製品の脱炭素やサプライチェーン管理の重要性が高まる中、経済産業省は「ウラノス・エコシステム」を推進しています。これは、環境・製品情報を企業間で安全かつ効率的に連携する産業横断型のデータスペース構築を目指す取り組みです。この記事では、ウラノス・エコシステムの仕組みや企業が取るべきアクションを解説します。
目次
ウラノス・エコシステムとは?
独立行政法人 情報処理推進機構「データスペースの推進」を基に作成
ウラノス・エコシステムとは、企業や業界、国境を越えたデータ連携の取り組みの総称です。経済産業省が2023年4月に命名したイニシアチブで、ギリシャ神話の天空の神「ウラノス(Ouranos)」に由来します。
この名称には、産学官のさまざまなプレイヤーが連携し、日本の産業全体を俯瞰できるデータ連携基盤を構築するという意味が込められています。データやサービスを適正な基準に基づいて安全かつ円滑にやり取りできる管理システムを、経済産業省が中心となり、関係省庁や独立行政法人情報処理推進機構(IPA)などが構築を進めています。
| ■エコシステムとは? エコシステムとは、元々「生態系」を意味する言葉です。ビジネス用語として使われる際は、企業や顧客をはじめとする多数の要素が集結し、分業と協業による共存共栄の関係を指します。 |
ウラノス・エコシステムの特徴
ウラノス・エコシステムの最大の特徴は、単なるデータ共有ではなく「システム連携」を目指している点です。政府が政策・制度を立案し、IPAが実装支援を担当します。
自前で全てのシステムを作るのではなく、各プラットフォームを組み合わせて利用する設計も特徴です。多くの業界団体や企業、研究機関などのステークホルダーが協力し、データ主権を守りながら必要な情報を安全に共有できる基盤を構築しています。
ウラノス・エコシステムが求められる4つの理由
ウラノス・エコシステムが注目される背景には、日本が直面する複数の社会課題があります。ここではウラノス・エコシステムに関連する4つの大きな理由を解説します。
深刻化する社会課題へ対応するため
ウラノス・エコシステムが求められる理由の一つに、「人流クライシス」「物流クライシス」「災害激甚化」という3つの危機への対応があります。
| 【3つの危機】 | |
| 人流クライシス | とくに中山間地域において、人口減少により人の移動手段が失われる問題 |
| 物流クライシス | ドライバー不足と働き方改革関連法による労働時間規制により、荷物の配送能力が低下する問題 |
| 災害激甚化 | 気候変動の影響により地震や豪雨、台風などの自然災害が大規模化・頻発化し、インフラや物流網が寸断されるリスクが高まっている問題 |
これらの危機に対応するには、位置情報、気象状況、電波状況、需要・供給データなど、業界を越えたデータ連携が不可欠です。たとえば、人流クライシスの解決には、複数の交通事業者のデータ統合、自動運転車両の運行データ、地域の需要データなどを組み合わせる必要があります。
ウラノス・エコシステムは、こうした複雑なデータ連携を実現する基盤となるでしょう。
国際的な法規制に対応するため
ウラノス・エコシステムが注目される背景には、国際的な法規制への対応があります。カーボンニュートラル実現に向けた社会的要請の高まりに加え、欧州など主要市場では製品の環境情報開示が一段と厳格化しています。
とくに欧州電池規則では、バッテリーのライフサイクル全体を対象に、CO2排出量(カーボンフットプリント:CFP)の算定・申告義務や、原材料調達・リサイクル材利用・トレーサビリティなどの要件が段階的に導入されています。
加えて、REACH規則をはじめとする化学物質管理の国際規制も強化が進んでおり、日本企業もグローバル市場を視野に入れたコンプライアンス体制の構築が求められています。
ウラノス・エコシステムを活用することで、サプライチェーン全体のデータ連携を通じて、これら複雑化する規制への対応を効率化することが可能です。結果として国際競争力の維持・向上につながるでしょう。
サプライチェーンを強靭化するため
ウラノス・エコシステムは契約から決済までの取引プロセスをデジタル化し、データ連携することでサプライチェーン全体を強靱化できます。従来は個別に交渉や契約を行っていた企業間取引を、標準化されたフォーマットで円滑に進められます。
