カーボンリサイクルという言葉をご存じでしょうか。
環境問題への関心が高まる近年、注目されている言葉のひとつです。
カーボンリサイクルの定義と仕組みを知って、カーボンリサイクルへの理解を深めていきましょう。また、カーボンニュートラルに関してもわかりやすく解説します。
さらに、現状の課題やメリット・デメリットについても詳しく知っておきましょう。政府における取組と企業における取り組みでは、見えている課題や目標も違ってきます。
カーボンリサイクルの現状の取り組みと実用例を、わかりやすく解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
カーボンリサイクルとは?
カーボンリサイクルとは、CO2を資源として認識する考え方です。CO2は分離・回収することで、さまざまな製品や燃料に再利用できます。
地球温暖化を促すのが、増えすぎたCO2です。そのような多すぎるCO2を再生して、新たな製品に生まれ変わらせるのが、カーボンリサイクルです。生産される製品の分野は多岐にわたります。カーボンリサイクルにおけるCO2の利用先は、以下の通りです。
・化学
・セメント
・エンジニアリング
・機械
・化石燃料
・バイオ
上記のようにさまざまな分野で使われるカーボンリサイクルですが、カーボンリサイクル技術を利用するためには水素が必要になります。CO2を利用可能なエネルギーに変えるためには、水素が必須であるからです。
北海道苫小牧ではカーボンリサイクル技術を利用して、回収したCO2を活用したメタノールの製造などに取り組んでいます。
そのほかにも、ポリカーボネートやウレタンなどを作るためにもカーボンリサイクルは使われます。さらに、バイオマス由来の化学品や、バイオ燃料・ガス燃料などの燃料としても使うことが可能です。
また、鉱物として利用する道もあり、セメント・コンクリート・炭素・炭化物も生成可能です。CO2は、多くの利用方法がある注目すべき再生可能エネルギーです。
カーボンニュートラルも知っておこう
カーボンリサイクルだけでなく、カーボンニュートラルとはどういったものなのかも詳しく知っておく必要があります。
カーボンニュートラルとは、「温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡を保つこと」です。
日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」を行っています。2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするというものですが、どんなに頑張っても排出量をなくすことはできません。
そこでカーボンニュートラルでは、CO2排出量から森林管理やカーボンリサイクルによってCO2を吸収した量を差し引いて、差し引きをゼロにするという考え方をします。
世界の気候変動が続くと、豪雨や気温上昇、自然災害や農業・漁業の不作・不漁が続くと予想されます。カーボンニュートラルを実現し、脱炭素社会を目指すことによって、将来的に安心して暮らせる環境を作ることができるでしょう。
カーボンリサイクルの現状の課題は?メリットとデメリットはある?
カーボンリサイクルの現状には、いくつかの課題があります。カーボンリサイクルのメリットとデメリットをしっかり把握して、課題解決の手段を模索することが大切です。
カーボンリサイクルの3つのメリット
カーボンリサイクルには、以下のメリットがあります。
・さまざまな製品を生産できる
・あらゆる分野に適用できる考え方である
・実質的なCO2の排出量を抑える効果がある
さまざまな製品を生産できる
カーボンリサイクルをすることによって、さまざまな製品を生産することができます。すでに実用化されている技術もあり、今後に大きな期待が寄せられています。
たとえば、CO2を吸収するコンクリートの製造が挙げられます。排出されたCO2を使っているため、無駄なく資源をリサイクルすることができます。パソコンの外装などに使われるポリカーボネイトも、CO2から作られています。
あらゆる分野に適用できる考え方である
カーボンリサイクルの考え方はあらゆる分野に適用できるものです。基礎研究から身近な製品への応用まで、分野を限定することなくこの考え方を適応することが可能です。
実質的なCO2の排出量を抑える効果がある
実質的なCO2排出量を抑える効果があるのも、メリットのひとつです。いくら排出量を抑えたいとはいっても、CO2の排出量を完全になくすことは非常に困難です。しかし、大気中に放出されたCO2を回収して分離し、再利用することによって、実質的なCO2の排出量を減らすことができます。
カーボンリサイクルの3つのデメリット
カーボンリサイクルには、以下のデメリットがあります。
・技術面が不安定である
・コストがかかる
