脱炭素社会の実現に向けて、取り組むべき課題はたくさんあります。ガソリン車から電気自動車への転換もその一つです。CO2を出さないため、環境負荷がかからない電気自動車ですが、普及に向けてはさまざまな課題があります。
日本でも普及率が伸び悩んでいますが、中国ではさまざまな政策により、電気自動車を中心とした新エネルギー車が普及し始めています。本記事では、中国の電気自動車の現状について解説します。
目次
電気自動車とは?
電気自動車とは、ガソリンではなく電気をエネルギー源とし、電気モーターを駆動して走行する車のことです。電気自動車にはさまざまなタイプがあります。大きく分けると、バッテリーから電力を得る電池式と、電力を外部から得る架線式に分けられますが、電池式が一般的です。
電池式電気自動車は、外部からの電力供給によって車に搭載した電池を充電し、モーターを駆動させます。次世代モビリティとして、最先端のイメージがある電気自動車ですが、実はガソリン車より歴史は古く、初めて実用的なモデルが登場したのは1873年です。しかし、当時の技術では充電ができず、電池は使い捨てでした。やがて、技術開発が進んだガソリン車が主流となり、電気自動車は姿を消しました。
2000年代になると、劣化が少ないリチウムイオンバッテリーの開発により、電気自動車は飛躍的な進化を遂げて再登場します。電池の小型化かつ大容量の動力が得られたことで、ついに電気自動車の実用化が実現しました。
電気自動車には、エンジンで発電機を回し、航続距離を延ばすタイプもあります。レンジエクステンダーEVと呼ばれるもので、プラグインハイブリッドカー(PHEV)に分類され、構造は電気自動車(EV= Electric Vehicle)と同じです。
ガソリン車との違い
ガソリン車はガソリンを燃焼させてエンジンを動かすため、振動や騒音、排気ガスが発生します。一方、電気自動車はモーターを電気で動かすため、低振動、低騒音の快適な乗り心地が特徴です。ガソリン車には給油口と燃料タンク、エンジンが装備されていますが、電気自動車にはそれらはありません。代わりに充電口とバッテリー、モーターが装備されています。エンジンなどの大きなパーツがないため、デザインの自由度が高くなるのも電気自動車の魅力です。
新エネルギー車とは?
中国では、電気自動車をはじめとする環境性能が高い自動車を「新エネルギー車」と位置づけています。2016年には、2030年までに新車販売台数の40〜50%を「新エネルギー車」にするというロードマップを発表し、ガソリン車からの脱却へと舵を切りました。
発売当初は、なかなか販売台数が伸びなかった新エネルギー車でしたが、補助金などの優遇策や低価格帯の電気自動車の登場などにより、近年販売台数が増加し、目標達成の可能性が高まっています。
新エネルギー車は次の3種類に分類されます。
① 電気自動車(EV =Electric Vehicle):100%電気でモーターを回して走る車
② プラグインハイブリッド車(PHV =Plug-in Hybrid Vehicle):バッテリー駆動のモーターとガソリンエンジンの両方を搭載し、どちらでも走れる車
③ 燃料電池車(FCV =Fuel Cell Vehicle):水素と酸素の化学反応で発電した電気エネルギーでモーターを回して走る車
なお、新エネルギー車にはハイブリッド車(HV =Hybrid Vehicle)は含まれていません。
中国の電気自動車における政策
中国政府は、電気自動車を中心とした新エネルギー車の普及促進に向けて、さまざまな施策を打ち出しています。主な施策として、補助金、評価制度、登録ナンバーの取得優遇の3つが挙げられます。それぞれの施策の内容は下記の通りです。
自動車メーカーへの補助金
新エネルギー車は、国家主導のプロジェクトに指定され、2010年から購入する度に補助金が支給されるようになりました。支給額は車種や性能によって異なるものの、1台あたり60〜70万円ほどの支給になることもあります。
補助金は政府から自動車メーカーに支給され、購入者は補助金還元により新エネルギー車を低価格で購入できるという仕組みです。しかし、新エネルギー車の市場拡大を牽引してきた補助金ですが、2016年度に補助金の減額が行われ、2022年度を最後に終了することが決まっています。
自動車メーカーに対する評価制度
「ダブルクレジット(双積分)」と呼ばれる、自動車メーカーに対する一種の評価制度も導入されています。これは、自動車メーカーに平均燃費の向上と、新エネルギー車生産の目標値を設定し、目標をクリアできればプラス、できなければマイナスのクレジットを課すというものです。米国のカリフォルニア州で実施されている「ZEV(Zero Emission Vehicle)規制」をモデルに作られ、2017年に実施されました。
この制度下でクレジットがマイナスになる可能性が高い企業は、ガソリン車を多く製造、販売してきたメーカーです。これらのメーカーは、プラスのクレジットを稼ぐために、ガソリン車と同時に新エネルギー車も開発するか、新エネルギー車の生産が多い企業からクレジットを購入することになります。
登録ナンバーの取得の優遇
中国の大都市は、深刻な交通渋滞と大気汚染対策のため、月ごとに取得可能な自動車のナンバー数を厳格に制限しています。取得システムは都市によって異なりますが、上海市の場合は入札制で、平均落札価格は日本円にすると270万円以上です。上海では、新たに車を所有するためには、購入費以外に高額のナンバー取得費用を用意しなければなりません。
しかし、新エネルギー車はこの制限が免除され、新エネルギー車専用の「グリーンナンバー」を優先的に入手できます。グリーンナンバーには、都市によって混雑時間帯などに設けられている乗り入れ制限区域への通行が可能になるというメリットもあります。
