
GRIは、企業によるサステナビリティ情報の開示を促進する国際的な非営利団体です。このGRIが策定した開示基準「GRIスタンダード」は、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する企業活動の影響を、包括的かつ透明性をもって報告するための枠組みとして、グローバルに活用されています。本記事では、GRIスタンダードの概要と構成、活用の手順について、実務に直結する視点で解説します。
目次
GRI(Global Reporting Initiative)とは

GRI(Global Reporting Initiative)とは、サステナビリティに関する国際基準の策定を行う国際的な非営利組織です。1997年にアメリカのボストンで設立され、現在の本部はオランダのアムステルダムにあります。
世界各地にネットワークを構築しており、サステナビリティ情報開示について最も古い歴史を持つ団体のひとつです。企業などが、環境への影響に責任を持てるよう支援する役割を担っています。
GRIは、GRIスタンダードと呼ばれるフレームワークを策定し、その使用を推進しています。
■サステナビリティレポートとは? サステナビリティレポートとは、企業が社会に向けて、自社のサステナビリティに関する取り組みを開示する報告書のことです。主にESG(環境・社会・ガバナンス)と呼ばれる3つの観点について、取り組み内容と結果を公開します。この際に、フレームワークとしてGRIスタンダードを活用することで、信頼性の高いレポートを作成できます。 |
GRIスタンダードとは
GRIスタンダードとは、GRIが策定するサステナビリティレポートのフレームワークです。当初はGRIガイドラインでしたが、それに代わり2016年にGRIスタンダードが公表されました。
現在では、世界で最も広く使用されているサステナビリティ報告基準であり、100か国以上の約14,000の組織で使用されています。一部の証券取引所では、GRIスタンダードの参照や報告を上場企業に推奨しており、他のサステナビリティ基準の策定にも影響を与えています。
企業が、経済、環境、人々への影響を理解し、報告することを可能にして、持続可能な開発への貢献に関する透明性を高めます。企業だけでなく、投資家、政策立案者など多くのステークホルダーにとって非常に重要な意味を持っています。
GRIスタンダードの目的
GRIスタンダードの目的は、企業や組織が社会・環境・経済に与える影響を明らかにし、持続可能な発展にどう貢献しているか、またはどのように貢献しようとしているかを示すことで、透明性を確保することです。情報開示により、確かな情報に基づいて自社の取り組みを理解し、より良い意思決定につなげることが可能になります。
GRIスタンダードは、企業の行動を一律に評価することではなく、その透明性と説明責任能力を高めることに重点を置いています。
日本におけるGRIスタンダード導入の歩み
日本におけるGRIスタンダードの導入は、企業や社会のサステナビリティへの関心の高まりを背景に、徐々に広がってきました。
政府はGRIを参照にしたサステナビリティ情報開示を推進しています。たとえば、環境省の「環境報告ガイドライン」(2018年)はGRIを参照して開発されました。
また、SSBJは、2024年3月に公表したサステナビリティ開示基準の草案においてGRIを参照する可能性について言及しています。こうした流れを受け、日本の時価総額上位100社の多くがGRIスタンダードを採用しています。
GRIスタンダードとSASBスタンダードの違い
SASBスタンダードとは、SASB(サステナビリティ会計基準審議会)が開発した、企業のESG情報開示のためのフレームワークです。企業は目的に応じて両方の基準ごとのレポートを作成または両方を参照する場合もあります。
GRIスタンダードとSASBスタンダードは、どちらも企業のサステナビリティに関する透明性を高めるのに重要な役割を果たしていますが、その焦点やアプローチには下記のような違いがあります。
GRIスタンダード | SASBスタンダード |
・幅広いステークホルダー向き ・社会全体としてサステナビリティを目指す ・開示項目は社会へのインパクトを重視 | ・投資家や金融市場向き ・企業のサステナビリティを目指す ・開示項目は企業財務へのインパクトを重視 |
GRIは社会全体に与える広範な影響を評価しており、SASBは企業財務への影響に特化しています。
日本国内ではGRIスタンダードとSASBスタンダード両方を参照した独自の基準を策定しています。
GRIスタンダードの構成

