カーボンクレジットとは、温室効果ガスの削減や吸収による効果をクレジット化し、国や企業等が取引できるようにした仕組みです。企業はクレジットを購入することで自社の削減努力を補完でき、削減目標の達成につながります。この記事では、カーボンクレジットの仕組みや種類についてわかりやすく解説し、制度や市場の動向を解説します。
目次
カーボンクレジットとは?
カーボンクレジットとは、温室効果ガスの削減や吸収による効果を「クレジット」として認証し、国や企業が取引できるようにした仕組みです。「炭素クレジット」とも呼ばれています。
カーボンクレジットによって、森林保全や再生可能エネルギーの導入、省エネ技術の普及などを目指しています。企業は、クレジットの購入を通じて自社の排出削減努力を補完できるため、排出削減目標の達成にも活用されます。
さらに、2026年度から日本で「GX-ETS(排出量取引制度)」が本格始動し、一定規模以上の企業には排出枠の管理と取引が求められる見込みです。排出規制が強化されることで、企業によるクレジット需要が拡大し、国内市場がより活性化することが予想されています。
カーボンクレジットの目的
カーボンクレジットの目的は、温室効果ガスの削減・吸収量を「価値」として可視化し、経済的なインセンティブを通じて排出削減を促進することです。排出削減や吸収の成果をクレジットとして取引可能にすることで、企業や地域が再エネ導入や森林保全、省エネ投資などの活動を継続しやすくなります。
また、クレジットの取引を通じて、資金が脱炭素プロジェクトに循環する仕組みを生み出し、地域活性化や生物多様性保全などの副次的効果も期待されています。
カーボンクレジットの仕組み
出典:環境省「J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて」
カーボンクレジットは、排出量の削減や吸収に取り組むプロジェクトの効果を、第三者機関が検証・認証して「クレジット」として発行する仕組みです。プロジェクトの代表例としては、植林や森林管理、省エネ設備導入、再生可能エネルギー活用などがあります。
カーボンクレジットの取引によって、売る側はクレジットの売却益によって脱炭素に向けたさらなる設備投資が可能です。買う側は自社の排出削減努力を補完できるため、削減目標の達成につながります。こうしたクレジットの取引を通じて排出量を埋め合わせる考え方を「カーボンオフセット」と呼びます。
カーボンクレジットの2つの取引制度
経済産業省「カーボン・クレジット・レポートの概要」(2022)を基に作成
カーボンクレジットの取引には、「ベースライン&クレジット」と「キャップ&トレード」の2つの考え方があります。ここでは、それぞれの制度について説明します。
ベースライン&クレジット制度
ベースライン&クレジット制度とは、プロジェクトを実施しなかった際に想定される排出量(ベースライン)より実際の排出量が少なかった場合、その差分を「クレジット」として認証する制度です。
削減効果は第三者による検証を経て信頼性が担保され、創出されたクレジットは市場で取引可能となります。これにより、削減努力を行った企業は収益化でき、他社は不足分を補う手段として活用できます。
キャップ&トレード制度
キャップ&トレード制度とは、国や地域が各企業に総排出量の上限(キャップ)を設定し、その範囲内で排出枠を取引(トレード)できる制度です。
たとえば、排出量を削減できて枠を下回った企業は、排出枠の余った分を売却できます。反対に、超えてしまった企業は不足分を購入する必要があります。これにより、市場原理を活用しつつ全体の排出量を効率的に抑制できるのです。
ベースライン&クレジット制度は「プロジェクト単位で排出削減量を創出する仕組み」で、キャップ&トレード制度は「事業者単位で排出枠を取引する仕組み」と整理されます。
カーボンクレジットの種類
出典:経済産業省「カーボン・クレジット・レポートの概要」(2022)
カーボンクレジットには、国連や政府が主導する公的なクレジットと民間主導のものがあり、いくつかの種類に分けられます。ここでは、主なカーボンクレジットの種類について解説します。
国連主導のカーボンクレジット
