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経営・戦略

グリーンファイナンスとは?種類やメリット、国内事例までわかりやすく解説

気候変動対策や脱炭素経営を進める企業が増える中、「グリーンファイナンス」は資金調達の新たな選択肢として注目を集めています。本記事では、グリーンファイナンスの基本概念やESG投資との違い、種類やメリット・デメリット、さらに日本国内での活用事例まで、最新情報を分かりやすく解説します。

グリーンファイナンスとは?

グリーンファイナンスとは?

グリーンファイナンスとは、環境改善や気候変動対策に資する事業・プロジェクトを対象に資金を供給する仕組みです。グリーンファイナンスの手法は、プロジェクト型/非プロジェクト型、ボンド(債券)/ローン(借入)に分類されます。調達された資金は、再エネ設備の導入、省エネ設備の更新、自然環境保全など、環境負荷低減に直結する取り組みに使用されます。

また、国や自治体、金融機関、企業など多様な主体が関与し、資金の流れを通じて持続可能な社会の実現を後押ししてきました。脱炭素社会の実現が急務となる中、環境価値を資本市場に取り込む重要な手段として注目されています。

グリーンファイナンスが注目される背景

近年、世界的な気候変動リスクの顕在化と、2015年のパリ協定に基づく温室効果ガス削減目標の達成に向けた取り組みが加速しています。企業には環境配慮型経営が求められ、投資家も環境・社会・ガバナンス(ESG)視点を重視する傾向が強まっています。

こうしたなかで、環境貢献と経済的リターンを両立できるグリーンファイナンスは、資金調達の新しい形として国内外で急速に普及が進んでいるのです。国や自治体の支援制度も整備され、利用環境が広がっています。

カーボンニュートラルについて詳しくはこちら

ESG投資・サステナブルファイナンスとの違い

グリーンファイナンスESG投資サステナブルファイナンス
概要環境改善活動に限定した、融資や投資などの金融手法投資家が、環境・社会・ガバナンスへの配慮を重視して投資先を選ぶ手法環境・社会・経済の持続可能性に貢献する、あらゆる投融資活動
目的環境問題の解決に貢献する投資リターンを安定させ、投資を通じた社会課題解決に貢献する持続可能な社会・経済システムへの移行を促進する
視点主に資金を調達する企業や自治体投資家金融システム全体
(政府、中央銀行、金融機関など)
関係性サステナブルファイナンスの環境に関わる手法のひとつサステナブルファイナンスを実現するアプローチのひとつESG投資やグリーンファイナンスを含む

グリーンファイナンスは、ESG投資やサステナブルファイナンスと混同されがちですが、その違いは主に「視点」と「範囲」にあります。

グリーンファイナンスは、環境分野に関する資金調達の仕組みであり、広義のサステナブルファイナンスの一部に位置づけられます。調達資金の使途は基本的に環境改善を目的にする活動であり、環境改善効果の直接的な確認が可能です。

一方ESG投資は、投資先を選定する際にESG要素を考慮する投資手法であり、資金の使途を直接的に限定しません。さらにサステナブルファイナンスは、環境、社会、ガバナンスを含む持続可能性全般に配慮した金融活動を指します。

グリーンファイナンスの主な4つの種類

グリーンファイナンスの種類
・グリーンボンド
・グリーンローン
・サステナビリティ・リンク・ボンド
・サステナビリティ・リンク・ローン

グリーンファイナンスには、どのような種類があるのでしょうか?ここでは、日本でも利用が広がっている4つの主要な資金調達手法について紹介します。

グリーンボンド

グリーンボンドは、環境改善を目的とする事業に資金使途を限定して発行される債券です。

発行体は国や自治体、企業など多岐にわたり、調達資金は再生可能エネルギー導入、省エネ設備更新、自然保護事業などの環境分野に限定されます。国際的なガイドラインに基づき、資金の使途や環境効果の報告が求められ、投資家は透明性の高い環境投資が可能です。国内でも地方自治体や大手企業による発行が増えており、資本市場を通じた環境対策資金の供給手段として定着してきています。

グリーンローン

グリーンローンは、金融機関が環境改善効果のある事業に対して融資する資金調達手法です。借り手は、事業計画や資金使途、環境効果の見込みなどを事前に提示し、金融機関や第三者評価機関による確認を受けます。返済条件や金利はプロジェクトの特性や借り手の信用状況に応じて決まり、設備更新や省エネ化工事など比較的小規模な案件にも適用可能です。中小企業や自治体にとっても導入しやすいという特徴があります。

