脱炭素社会の実現に向けての取り組みを企業が重要視する現在、企業はまず自社やサプライチェーン全体のCO2排出量を正確に把握することが求められています。この正確な排出量把握こそが、効果的な削減目標の設定と、競争力強化につながる脱炭素経営の第一歩となるでしょう。本記事ではCO2排出量の算定に不可欠なCO2排出係数のうち、電力にかかる部分について解説します。
目次
CO2排出係数とは?
CO2排出係数とは、事業活動における単位生産量・消費量あたりのCO2(二酸化炭素)排出量を指し示す数値です。
本来、さまざまな活動で発生するCO2を算出するための係数を指しますが、この記事では電力におけるCO2排出係数について解説します。
電力におけるCO2排出係数とは、電力会社が電力の供給量1kWhあたりどれだけのCO2を排出したかを指し示す数値です。
CO2排出係数は電力会社によって異なることがある
CO2排出係数は必ずしも一定の数値ではなく、電力会社によって異なることがあります。発電に必要な石油・石炭・天然ガスなどの燃料の違いや、地域の電力需要により差が発生するためです。
たとえば風力や太陽光エネルギーなどの再生可能エネルギーによる発電は、CO2 の排出がないため理論上のCO2排出係数は0です(実際の計算では地球温暖化対策推進法に基づき、全国平均値の0.423kg-CO2/kWhに設定されています)。
一般財団法人 電力中央研究所「日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価」を基に作成
CO2排出量は以下の計算式で算出できるため、電力使用量が同じである場合、CO2排出係数の低い方がCO2排出量は少なくなります。
| CO2排出量=電力使用量(kWh)×CO2排出係数(kg-CO2/kWh) |
CO2排出量の算定が求められる背景
現在、CO2を含む一定以上の温室効果ガスを排出する事業者は温対法(※1)によりCO2排出量の報告が義務化されています。また、工場・事業場の設置者や運輸事業者は省エネ法(※2)によりエネルギーの使用状況の報告と省エネルギーの計画を提出しなければなりません。
2023年には「2050年のカーボンニュートラル実現」に向けて企業が脱炭素化に移行しながらも経済成長を持続することを推進する「GX推進法」が成立しました。
2025年にはサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の基準に準拠した日本版の基準を策定しています。これは企業のサステナビリティ情報開示に関する基準であり、2027年3月期から段階的に義務化される予定です。
また、2026年度からは「GX-ETS(排出量取引制度)」が本格稼働します。これは一定以上のCO2を排出する大規模企業を対象に、排出枠(上限)を割り当て、その枠内での排出削減や他企業との排出枠の取引を通じて、全体のCO2排出削減を促す制度です。
このように、年代を追うごとに企業によるサステナビリティ情報の開示、およびCO2排出量の削減を求める法規制は整備されています。CO2排出量の算定は自社内にとどまらず、サプライチェーン全体においての算定も求められるようになってきたため、ゆくゆくはすべての企業にCO2排出量の算定が求められる時代が訪れるかもしれません。
※1 温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)……温室効果ガス排出量の削減や報告について定められている法律
※2 省エネ法(エネルギー使用の合理化等に関する法律)……工場等の設置者や輸送事業者のうち一定規模以上の事業者についてエネルギーの使用状況の報告を義務づけた法律
CO2排出係数はどのようにして決まるのか
CO2排出係数は基本的に下記の計算式で算出されています。
| 排出係数(kg-CO2/kWh)=CO2排出量÷販売電力量 |
排出係数は再生可能エネルギー発電の利用や、再生可能エネルギー発電による電力の固定価格買取制度(FIT)を使用することで変化します。
また、同じ電気事業者でも再生エネルギーを使用した電力供給プランを選択すると、排出係数は抑えられます。
各電気事業者のCO2排出係数は環境省のホームページで公開されているため、確認可能です。
【電気事業者の排出係数・一部抜粋】
下記は環境省のホームページで公開されている各電気事業者のCO2排出係数を一部抜粋したものです。
| 電気事業者名 | 基礎排出係数 (t-CO2/kWh) | 調整後排出係数 (t-CO2/kWh) |
| 北海道電力ネットワーク(株) | 0.000423 | 0.000423 |
| 東北電力ネットワーク(株) | 0.000423 | 0.000423 |
| 東京電力パワーグリッド(株) | 0.000423 | 0.000423 |
| 中部電力パワーグリッド(株) | 0.000423 | 0.000423 |
| 北陸電力送配電(株) | 0.000423 | 0.000423 |
| 関西電力送配電(株) | 0.000423 | 0.000423 |
| 中国電力ネットワーク(株) | 0.000423 | 0.000423 |
| 四国電力送配電(株) | 0.000423 | 0.000423 |
| 九州電力送配電(株) | 0.000423 | 0.000423 |
| 沖縄電力(株) | 0.000694 | 0.000694 |
出典:環境省「電気事業者別排出係数一覧(令和7年提出用)」より抜粋