・水素の生成のためにCO2が排出されてしまう
技術面が不安定である
カーボンリサイクルにはさまざまな製品を生産できるという大きなメリットがありますが、このメリットは同時にデメリットも引き起こします。デメリットのひとつは、技術面が不安という点です。
カーボンリサイクルとは歴史の浅い技術であり、いまだ試行錯誤を繰り返しているのが現状です。そのため、技術面で安定しているとはいい切れず、なかなか結果に結びつかないこともあるでしょう。
コストがかかる
いまだ人材が多く育っておらず、カーボンリサイクル技術を専門的に学ぶためにはそれなりの費用が必要です。人材が育つまでには時間もかかるため、人材育成には多くのコストがかかります。また、前述したように技術が不安定であることも、コストがかかる一因となっています。
水素の生成のためにCO2が排出されてしまう
カーボンリサイクル製品を作り出すためには手間、時間、費用がかかってしまいますが、そのほかにも無くてはならないものがあります。それは水素です。
多くのカーボンリサイクル製品を作り出すときには水素を使う必要があり、その水素を生成するためにはCO2を排出しなければなりません。
CO2を削減するためにカーボンリサイクル製品を作ろうとしているのにも関わらず、生産の過程で使用するCO2より多くのCO2が排出されてしまっては、本来のCO2削減という目標からは離れてしまうでしょう。
政府によるカーボンリサイクルの取り組みは?
政府でもカーボンリサイクルの取り組みを行っています。それが、カーボンリサイクル室の設置と日本主導による国際会議の開催です。それぞれどういった取り組みなのかを、詳しくみていきましょう。
カーボンリサイクル室の設置
2019年、資源エネルギー庁はカーボンリサイクル室を設置しました。「2050年カーボンニュートラル宣言」からもわかるように、日本は2050年に向けてCO2の大幅な削減を目指しています。
CO2の分離、回収、利用の技術は、将来重要になることでしょう。そのため、カーボンリサイクル質はこれらの技術支援を行っています。燃料や素材としての再利用や植物工場での活用などを支援しており、これらはカーボンニュートラルを目指すにあたって重要な技術のひとつです。
その他、カーボンリサイクル室では技術開発が効果的かつ迅速に進むことを目的に「カーボンリサイクル技術のロードマップ」なども作成されています。
日本主導による国際会議の開催
政府は日本主導による国際会議の開催も行っています。「第3回カーボンリサイクル産学官国際会議2021」という会議で、さまざまな技術についてディスカッションされています。
CO2を資源として用いる考えのカーボンリサイクルについて、各国の先進的な技術事例や具体的な取組みを共有することにより、今後の方向性を発信しています。
国際連携を強化することによって、社会実装に向けた技術開発・実証を行い、カーボンリサイクルへの取り組みを加速させるのが狙いです。
企業が行うカーボンリサイクルの取り組みは?
企業が行うカーボンリサイクルの取り組みについて、どのようなものがあるのかを知っておきましょう。カーボンリサイクルは、企業にとっても決して他人ごとではありません。さまざまな取り組みを行うことで、多くの利益を上げられることもあります。ここでは、企業が行うカーボンリサイクルの取り組みを見ていきます。
カーボンリサイクルを研究する施設を全国に展開
カーボンリサイクルを行うための研究拠点が全国に展開されています。北海道苫小牧の施設では、CCS・メタノールの製造を行っています。
福島県浪江町では再エネ由来水素の研究を、広島県の大崎上島は次世代型火力発電の実証実験を行っています。東京湾岸では「東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会(ゼロエミベイ)」が発足するといった動きもあります。
それぞれのカーボンリサイクル拠点の取り組みは、大規模実証化や技術連携、技術の展開などを通して、大規模な企業連携を模索しています。
カーボンリサイクルの事業例
カーボンリサイクルの事業例は、以下のようなものがあります。
・CO2からポリウレタンを製造する技術開発
・廃棄物資源化技術開発
・バイオ化学品・燃料の生産技術開発
カーボンリサイクルの事業例として、CO2からポリウレタンを製造する技術開発があります。多くのポリウレタンの製造には、猛毒で腐食性の強いホスゲンが原料として使われています。有毒なホスゲンの代替としてCO2を用いてポリウレタンを生成することで、新たな顧客価値の創出に繋がります。
また、従来のさまざまな製品の製造過程では、産業廃棄物が多量に出ていました。廃棄物資源化技術開発やバイオ化学品・燃料の生産技術開発などはこの課題に対して有効な解決策であり、さまざまな企業が取り組んでいる一例といえるでしょう。
カーボンリサイクルの実用例は?