| 【代表的な例】 ・京都メカニズムクレジット ― クリーン開発メカニズム(CDM) ― 共同実施(JI)……など |
国連主導のカーボンクレジットとは、京都議定書で創設された「京都メカニズム」に基づき、国際的な排出削減量の取引を可能にした制度です。
代表的な仕組みには、先進国と途上国が協力するクリーン開発メカニズム(CDM)や、先進国間での共同実施(JI)がありました。第一約束期間の終了に伴い、取得事業は2013年に終了しましたが、その考え方は新しい国際枠組みに引き継がれつつあります。
二国間のカーボンクレジット
二国間クレジット制度(JCM)とは、日本が途上国と協力して温室効果ガスの削減を進め、その成果を双方で活用できる国際的な制度です。
具体的には、日本の優れた脱炭素技術やシステムを途上国に導入することで、現地の持続可能な発展を支援できます。日本は、得られた削減量を自国のNDC(国が定める削減目標)達成に反映できる仕組みです。国際協力と国内目標の両立が見込めます。
国内のカーボンクレジット
| 【代表的な例】 ・J-クレジット ・地域版J-クレジット |
国内のカーボンクレジットには、国が運営する「J-クレジット」と、自治体が主体となる「地域版J-クレジット」があります。
J-クレジットは、省エネ設備の導入や森林整備による排出削減・吸収量を認証する仕組みで、企業の環境投資を後押しします。一方、地域版は地元のプロジェクトを対象とし、地域経済の活性化や脱炭素化を推し進めます。
民間主導のクレジット(ボランタリークレジット)
| 【代表的な例】 ・Verified Carbon Standard(VCS) ・Gold Standard(GS) |
民間主導のクレジットは、企業や団体が自主的に温室効果ガス削減を評価・取引できる仕組みです。「ボランタリークレジット」とも呼ばれます。
代表例の「VCS(Verified Carbon Standard)」は、森林保全や再エネ導入など幅広いプロジェクトが対象です。「GS(Gold Standard)」は、削減量だけでなく、地域社会や環境への影響も含めて多角的に評価します。これらは国際的にも活用できるため、企業の自主的な脱炭素戦略を支える重要な制度といえるでしょう。
カーボンクレジット市場の現状
カーボンクレジットは、排出削減や吸収の成果を「取引可能な価値」として扱う仕組みとして、企業の脱炭素戦略に組み込まれつつあります。世界・国内ともに市場規模は拡大傾向にあり、その運用や制度の整備が一段と進んでいます。
世界のカーボンクレジット(ボランタリークレジット)市場の動向
出典:経済産業省「カーボン・クレジット・レポートを踏まえた政策動向」(2024年)
世界全体としてカーボンクレジットの市場は拡大傾向です。主要ボランタリークレジットの中でも、VCSやGSが発行するクレジットが市場を支えています。
とくに2017年以降は発行量が急増しましたが、2022~2023年には一時的に減少しています。これはクレジットの質や利用方法に対する懸念が強まり、購入する企業が一時停止したためです。
そのため、市場の信頼性や透明性の確保に加え、国際的なルールの整備や評価方法を明確にすることが課題とされています。
国内におけるJ-クレジットのプロジェクト登録及びクレジット認証の状況
出典:J-クレジット制度事務局「J-クレジット制度について」
国内では、「J-クレジット制度」のプロジェクト登録数やクレジットの認証状況から市場の動向を把握できます。J-クレジットは、政府がパリ協定に基づいて掲げた排出削減目標を達成するために整備された制度です。
国内のJクレジットにおいて、プロジェクト登録件数と認証量が年々増加し、脱炭素経営を支える基盤となっています。2024年度時点で登録件数は累計1,262件、認証量は約1,208万t-CO2に達し、とくに再エネや省エネ関連の案件が拡大している状況です。
こうした動向は企業の排出削減努力を数値化し、目標達成に活用できる仕組みとして社会に根づきつつあります。
カーボンクレジットで企業が得られるメリット
| ■カーボンクレジットで企業が得られるメリット ・脱炭素経営を実現できる ・売却益は新たな収益源になる ・企業価値の向上につながる |
