非化石証書という言葉を聞いたことはありますか?SDGsについて注目が集まる中、2009年に制定された「エネルギー供給構造高度化法」は小売電気事業者に対して「2030年度に非化石電源比率を電気供給量の44%以上とすること」を求めており、環境に配慮した電力(非化石電源)の利用促進に関わる仕組みとして注目が集まっています。では、非化石証書があることによって、どのようにSDGsに繋がるのでしょうか。
この記事では、言葉の意味や仕組みなどについて解説します。
目次
非化石証書とは?
非化石証書は、「非化石電源」で発電された電気が持つ非化石価値を切り離して証明したものです。
「非化石電源」は、化石燃料(天然ガス、石炭、石油など)を使わずに電気を作る発電方法で、発電の過程でCO2を排出しません。
非化石電源に当てはまる発電方法
- 再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力・地熱・バイオマス)
- 原子力発電
つまり非化石電源由来の電気は、他の発電方法と同じく電気としての価値があるだけでなく、CO2を排出しないという価値(非化石価値)があります。この非化石価値を評価するため、目に見える「証書」という形にしたものが非化石証書です。
非化石証書は、小売電気事業者や発電事業者のみが購入でき、会員制のJEPX(日本卸電力取引所)の内の市場で売買が行われています。例えばすべての電気を化石電源で賄っている電力会社でも、小売電気事業者に非化石証書の対応をしてもらうことにより購入が可能です。そして非化石証書を購入することで、発電により排出されるCO2の量を減らすことに繋がります。
電力会社にとって再生可能エネルギーの発電量は自然環境によって左右されることが多く、発電量が不安定となり、化石電源よりもコストが高い現状があります。そのため、電力会社は単純に再生可能エネルギーの電気購入を増やすことができません。電力会社が持続的かつ安定的な電気供給を行いつつCO2排出削減に貢献するためには、非化石電源・非化石証書を組み合わせて利用することが重要となっています。
非化石証書のメリットについて、具体的に解説します。
メリット①:化石燃料比率の削減
非化石証書は再生可能エネルギー発電の電気であることを証明できるため、目に見える価値に値段をつけることで再生可能エネルギーでの発電を促進します。結果として、化石燃料比率削減に繋がるメリットがあります。エネルギーの使用量が多い企業はエネルギーの使用によって排出されたCO2の量を国に報告する法制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)もあり、CO2排出量の少ない電気の活用と証明が求められています。CO2排出を減らすためにも、非化石証書を用いた取引が必要です。
日本政府がエネルギー政策の見直しを行った後、2011年の東日本大震災により原子力発電が停止しました。原子力発電所が停止したことにより、化石燃料への依存度が増加しました。世界では再生可能エネルギーへの転換が起きており、脱炭素社会を目指して研究が続けられています。これらはCO2排出量削減に向けて、再生可能エネルギーへ軸足を変えていくきっかけとなっています。
メリット②:政府が定めた非化石電源比率目標の達成
非化石証書は「非化石燃料・電源」を使ってCO2削減に貢献していることを証明しています。そのため、電力会社が小売電気事業者において非化石証書を購入することで経費負担を実施して、自社で排出するCO2を相殺することが可能です。
エネルギー供給構造高度化法により、政府は供給している電気の非化石電源比率を4割以上にすることを小売電気事業者に求めています。自社に供給する電気を非化石証書の購入により、実質的にCO2排出量を削減したことに繋がっていると証明されます。
メリット③:電力消費者の「再エネ賦課金」の負担軽減
発電コストの高い再生可能エネルギーでの発電は導入が進まなかったため、電力会社が再生可能エネルギーで発電された電気を固定費用で買取をするFIT制度が開始されました。その買取に要する費用は「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」として、消費者の電気代に組み込まれます。
非化石証書の売買で生じた売上は再エネ賦課金の原資となるため、電気代に加算される再エネ賦課金が減ることで電気代の負担が軽減されます。
非化石証書の役割と仕組み
2018年5月に非化石証書の取引市場が創設されて以降、市場において非化石証書が売買されるようになりました。
そして企業は購入した非化石証書を、化石電源由来の電気と組み合わせて販売することが許可されました。この非化石証書を活用した電気を需要家が購入した場合、実質的に「再生エネルギー由来の電気」を使用することが可能です。
そして非化石電源を使って電気を作る発電事業者にとっては、非化石証書により「販売する電気のCO2排出量が少ない」ことが証明されます。2018年11月の非化石証書オークションでは、日本の住宅用太陽光発電の年間発電量に相当する再生可能エネルギーが取引されました。
非化石証書を企業が取り入れる方法
非化石証書は従来、電力会社のみの購入が可能だったものの、2021年11月より再エネ価値取引市場の運営が開始されました。需要家が直接「非化石証書」を市場で購入することができるようになったことにより、取引量が増加しています。
非化石証書を購入した電力会社は、電気料金プラン(証書で示した環境価値を組み込んだ内容)を提供しています。
非化石証書の3つの種類
