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CBAM(炭素国境調整措置)は、欧州連合(EU)の脱炭素政策の一環として注目されており、2026年の本格導入に向けて企業の対応が求められます。2025年1月には、認可申告者の申請などが開始されました。本記事では、CBAMの仕組みや導入背景、日本企業への影響までわかりやすく解説します。
目次
CBAM(炭素国境調整措置)とは?

CBAMは「Carbon Border Adjustment Mechanism(炭素国境調整措置)」の略称で、EU域外から輸入される一部製品に対し、EU域内の炭素価格との差額分の支払いを課す制度です。たとえば、炭素価格が安い国で生産された鉄鋼をEUに輸出する場合、その差額分の負担が求められます。
なお、炭素価格とは「CO2排出量に値段をつける」カーボンプライシングによって定められた価格です。
この制度の主な目的は、カーボンリーケージ(炭素漏出)の防止です。企業が規制の緩い国へ生産拠点を移すことを抑制し、地球規模での脱炭素を促進する狙いがあります。また、環境負荷の高い製品が価格競争で優位になってしまう状況を是正し、EU域内産業との公平な競争環境を保つという意義もあります。
EUの排出量取引制度(EU-ETS)との違い
項目 | 排出量取引制度(EU-ETS) | 炭素国境調整措置(CBAM) |
---|---|---|
対象 | EU域内の特定産業施設 | EU域外からの輸入品 |
方法 | 排出量上限の設定と排出枠の配分 | 国内外の炭素価格差額の調整 |
目的 | 域内産業のカーボンリーケージ防止 | 国際的な公平な競争環境の確保 |
インセンティブ | 環境投資のインセンティブが弱い場合も | 排出量削減への直接的なインセンティブ |
今後の展開 | 2026年から無償配分を段階的に削減 | 2026年から本格適用、2034年に完全移行 |
EUにおける排出量取引制度(EU-ETS)は、特定の産業施設に排出上限を設定し、排出枠の売買を通じてCO2削減を促す仕組みです。脱炭素投資を後押しする一方で、無償割当が多いと効果が弱まる懸念があります。
CBAMとEU-ETSはいずれもカーボンリーケージ対策ですが、CBAMは国境を越えた輸入品への調整措置である点が異なります。
EUがCBAMを導入した背景
CBAM導入の背景には、EUが他国に先駆けて厳しい環境規制を実施してきたことによるカーボンリーケージへの懸念があります。
とくに鉄鋼分野では、カーボンプライシングを導入していないロシアやウクライナなどからの安価な輸入品が増加し、EU企業の競争力が低下する状況が問題視されていました。
従来、EUは自国企業への配慮として排出枠の無償配分を行ってきましたが、この措置が段階的に縮小されるなかで、公平な競争環境を保つ新たな仕組みとしてCBAMが導入されました。
CBAMの対象範囲
項目 | 内容 |
---|---|
対象国 | 一部の国・地域を除いたEU域外の全ての国 |
対象事業者 | 対象製品を輸入するEU域内の事業者 |
対象製品 | 鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素の6分野で、今後範囲が拡大する可能性あり |
CBAMは段階的に導入が進められており、まずはCO2排出量の多い特定の産業分野が対象です。ここでは、CBAMの対象となる国や事業者、製品について解説します。
参考:ジェトロ(日本貿易振興機構)「EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)」
対象となる国
CBAMの対象は、EU域外からのほとんどすべての輸入品であり、日本を含む多くの国が該当します。一方で、以下2つの条件を満たす場合は、CBAMの適用対象外とされています。
■CBAMの適用対象外となる条件 ・その国または地域がEU-ETSに参加している、あるいはEU-ETSと完全に連結された排出量取引制度を導入することで合意していること ・対象製品に含まれる炭素排出量に対して、原産国で炭素価格が実効的に課されており、かつ提供される還付金の水準がEU-ETSで認められる範囲内であること |
現在、ノルウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタインなどがこの条件に該当し、CBAMの適用から除外されています。今後は東南アジア諸国などでもCBAMに類似した制度が導入される可能性があり、国際的な動向への注視が求められます。
■ポイント 日本もCBAMの対象国である |
対象となる事業者
CBAMの直接的な対象は、EU域外から対象製品を輸入するEU域内の事業者です。これらの事業者は「認可CBAM申告者」として登録し、輸入製品の排出量や支払済みの炭素価格を記載した申告書を年1回提出する義務があります。
EU域外の生産者は直接の対象ではありませんが、輸入業者から排出量データの提供を求められるケースがあるため、対応が必要となる可能性があります。
■ポイント EU域内の輸入業者が直接的な対象であるが、EU域内への輸出時にGHG排出量のデータが求められる可能性があるので注意が必要 |
対象となる製品
CBAMの対象製品は、カーボンリーケージのリスクが高いとされるセメント、鉄鋼、アルミニウム、肥料、電気、水素などが初期段階で指定されています。これらはCO2排出量が多く、国際価格競争の影響を受けやすい製品です。
今後、欧州委員会は適用範囲を拡大し、川下製品や一部の化学品などへの対象拡大も視野に入れており、幅広い業種への影響が見込まれています。
■ポイント 対象製品が拡大される可能性があり、CBAMに追加された場合は速やかな対応が求められるので早めの準備が大切 |
なお、対象となる製品であっても原産国で支払われる炭素価格が対象製品の体化排出量に対して実効的に課されており、提供される還付金がEU-ETSに従って適用される額を超えない場合はCBAMの対象外となります。
CBAMにおける体化排出量の算出方法
体化排出量とは、製品の生産に伴って発生する温室効果ガス(GHG)の排出量のことです。体化排出量の計算方法は、電力とそれ以外で異なります。ここでは、それ以外の製品における計算方法を見ていきましょう。
実際の排出量に基づいて算出する