サプライチェーンの可視化により、リスクの早期発見や迅速な対応が可能となります。また、調達の最適化や在庫管理の効率化にもつながり、企業の競争力強化に貢献するでしょう。
イノベーションを創出するため
ウラノス・エコシステムは、イノベーション創出の観点からも注目されています。企業の競争力に直結しない協調領域のデータを共有することで、各社が自社の強みである競争領域にリソースを集中できるためです。
協調領域とは、企業間で競争する必要がなく、共通で利用できる領域を指します。これらをシステム連携基盤上で共有すれば、全ての事業者が利用できるようになり、個別にシステムを構築するコストや手間を削減できます。
また、異なる業界の企業同士がデータを活用して協力することで、これまでにない新たなサービスやビジネスモデルの創出も期待されるでしょう。
ウラノス・エコシステムの具体的な取り組み
ウラノス・エコシステムでは、さまざまな産業分野でデータ連携の取り組みが進んでいます。とくにCFP算定やサプライチェーン管理において、先行事例が実用化されています。
自動車・蓄電池のカーボンフットプリント・トレーサビリティ
ウラノス・エコシステムの第1号実用事例として、自動車用蓄電池のCFPデータをサプライチェーン全体で共有できるサービスが2024年5月に開始されました。運営主体は「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(ABtC)」です。
ブロックチェーン技術により、電池メーカーの材料配合データなど機密情報を保護しながら、必要な相手にのみデータを共有できます。欧州電池規則のCFP開示義務化(2025年2月~)への対応にも活用されています。
商流・金流DX:サプライチェーンデータ連携基盤
企業間で行われる受発注や決済などの取引プロセスをデジタル化し、異なるシステム間でもデータをスムーズに共有できるようにする取り組みです。
これまで個別に管理されていた取引データ(いつ・誰から・何を調達したか)をサプライチェーン全体で連携させることで、業務効率化とトレーサビリティ(追跡可能性)の確保を実現します。 さらに、この取引データはCO2排出量の算定にも活用されます。調達した部品や原材料のデータが自動的に連携されるため、サプライチェーン全体の排出量(Scope 3)を効率的かつ正確に把握することが可能になります。
人流・物流DX:4次元時空間情報基盤(空間ID)
物流クライシスや災害激甚化への対応を目的とした取り組みです。位置情報、気象状況、電波状況などのデータを連携し、4次元(3次元空間+時間)でデータを管理する「空間ID」により、リアルタイムな情報共有を実現します。
人流・物流の最適化に貢献し、効率的な配送ルートの選定や災害時の迅速な対応を可能にするでしょう。
ウラノス・エコシステムに対して企業が取るべきアクション

ウラノス・エコシステムを自社のビジネスに活用するには、段階的なアプローチが有効です。まずは情報収集から始め、自社の課題との照合を経て、具体的な活用方法を検討しましょう。
1.情報収集と内容理解
まずは経済産業省、IPA、NEDOが公開している公式情報を確認し、自社の事業領域に関連する取り組みを把握しましょう。経済産業省のウェブサイトでは、ガイドライン、技術仕様、報告書、オープンソースソフトウェア(OSS)などが公開されています。
とくに自社が属する業界ですでに動きがある場合は、早期に情報をキャッチアップすることが重要です。業界団体からの情報発信にも注目し、先行事例を参考にするとよいでしょう。
2.自社の課題と照合
次に、自社が抱える課題(法規制対応、サプライチェーン管理、業務効率化など)とウラノス・エコシステムの取り組みを照合し、活用可能性を検討しましょう。とくに欧州電池規則やREACH規制などの法規制対応が必要な分野では、早期の対応が競争優位につながります。
サプライチェーンのトレーサビリティが求められる分野や、CO2排出量の可視化が必要な分野でも有効です。自社のビジネスモデルとの親和性を見極め、優先順位をつけて検討を進めましょう。
3.プラットフォーマーとの連携
最後に、プラットフォーマーとの連携を検討することで、実務での活用を具体化できます。たとえば、サプライチェーンデータの連携や、カーボンフットプリント算定用のデータ取得など、現場業務に直結する形での活用が期待されます。
