近年、地球温暖化対策として、世界規模で脱炭素化を目指す取り組みが行われています。
そんな中、よく耳にするようになった言葉に「カーボンネガティブ」や「カーボンポジティブ」があります。
今回の記事では、カーボンネガティブとカーボンポジティブの違いや、日本の企業や世界が取り組んでいるカーボンネガティブについて事例を紹介しながら解説します。
目次
カーボンネガティブとは?カーボンポジティブとの違いを解説!
カーボンネガティブとはどのような意味なのでしょうか。
「カーボンポジティブ」との違いや似た言葉である「カーボンニュートラル」についても併せて解説します。
カーボンネガティブはCO2の吸収量が排出量よりも上回ること
カーボンネガティブとは、CO2の吸収量が経済活動によって排出されるCO2の排出量を上回る
状態を指します。CO2の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」よりもさらに強化された取り組みといえます。
カーボンネガティブという言葉が広まったきっかけの一つに、世界的に有名な企業である「マイクロソフト」の存在が挙げられます。
マイクロソフトは2030年までにカーボンネガティブとなることを目標としており、2050年までに直接的および電力消費により間接的に排出してきたCO2の環境への影響を完全に排除することを目指しています。
引用 : マイクロソフト|2030年までにカーボンネガティブを実現
カーボンネガティブとカーボンポジティブの意味は同じ
カーボンネガティブとは別に「カーボンポジティブ」という言葉もありますが、2つの単語の意味は同じです。
これは「CO2を”除去”する=ネガティブ」という考え方と「CO2を”吸収できている”=ポジティブ」という考え方の違いにより、語句は反対語ではあるものの同じ意味を示しています。
カーボンポジティブは環境科学用語であり、ユニリーバやイケアなどの企業はカーボンポジティブを用いています。
カーボンニュートラルについても知っておこう
カーボンニュートラルとは、CO2の排出量を実質ゼロにすることです。
具体的には、CO2の排出量から植林などによるCO2の吸収量を差し引いた値をゼロにすることを意味しています。
日本でも様々な企業がカーボンニュートラルに取り組んでいます。
当社ではカーボンニュートラル実現のための強い味方となる「e-dash(https://e-dash.io/)」というサービスを開始しています。
e-dashはエネルギーの最適化からCO2削減までをトータルにサポートするため、カーボンニュートラル実現のためには心強いサービスです。
参照 : 環境省 脱炭素ポータル|カーボンニュートラルとは
参照 : e-dash|ホームページ
カーボンネガティブに取り組む必要性は?メリットも解説!
次に、カーボンネガティブに取り組む必要性と、カーボンネガティブのメリットについて見ていきましょう。
世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えることが長期目標
2015年にパリ協定で採択された世界共通の長期目標に、「2℃目標」と呼ばれるものがあります。
2℃目標は地球規模の課題である気候変動を解決するために定められたもので、「世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(引用 : 環境省 脱炭素ポータル|カーボンニュートラルとは)」を目標としています。
2℃目標と同時に、「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること(引用 : 環境省 脱炭素ポータル|カーボンニュートラルとは)」も世界共通の長期目標となりました。
これらの実現に向けて世界中の国々が様々な取り組みを行っており、その中にカーボンネガティブも含まれているのです。
日本は2050年までにカーボンニュートラルの実現を宣言
2020年10月、日本は2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言しました。
2050年カーボンニュートラルは並大抵の努力で実現できるものではなく、エネルギー・産業部門の構造転換などを大きく加速させる必要があります。
2050年カーボンニュートラル実現のためには、政府だけでなく企業も一丸となって努力しなければならないため、カーボンボジティブおよびカーボンニュートラルに多くの企業が取り組む必要があるのです。
引用 : 経済産業省|2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略
カーボンネガティブに取り組む3つのメリット
カーボンネガティブに取り組むメリットは以下の3つがあります。
・再エネ導入による光熱費・燃料費の低減
・企業の知名度および認知度の向上
・持続可能なビジネスモデルの構築
カーボンネガティブへの取り組みは、地球温暖化対策になるだけでなく企業側にもメリットがあるのです。
日本で注目を集めるカーボンネガティブの技術を紹介!
日本で注目を集めているカーボンネガティブの技術を3つ紹介します。
植林・再生林
日本では植林・再生林を実施しています。低コストで行うことができ、大きなエネルギー消費を伴わないという利点があります。
植林・再生林には、地域に適した品種を選択することがCO2固定化の効果や環境影響に重要です。草原や農地へ植林する際は、生態系への影響を始めとした効果に注意しなければなりません。
また、炭素固定速度を速める「スーパーツリー」の研究も進められています。
風化促進
風化促進は、玄武岩などケイ酸塩を含む岩石を粉砕・散布し、千年~万年スケールの自然の風化を人工的に促進する技術です。
必要面積が比較的少なく、CO2削減以外にも土壌改良などのメリットがあります。
大気中のCO2の炭酸塩化反応でCO2を吸収する原理のため、新規のブレークスルーが不要です。そのため、比較的早い段階で社会実装できる可能性があります。
ただし、新しい技術であるためCO2削減効果の検証が不十分であったり、CO2削減に必要なコストが高めであったりするなど懸念点も少なからず存在しています。
ブルーカーボン(ブルーリソース)
ブルーカーボンとは、海洋生物によって海中へ吸収された二酸化炭素由来の炭素です。
主な吸収源は「ブルーカーボンシンク」と呼ばれており、マングローブ・塩性湿地・海草の3つが該当します。
現時点で海藻はブルーカーボンシンクとされていませんが、ブルーカーボン吸収ポテンシャルは大型海藻がメインと考えられています。
日本は排他的経済水域が広く海岸線も長いため、ブル-カーボンに適しています。さらに日本は海藻の知見が深いため、国際的な期待度が高いです。
引用 : NEDO|技術戦略研究センター ネガティブエミッション技術(NETs)について
日本の企業が取り組んでいるカーボンネガティブの例を紹介!