出典:ジェトロ(日本貿易振興機構)「EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)」をもとに作成
CBAMでは、製品の製造過程で実際に発生したCO2排出量をデータとして提出し、その数値をもとに炭素コストが算出されます。自社の排出データを正確に報告することで、過大な排出量とみなされるリスクを避けるとともに、適正なコスト負担が可能です。
デフォルト値を使用して算出する
CBAMでは、実際の排出量データを提出できない場合、EUが定めた「デフォルト値」に基づいて炭素コストが算出されます。この方法は排出量データがなくても対応できる点がメリットですが、実際のCO2排出量が少ない場合でも多くの費用を負担する可能性があるため注意が必要です。
CBAMの本格導入は2026年から
期間 | 内容 |
---|---|
2023年10月1日 ~ 2025年12月31日 | 移行期間:輸入業者は四半期ごとにCBAMレポートを提出。財務的な調整は不要。 |
2026年以降 | 本格導入:CBAM証明書の購入と提出が義務化され、輸入品の炭素排出量に基づくコストが適用。 |
CBAMは2023年10月から2025年末までを移行期間としています。この間は報告義務のみで課金は発生しません。2025年1月には、認可申告者の申請および管轄当局による認可が開始されました。
2026年1月からCBAMの本格適用が開始され、EU-ETSの無償排出割当が徐々に削減されていきます。さらに、2034年にはEU-ETSの無償割当が完全に廃止され、CBAMに完全移行する計画です。
CBAMが日本企業へもたらす影響
現時点では、CBAMの対象となっている鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料などの品目に関して、日本からEUへの輸出量は限定的であるため、直接的な影響は比較的小さいとされています。しかし、今後CBAMの適用対象が有機化学品やポリマー、さらに鉄鋼・アルミニウムを用いた川下製品に拡大された場合、日本の輸出産業への影響は大きくなる可能性があります。
2023年における日本の対EU輸出量では、自動車を含む輸送用機器が28.2%、一般機械が21.4%、電気機器が15.8%を占めている(※)ため、これらの分野では注意が必要です。とくに、自動車や機械・電気機器などEU向け輸出の多い分野は注意すべきでしょう。
また、国内での価格競争の激化リスクもあり、大企業にとどまらずサプライチェーン全体を通じて中小企業にも波及する恐れがあるため、早期の対応が求められます。
(※)出典:外務省「日EU経済関係資料」
CBAMに対して日本企業が求められる対応

CBAMの本格適用では、日本企業にはどのような対応が求められるのでしょうか。ここでは、具体的な対策を解説します。
EU域内で輸入に関わる日本企業
2026年からCBAMが本格適用されると、EU域内で対象製品を輸入する企業にはCBAM証書の購入が義務づけられます。報告義務を怠ると1トンあたり最大50ユーロの罰金が科される仕組みです。日本企業も、自社の輸入品が対象に該当するかを確認し、制度の拡大や詳細決定の動向を注視する必要があります。
【具体的な対策】 ・CBAM担当責任者の明確化とシステム構築による社内体制整備 ・2026年までに外部検証を依頼できる第三者検証機関の確保 ・体化排出量の把握とサプライチェーンの見直し ・本格導入に伴うコスト影響の事前算定 |
EU域外の日本の生産者
EU域外の日本の生産者も、今後CBAMの影響を受ける可能性があります。EU向け輸出時には、輸入業者から製品の排出量データの提供を求められることがあり、今後は対象品目の拡大も見込まれるでしょう。自社製品がCBAM対象に該当するかを確認し、制度の動向を継続的に把握しておくことが重要です。
【具体的な対策】 ・日本で支払った炭素価格の控除対象となる証明書類の確保 ・製品ごとの体化排出量を把握する体制の構築 ・排出量モニタリングシステムの導入検討 ・製造プロセスの改善や低炭素技術への投資による排出量削減 |
CBAMに対応するにはCO2排出量の可視化が大切!
CBAMでは、輸出製品の製造時に排出されたCO2排出量を報告しなければなりません。企業は、CBAMの対象品目の拡大に備えて、CO2排出量の可視化と報告体制を整備していくことが重要です。
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