近年、世界的に環境問題への関心が高まり、日本では「2050年カーボンニュートラル」宣言がされました。その取り組みの一つとして、ガソリン車を廃止する案が上がっています。
今回は、日本政府が打ち出したガソリン車廃止の方針や、廃止に向けた日本の目標と世界の動向について解説します。
目次
2035年までにガソリン車が廃止される?
2021年1月、菅元首相の施政方針演説で「2035年までに、新車販売で電動車100%を実現いたします」と発表がありました。この背景にあるのは、地球温暖化対策を目指して採択されたパリ協定です。
日本政府は、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略として「遅くとも2030年代半ばまでに、乗用車新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じる」としています。
今後、ガソリン車は徐々に減っていく可能性があると頭に入れておきましょう。
参考:電気自動車とは?
電気自動車とは、ガソリンではなく電気をエネルギー源とし、電気モーターを駆動して走行する車のことです。バッテリーから電力を得る電池式と、電力を外部から得る架線式に分けられますが、電池式が一般的です。
東京都は国よりも早く廃止の動きを進めている
東京都は、2030年までに都内で販売される新車すべてを電動車に切り替える方針を示しました。2022年4月から施行された環境確保条例改正案では、自動車200台以上を使用する都内の事業者に対して、乗用車の20%以上を非ガソリン車にする義務が設けられました。この目標を2027年3月末までに達成できない事業者の名前は公表されることとなりました。
このような非ガソリン車導入の義務付けは、都環境局によるとタクシーや運送業など約180事業者が対象となります。温室効果ガスの排出削減が目的であり、すでに約70%の事業者が目標を達成しているものの、より高い基準を目指しています。
これらの取り組みは、大都市としての脱炭素への責務を果たすためのものであり、脱ガソリン車を推進する大きな一歩となると期待されています。
軽自動車の販売は今後どのように変化するのか
日本の車市場で4割の販売を占める軽自動車の販売が今後変化するかは、行政や産業界の意向に大きく影響されます。ガソリン車廃止の目標までに、軽自動車製造メーカーは電動化を進めることが求められていますが、地方の低コスト移動手段としての軽自動車の重要性を考慮に入れると、その代替となる小型電動車が現れるまでの廃止は考えにくいです。
現在では、日産では新型「ノート」においてガソリン車を廃止したことで「e-POWER」が主流となり、マツダでは2030年に全車両の電動化を目指す宣言をしています。
地方で必需品とされる軽自動車の電動化は日本独自の課題であり、その解決策が見つかるまで各メーカーは引き続き、軽自動車の電動化について慎重に進めることでしょう。
日本でのガソリン車廃止の動き
それではガソリン車の廃止と電気自動車(EV)への移行が、具体的にどのように行われているか、企業の公表した内容を基に考察していきましょう。
「トヨタ」2025年を目途にエンジン専用車は廃止へ
トヨタ自動車は、2030年までに電動車の販売を550万台以上、そのうちEVとFCVは100万台以上を目指すと発表しています。2025年頃までには、全車種を電動専用車もしくは電動グレード設定車にする計画です。
そのためには、電池技術の進化やエネルギー密度の向上が重要であると認識しており、全固体電池の開発を加速させるためにパナソニックと協業し大きな投資を行っています。
「ホンダ」バイク(二輪車)でも脱ガソリン車宣言を行った
ホンダは2040年までに四輪車の脱ガソリン車を目指しており、その戦略を二輪事業にも拡大すると発表しました。電気自動車(EV)のバイクの投入と電動化の加速を計画を打ち出し、電動バイクの販売比率を引き上げ、2040年には全面的に電動車とする方針です。
しかし、バイク(二輪車)のEV化には、電池の高価格などの課題も多く指摘されています。ホンダの二輪事業は重要な収益源であり、電動化戦略の動向は注視されています。
ガソリン車の廃止は可能か?燃料別販売台数で確認
現在でも多くの自動車がガソリンを燃料として使用しており、その全廃は容易な課題ではありません。燃料別の自動車販売台数を基に、ガソリン車の廃止が現実的に可能かどうかを検証しましょう。
ガソリン車 | HV | EV | |
トヨタ | 511,885 | 545,395 | 618 |
ホンダ | 96,613 | 169,908 | 371 |
日産 | 17,502 | 176,387 | 16,017 |
上記によると、ガソリン車の販売台数は依然として多い状況ですが、前年と比べてもハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)へのシフトも進んでいます。しかし、インフラ整備や価格、走行可能距離などの課題を考慮すると、ガソリン車の販売を大幅に減らすことは一朝一夕には難しいと考えられます。
