バーチャルPPAとは、 再生可能エネルギー電力の環境価値だけをオンライン上で取引する仕組みのことです。
実際の電力供給を伴わないことで環境保全にも活用できるこの仕組みは、海外ではすでに主流となりつつあります。今回は、そんなバーチャルPPAの特徴やメリット、海外での事例についてご紹介していきます。
目次
バーチャル(ヴァーチャル)PPAとは
バーチャルPPAとは、再生可能エネルギー電力を実際に供給するのではなく、そこに含まれる 環境価値だけを供給することです。
実際の電力を取引に伴わないことから、バーチャルPPA(仮想の電力購入契約)と呼ばれています。ここでは、その仕組みや特徴などについて解説していきます。
PPAとは?再生可能エネルギーを購入する新たな手段
PPA(Power Purchase Agreement)は、日本語で「電力購入契約」を意味しています。
これは、電力購入者(通常は企業)と発電事業者が直接契約を結ぶ形態で、特に再生可能エネルギーの分野で注目されています。
電力購入者は、安定した電力を供給や購入が可能なため、エネルギーコストの安定化や、CO2排出量の削減といったメリットがあります。
発電事業者は、安定した売上げが見込めるため、事業リスクが低減します。
バーチャルPPAの仕組みと特徴
バーチャルPPAの特徴のひとつが、需要家が電力の取引に関わらないことです。
そのため、従来の電力契約をそのまま維持することができます。また、環境価値を「非化石証書」で直接取引する場合は、小売り電気事業者を契約に介在させることもありません。さらに、事業拠点ごとに契約する必要がなく、複数の事業拠点が使用する電力の環境価値をまとめて取得することもできます。
さらに、もう1点バーチャルPPAで特徴的なのが、発電事業者に支払う金額が変動することです。需要家は、固定価格と市場価格の差額を調整した額を支払います。
バーチャルPPAとフィジカルPPA
バーチャルPPAとフィジカルPPAの意味や、違いについて解説します。
フィジカルPPAとは
発電事業者と電力購入者が直接契約を結び、一定期間にわたり安定した価格で電力を供給・購入する仕組みを指します。
再生可能エネルギーの普及を目指す企業にとって、物理的に電力を流通するフィジカルPPAは、CO2排出量の削減やコスト管理で有用です。
この仕組みを利用することで、持続可能な社会の実現に取り組むことができます。
バーチャルPPAとフィジカルPPAの違い
上記の通り、フィジカルPPAでは、電力を物理的に直接供給・購入する一方、バーチャルPPAでは実際の電力供給はなく、電力の価格差を清算する金融取引が主です。
つまり、バーチャルPPAは価格保証とリスクマネジメントに重きを置いています。どちらを選択するかは、企業の状況や目的によります。
バーチャルPPAのメリット
バーチャルPPAの取引はすべてオンライン上 で行われます。バーチャルPPAはフィジカルPPAと違い、実際の電力を動かすことなく環境価値を供給できるのが大きな特徴です。
この特徴をいかすことでコストの削減やイメージの向上など、利用する企業に大きなメリットをもたらすことができます。
ここでは、バーチャルPPAを利用することで得られるメリットについて解説していきます。
電力の調達先を変える必要がない
バーチャルPPAを利用すると、電力の調達先を変えずに再生可能エネルギーの導入を示す環境価値を取得することができます。そのため、発電事業者が電力を販売できないような地域に需要家の拠点が移転したとしても、電力の調達先を変更する必要はありません。
さらに、需要家の拠点がどこにあっても、自然エネルギーが豊富な場所や、発電コストの低い地域を電力の調達先に選ぶことができます。
拠点によって電力の調達先を変更するのではなく、どの拠点にいてもひとつの電力調達先を利用し続けられるため、移転や移動に伴うさまざまな手間を省くことができるのは大きなメリットのひとつです。
コストの削減につながる
例えば太陽光発電を運用する場合、バーチャルPPAを利用すれば再生可能エネルギーの導入を示す環境価値のみを取得することになります。
そのため、太陽光発電導入の設備投資や土地の取得費用だけでなく、点検や修理などのランニングコストの負担も発生することはありません。
フィジカルPPAや、PPA以外の方法を利用する場合は、太陽光発電設備を設置するための敷地を確保して太陽光発電所を設置する必要があります。コスト面からみても、これはかなりの負担となりますので、バーチャルPPAを利用するメリットと言えるでしょう。
