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カーボンオフセットとは?クレジットや仕組み、取り組み事例を解説

世界中で拡がりを見せるカーボンオフセットは、地球温暖化を抑制する取り組みとして国内でも注目されています。近年多発する異常気象や海面上昇などは、観測された結果からも地球温暖化の影響であることがわかってきました。

温暖化防止策が急務とされるなか、国内でも温室効果ガス抑制を目指してカーボンオフセットが展開されています。

本記事では、カーボンオフセットの概要や取り組みで利用されるクレジットの仕組み、主な取り組み事例などを紹介しますので参考にしてください。

カーボンオフセットとは

温室効果ガス

カーボンオフセットは、人の生活や活動などで排出されるCO2などの温室効果ガスをできるだけ抑えて、それでも排出してしまう分を温室効果ガスの削減活動への投資などで埋め合わせをする考え方です。

温室効果ガスは地球温暖化の原因にもなると考えられているため、本来は排出しないのが理想ですが現実的ではありません。そこで、再生可能エネルギーの活用によるCO2削減や、CO2を吸収する森林保護活動などに協力し、排出した分のCO2を相殺するカーボンオフセットが世界中で推進されています。

カーボンオフセットの目的は、CO2などの温室効果ガスをできるだけ削減し地球温暖化を抑制することです。ヨーロッパやアメリカなど海外でのカーボンオフセットへの取り組みは活発で、近年では日本の民間企業にも動きが拡がっています。

しかし、イギリスでは埋め合わせをするはずの活動が実際はCO2削減になっていない事例や、CO2排出削減ができないことを正当化すべきではないなどの課題も指摘されてきました。

カーボンオフセットとカーボンニュートラルの違い

カーボンオフセットとカーボンニュートラルは似ている言葉ですが、取り組み方は異なります。カーボンニュートラルは、カーボンオフセットをさらに進めた新たな取り組みです。カーボンニュートラルは、CO2排出量と吸収量が同じになることを目指します。つまり、森林などによるCO2の吸収や温室効果ガスを削減する取り組みにより、排出量と吸収・削減量が差し引きゼロ(ニュートラル)になった状態のことです。

カーボンオフセットではCO2の削減ができない分をやむを得ずほかの方法で相殺する取り組みますが、カーボンニュートラルは最初からCO2ゼロを掲げて活動する点で大きく異なります。

国はカーボンオフセットの推進に向けてカーボンニュートラルを加えた制度を設け、民間主導の取り組みを実施してきました。

カーボンオフセットの重要性とは

環境問題

地球温暖化は、今や世界共通の課題として大きく取り上げられています。国も「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の中で議論を重ねてきました。2021年7月に行われた「第6次評価報告書 第1作業部会」では、人間の活動が地球温暖化を促進してきたことは疑う余地がない、と結論付けています。報告書では、大気中の二酸化炭素などの温室効果ガスが過去80万年間で前例のない増加をしていることや観測事実、将来予測なども提示されました。

報告書によると、CO2濃度を産業革命前と2019年で比較すると約47%高くなっており、世界平均気温は2011~2020年のあいだに約1.09℃上昇しています。このまま何もしなければ、今世紀末には世界平均気温が1.0〜5.7℃上昇し、年平均降水量の増加や世界平均海面水位の上昇につながるとの予想も示しました。

観測事実や将来予想によって、私たちがこれまでのように住み続けられる環境を維持するためには、カーボンオフセットへの取り組みがいかに重要であるか認識できるでしょう。

カーボンオフセットの仕組み

カーボンオフセット

環境省は、カーボンオフセットの取り組みを大きく分け、「知る」「減らす」「オフセット」の3つのステップで実施すると公表しました。

「知る」のステップでは、自らが行っているCO2排出にかかわる活動を把握し、対象範囲を定めてからCO2排出量を算出します。「減らす」は、排出削減しないことを正当化しないために、削減するための取り組みを必須とするものです。「オフセット」のステップでは、算出されたCO2排出量に合わせてオフセットする量を決めていきます。

オフセットのステップでは、クレジットを無効化しなければ完了とは言えません。クレジットとは、適切な森林管理や再生可能エネルギーの活用、省エネ設備の導入など物理的な取り組みでCO2の排出量を削減するものです。国は、カーボンオフセットの取り組みのなかで、クレジットを企業間で売買するシステム「J-クレジット制度」を導入しています。

J-クレジット制度とは

J-クレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。

引用元:経済産業省 環境省 農林水産省「J-クレジット制度について

国が運営するJ-クレジット制度は、カーボンオフセットやカーボンニュートラルの目標を達成することを主な目的としています。

クレジットを創出する側は、環境に配慮する企業として価値が向上するほかに、省エネルギー設備などによるコスト削減やクレジットの売却益が得られる点がメリットです。

カーボンオフセットの課題

環境問題

地球温暖化対策のために取り組みが推進されているカーボンオフセットは、同時にいくつかの問題点も指摘されています。一つは、国内で取り引きされているクレジットが多様で十分に整理されていないことから生じる課題です。

日本でやり取りされているクレジットには、J-クレジットのほかにも二国間クレジット制度(JCM)や海外由来のクレジットなど多くの種類があります。クレジットの取り引きを検討している企業が、それぞれの違いや活用方法がわからないために踏み出せないケースもあるのは問題です。

また、近年ではカーボンオフセットの取り組みごとにCO2排出量の算定方法に違いがあることも問題点として指摘されています。世界規模の取り組みであるカーボンオフセットは、透明性を高めた上で情報の共有をしなければ、正確な数値は得られません。国は「カーボン・オフセットフォーラム(J-COF)」を設立し、カーボンオフセットの推進やあり方、情報の共有などを図るなどして透明性を高めていく考えです。