世界のガソリン車廃止の動き
2021年11月に開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、「販売される全ての新車を、主要市場で2035年までに、世界全体では2040年までに電気自動車(EV)などのゼロエミッション車とすることを目指す」との共同声明が発表されました。
この声明には、イギリス・スウェーデンなどの先進国24カ国が賛同し、ドイツのメルセデス・ベンツや米国フォードなどの11の会社や団体が同声明に署名しました。
このように、世界各国でガソリン車を廃止し、環境問題を考慮した自動車を生産する動きが起こっています。
ガソリン車廃止に向けて需要の増加が期待される車
日本で販売されている自動車には、ガソリン車やディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)などがあります。
ここからは、ガソリン車廃止に向けて需要が高まると期待されている車を紹介します。
種類 | エンジン・動力源 | 販売価格帯の例 | メリット | デメリット |
ハイブリッド・PHEV車 | ハイブリッド車:エンジンと電動モーターを組み合わせる PHEV:モーターのほかにジェネレーター(発電機)となるエンジンを搭載 | アルファード:540~872万 HONDA e:HEV Z:410万円 プリウス(PHEV):460万円 | ・燃費性能が高い ・エコカー減税が受けられる ・静粛性が高い ・加速性能が良い ・災害時の予備電源になる | ・車両価格が高い ・駆動用バッテリー交換が高額 ・ガソリン車に比べ中が狭い ・充電の手間が必要 ・選べる車種が少ない |
電気自動車(EV) | バッテリーに貯めた電気だけを使って走る | リーフ:408万1000円~ レクサス:630万〜685万円 | ・燃費性能が高い ・静粛性が高い ・加速がスムーズ ・車内で家電が使える | ・車両価格が高い ・充電スタンドが少ない ・給電に時間がかかる ・航続距離が短い |
燃料電池自動車(FCV) | 水素と酸素を化学反応させて発電し、その電気でモーターを動かして走行 | トヨタ MIRAI:860万円程度 | ・有害ガスが出ない ・ガソリン車と給油時間は同じ ・ガソリンよりエネルギー効率が高く、違いは2倍以上 ・長距離移動が可能 ・静粛性が高い | ・水素ステーションが少ない ・製造コストが高い ・静粛すぎて歩行者が気づきにくい ・水素の製造過程では二酸化炭素が排出される |
それぞれの種類ごとに詳しく見ていきましょう。
ハイブリッド車・PHEVの特徴
ハイブリッド・PHEV車 | エンジン・動力源 | 販売価格帯の例 | メリット | デメリット |
ハイブリッド車:エンジンと電動モーターを組み合わせる PHEV:モーターのほかにジェネレーター(発電機)となるエンジンを搭載 | アルファード:540~872万 HONDA e:HEV Z:410万円 プリウス(PHEV):460万円 | ・燃費性能が高い ・エコカー減税が受けられる ・静粛性が高い ・加速性能が良い ・災害時の予備電源になる | ・車両価格が高い ・駆動用バッテリー交換が高額 ・ガソリン車に比べ中が狭い ・充電の手間が必要 ・選べる車種が少ない |
ハイブリッド車とPHEV車はエンジンとモーターを利用して走行する車両のことです。両者の違いは「車内に搭載されているバッテリーを外部から充電できるかどうか」です。
ハイブリッド車はエンジンの発電により充電されるため外部からの充電は不要ですが、PHEV車は車両にコンセントがあるため外部から充電ができます。
ハイブリッド車のメリット・デメリットは以下の通りです。
ガソリン車に比べ燃費が良く、災害時の予備電源としても使えて便利です。一方で車両価格が高く、充電設備が少ないところがデメリットといえます。
電気自動車(EV)の特徴
電気自動車(EV) | エンジン・動力源 | 販売価格帯の例 | メリット | デメリット |
バッテリーに貯めた電気だけを使って走る | リーフ:408万1000円~ レクサス:630万〜685万円 | ・燃費性能が高い ・静粛性が高い ・加速がスムーズ ・車内で家電が使える | ・車両価格が高い ・充電スタンドが少ない ・給電に時間がかかる ・航続距離が短い |
電気自動車(EV)はバッテリーの電気のみを使って動く車です。温室効果ガスの排出量の削減や、世界のエネルギー問題解決をもたらすものとして期待されています。
電気自動車(EV)のメリット・デメリットは以下の通りです。
航続距離が短いにもかかわらず充電設備が整備されていないことが、普及につながらない原因となっているのかもしれません。
大手メーカーの参入による市場の活性化が、価格や性能の改善に大きく影響すると期待されています。
燃料電池自動車(FCV)の特徴
燃料電池自動車(FCV) | エンジン・動力源 | 販売価格帯の例 | メリット | デメリット |
