
Catena-Xとは何か、その必要性や日本企業が参加する意義について、わかりやすく解説します。自動車業界のデータスペースとしてのCatena-Xの価値、Gaia-Xとの違い、日本政府が推進するウラノス・エコシステムとの連携、そして今後の産業展開までを整理しました。信頼性の高い形でデータを共有・連携するために、脱炭素やサプライチェーン管理に携わる方は必見です。
目次
Catena-Xとは?
出典:経済産業省「データ連携について」
Catena-Xとは、自動車産業のサプライチェーン全体をつなぐ、欧州発の国際的なデータ共有プラットフォームです。完成車メーカーから部品・素材メーカーまで、サプライチェーンに関わるすべての企業が、共通ルールのもとで安全にデータを連携できる仕組みです。
Catena-X設立の背景には、近年加速するEV化や脱炭素化の動きがあります。この流れを受け、2021年、ドイツを中心とした欧州企業によって設立されました。主な目的は、製品1点あたりのCO2排出量(PCF)の可視化や、資源の再利用(サーキュラーエコノミー)、トレーサビリティの高度化です。
Catena-Xの仕組みの主な特徴は、各企業が「データ主権」を保持できる点です。自社データを中央サーバーに預けるのではなく、自社で管理したまま、必要な相手に必要な情報だけを安全に共有できます。自動車産業を中心に、日本国内でも、脱炭素経営やデジタル化を支える基盤として注目されています。
Gaia-X・International Data Spaces (IDS)との違い
| 名称 | 内容 |
| Gaia-X | 欧州のデータ主権を守るための共通ルールを示したもの |
| IDS(IDSA) | 企業間で安全にデータをやり取りするための技術標準・設計思想などを整理したもの |
| Catena-X | Gaia-X・IDS(IDSA)をもとに、CO2排出量算定データ連携などで運用されるプラットフォーム |
Gaia-Xは、欧州全体でデータ主権を確保することを目的とした産業横断型のデータ基盤構想です。Catena-Xのように自動車業界に特化した具体的なユースケース実装ではなく、共通の信頼ルールや相互運用性の枠組みを示しています。
International Data Spaces(IDS)は、安全な企業間データ共有を実現するための技術標準を策定する団体です。Catena-Xのような特定業界向けの実運用エコシステムそのものではありません。
このGaia-XやIDSを土台として構築されたのがCatena-Xであり、自動車業界に特化した実運用の仕組みです。CFP(製品ごとのCO2排出量)算定やトレーサビリティなど、現場業務に直結する活用が進められています。
MOBI・Manufacturing-Xとの違い
| 名称 | 内容 |
| MOBI | モビリティ分野全体で安全なデータ共有の仕組みを推進する組織 |
| Manufacturing-X | 自動車に限らず製造業全体を対象に安全なデータ連携環境を整える構想 |
MOBIとは、モビリティ分野における安全なデータ共有の仕組みを、ブロックチェーン技術を用いて推進する国際的な非営利団体です。
Manufacturing-Xは、ドイツ政府が推進する構想で、自動車に限らず製造業全体を対象に、企業同士が安全にデータをやり取りできる環境を整えようとする構想を指します。
Catena-XとCFP(カーボンフットプリント)の関係
CFP(カーボンフットプリント)とは、商品やサービスが原材料の調達から廃棄されるまでに排出する温室効果ガス量を、CO2換算で数値化したものです。Catena-Xを活用することで、部品や原材料ごとの排出量データを企業間で正確につなぐことができます。
Catena-Xが必要とされる背景
脱炭素(カーボンニュートラル)や資源循環(サーキュラーエコノミー)への対応が強く求められている現在で、特に、自社だけでなくサプライチェーン全体での排出量を指す「Scope 3」のデータ把握は、避けて通れない大きな課題として認識されています。この対応を一企業だけの努力で実現することが難しいとされる理由として、主に3つの観点があります。
①サプライチェーンの複雑化
自動車産業のピラミッド構造は極めて広大です。製品1点あたりのCO2排出量(CFP)を正確に算出するには、Tier1からTierNまでの膨大な企業間でデータを繋ぐ必要がありますが、従来のメールや個別のシステム連携では限界に達しています。
②データの信頼性とセキュリティの両立
「責任ある調達」を証明するには詳細なデータ共有が必要ですが、そこには企業の機密情報も含まれます。競合他社も存在するネットワーク内で、「見せたい相手にだけ、必要な情報を、改ざんされない形で届ける」高度な仕組みが不可欠となっています。
③国際ルールの法制化(欧州バッテリー規則など)
欧州を中心に、デジタル製品パスポート(DPP)の導入など、データを共有していない製品は市場から排除されるような法規制が始まっています。これに対応できないことは、グローバル市場における「ビジネスへの参画権」を失うリスクを意味します。
