国内外には経済格差や性別や人種や宗教などにより、不当な差別を受けている人々がたくさんいます。
それを是正していくために立てられた目標が、SDGs10の「人や国の不平等をなくそう」です。
この目標を達成するためには、個人、組織、国際社会が共同で取り組む必要があります。そこで今回は、SDGs10を達成するための具体的な取り組み事例をいくつかご紹介します。
中でもこれからは海外に目を向け協力と連携を強化し、解決策を見つける事が鍵となると言われています。是非、SDGs目標10の達成に向けてどのような取り組みが行われているのかを把握し、自社、あるいは自分自身の取り組みの参考にしてください。
目次
SDGsが掲げる目標10とは?
SDGs10では、「人や国の不平等をなくそう」という目標が掲げられています。
地球全体に目を向けると、多くの国で所得格差が広がっているのが現状です。豊かな人がますます豊かになる一方で、貧しい人は食事や医療、教育の機会などが十分に与えられない状況になっています。
SDGs目標10は、年齢や性別、障害、人種、民族、出自、宗教、経済的地位、そのほかの状況による差別をなくし、誰一人取り残されない社会を目指すものです。目標10の実現に向けて、国や自治体、企業などがさまざまな取り組みをしています。
SDGs10「人や国の不平等をなくそう」は 持続可能な開発目標のうちの一つ
SDG10「人や国の不平等をなくそう」という目標はSDGsの一部です。主に国内および国際的な不平等を減少させることを目指しています。
つまり、所得、財産、機会、資源への不均等を減らし、社会的な公正を促進することが目標です。
また、ジェンダーに基づく不平等を特に重視しており、男女区別なく平等な機会と権利を公平に有することが含まれています。
他、高所得国と低所得国との間の不平等も懸念しており、国際的な協力と支援を通じて途上国の発展を促進することを目指しています。
◆SDGsとは
「Sustainable Development Goals:」の略で持続可能な開発目標を掲げたものです。
SDGsは、2015年に国際連合で採択され、2030年までに持続可能な開発を達成するための17の具体的な目標とそれに関連する169のターゲットから構成されています。
これらは、世界中の貧困削減、不平等の解消、環境保護、平和と正義の確立など、持続可能な開発に向けて共同で取り組むためのロードマップとして機能しています。
▼SDGsやカーボンニュートラルについて詳しく知りたい方は下記をご覧下さい。
SDGs10が必要になった背景とは
SDGs10が必要になった主な背景には「格差の拡大」が挙げられます。
現在、国間だけでなく国内外で所得格差が拡大しており、富裕層と貧困層の間に大きな不平等が存在しています。
この格差は、社会的不安定性、犯罪、社会的排除などの問題を引き起こす可能性があり、不平等の削減が急務となっています。
特に、発展途上国内での格差は甚大です。
これらの解決には国際的な協力が不可欠で、自国だけの力では発展するのも難しい状況です。
そこで、国際社会一丸となり課題に対処すべくSDGs10を掲げるに至りました。
SDGs10の現状
残念ながら現状、格差は広がるばかりで2030年までに埋められるめどは立っていません。
世界不平等レポート2022によると、世界上位10%世帯が保有する平均資産は成人1人当たり55万920ユーロ(約7,790万円、1ユーロ=PPP=141.4円)
これは世界総資産の75.6%を占めているそうです。一方、50%が世界の中央値を下回り、成人1人当たりが保有する平均資産は平均2,908ユーロ(約41万円)となっています。
これは総資産の2%にも過ぎません。また、世界人口の55%が社会補償も満足に受けられないでいます。
世界における富の分布
世界総資産に占める割合 | 成人一人あたりが保有する平均資産 | ||
1ユーロ=PPP | 日本円に換算 | ||
全人口 | 100% | 72,913 | 10,309,898 |
世界上位10% | 75.6% | 550,920 | 77,900,088 |
中間層40% | 22.4% | 40,919 | 5,785,947 |
中央値以下50% | 2.0% | 2,908 | 411,191 |
経済格差により様々な問題が起きる
経済格差が存在すると、世界でさまざまな問題が生じます。
以下に、経済格差が引き起こす可能性のある問題をいくつか解説致します。