サステナビリティ・リンク・ボンド

サステナビリティ・リンク・ボンドは、発行体があらかじめ設定した持続可能性関連の目標(KPI)に連動して条件が変動する債券です。目標は温室効果ガス排出削減や再生可能エネルギー比率向上などの環境分野に限らず、社会的課題の解決も含みます。達成状況に応じて金利条件が変わるため、発行体には目標達成のインセンティブが働く仕組みです。資金使途が特定プロジェクトに限定されないため、企業全体のサステナビリティ経営強化に柔軟に活用できます。

サステナビリティ・リンク・ローン

借り手が野心的なサステナビリティパフォーマンス目標(SPTs)を達成することを促し、その達成度合に応じて融資条件(金利など)が変動するローンです。

SPTsとは、企業のサステナビリティ戦略における重要課題(マテリアリティ)に関連し、測定可能な改善目標を指します。資金使途は特定プロジェクトに限定されず、企業の包括的なサステナビリティ戦略を後押ししています。

グリーンファイナンスの市場動向

グリーンファイナンスの市場動向
・世界の市場規模と推移
・日本国内の市場規模と推移

グリーンファイナンスの市場動向について、国内外の市場規模と発行総額の推移を中心に解説します。

世界の市場規模と推移

2024年の主なグリーンファイナンス商品の総額は以下のとおりです。

・グリーンボンド:6,344億米ドル
・グリーンローン:2,703億米ドル
・サステナビリティ・リンク・ローン:6,645億米ドル
・サステナビリティ・リンク・ボンド:358億米ドル
※2025年9月10日時点

出典:環境省「グリーンボンド発行データ 市場普及状況(国内・海外)
出典:環境省「グリーンローン組成データ 市場普及状況(国内・海外)
出典:環境省「サステナビリティ・リンク・ローン組成データ 市場普及状況(国内・海外)
出典:環境省「サステナビリティ・リンク・ボンド発行データ 市場普及状況(国内・海外)

2024年度の世界のグリーンボンド発行額は過去最高の6,344億米ドルです。グリーンボンドは欧州が最大の発行地域で、とくにドイツ、フランス、オランダが積極的に活動を行っていることが分かります。

グリーンボンド発行体の地域別の発行実績

出典:環境省「グリーンボンド発行データ 市場普及状況(国内・海外)

(Environmental Financeデータベースの2025年8月20日取得データを基に環境省作成)

日本国内の市場規模と推移

日本国内でのグリーンファイナンスの利用は増加しています。2024年の主なグリーンファイナンス商品の総額は下記のとおりです。

・グリーンボンド:2兆2,169億円
・グリーンローン:8,375円
・サステナビリティ・リンク・ローン:5,060億円
・サステナビリティ・リンク・ボンド:4,331億円
※2025年8月8日時点

出典:環境省「グリーンボンド発行データ 市場普及状況(国内・国外)
出典:環境省「グリーンローン組成データ 市場普及状況(国内・海外)
出典:環境省「サステナビリティ・リンク・ローン組成データ 市場普及状況(国内・海外)
出典:環境省「サステナビリティ・リンク・ボンド発行データ 市場普及状況(国内・海外)

2025年6月9日時点での国内企業等によるグリーンボンドとサステナビリティボンドの発行実績は、下図のとおりです。2023年をピークに落ち着きを見せているものの、長期的にみれば拡大傾向にあるといえます。

国内企業等によるグリーンボンドとサステナビリティボンドの発行実績

出典:環境省「グリーンボンド発行データ 市場普及状況(国内・海外)

グリーンファイナンス活用におけるメリット

・明確な目標設定で脱炭素経営を推進できる
・企業価値の向上によってブランディング効果がある
・新たな投資家層を開拓して資金調達基盤を強化できる

グリーンファイナンスは、企業にとって多くのメリットをもたらします。ここではそのメリットについて具体的に紹介します。

明確な目標設定で脱炭素経営を推進できる

グリーンファイナンスを活用することで、企業は具体的な環境目標やCO2削減目標を設定しやすくなります。環境改善の目標を設定することは、社内での議論や取り組みを活発にし、社員の意識向上につながります。

