事例においても、自社だけの活動で成果を上げている企業はありません。
自社を取り巻く関係先と連携することで初めて効果を発揮しています。
このように、期待する効果を発揮するには、多くの関係者を巻き込む必要がある点を理解しておくことが必要です。
社会貢献だけではないCSV戦略
今回は、CSV経営をテーマに事例やメリット・デメリットなどをご紹介しました。
CSV経営が目指す目的は、企業が本業を通して社会課題の解決に取り組み、結果として経済、社会的な価値を高めることです。
価値の向上は、企業が常に念頭におくべき経営課題でもあります。
企業が取り巻く環境は日夜、大きな変化となり企業運営を継続することは年々、難しくなってきているとさえ言われています。
こうした中、生き残るだけではなく企業成長し続ける会社であるために着目されているCSV戦略とは何か、その導入方法についても本記事では触れていますので、本記事を参考に今後の事業継続、企業成長のためにCSV経営の導入を検討してください。
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