また、ABtCなど業界の取り組みへの参加も検討に値します。現場業務に直結する形での活用が期待され、実務負担の軽減とデータ品質の向上を両立できるでしょう。
ウラノス・エコシステムが現状抱えている課題
ウラノス・エコシステムの実現には、データ規格・標準の策定と運営事業者の中立性担保が課題となっています。
データ連携には各データが特定の規格・標準に沿う必要があります。公共、準公共、産業の各分野におけるデジタル領域の基準・標準を策定する必要があり、この作業には相当の時間を要するでしょう。
また、データ連携基盤の運営事業者の中立性担保も重要な課題です。特定の企業が優位になるような運営では、多くの企業が参加しづらくなります。
海外との連携も大きな課題
海外のデータスペースとの相互運用性確保も重要な課題です。欧州のCatena-X、シンガポールのTrusted Data Sharing Framework(TDSF)、カナダのPan-Canadian Trust Framework(PCTF)など、世界各国でエコシステム構築が進行しています。
これらの海外システムとデータ連携を実現するには、国際標準との整合性を取りながら、日本独自の強みを活かした展開が求められます。
ウラノス・エコシステムが実現する未来
ウラノス・エコシステムは着実に実装が進んでおり、2024年5月にはABtCが蓄電池CFPデータ連携のサービス提供を開始しました。2025年度以降は、化学物質管理、鉄道、スマートビルなど多様な分野での展開が期待されています。
環境データ連携の面では、CFPやScope 3算定に必要なデータ連携が強化され、サプライチェーン全体での排出量可視化が効率化されます。これにより企業炭素経営を支えるデータ基盤として機能し、環境規制対応の効率化だけでなく、新たなビジネス機会の創出にもつながるでしょう。
最終的には、多様なステークホルダーがデータ連携によって新たな価値を創出し、環境規制対応とビジネス競争力強化を両立できる産業エコシステムが完成します。これが日本企業の国際競争力向上に貢献することが期待されます。
ウラノス・エコシステムに関するよくある質問
ウラノス・エコシステムについて、企業の担当者からよく寄せられる質問にお答えします。とくにCFP算定や国際規制対応に関する疑問を中心に解説します。
Q.CFP算定においてウラノス・エコシステムはどのように活用できる?
A.企業間でのデータ連携がスムーズになり、サプライヤーからのデータ収集効率化が期待できます。たとえばABtCの事例では、標準化されたフォーマットでのデータ集計により、欧州電池規則などの国際規制対応を円滑化しています。従来は個別に依頼していたデータ収集が、システム連携により大幅に効率化されます。
Q.欧州電池規則への対応でウラノス・エコシステムが果たす役割は?
A.欧州電池規則で導入が予定されているCFP開示義務に対応するため、サプライチェーン全体でCFPデータを安全に共有できる基盤を提供しています。ABtCがブロックチェーン技術により機密情報を保護しながらデータ連携を実現し、日本企業の国際規制対応を支援しています。
Q.ウラノス・エコシステムの構築にブロックチェーン技術はどのように関わっている?
A.ABtCの事例では、電池メーカーの材料配合データなど機密性の高いCFP関連データを、ブロックチェーン技術により暗号化して保護しています。データ所有者が共有先と内容を管理できる「データ主権」を確保し、改ざん防止と透明性を両立させています。
ウラノス・エコシステムでCFP算定の効率化と国際規制対応を実現
ウラノス・エコシステムは、企業や業界、国境を越えたデータ連携により、社会課題の解決とイノベーション創出を目指す取り組みです。とくにCFP算定においては、サプライチェーン全体でのデータ連携により、サプライヤーデータの取得効率化や欧州電池規則などの国際規制への迅速な対応が可能となります。
自動車・蓄電池業界のABtCをはじめとする先行事例では、ブロックチェーン技術を活用したデータ主権の確保と、標準化されたフォーマットでの効率的なデータ集計が実現されています。今後は多様な産業分野での展開が期待され、日本の産業構造そのものを変革する可能性を秘めています。
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以下資料では、CFP算定についてより詳細に解説しています。こちらもぜひ参考にしてください。