中国が「新エネルギー車」の普及に力を入れる理由
中国はなぜ国を挙げて、新エネルギー車の普及に力を入れているのでしょうか。主な理由は3つあります。
1つ目は、環境問題です。現在、世界最大のCO2排出国である中国ですが、習近平国家主席は2020年9月の国連総会において、「国内のCO2排出量を2060年までに実質ゼロにする」と表明しました。
2つ目が、エネルギー安全保障の観点です。中国では経済成長に伴い石油の需要が拡大し、現在は石油の輸入超過が続いています。車のエネルギー源を石油から電気にシフトすることによってエネルギーの石油依存率を下げられます。
3つ目が、技術的な競争力の問題です。中国には100社以上の自動車メーカーがあり、今や世界的な自動車大国となりました。しかし、ガソリン車やディーゼル車などでは、日本やアメリカなどの技術に太刀打ちすることができませんでした。その一方で、新技術である新エネルギー車であれば、技術開発に対して集中的に投資を行い、中国市場の規模を生かし、技術力で競争することが可能です。
中国では、コロナをきっかけに電気自動車が売れ始めた
コロナ前、中国の新エネルギー車市場は好調とは言えない状況でした。自動車市場では、2017年をピークに販売台数が下降し、新エネルギー車も2019年は前年割れになりました。しかしそのような状況から、コロナ渦をきっかけに突如として電気自動車が売れ始めました。
この現象の背景にはいくつかの要因が考えられます。中国では、コロナ終息後も長距離移動に制限がかけられたことで、移動が同一省内などの近距離に限定されました。これにより、航続距離がネックとなっていた電気自動車の欠点が打ち消されました。また、車の方が公共交通機関を利用するよりも感染リスクが低いこと、電気自動車の車種が増えて選択の幅が広がったことなども好調な売れ行きの要因になったと考えられます。
電気自動車への不満は、ガソリン車と比較するから出てくる?
中国で販売台数が急増している電気自動車ですが、購入者からは不満の声もあります。主な問題点は次の3点に集約されます。
① 充電時間の長さ
② 航続距離の短さ
③ 資産価値の低下の早さ
これらはいずれもガソリン車との比較によるものですが、電気自動車とガソリン車は全く異なる原理で動くものです。それぞれ独自の長所と短所があるので、用途に応じて使い分けるなど、それぞれの長所を活用するのが合理的です。
実は電気自動車関連の価格は低コスト!
電気自動車には環境性能以外にもさまざまな強みがあります。電気自動車は車の機構がシンプルで、ガソリン車に比べて部品も少なく、製造が容易です。そのため従来の自動車メーカー以外からの新規参入もしやすく、これまでになかった全く新しい発想の車ができる可能性があります。
さらに、ガソリン車に比べると1㎞あたりの走行コスト(電気代)は格段に低く、メンテナンスが楽で維持費も安くなります。電気自動車には、こうした強みを最大限に生かし、日常使いできる便利な移動手段になっていくことが期待されています。
ガソリン車と同様、そして超える性能に
電気自動車がさらにユーザーを獲得していくために必要なことは、既存のガソリン車と同等かそれ以上の性能と付加価値です。そのためには、航続距離の確保はもちろんのこと、電気自動車ならではの特性を生かした魅力を前面に出してアピールすることも必要です。さらに、電気自動車がより普及していくためには、一般の人が購入、使用しやすい車であることも重要になります。
中国自動車メーカー「BYD」が日本の乗用車市場に参入
日本はこれまで、自動車市場において圧倒的な存在感を見せつけてきました。しかし、その日本市場に、中国の自動車メーカーが電気自動車で参入することになりました。
既に日本でも事業展開をしている中国の自動車メーカーBYDは、2023年1月から3台の電気自動車を順次発売することを発表しました。3台の内、最初に発売されるのがSUVの「ATTO3」で、続いてコンパクトハッチバック「DOLPHIN」、最後にセダン「SEAL」です。
BYDが日本市場に参入を決めた理由として、日本政府が2035年以降の新車販売を100%電動化とすることを掲げたものの、電気自動車の販売が伸び悩んでいることがあります。BYDはその要因を分析したうえで、日本市場での勝算を立てています。実際に、日本に投入される3台はいずれも走行性能からデザイン性に至るまで、日本メーカーの電気自動車に比較しても遜色なく、十分選択肢の一つになりえそうです。
「BYD」が考える4つの参入障害
BYDは自社の調査から日本で電気自動車が伸び悩む要因は、「価格」「充電設備」「航続距離」「ラインナップ」の4つと捉えています。日本市場への参入するにあたり、これらの対策はしっかり講じてくるでしょう。
ただし、この問題さえクリアできれば、日本のユーザーに受け入れられるかというと、必ずしもそうとは限りません。購入の際には、アフターサービスや下取り価格、安全性能への信頼性だけでなく、中国製品への信頼性やブランドイメージも重要です。
これからの中国の電気自動車市場に、さらに期待が高まる
排出ガスを出さない電気自動車は、脱炭素社会の実現に向けて大きく貢献します。国際社会でも深刻な大気汚染が問題視されている中国ですが、さまざまな政策により、電気自動車を中心とした新エネルギー車が普及し始め、大気汚染も改善しつつある状況です。
また、中国の電気自動車メーカーは日本市場への参入を決めており、自動車産業の競争がさらに加速することが予測されるため期待感が高まっています。
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