また、資金調達の条件として環境改善目標を明示することで、経営戦略全体に脱炭素の視点を組み込むことが可能です。これにより、従業員や取引先、投資家に対して企業の環境意識の高さを示せるだけでなく、事業活動における環境負荷を定量的に管理できる体制を整備できます。

企業価値の向上によってブランディング効果がある

グリーンファイナンスの導入は、企業の社会的責任(CSR)や環境への取り組みを対外的に示す有効な手段となります。環境に配慮した経営姿勢が投資家や消費者に伝わると、企業ブランドの信頼性や評価は向上していくでしょう。

環境意識の高いパートナー企業との連携や取引機会の拡大にもつながり、競合他社との差別化を図ることが可能となります。ブランディング効果は、中長期的な企業価値向上に直結するのです。

新たな投資家層を開拓して資金調達基盤を強化できる

グリーンファイナンスは、従来の資金調達手段とは異なり、環境配慮に積極的な投資家層を引きつけることが可能です。ESG投資やサステナブルファイナンスに関心のある機関投資家からの資金獲得により、資金調達の選択肢が広がります。

また、環境目標に連動した評価制度を設けることで、投資家との信頼関係を構築しやすく、資金コストの低減や長期安定的な資金確保にもつながります。これら企業価値の向上活動による投資への呼び込みが、経営基盤の強化に貢献します。

グリーンファイナンス活用におけるデメリット

・フレームワーク策定や外部評価のコスト・手間がかかる
・継続的に情報開示(レポーティング)を行う負担がある
・グリーンウォッシュと見なされるリスクがある

一方で、グリーンファイナンスには留意すべきデメリットもあります。ここでは、活用する上での主な課題を紹介します。

フレームワーク策定や外部評価のコスト・手間がかかる

グリーンファイナンス実行までには、担当部署の多くの時間と労力がかかります。グリーンファイナンスを活用する際には、資金使途の適合性や環境目標の達成度を確認する、国際的な原則に準拠したフレームワークの策定が必要です。また、外部評価機関による認証や評価を受ける場合も多く、その手続きには時間や費用がかかることがあります。

中小企業にとっては専門知識の取得や報告体制の構築が負担になることもあり、短期的にはコストの増加が経営に影響する可能性もあります。

継続的に情報開示(レポーティング)を行う負担がある

グリーンファイナンスは、資金を調達して終わりではありません。多くのガイドラインや原則では、定期的な情報開示が求められており、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に基づく開示では、年度ごとの報告が推奨されています。適切な情報開示を行うためには、関連するデータの収集と分析・管理体制の構築が不可欠です。そのため、高度な専門知識を有する人材の確保や、外部の専門機関との連携が求められる場合があります。

グリーンウォッシュと見なされるリスクがある

実際の環境改善活動が伴わず、資金調達の手段としてのみグリーンファイナンスを利用すると、グリーンウォッシュと見なされるリスクがあります。グリーンウォッシュとは、環境配慮の実態が伴わないにもかかわらず、うわべだけ環境に良いように見せかける行為のことです。外部評価や情報開示が十分でない場合、投資家や消費者からの信頼を損なう恐れがあります。

企業の評判が低下すると、資金調達コストの上昇や取引先との関係悪化につながる可能性があるため、実効性のある環境施策と透明性の高いレポーティングが不可欠です。

グリーンウォッシュについて詳しくはこちら

国内のグリーンファイナンス活用事例

国内のグリーンファイナンス活用事例

日本では、国や自治体、企業によるグリーンファイナンス活用が進んでいます。ここでは代表的な事例について紹介します。

出典:環境省「グリーンファイナンスによる資金調達を行った企業の取組事例 令和6年度版

・大阪府(グリーンボンド )
・株式会社サンクゼール(サステナビリティ・リンク・ローン)
・SUMINOE株式会社(グリーンローン)

大阪府(グリーンボンド )

大阪府は「2050年カーボンニュートラルビジョン」や「2030大阪府環境総合計画(CO2排出量ゼロ化)」を推進する一環として、気候変動への適応・緩和施策に資するグリーンボンドの調達を実施しています。資金使途はCO2排出量削減策や気候変動による自然災害の影響を緩和する策などです。府庁内部では複数部局が連携し、プロジェクト選定やフレームワーク策定、レポーティングの内容更新に注力。

財務課と脱炭素・エネルギー政策課が協働して環境改善データを算定・報告し、そのノウハウを民間事業者に提供することで、持続可能な社会の実現を後押ししています。

株式会社サンクゼール (サステナビリティ・リンク・ローン)