これらの解決策として、Catena-Xの活用があげられます。Catena-Xを採用することで、企業は個別にシステムを構築する膨大なコストを抑えつつ、世界共通のルールのもとで安全かつスムーズにデータを連携できるようになります。単なるデータ交換ツールではなく、「グローバルな競争力を維持するための共通言語」として、Catena-Xの活用が想定されます。
Catena-Xが実現する価値
Catena-Xは、企業単独では対応が難しい脱炭素や資源循環といった課題に対し、サプライチェーン全体でのデータ連携を可能にする基盤です。ここでは、Catena-Xがもたらす具体的な価値について、実務の視点から整理します。
サプライチェーンの見える化
Catena-Xが実現する価値の一つが、サプライチェーンの見える化です。部品や素材の由来、製造・輸送プロセス、CO2排出量といった情報を、企業や工程をまたいで一貫して追跡できるようになります。
CFP(カーボンフットプリント)の算定に必要な情報も自動的に集約されるため、算定負荷の軽減や、脱炭素対応の継続的な実践にもつながります。
安全で主権を守るデータ共有基盤
Catena-Xが提供するもう一つの価値は、企業のデータ主権を守ったまま活用できる、安全なデータ共有基盤です。各社は自社データを自社で管理し続けながら、共有する相手や内容を自ら選び、必要な範囲に限定してデータを提供できます。
認証や契約ルール、アクセス制御といった仕組みにより、信頼できる企業同士だけが確実にデータ交換できる環境が整えられています。これにより、営業秘密や競争力を損なうことなく、サプライチェーン全体での脱炭素対応や情報連携を安心して進められるのが大きな特徴です。
サステナビリティ対応の基盤構築
Catena-Xの活用は、欧州電池規則(バッテリーパスポート)や今後義務化が進むDPP(デジタル製品パスポート)といった法規制への適合根拠として有効であり、複雑な制度対応の効率化とコンプライアンスリスクの低減にも直結するでしょう。
また、「どこで、誰が、どれだけの環境負荷をかけて作ったか」という情報を改ざん不可能な実測値で証明できるため、取引先や投資家からの信頼を獲得し、脱炭素時代の「選ばれる企業」としての競争力を高めます。
さらに、サプライチェーン全体の実測値に基づき、削減余地の特定や部品の再利用性の判断が即座に行えるため、勘や経験に頼らない、科学的で持続可能な経営戦略の立案が可能です。
Catena-Xに関連した技術
Catena-Xは、サプライチェーン全体で安全かつ円滑にデータを連携するため、複数の先進的なデジタル技術を組み合わせて構築されています。ここではCatena-Xを支える主なデジタル技術について、解説します。
分散データスペース
Catena-Xを支える中核技術の一つに、分散データスペースの考え方があります。これはデータを一か所に集めるのではなく、各企業が自社でデータを保持したまま、必要な相手に必要な範囲だけを安全に共有する仕組みです。
共通ルールや共通データモデルのもとで連携するため、企業や業界が異なっても、最小限の調整で相互にデータを活用できるようになります。
データ主権や企業秘密を守りながら、サプライチェーン全体の情報連携を可能にする点が特徴です。脱炭素対応やトレーサビリティを支える、産業用デジタル基盤として重要な役割を果たしています。
相互運用性
Catena-Xにおける相互運用性とは、企業や業界、使用しているシステムやIT基盤が異なっていても、同じ形式でデータを正しく受け渡せる標準化技術です。
Catena-Xでは、データ形式やAPI仕様、用語体系、認証方式などを共通ルールとして定めています。単なるデータ連携にとどまらず、その情報が何を示すのかを相手に正確に伝えることが可能です。これにより、CO2排出量や製品情報といった環境データも、企業や国を越えて一貫した形で共有・活用できます。
結果として、サプライチェーン全体での脱炭素対応や、国際的な制度・規制への対応を効率的に進める土台となります。
トラスト基盤
Catena-Xにおけるトラスト基盤とは、データを共有する相手が信頼できる主体であることを確認し、安心してデータ連携を行うための仕組みです。
参加企業の認証やアクセス権の管理、データの利用条件や責任範囲を明確に定めることで、誰が・どのデータを・どこまで使えるのかを事前に可視化します。
さらに、証明書管理や契約モデルを共通化することで、企業間取引に伴う法的・運用上のリスクを最小化できるのが特徴です。Catena-Xのトラスト基盤は、不確実性を受容可能なリスクに抑え、脱炭素対応に必要なデータ共有を継続的に支える土台となります。
Catena-Xと連携した日本の取り組み
日本政府はウラノス・エコシステムを通じてCatena‑Xと連携し、企業間で安全にデータをやり取りできる共通基盤を整備しています。
以下でご紹介するのは、先進的な取り組み例です。現時点では多くが実証・検証フェーズにありますが、今後の着実な展開が期待されます。
国による取り組み
日本政府は、Catena‑Xと連携したデータ共有の仕組みづくりを官民で進めています。
経済産業省が推進する「ウラノス・エコシステム」は、企業がデータ主権を保ったまま安全に情報連携できる国内データ基盤構想です。脱炭素化や労働力不足・自然災害への対応など、企業のサステナビリティ対応を効率化することを目的としています。