カーボンクレジットの活用は、企業にとって排出目標の達成や脱炭素経営の実現による複数のメリットがあります。クレジットを創出し売却すれば新たな収益源となり、購入すれば排出量の一部を相殺でき、削減目標の達成につながります。
さらに、クレジット取引を通じて、ESG(環境・社会・ガバナンス)やCSR(企業の社会的責任)に積極的な姿勢を示すことが可能です。投資家や顧客からの評価が高まり、企業価値の向上に直結するだけでなく、持続可能な成長戦略の実現にも貢献できます。
カーボンクレジットの注意点
カーボンクレジットを活用する際には、信頼性や価格変動など踏まえておくべき注意点があります。ここでは、カーボンクレジットの課題と注意点について解説します。
クレジットの信頼性や品質にばらつきがある
カーボンクレジットには、国際的な第三者機関の認証を受けていないものも存在し、品質に差が生じる点に注意が必要です。信頼性の低いクレジットを導入すると、実際の削減効果が不透明となり企業の評価低下にもつながりかねません。
クレジットを導入する際は、認証制度や基準を確認し、信頼性の高いものを選定する必要があります。
【クレジット認証における主要要件】
出典:経済産業省「カーボン・クレジット・レポートの概要」(2022年)
市場が発展途上で価格が変動するリスクがある
カーボンクレジットの市場はまだ発展途上のため、供給量や需要の変化によって価格が大きく変動するリスクがあります。実際、東京証券取引所が開設した市場でも価格は不安定で、企業にとっては調達コストが読みにくい状況です。
カーボンクレジットの価格変動にそなえて、複数年度にわたる調達計画やリスク分散を意識した戦略が求められます。
制度が複雑で国ごとに異なる
カーボンクレジットの制度は国や地域ごとに異なり、対象範囲や認証基準、取引ルールなどが統一されていない点に注意が必要です。そのため、企業担当者にとって制度の理解と対応が大きな負担となります。
カーボンクレジットの制度の内容や違いを把握していないと、調達コストや取引方法を誤認し、経営戦略に影響を及ぼすリスクもあります。最新情報を確認しつつ、専門知識を持つ外部機関やコンサルタントを活用するなど、体制的に対応するのが重要です。
カーボンクレジットに関するよくある質問
以下に、カーボンクレジットについてよくある疑問をまとめました。疑問解消にお役立てください。
Q.GX-ETS(排出量取引制度)で企業が準備すべきことは?
A.GX-ETSでは排出量の正確な算定・報告体制の整備が必要です。また、排出枠が不足する場合に備えて、クレジット調達の計画や削減施策の優先順位づけを進めることが求められます。2026年度の本格開始に向けて、早期の準備が求められるでしょう。
Q.カーボンクレジットとJ-クレジットの違いは?
A.カーボンクレジットは温室効果ガス削減量を取引する包括的な概念で、国際・国内・民間すべてを含みます。一方、J-クレジットは日本政府が認証する国内の制度で、透明性と信頼性が担保されています。
Q.カーボンクレジットは意味ないと言われるのはなぜ?
A.カーボンクレジットが「意味ない」と言われるのは、クレジットの質や評価方法が不均一である課題点が背景にあります。一方で、脱炭素プロジェクトへの資金循環を促し、企業の排出削減を後押しする役割として期待されている仕組みです。そのため、クレジット制度の整備や認証方法の透明性の確保に向けた取り組みが進められています。
カーボンクレジットを正しく活用して持続可能な事業の成長へ
カーボンクレジットは、温室効果ガスの削減や吸収による効果をクレジットとして見える化し、国や企業等で取引できるようにした仕組みです。温室効果ガス削減を進めるため、世界各国でカーボンクレジットの活用が進んでいます。
企業は、脱炭素経営を実務に落とし込むうえで、仕組みや制度について正しく理解することが重要です。信頼性の高いクレジットを選んで活用し、持続可能な事業の成長を実現しましょう。
以下の資料ではカーボンクレジットについて、詳しく解説しています。こちらもぜひご参考にしてください。
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