GRIスタンダードは、「共通スタンダード」「セクター別スタンダード」「項目別スタンダード」の3つで構成されています。それぞれの内容について解説します。
共通スタンダード
共通スタンダードは、情報開示の際の重要な原則を示しており、GRIスタンダードの使用者すべてが開示すべき要求事項を規定するものです。GRI 1、GRI 2、GRI 3により構成されています。
GRI 1は、スタンダード全体の目的や体系、使用者、情報開示の原則および要求事項、定義用語など、スタンダード利用に必要な基本事項を解説しています。
GRI 2は、報告組織に関する開示事項を定めており、組織の概要、ガバナンス、戦略、方針、報告方法などについての情報開示を求めています。
GRI 3は、組織のマテリアルな項目に関する開示事項と手引きについて述べられています。マテリアルな項目を決定するプロセスやマテリアルな項目のリストについての解説です。
セクター別スタンダード
セクター別スタンダードは、産業別の開示基準を示しています。該当するセクターに属する企業は、そのセクター別スタンダードの使用が求められます。
日本版では「石油・ガス」「石炭」「農業・養殖業・漁業」「鉱業」が公開済みです。また、「繊維・アパレル」や「金融サービス」の各セクタースタンダードは現在開発中であり、今後、他の業種においても策定・公開が予定されています。
項目別スタンダード
項目別スタンダードは、企業が自社にとってマテリアルと特定した項目に関して、情報を開示する際の基準を示しています。以下のように、マテリアルな項目に関する具体的な情報を報告するときに従う要求事項を規定しています。
・生物多様性 ・経済パフォーマンス ・地域経済でのプレゼンス ・間接的な経済的インパクト ・調達慣行 ・腐敗防止 ・反競争的行為 ・税金 ・原材料 ・エネルギー ・水と廃水 など |
多様なテーマに対応しており、今後も更新されていきます。
GRIスタンダードの重要性
GRIスタンダードの重要性は、高まってきています。その背景には、世界的に環境問題が深刻化し、持続可能性への関心が高まる中で、企業には透明性ある情報開示が求められていることがあります。
GRIスタンダードは、企業の社会・経済・環境への影響を、共通の基準で開示できるようにする国際的な枠組みです。企業のサステナビリティ報告の信頼性が高まり、地域や産業を超えた比較がしやすくなります。開示対象が広く、最も包括的なサステナビリティ報告基準として世界中で利用されています。
企業がGRIスタンダードを導入する理由

企業がGRIスタンダードを導入する理由は、国内外において信頼性が高い、企業価値向上や競争優位性の確保が見込める、内部統制を強化できるという3点です。それぞれについて解説します。
国内外において信頼性が高い
GRIスタンダードは、世界中の多くの企業や組織によって採用されており、国際的に信頼性の高いサステナビリティ情報開示のフレームワークとして高く評価されています。
日本国内でもGRIスタンダードの信頼性は非常に高く、多くの大企業が採用しています。
企業価値向上や競争優位性の確保が見込める
GRIスタンダードを導入することで、企業はサステナビリティに関する情報の透明性と信頼性を高められます。加えて、ステークホルダーとの信頼関係を強化し、CSR(企業の社会的責任)とESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みの強化にも直結します。
透明性の高い報告により、投資家や社会からの信頼性が高まります。世界各国の多くの証券取引所もGRIスタンダードを参照または要求していることから、投資判断の有力な材料となる可能性も高まります。
結果として国際的に企業価値が向上し、競争優位性の確保が期待されます。
内部統制を強化できる
GRIスタンダードの導入は、内部統制の強化につながります。GRIスタンダードは、サステナビリティに関する取り組みの透明性と説明責任の質を高めることに重点を置いています。
そのため、GRIスタンダードを適用することで、結果として内部統制の強化にも寄与する可能性があります。
日本版サステナビリティ開示基準(SSBJ日本版S1・S2)にもGRIスタンダードは参照されています。GRIスタンダードを適用しておくことで、2027年に予定されている日本版サステナビリティ開示基準(SSBJ日本版S1・S2)の義務化に向けた実務対応の基盤づくりにもつながるでしょう。
GRIスタンダードを活用して企業の持続可能性への貢献を示そう!
サステナビリティレポートとは、企業が社会に向けて、自社のサステナビリティに関する取り組みを開示する報告書のことです。そのフレームワークとしてGRIスタンダードを活用することで、信頼性の高いレポートを作成できます。企業が、経済、環境、人々への影響を理解し、報告することを可能にして、持続可能な開発への貢献に関する透明性を高めます。
GRIスタンダードを活用したサステナビリティレポートの作成に取り組みたいとお考えのご担当者は、専門家に相談することをおすすめします。
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