教育の機会や質に対して格差が生じる
経済格差は、教育を受ける機会や質に対して不平等を生む要因になりがちです。
経済的に不利な立場にある人々は、質の高い教育を受ける機会が制約され貧困のループから抜け出せないでいる事もあります。
特に発展途上国では、貧困により子供たちが教育を受けられず文字すら書けないケースもあります。
ユネスコによれば、世界中で約2億4,400万人の6歳〜17歳の子供たちが学校に通う事が出来ずにいるそうです。
健康をケアするためのサービスに格差が生じる
経済格差は医療や福祉など健康を維持するために必要なサービスにも影響を与えます。
例えば経済的に恵まれている人々は、最新医療など十分なサービスを受ける事が出来るでしょう。
しかしながら一方、貧困層は十分なサービスを受けられません。
一因として医師や看護師不足があげられます。
特に、自然災害、紛争、新型コロナウイルス感染症のパンデミックなどの危機に際して、健康格差は生命に直接影響する問題となっています。
居住場所や生活環境などに影響を及ぼす
経済格差は住居に関しても国際的な規模で影響を及ぼします。
現状、豊かな地域や国では高品質な住宅が豊富にあり、一方で低品質で不安定な住宅に住んでいる方もいます。特に発展途上国では、深刻です。
低所得層や貧困国の住民は、低品質な住宅環境に住むことが多く、これが健康問題や疾病の広がりに繋がるケースにも繋がっています。
安全で衛生的な住居環境の不足は、世界的な公衆衛生の課題となっているのです。
SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」の実現に向けた企業や団体による主な取り組みの内容
雇用や経済活動の主体でもある企業は、SDGs10にも深く関わっているといえます。SDGs目標10の実現に向けて、企業や団体が行っている取り組みの内容を紹介します。
日本国内の雇用や評価における不平等をなくす
現在、日本国内では非正規雇用と正社員の賃金格差が問題となっています。仕事内容が同じでも、雇用形態が違えば、賃金が変わるという状態は平等とはいえません。雇用形態に関わらず同じ職務に対し、同じ賃金を支払うことが所得格差の是正につながります。
また、性別や人種、障害などに関わらず、採用、昇進、昇給などを公平にすることも重要です。日本ではまだこうした平等を安定的に実現するだけの社会的な規範が十分でなく、継続的で細やかな配慮を必要としています。
日本の女性が活躍しやすい環境を整備する
日本の男女間賃金格差は、ほかの先進国と比べると大きいことが、さまざまな調査から指摘されています。したがって、企業は女性が採用や昇進で不平等な扱いを受けないよう、働きやすい環境を整備しなければなりません。また、男性だからと責任を背負わせるような性差で職責をつけるような事も無くしていかなければなりません。
現在は多くの企業で、仕事と家庭の両立がしやすい制度の導入、管理職への採用なども行われています。一方で、非正規雇用労働者の割合は女性のほうが多く、ひとり親家庭の場合は男性のひとり親に比べて、女性のひとり親が経済的に不利な状況にある等、課題もたくさん残されているのが現実です。
フェアトレード(公平貿易)製品を選ぶ
フェアトレードとは、貧困問題の解決に向け、弱い立場にある生産者と強い立場にある消費者が対等に行う貿易のことです。途上国で生産された商品は、先進国に安く買いたたかれがちであり、途上国の労働者は不当に安い賃金で働いているため、貧困が解消されません。この状況を打破すべくフェアトレードによって適切な賃金の支払い、労働環境の整備などが行われています。
国内でも活動が広がっており、フェアトレードにより生産された製品を仕入れ、販売する企業も増えています。また、一人ひとりが消費者としてフェアトレード商品を選ぶことも重要性を持ちます。
「環境や社会などに配慮した考え方や行動(エシカル)」について詳しく知りたい方は下記をご覧下さい
募金や寄付を通して活動を支援する
募金や寄付を通して目標10の実現に向けた活動を支援することもできます。実際、積極的な募金や寄付によって目標10に取り組んでいるのが、以下のような団体です。
・日本ユニセフ
・プランインターナショナル・ジャパン
・アムネスティ・インターナショナル日本 など
さまざまな団体があり、教育支援や就業・自立支援、心の支援など目標10に関連した活動を行っています。私たちが個人で募金箱に寄付をすることや、支援人として団体に登録し、定額の支援を続けることも可能です。