水素と酸素を化学反応させて発電し、その電気でモーターを動かして走行 | トヨタ MIRAI:860万円程度 | ・有害ガスが出ない ・ガソリン車と給油時間は同じ ・ガソリンよりエネルギー効率が高く、違いは2倍以上 ・長距離移動が可能 ・静粛性が高い | ・水素ステーションが少ない ・製造コストが高い ・静粛すぎて歩行者が気づきにくい ・水素の製造過程では二酸化炭素が排出される |
燃料電池自動車(FCV)は水素を燃料としています。ガソリンは使用しておらず、排出されるのは水(水蒸気)のみなので、地球温暖化対策に大きく貢献します。
燃料電池自動車のメリット・デメリットは以下の通りです。
燃料電池自動車は環境問題にも貢献でき、電気自動車よりも充電スピードが早いことが大きなメリットといえるでしょう。
水素ステーションが少ないのがデメリットではありますが、水素ステーションが増えることで今後乗る人も増えるのではと期待されています。
ガソリン車を廃止することのメリット
自動車業界では世界規模でガソリン車を廃止する方向に動いていますが、日本でガソリン車を廃止するメリットと課題はなんでしょうか。
ここからは、ガソリン車を廃止することのメリットと課題について紹介します。
有害物質を排出しないため環境への影響を軽減できる
ガソリン車はエンジンを稼働させるために、二酸化炭素や汚染物質を含んだガスを排出しています。しかし、電気自動車や燃料電池自動車は有害物質を排出しません。
電気自動車や燃料電池自動車はガソリン車とは違い、モーター走行が可能です。ガソリン車の場合はエンジンを使うため、騒音や振動が発生しますが、モーター走行の場合は、騒音や振動はあまり発生せず静かという特徴があります。
車両価格は高価ですが、ランニングコストが安く、震災時に家庭用の電源(電気自動車のみ)として利用できるなど、さまざまなシーンで活躍できるのも大きなメリットといえるでしょう。
また、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが増えると、具体的にどのように地球に影響が出るのか、下記記事で解説しています。
無駄なくエネルギーに変換することができる
電気自動車(EV)は、エネルギーを直接動力に変換するため、ガソリン車よりもエネルギー効率が高いといわれています。つまり、同じ量のエネルギーでも、電気自動車(EV)の方がより長い距離を移動することが可能となります。
日本機械学会交通・物流部門によれば、自動車のエネルギー効率は「電気自動車」が最も高く、17.9〜27.1%とされています。
長期的なコストの削減につながる
電気自動車(EV)に必要な充電コストが、ガソリン代よりも安く、またメンテナンスコストも低い傾向にあります。これにより、長期的に見ると運用コストを削減することが可能です。
さらに、深夜電力では料金を日中より低く設定している電力会社もあります。そこに太陽光発電での電力を使用することで、充電コストを大幅におさえることも可能です。しかし、具体的な数値や節約効果については、使用状況や生活環境などにより異なるため、ご自身のライフスタイルやニーズに合わせて選択することが重要です。
ガソリン車廃止に向けた課題
ガソリン車廃止のメリットを紹介しましたが、課題も多いのが現状です。まず、代替として期待される電気自動車や燃料電池自動車は、ステーションが少なく不便であることが挙げられます。
また、車両価格がガソリン車に比べて高くなっていることも需要が少ない理由の一つであるといえるでしょう。価格差をどのくらい抑えられるかが、購入意欲につながると考えられます。
さらに、選べる自動車の種類が少ないことも課題です。日本では軽自動車が人気の車種となっていますが、ガソリン車の取り扱いしかありません。今後、さまざまな車種で普及することにより、需要も増えるのではないでしょうか。
ガソリン車はいつまで乗れる?今後は乗りづらくなる可能性も
世界的にガソリン車の新車販売の規制が始まっているなか、日本でも2030年代半ばには新車の生産・販売規制が入ってくる可能性が考えられます。
また、自動車業界の大手であるトヨタ自動車株式会社と、電気事業大手のパナソニック株式会社が合弁会社を設立し、車載用の電池開発を共同で行うなどの取り組みも加速しています。
ガソリン車の所有は規制がないため乗り続けることはできますが、税金の観点やガソリンスタンドの減少などから、ガソリン車に乗りづらくなる可能性があるでしょう。
カーボンニュートラルに向けて動き出そう
日本政府の「遅くとも2030年代半ばまでに、乗用車新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じる」との発言により、自動車業界でもガソリン車の廃止に伴う新しいエネルギーを活用した自動車が作られています。
まだまだステーションの数が少なく、普及が進んでいないのが現状ですが、今後はどんどん環境保全に向けて進んでいくでしょう。
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