経済産業省は産学官と協力し、ウラノス・エコシステム上でCatena‑Xと国内データ基盤を接続する実証を行い、安全なデータ共有の手法を検証しました。
| 【国による取り組み事例】 NEDO:データスペース基盤の整備・実証支援事業「ウラノス・エコシステムの実現のためのデータ連携システム構築・実証事業」・・・ 企業や業界を越えた安全なデータ流通を目指したデータスペース基盤の開発・実証テーマを複数採択し支援しています。 経済産業省:自動車・蓄電池のCFP・DDデータ連携プロジェクト(ウラノス・エコシステム先導プロジェクト)・・・ 経済産業省は、産業データ連携の促進に向けた優良な取組として、一般社団法人自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センターが運営するCFPやDDデータのサプライチェーン連携プロジェクトを選定しました。 |
企業による取り組み
日本企業による取り組みも進んでいます。NTTデータグループは、IPAとCatena-Xの覚書に基づきNEDO事業を通じて、ウラノス・エコシステムとCatena-Xの相互接続実証を実施しました。
この取り組みでは、異なるデータスペース間の接続において、認証方式やプロトコル、データモデルなどに関する課題を明らかにしています。また、中間層を活用することでCFPデータを相互に交換できる仕組みの有効性を確認しました。
この実証は、国や地域を越えたデータ連携の実現に向けた重要な一歩といえるでしょう。
| 【企業による取り組み事例】 野村総合研究所:Catena‑X本番ネットワーク接続支援・・・ 独自開発のEDC(データスペース接続用コネクタ)を用いて、日本の大手自動車部品サプライヤーがCatena‑X本番環境に安全に接続できるよう支援しています。 三菱電機:サプライチェーンにおけるCFP可視化の実証実験・・・ Catena-Xを活用して自動車サプライチェーン全体のCO2排出量を可視化する実証実験を行い、脱炭素対応強化を目指しています。 |
Catena-Xの今後の広がり
出典:経済産業省「Ouranos Ecosystem のプロジェクト認証に基づいて選択された、産業データ共有を促進するための優れた取り組み」
経済産業省では、ウラノス・エコシステムを軸に、産業を横断したデータ流通や共有基盤の整備を進めています。その流れの中で、Catena-Xのようなデータスペースは、国の政策によって制度面からも後押しされつつある存在です。
現在は自動車分野での活用が中心ですが、今後は製造業全般や物流、エネルギー、インフラ管理など、幅広い分野への展開が見込まれます。
企業間で信頼性の高いデータ連携が進むことで、サプライチェーン全体の透明性と効率性を高める共通基盤として、Catena-Xの役割が一層重要になるでしょう。
カーボンニュートラルへの企業の取り組みについて詳しくはこちら
Catena-Xに関するよくある質問
注目されるCatena‑Xですが、実務に際しては具体的な利用方法や他のデータ連携基盤との違いについて疑問が生じるでしょう。ここでは、Catena‑Xに関するよくある質問とその回答をまとめました。
Q.Catena-Xに参加するための条件や準備はありますか?
A.Catena-Xへの参加には、まずネットワークへの登録・認証手続きが必須です。企業情報を登録し、BPN(企業識別番号)を取得する必要があります。そのうえで、EDC(Eclipse Data Space Connector)などの標準接続技術を導入し、既存システムや専用アプリを通じて安全にデータ連携できる体制を整えることが求められます。
Q.Catena-Xは自動車以外の業界でも使われますか?
A.Catena-Xは、自動車業界においてデータを安全・標準化して共有するために設計されたデータエコシステムです。将来的には、産業横断的なデータ連携基盤のモデルとなる可能性もあります。
Q.Catena-Xはどのようにデータが連携されますか?
A.Catena-Xでは、各社が自社にデータを保持したまま、共通の認証・通信ルールに基づいて連携します。異なるデータスペース同士をつなぐ際には「中間層」と呼ばれる変換・仲介の仕組みを介します。これは通訳や変換アダプターのような役割を果たし、認証方式やデータ形式の違いを吸収するため、データを安全かつ正確に交換することが可能です。
Catena-Xは製造業の新たなグローバル・スタンダードへ
Catena-Xは単なるデータ共有ツールではなく、脱炭素時代の製造業を支える不可欠なインフラです。Scope 3の可視化や欧州の法規制対応において、共通ルールに基づいたデータ連携は、企業の信頼性と競争力を左右する鍵となります。まずは、情報収集から始め、最新の国際動向を注視することが重要です。世界標準の「共通言語」をいち早く取り入れ、持続可能な経営基盤の構築を目指しましょう。
弊社でもBPN(Business Partner Number)を取得し、Catena-Xとの取り組みを加速しています。クラウドサービスと伴走型のコンサルティングサービスを組み合わせ、脱炭素にまつわる企業のあらゆるニーズに応える支援をしています。脱炭素への取り組みを強化したい企業の皆さまは、ぜひe-dashにご相談ください。