日本代表パラスポーツ選手を支援する
パラスポーツとは障がい者スポーツ全般を指す言葉です。社会的に不利な立場に立たされやすい障がい者ですが、スポーツの舞台で活躍すること、それを支えることは、差別や格差の是正につながります。
企業によるパラスポーツ支援で行われているのは、パラアスリート日本代表チームへの協賛、パラスポーツ用品の開発、パラアスリートの雇用など、さまざまな取り組みです。また、企業として障がい者雇用を実施し、障がいのない社員と障がいのある社員同士の交流を目指し、パラスポーツの観戦や応援、ボランティアなどへの参加を推進する企業も多数あります。
SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」の実現に向けた企業の取り組み事例
SDGs目標10の実現に向け、日本国内外の企業では具体的に、どのような取り組みが行われているのでしょうか。ここでは4つの企業を例に挙げ、実際に行われている取り組みを紹介します。
日本航空株式会社
日本航空株式会社では、性別や年齢、国籍、人種などに関わらず、活躍できる職場環境の整備に力を入れています。同社が大きな課題として掲げているのが、D&I、すなわちダイバーシティ&インクルージョン(多様性と受容)です。人財本部のなかにD&I推進を担う専門部署を置き、公正で公平な人材の採用、女性やグローバル人材が活躍しやすい配置・管理職への登用なども行っています。
また、社外経験のある人材の採用・登用、LGBTQへの理解促進、障がいのある社員の活躍なども、格差是正に対する取り組みの一部です。多様性と互いの尊重は、SDGs目標10の実現に向けた対応でありながら、企業として生産性を高める施策でもあるのです。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンクでは、女性が活躍できる環境を整えるため、性別による賃金格差の解消に向けた取り組みを行っています。これはソフトバンクが目指すダイバーシティの第一歩としての取り組みです。
女性の活躍推進を目指すため、育児休業期間や短時間勤務制度の拡充、出産祝金制度、育児サポートなどの制度も充実していることが特徴です。これらは法定のものではなく、法定を上回るソフトバンク社独自の取り組みが含まれます。さらに、キャリア支援として女性社員を対象とした研修の実施、社員コミュニティーづくりの支援なども行っています。
もちろん女性の活躍に留まらず、障がい者の採用、LGBTQに対する取り組み、さらに子育てだけではなく介護と仕事との両立支援など、幅広い活動を進めています。
アート引越センター株式会社
アート引越センター株式会社では、女性が働きやすい環境を目指し、女性活躍推進プロジェクト「Weチャレンジ」を立ち上げています。メンバーは女性従業員で、当事者の意見を取り入れつつ社内コミュニケーションの充実、社員の健康増進、社会貢献活動にも取り組んでいるプロジェクトです。
また、アート引越しセンターは保育事業であるアートチャイルドケア株式会社を運営しています。こちらは子育てサポート認定企業「くるみん」を取得するとともに、保育士が働きやすい環境づくりに尽力していることも特徴です。
さらに、子ども虐待防止オレンジリボン運動への支援、児童発達支援教室の展開など、子どもや障がい者の支援という観点からも幅広く活動しています。
株式会社ウエーブ
ネット印刷や自動化機器開発製造を行う株式会社ウエーブでは、事業を通じてSDGs実現のための取り組みを行っています。同社の取り組みは複数の目標に対して多種多様に行われていますが、とりわけ目標10に関連した取り組みとしては、公正で誠実な競争による事業活動の推進、育児休業の積極的な活用、ダイバーシティの推進などが挙げられます。
性別、学歴、国籍や年齢に左右されずに誰もが平等な機会を与えられ、キャリア形成を図れるような人事体系を確立し、ダイバーシティ(多様性)の実現に貢献していることが特徴の一つです。女性はもちろん、障がいのある人、外国籍の人なども等しく勤務しており、リーダー研修などの充実した研修を受け、また昇進の機会も得ることができています。
SDGs目標10の実現に向けた自治体の取り組み事例
SDGs目標10に関しては、自治体でも実現すべく取り組みが行われています。ここでは、長野県と神奈川県の2つの自治体について、具体的な取り組み内容を紹介します。
長野県