環境配慮による企業好感度の向上
環境保全への取り組みによる社会貢献が企業に求められる現代において、企業が環境に配慮していることに注視する投資家や顧客は少なくありません。
バーチャルPPAを利用することは、環境に配慮していることを社会的にアピールでき、企業好感度の向上やESG投資の促進につなげるという側面でも効果を発揮します。
バーチャルPPAはオンライン上の取引なので、フィジカルPPAを利用するよりも化石燃料の使用を抑えることが可能です。
また、オンラインであるがゆえに、企業がどのプロジェクトに投資したのかが明確になります。そのため、顧客や投資家に自社事業の効果を伝えることができ、ひいては企業好感度の向上にもつながります。
バーチャルPPAの事例
海外ではすでに大企業がバーチャルPPAを活用することで、CO2排出量削減などの環境保全への取り組みを実現しています。
ここでは、Appleやマクドナルド、トヨタといった世界的に有名な大企業の取り組みについてご紹介していきます。
Apple
アメリカ合衆国の多国籍テクノロジー企業Appleも、バーチャルPPAを活用している企業のひとつです。
企業が再生可能エネルギーの活用を増やそうとする場合、バーチャルPPAを利用することで企業の拠点内に再生可能エネルギーの供給元がなくても、離れた場所で開発・運営されている再生可能エネルギーの発電所から電力を購入することが可能になります。
需要と供給がうまくマッチングしたこの取引手法で、Appleはアメリカ合衆国内の事業所の消費電力を100%再生可能エネルギー電力とすることに成功しています。
マクドナルド
世界最大の外食チェーン、アメリカ合衆国のマクドナルドも再生可能エネルギーへの取り組みを拡大している企業のひとつです。
マクドナルドでは、2018年に温室効果ガス削減の取り組みについてグローバルコミットメントを発表しました。直営店舗やオフィスだけでなく、全フランチャイズ店舗も含めたサプライチェーン全体でのCO2排出量削減を目指していますが、目標達成のための取り組みのひとつが再生可能エネルギー電源とのバーチャルPPAの締結です。
2019年には風力発電所のAviatorや太陽光発電のサムソン・ソーラー・エネルギー・センターと長期のバーチャルPPAを締結するなどして、1GWを超える再生可能エネルギーの調達に成功しました。
Toyota Motor North America(TMNA)
トヨタ自動車の北米統括会社Toyota Motor North America(以下TMNA)でも、バーチャルPPAを活用して環境保全への取り組みを行っています。
TMNAでは、バーチャルPPAを活用することで再生可能エネルギーの使用量を増やし、化石燃料の使用量を削減に成功しました。これにより、地域の電力網において持続可能性を改善することに貢献しています。
さらに、再生可能エネルギーの発電事業者には資金の供給を行い、これにより得たクレジットで北米事業のCO2排出量を相殺し、最大40%まで削減するという取り組みにも着手しています。
バーチャルPPAの課題と実現に向けた取り組み
海外と比べて日本ではバーチャルPPAの導入が進んでおらず、事例もありません。その最大の要因は、現在の日本の制度にあります。
日本では、国に登録した小売電気事業者しか個人や企業に電力を販売することができません。そこで経済産業省は、日本でもバーチャルPPAを導入するための有識者会議を開催。2021年に、制度改革を検討するという方向性を示しました。
具体的には、国内ですでに仕組みがある「非FIT証書」(電力が再生可能エネルギーに由来することを証明する非化石証書)を応用するというものです。一定の要件を満たせば、再生可能エネルギー発電事業者と需要家の間で「非FIT証書」の直接取引ができるという仕組みが検討されました。
新制度に対する具体的な提案も上がっており、日本でのバーチャルPPA導入の早期実現が待望されています。
日本でのバーチャルPPAの動きに注目が高まる
海外では、大企業も環境保全への取り組みに活用しているバーチャルPPAですが、日本ではまだ導入が進んでいません。しかしながら導入が実現すれば、一気に普及が拡大されることも期待されています。
環境保全への取り組みを加速する新たなプランとなりうる、日本のバーチャルPPAの今後の動きに注目していきましょう。
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