非化石証書には3つの種類があります。CO2を排出せず、環境負担の少ない電気を選ぶ時には、「再生可能エネルギー」が使用されているものを選ばなくてはなりません。
それぞれについて解説します。
FIT非化石証書(再エネ指定)
FIT制度(固定価格買取制度)で買い取られた電気の非化石価値を証書にしたものです。再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格・一定期間の内容で買い取ることが約束されています。
非FIT非化石証書(再エネ指定)
大型水力発電によって発電された電気の非化石証書です。これは、「高度化法義務達成市場」で扱われ、FIT制度で指定されていない再生可能エネルギーに対して証書で示しています。
非FIT非化石証書(再エネ指定なし)
FIT制度で買い取られておらず、再生可能エネルギー以外の発電方法(原子力発電など)によって発電した電気の価値を証書で示したものです。原子力発電で発電したもので、高度化法義務達成市場で取り扱われています。
再生可能エネルギーとFIT電気の違い
再生可能エネルギーとFIT電気の違いは、次のようなものがあります。
- 再生可能エネルギー:自然界のエネルギー(太陽光・風力・水力・地熱・バイオマス)
- FIT電気:再生可能エネルギーで発電し、FIT制度で買い取られた電気
主にFIT制度で買い取られた電気は、環境価値がありません。再生可能エネルギーは環境価値がありますが、FIT制度で買い取られると環境価値がなくなります。FIT制度で買い取られる電気の費用の一部は消費者が負担しているので、その電気は「クリーンな電力である」と言えなくなります。そのため、電気としての価値だけが残ることとなります。『FIT電気=電気としての価値+非化石価値』という考え方でみればわかりやすいです。
電力会社がFIT電気を使うことは、再生可能エネルギーを増やして排出するCO2を減らすために必要です。しかし、FIT電気の使用だけでは電力会社が十分CO2排出量を減らせたとは言えません。そのため、再生可能エネルギーで発電を行う事業者の販売が化石証書によって安定することは、再生可能エネルギーで発電事業を持続的に運営しやすくすることでCO2排出量の削減に貢献ができます。
非化石証書とグリーン電力証書、Jクレジットの違いについて
環境価値の取引には、非化石証書の他に「グリーン電力証書」「Jクレジット」の制度があります。それぞれの違いについて解説します。
非化石証書、グリーン電力証書、Jクレジットの違い
- 非化石証書:非化石電源を含んだ証書
- グリーン電力証書:「再生可能エネルギー」の環境価値を取引するための証書
- Jクレジット:温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国が認証したクレジット
具体的な違い
種類 | 転売 | 購入 | 再生可能エネルギー |
非化石証書 | × | 電力会社のみ | 非化石電源(原子力)も含む |
グリーン電力証書 | × | 企業・自治体も購入可能 | 再生可能エネルギー由来の電気のみ |
Jクレジット | ○ | 企業・自治体も購入可能 | 温室効果ガスの削減・吸収量が対象 |
また、J-クレジットには種別があり、対応する用途が異なります。
非化石価値取引市場について
非化石価値取引市場は、非化石価値を示す証書を取引する市場です。発電事業者と小売電気事業者が電気を売買しています。具体的に、次の2つの市場があります。
それぞれについて解説します。
再エネ価値取引市場
再エネ価値取引市場は事業者の積極的な取り組みを促すことが目的の市場です。もともと小売電気事業者のみが非化石証書を購入可能でしたが、2021年11月の制度変更により、需要家が直接購入できるようになりました。
高度化法義務達成市場
エネルギー供給構造高度化法が定められ、非化石電源比率目標(小売電気事業者)の達成を後押しすることが目的の市場です。小売電気事業者のみ、証書の購入ができます。再エネ価値取引市場の考え方を継承するための市場です。
e-dash Carbon Offsetのサービス
e-dashを提供するe-dash株式会社では、企業のCO2排出量削減支援と世界的なカーボンニュートラル達成支援を目的として、「e-dash carbon offset」の提供を開始しています。
現在、VCS(Verified Carbon Standard)やACR(American Carbon Registry)の認証製品をはじめとしたボランタリークレジットが主体となっており、カーボンクレジット購入後にe-dashから証明書を受け取ることができるサービスとなります。
その他、自治体や事業者向けに化石燃料以外から作られる再生エネルギーなどの環境的な価値を証書にできるサービス(トラッキング付き)FIT非化石証書を提供しています。
非化石証書で消費者負担の軽減・さらなる再生可能エネルギーの普及へ
非化石証書の売買によって得られた売上は、再生可能エネルギーを固定価格で購入するための費用として利用できます。非化石証書を購入する電力会社が増えることで、消費者の電気代を負担軽減でき、再生可能エネルギーの安定的な供給や開発が可能になることが期待できます。再生可能エネルギーの安定的な普及や電気代の負担軽減など、非化石証書を購入する流れを増やすことで、再生可能エネルギーの安定的な供給・開発が可能となります。電気代が安くなるだけでなく、SDGsへ貢献できる手法の一つです。
今後ともe-dash株式会社はサービス提供を通じ、持続可能な社会の実現と共に2050年のカーボンニュートラルな環境を目指して事業者様、自治体様の環境への脱炭素の加速に取り組んで参ります。