株式会社サンクゼールは、廃棄物削減や女性管理職比率向上などの社会課題をSPTs(例:廃棄物50%削減、女性管理職比率30%)として設定し、サステナビリティ・リンク・ローンによる資金調達を実施しました。調達を通じて得られた大きなメリットの一つに「従業員の意識向上」が挙げられており、社内でのSDGs・サステナビリティへの取り組み推進に寄与。社内の環境課題へのコミットメントが高まり、サステナビリティ・リンク・ローンを通じた持続可能経営への意識が深化へつながっています。

SUMINOE株式会社(グリーンローン)

SUMINOE株式会社は、地域金融機関と連携し、グリーンローンによる資金調達を実現しました。使用済みタイルカーペットを再資源化した「ECOS(水平循環型リサイクルタイルカーペット)」に関する長期運転資金に対し、グリーンローンを活用。結果として、環境への取り組みが外部に認知され、他金融機関とのグリーンローン取引へ波及し、資金調達の選択肢拡大とPR効果を実現しました。また、環境配慮製品であるECOSの製造・拡販により、廃棄物と温室効果ガス排出削減に貢献しています。

自社でグリーンファイナンスを導入する流れ

自社でグリーンファイナンスを導入する流れ

出典:環境省「グリーンファイナンスによる資金調達を行った企業の取組事例 令和5年度版

グリーンファイナンスを調達する場合、「ビジョン等に資するグリーン投資の決定」と、「グリーンプロジェクトの実施」の2つのステップがあります。下記は大まかな方法の一例です。

1. 企業が取り組むべき課題に基づき、環境目標(KPI・SPT)を策定する
2. 環境目標(KPI・SPT)と連動する経営計画・事業戦略を構築し、それに基づいて具体的な投資案件を決定する
3. グリーンボンドの場合、資金使途やプロジェクトの評価プロセスなどを検討する
4. フレームワークを策定し、外部機関によるレビューを受ける
5. 資金を調達し、プロジェクトに投資する

プロジェクトへの投資後も、環境改善効果の算定やレポーティングの実施が必要な点に注意しましょう。

グリーンファイナンスに関するよくある質問

・グリーンファイナンスで利用できる国や自治体の補助金はある?
・グリーンファイナンスに関するセミナーはある?

Q. グリーンファイナンスで利用できる国や自治体の補助金はある?

A.あります。

環境省では「グリーンファイナンスの普及・拡大促進事業」を通じ、グリーンボンドやローン等の資金調達支援に関するフレームワーク策定や外部レビューなどの費用について、補助金を提供しています。ただし、利用できるのは企業や自治体等で、登録支援者による支援業務にかかる費用が補助の対象となります。支援は最大3年度にわたって申請可能ですが、年度ごとの申請が必要なため注意しましょう。

Q. グリーンファイナンスに関するセミナーはある?

A.あります。

環境省主催で、グリーンボンド/ローンやサステナビリティ・リンク・ボンド/ローンに焦点を当てた「グリーンファイナンスセミナー」が定期的にオンラインで開催されています。令和6年度には、4回シリーズで開催され(無料で事前申込制)、市場動向や企業事例と共に、資金調達手法の理解を深める内容を提供しています。

自社に最適なグリーンファイナンスを見極め、戦略的に活用しよう

グリーンファイナンスは、脱炭素化や持続可能な社会の実現に向けた資金の流れを加速する重要な手段です。資金調達の枠を広げるだけでなく、企業価値の向上や長期的なコスト削減、投資家との関係強化にもつながります。一方で、透明性確保や基準適合などのハードルもあるため、戦略的な活用が不可欠です。国内外で事例が増える今こそ、企業にとって最適な形での活用を検討する価値があります。

グリーンファイナンスを効果的に活用するためには、自社のCO2排出量の算定やデータ収集ができる仕組みが必要です。

弊社の「e-dash」は「脱炭素を加速する」をミッションに、クラウドサービスと伴走型のコンサルティングサービスを組み合わせ、脱炭素にまつわる企業のあらゆるニーズに応える支援をしています。脱炭素に関するお悩み・課題はぜひe-dashにご相談ください。

以下の資料では、脱炭素の一歩となるCO2排出量の算出方法について詳しく解説しています。こちらもぜひ参考にしてください。

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