日本におけるカーボンオフセットの取り組み

エコロジー

農林水産省では、日本におけるカーボンオフセットの主な取り組みを大きく以下の5つに分けています。

オフセットのタイプ概要
オフセット製品・サービス製品の製造や販売、サービスを提供する人が、製品やサービスのライフサイクルの中でCO2などの排出量を埋め合わせる。
会議・イベントのオフセット会議やイベントで発生する温室効果ガス排出量を埋め合わせる。
自己活動オフセット仕事や生活など自己の活動におけるCO2などの排出量を埋め合わせる。
クレジット付製品・サービス製品やサービス、イベントなどを提供する側がクレジットを付加することで受け取る側の温室効果ガス排出量を埋め合わせる。
寄付型オフセット製品やサービス、イベントなどを提供する側が消費者に対しクレジットの購入を募る。

カーボンオフセットの取り組みには、企業に限らず個人でできるものもあります。例えば、省エネ家電やカーボンオフセット証明書付きのふるさと納税を選ぶなども、カーボンオフセットの取り組み事例です。

カーボンオフセットの取組事例

脱炭素

国が推進するカーボンオフセットの取り組みは、次第に周知され年々拡がりを見せています。ここからは、国内で行われた自治体や企業、NPO法人カーボンオフセットの取り組み事例を見ていきましょう。

特に注目されているのが次の4つの事例です。それぞれ、取り組みの概要や具体的な内容などを紹介します。自社でカーボンオフセットを推進するための参考にしてはいかがでしょうか。

・にちなん日野川の郷

・コベルコ建機株式会社

・NPO法人  環境共棲住宅地球の会

・横手市・森林組合森林吸収共同プロジェクト推進協議会

にちなん日野川の郷

鳥取県にある道の駅「にちなん日野川の郷」は、道の駅としては初となるカーボンオフセットの取り組みを開始し、CO2排出量ゼロを実現しました。

主体者は日南町と道の駅「にちなん日野川の郷」で、運営するのは直売所やレストランなどです。道の駅を運営するために使用される電力などから排出されるCO2の全量は、日南町有林J-クレジットを活用してカーボンオフセットを達成しています。

また、道の駅で販売する商品全部に1品1円のクレジットを付与する「寄付型オフセット」の取り組みも同時に実施。集まった寄付金は日南町有林J-クレジットの購入に充てられるので、消費者は日南町の森林保全活動に貢献できる仕組みです。

2種類のカーボンオフセットを組み合わせる取り組みが功を奏しました。

コベルコ建機株式会社

日本の大手建設機械メーカー、神戸製鋼グループのコベルコ建機株式会社では、2013年10月からオリジナルのカーボンオフセットプログラムを実施しています。森林吸収J-VERクレジットを活用する取り組みが評価され、第5回カーボン・オフセット大賞や第3回東北地域カーボン・オフセットグランプリを受賞しました。

クレジットが付加されたコベルコ製林業機械を使用すると、稼働時に発生する温室効果ガスの一部をカーボン・オフセットできる取り組みです。

プログラムの対象になるのは3種類のコベルコ建機の林業機械で、機械を利用する顧客は希望する地域の森林整備に貢献できます。機械購入後のカーボンオフセット実施期間は1年間で、カーボンオフセットにかかる費用はコベルコ建機株式会社の負担です。

NPO法人環境共棲住宅地球の会

岐阜県で活動するNPO法人環境共棲住宅地球の会は「緑のバトンカーボン・オフセット運動」を展開し、地域の活動拠点としての役割を担っています。この運動の目的は、カーボンオフセットの実施に加えて取り組みをPRすること。運動では、クレジットの購入で山への還元や林業事業者の森林整備活性化を促すとしています。

具体的には、運動に参加して木の家づくりをすると、一定量のカーボンオフセットが実現し森林整備に貢献できる仕組みです。運営主体者のNPO法人環境共棲住宅地球の会は、運動に参加している事業者と共同で専用ホームページが作成できるサービスも提供しています。

これにより、カーボンオフセットのPR活動が効率的に行えるようになりました。さらに、参加企業が独自の取り組みへと発展させていることも報告されています。

横手市・森林組合森林吸収共同プロジェクト推進協議会

秋田県横手市の森林組合森林吸収共同プロジェクト推進協議会では、横手J-クレジットの活用で「横手の森林を守る活動」を展開しています。クレジットは誰でも購入でき、収益金が横手の森林整備活動に還元される仕組みです。購入者は森林保全への貢献を公的に証明できるので、企業の場合は企業価値を高めることにつながります。

CO2などの温室効果ガスを多く吸収できる森林にするには、植樹だけでなく適切な間伐の実施も重要なポイントです。横手の森林を守る活動では、光合成を行う樹木が十分な太陽光で多くの温室効果ガスを吸収できるように森林保全に力を入れています。

運動に協力するには、クレジットのほかにロゴシール付きの「森林環境貢献商品」を購入するのも一つの方法です。

カーボンオフセットやJ-クレジットについて理解しよう!

カーボンオフセット

カーボンオフセットの目的は、世界共通の課題である温室効果ガスを削減し地球温暖化を抑制することです。カーボンオフセットでは、人の生活で排出されるCO2などをほかの方法で差し引きゼロにするためにクレジットを使います。消費者がクレジットを購入し、収益金が森林保全活動や再生可能エネルギーの活用などに活用されるものです。

将来も人が住み続けられる地球環境を目指して、国や民間が協力し推進するカーボンオフセットの取り組みを検討していきましょう。