CO2排出係数の基準と種類
CO2排出係数を使ってCO2排出量を算出するには、ロケーション基準とマーケット基準という2つの方法があります。環境省はこの2つの基準を使用した場合の排出係数を公表しています。それぞれについて詳しく解説します。
ロケーション基準とマーケット基準
ロケーション基準とは、企業が使用した電力について、国・地域の平均的な排出係数に基づいてCO2排出量を算出する方法を指します。日本国内においては、地域ごとの排出係数を採用しておらず、全国平均の排出係数を一律同様に用いる算出が一般的です。企業が契約した電力会社、電力プランで再生可能エネルギーの使用等があったとしても、CO2排出量の削減には反映されません。
マーケット基準とは、企業が契約した電力会社・電力プランに基づいた排出係数を用いてCO2排出量を算出する方法です。そのため、企業が再生可能エネルギーなどのプランを選択することで、CO2排出量を削減できます。
マーケット基準では「基礎排出係数」と「調整後排出係数」が使用されます。
ロケーション基準とマーケット基準の違いについて詳しくはこちら
基礎排出係数と調整後排出係数
環境省は「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」内において、「基礎排出係数(非化石電源調整済)」と「調整後排出係数」という2つの排出係数を公表しています。
基礎排出係数(非化石電源調整済)とは、電力会社が発電する際に排出するCO2の量を電力の単位(kWh)で割った数値のことです。令和7年度(2025年度の報告、対象は2024年度実績)以降は、以下の計算式によって算定されます。
出典:環境省「令和7年度報告からの温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の変更点について」
一方、調整後排出係数とは、実際のCO2排出量に、電力会社によるCO2削減の取り組みを反映させて調整したうえで、電力の単位(kWh)で割った数値のことです。
排出量を開示したいイニシアチブの基準によって算出に使用する係数を使い分けることになります。
※環境価値……再生可能エネルギーやその他の非化石電源が持つ『温室効果ガスを排出しない』という環境面での付加価値として切り出し取引可能としたもの
Scope 2の算定には基礎排出係数と調整後排出係数どちらを使う?詳しくはこちら
CO2排出係数を把握しておくべき理由
| ・CO2排出量の可視化に必要である ・CO2排出量の削減に向けた経営判断ができる ・省エネ法・温対法に対応できる |
正確な排出量算定をするためには、排出係数を正確に理解しておく必要があります。
この数値に基づいた現状把握は、単に義務的な省エネ法や温対法への報告に対応するだけでなく、排出源を特定して効果的な削減策を打つための根拠となります。脱炭素社会に向けた取り組みを戦略的な経営判断として実行できるでしょう。
CO2排出量を削減するために企業ができること
CO2排出係数を理解すると、企業にとって効果的なCO2排出量削減の一歩を踏み出せます。電力の使用によるCO2排出量は前述の通り、下記で求められます。
| CO2排出量=電力使用量(kWh)×CO2排出係数(kg-CO2/kWh) |
そのため、CO2排出量を削減するには、消費電力量かCO2排出係数のどちらか一方、あるいは両方を減らすことが重要です。
CO2フリー電力によるCO2排出係数の縮小化
CO2フリー電力プランとは、使用する電力のCO2排出係数がゼロと見なされるプランです。これを選択することで、企業のCO2排出量を実質的にゼロとして算定できます。
この電力は、太陽光、風力、水力、地熱といった再生可能エネルギー(再エネ)由来です。再エネは枯渇せず、発電時にCO2を排出しないという特徴があります。
そのため、CO2フリー電力プランへの切り替えは、最も直接的かつ確実に企業のCO2排出係数を縮小させるアプローチとなるでしょう。また、一部にCO2フリー電力を組み込んだプランの利用だけでも、条件によっては排出係数を低減させられます。
省エネ設備やシステム投資による消費電力量の削減
CO2排出量を減らす直接的な方法として、エネルギー効率の高い設備や機器を導入し、消費電力量を削減することが挙げられます。
このアプローチは、冷凍設備や空調設備の更新、照明のLED化、またインバーター制御や温度制御の最適化など、具体的な設備更新によって大きな効果を生みます。
さらに、電力使用を最適化する「EMS(エネルギーマネジメントシステム)」の導入も有効です。EMSで得られた電力使用状況の情報を活用し、業務プロセス自体を見直して改善することによって、設備投資以上の持続的な削減効果が期待できます。
CO2排出係数を理解してCO2排出量を削減しよう
CO2排出係数を正しく理解し活用することは、排出量削減に向けた効果的な経営判断に直結します。しかし、温対法や省エネ法の制度理解から、複雑な排出係数の使い分け、そしてサプライチェーン全体の排出量算定には、非常に高い専門性が求められます。
これらの複雑なプロセスをスムーズに進め、実効性のある脱炭素経営をいち早く実現するためには、専門知識を持つパートナーとの協働が最も確実です。
以下の資料では、CO2排出量の算定方法についてわかりやすく解説しています。こちらもぜひご参考ください。
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