カーボンリサイクルには実用には程遠い技術も多く存在しますが、すでに実用化されている場合も多々あります。どのような実用例があるのかを、詳しくみていきましょう。
建築土木工事の材料
建築土木工事の材料として実用化されているものがあります。それが、環境配慮コンクリート「T-eConcrete®」です。「T-eConcrete®」は、通常のコンクリートと同じような強度や施工性を持っています。
さらに、CO2削減の効果まであるため、さまざまな場面での活躍が期待されています。家屋などの建築物だけでなく、シールドトンネル等にも活用されている技術です。
生活用品の材料
生活用品の材料としても、多くの場面で実用化されています。生活用品では多岐な種類の商品において、CO2を原料とするポリカーボネート樹脂製の部品などが作成されています。
DVDやBDの表面、スマートフォンや家電などの筐体にもポリカーボネートが使用されています。そのほか、化粧品の容器には、カーボンリサイクル製品が使われている場合があります。
フランスの化粧品メーカーでは、3社合同での研究・開発を行い、CO2を利用した化粧品用の容器を製造しました。今後はシャンプーの容器なども徐々にCO2を利用した容器に入れ替えていく考えです。
カーボンリサイクル製品の実例はほかにもさまざまなものがあります。どのような製品が実用化されているのかを、チェックしてみてください。
CO2の再利用・削減をサポートする動きはある?
それでは、CO2の再利用・削減をサポートする動きはあるのでしょうか。一企業だけでカーボンリサイクルに取り組むことには限界があり、カーボンリサイクルを行う意思があったとしても資金が足りないことなどが予想されます。
しかし、支援してくれる団体などがあれば、より大きな効果が期待できるでしょう。そこで、助成金で研究を支える『カーボンリサイクルファンド』や、CO2削減をサポートする『e-dash』をご紹介します。それぞれどういった組織なのかを、詳しく解説していきます。
助成金で研究を支える『カーボンリサイクルファンド』
助成金で研究の力になる組織が『カーボンリサイクルファンド』です。2050年のカーボンニュートラル目標達成に向かって、さまざまな助成を行っています。
カーボンリサイクルファンドでは、寄付金を原資として研究助成活動を行っています。企業への支援に限らず、研究者(又は研究チーム)への助成も実施しています。
カーボンリサイクルファンドHP:https://cococolor-earth.com/carbonrecycle/
CO2削減をサポートする『e-dash』
(引用:e-dash公式サイト)
e-dashはCO2排出量削減への取り組みを総合的にサポートします。具体的にはCO2排出量の可視化、CO2排出量削減への目標設定、ロードマップの作成などが行えます。環境と調和した未来のために、CO2削減をサポートする『e-dash』の利用が効果的です。
e-dashHP:https://e-dash.io/
カーボンリサイクルに取り組んでみよう
カーボンリサイクルに取り組むことは、日本国内でも国際的にも重要な事柄の一つです。事業支援を受けることで、日本の中小企業でもカーボンリサイクルに取り組む事ができます。カーボンリサイクル製品にはさまざまな分野のものがあり、チャンスをものにすることができれば大きく成長できます。
カーボンリサイクルに取り組む前には、カーボンリサイクルのメリットやデメリットについて知っておく必要があります。将来の日本の環境を守るためにも、しっかりした知識を身に着けた上で、カーボンリサイクルを楽しみましょう。