日本の企業が取り組んでいるカーボンネガティブの例を3つ紹介します。
花王の取り組み
花王は2040年までにカーボンゼロ、2050年までにカーボンネガティブを実現することを目標としています。
2019年4月には「Kirei Lifestyle Plan」を策定し、脱炭素に貢献する活動として19の重点取り組みテーマを設定しました。
2021年には非化石電源由来であることの価値を「見える化」した証書の活用や、グループ最大の自家消費用太陽光発電設備の酒田工場への導入など、電力の再エネ化を主に進めました。
また、国内すべてのロジスティクス拠点55カ所・すみだ事業場・酒田工場において、使用電力の100%再エネ化も実現しています。
参照 : 花王|2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブ実現に向けた活動を加速
大成建設の取り組み
大成建設は、カーボンリサイクル・コンクリートを開発し、資源の有効利用と脱炭素化に取り組んでいます。
カーボンリサイクル・コンクリートはセメントの使用量が少ない点が特徴です。さらに、通常のコンクリートと同等の強度と施工性を保持しており、CO2排出量の削減が可能です。
カーボンリサイクル・コンクリートには4つのバリエーションがありますが、その中の「Carbon-Recycle」はセメントを全く使用していません。コンクリート内部にCO2を固定することで。カーボンネガティブを実現しています。
参照: 大成建設|大成建設のカーボンリサイクル・コンクリート
大林組の取り組み
大林組は「クリーンクリート」の技術をもとに、カーボンネガティブと廃棄物削減を実現する「クリーンクリートN」を開発しました。
クリーンクリートとは、製造時のCO2排出量を最大で80%削減することができるコンクリートを指します。
クリーンクリートNは、CO2を固定化した炭酸カルシウムを主成分とする粉体をクリーンクリートに混ぜ合わせたコンクリートです。混ぜ合わせる比率によって、CO2排出量を最大120%削減することができます。つまり、CO2排出量を実質ゼロを超えたマイナスにすることが可能です。2022年度中に鉄筋コンクリートの材料として利用することを目指しています。
参照 : 大林組|製造工程でのカーボンネガティブを実現する「クリーンクリートN」を開発
世界で取り組んでいるカーボンネガティブの例を紹介!
世界で取り組んでいるカーボンネガティブの例を3つ紹介します。
BECCS
BECCSは、バイオマス発電とCCSを組み合わせた技術です。CCSとは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、CO2を回収して貯蔵しておくことです。
バイオマス発電に利用される植物は、生きている際にCO2を取り込みます。植物が燃焼される際にはCO2 が発生しますが、植物の吸収したCO2の量と相殺されることで、実質的なCO2排出量はゼロとなります。そのCO2を回収して貯蔵することで、カーボンニュートラルを超えたカーボンネガティブを実現します。
参照:LCS|バイオマス混焼発電を用いた BECCS による 炭素排出量削減のライフサイクル評価
既に完成された技術であるCCSを利用しているため削減効果の検証が容易であること、永久貯留が可能な点が主なメリットです。
まだ本格的な稼働には至っていませんが、欧米では大規模プラント建設計画が進んでおり、2021年時点で複数のBECCSが北米で稼働しています。
DACCS
DACCSは、工学的プロセス(DAC)で回収した大気中のCO2を貯留することでネガティブエミッションを実現している技術です。
欧州や米国、カナダなどで実用化に向けて研究が進んでいます。
CO2の回収に熱や電気など多くのエネルギーを消費するためコストが高く、エネルギー消費削減が必須となっています。
引用 : NEDO|技術戦略研究センター ネガティブエミッション技術(NETs)について
ブリュードッグ
世界最大のクラフトビールメーカー「ブリュードッグ」は、2020年8月にカーボンネガティブの実現に取り組むことを発表しました。これはビール業界では初の出来事です。
ブリュードッグはカーボンネガティブ達成への取り組みとして、「醸造所とイギリスのバーを風力発電化すること」、「車両の電動化に投資すること」、「使用済み穀物をグリーンガスに変換すること」などを行っています。
さらに、スコットランドの高地に2021年初頭から数年間で100万本の木を植える計画を立てており、毎年排出される量の2倍の炭素を大気から除去すると2020年に発表しています。
カーボンネガティブの流れは急速に拡大する
今回の記事では、カーボンネガティブとカーボンポジティブの違いや、日本の企業や世界が取り組んでいるカーボンネガティブについて事例を紹介しながら解説しました。
カーボンネガティブの流れは日本のみならず世界中で急速に拡大しています。
カーボンネガティブについての理解を深め、脱炭素社会の実現へ向けて出来る限りの貢献をしていきましょう。