長野県ではSDGsの目標実現に向けて、複数の目標に対して、さまざまな取り組みを行っています。このうち目標10に関連する取り組みとして、「信州こどもカフェ」を設置していることが特徴です。信州こどもカフェは特定の1カ所ではなく、県内のいくつもの施設がこどもカフェとして登録を行っています。子どもに対して学習支援や食事提供、悩み相談などを行っており、事情のある子どもたちが頼れて、格差を是正するための一助として機能する施設です。
また、誰もが学べる環境づくりとして、信州タウンキャンパス構想の実現を目指しているほか、長野県SDGs推進企業登録制度を導入し、企業の価値強化をかねてSDGs実現に向けた取り組みを行っている中小企業を支援しています。
神奈川県
神奈川県では、「ともに生きる社会」を実現するため、障がい者雇用、パラスポーツ支援、女性の活躍応援団などに取り組んでいます。この「ともに生きる社会」は、神奈川県で起きた障がい者差別事件をきっかけとし、偏見や差別のない世界を目指して2016年に憲章として策定されたものです。憲章の根本となった障がい者差別、格差の排除活動はもちろんのこと、配偶者等からの暴力根絶や経済的格差の是正、性別による不平等をなくす取り組みも行っています。
「ともに生きる社会啓発プロジェクト」の一環としては、啓発ポスターの作成や意見交換会などを実施しています。県の施策として当事者目線の支援を打ち出し、2022年には「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例~ともに生きる社会を目指して~」を公布しました。
SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」の実現に向けた世界の取り組み事例
海外での貧困格差は、様々な要因によって引き起こされています。その中でも主な原因は「移民、階級制度、宗教、内戦、紛争、障害」などです。これらの要因は、国や地域によって異なり、複雑に絡み合っています。
そのため、貧困格差の削減には、経済的な均等性の促進、社会的な包摂、教育の普及、雇用の創出、紛争解決、社会的公正の強化など、総合的なアプローチが必要です。大きな力が必要となるため、世界が一丸となって貧困格差問題に取り組んで行かなければ解決は難しいでしょう。
ここでは、世界が行っている取り組みについてご紹介致します。
UNDP(国連開発計画)の活動
UNDP(国連開発計画)は、人や国の不平等をなくすために世界中で様々な活動を展開しています。例えば、特に最も貧しい人々やコミュニティに焦点を当てて教育へのアクセス、健康ケア、雇用の創出などを行っています。
他、女性と男性の平等な機会と権利を確保するためのプログラムを支援しています。男女区別のない職場提供や職責、公正な経済的自立を促しています。
不平等を減少させるためには、経済的な均等性の確保だけでなく、教育、ジェンダー平等、社会的包摂、人権の尊重など、多面的なアプローチが不可欠です。
そして、このようなUNDPの取り組みは持続可能な開発を促進する一環として、国際社会によって広く評価されています。
WFTO(世界フェアトレード連盟)の活動
WFTO(世界フェアトレード連盟)とは、「World Fair Trade Organization」の略でフェアトレードの原則と実践および適切な実施を推進する国際的な非営利団体です。
主な活動としては、途上国の農業などの生産能力を向上させるため支援したり、公正な貿易が出来るよう手助けを行います。
WFTOは、フェアトレード運動の推進において重要な役割を果たしており、公正な貿易と社会的な経済活動を支持する団体や個人にとって、重要な存在です。
彼らは、世界中の生産者と消費者が共に公平な価値を共有するための架け橋となっているのです。
SDGs10への取り組みで格差のない社会を実現しよう!
本記事にて見てきたように、現在では、多くの企業や団体がSDGs目標10の実現に向けた取り組みを行っています。特に、女性の活躍推進や障がい者雇用、グローバル人材雇用に力を入れている企業が多いことが見てとれます。これは日本社会が抱えるジェンダー格差の大きさゆえでもありますが、歴史的、文化的な価値観を背景とした大きな格差があるからこそ、企業にとっては取り組みやすい課題でもあるはずです。
もちろん取り組みのなかには、障がい者や多国籍の従業員など、ダイバーシティ的な取り組みも多く見られました。今回、紹介した事例をヒントに、ぜひ自社で取り組める活動を考えてみましょう。