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SASBスタンダードとは?GRIとの基準の違いや5つの開示項目を徹底解説

近年、企業に対するESG情報(非財務情報)の開示要求が高まる中、SASBスタンダードはサステナビリティ課題への取り組みを明確に示すための開示基準として注目されています。この記事では、GRIスタンダードや併用されるほかのフレームワークとの違い、取り組むメリットについて詳しく解説していきます。これからSASBスタンダードを取り入れたい企業のご担当者は、ぜひご覧ください。

SASBスタンダードとは?

SASBスタンダードはSASBが開発した、企業のESG情報開示のためのフレームワークです。全産業を11セクター77業種に分け、それぞれで「①環境」「②社会資本」「③人的資本」「④ビジネスモデルとイノベーション」「⑤リーダーシップ」という5つの分野のサステナビリティ課題を特定しています。

また、企業に対しサステナビリティ課題について、可能な限り定量的な情報提示を推奨しています。

SASBとは?

SASB(Sustainability Accounting Standards Board)は、2011年にアメリカを拠点に設立された「サステナビリティ会計基準審議会」という非営利団体の略称です。企業のESG情報開示の質を高め、中長期的な投資判断に資する情報を提供することを目的に、財務的インパクトが大きいと想定される業界別のESG要素に関する開示基準を策定しています。

SASBスタンダードが世界的に注目される背景

SASBスタンダードが比較的新しい基準にも関わらず注目を集めている背景には、IFRS財団が設立したISSBの基準開発において、正式な参考資料・基盤のひとつとして位置付けられていることがあります。

昨今、投資家たちが企業に対して「環境問題や社会問題への取り組み状況」について具体的な情報を求める動きが強まっています。SASBスタンダードは業界ごとの特徴を考慮した使いやすい基準であり、他の環境・社会報告の枠組みとも組み合わせやすい点が特徴です。財務に重要な情報の開示に比重が置かれている点も、大きな強みといえます。

そのため、企業の開示レベルが投資家の期待に追いついていないという課題に対し、SASBスタンダードはその橋渡しを担う存在として注目されています。

SASBスタンダードの5つの開示項目

・環境
・社会資本
・人的資本
・ビジネスモデルとイノベーション
・リーダーシップ

SASBスタンダードでは、サステナビリティに関わる分野を5つに分けています。ここからは、5つの分野について具体的な情報の開示内容や、該当する業界、特定されている問題を含め解説します。

環境

環境に関する項目では、企業の活動が自然環境に与える影響と、その管理方法に関する情報の開示を求められます。企業の活動が自然環境に直接影響を与える建設資材産業や金属鉱業ではとくに重要視され、全てのセクターが最重要課題、マテリアリティという位置づけです。

具体例:
・温室効果ガス排出量の測定と削減目標
・大気への影響を削減する対策
・工場や事業所でのエネルギー使用量と管理方法
・水資源の使用量や排水の水質管理
・廃棄物や有害物質の処理方法と削減計画
・生態系への影響を最小限にするための取り組み
■マテリアリティとは?
マテリアリティとは、企業がESG課題の意識決定に与える重要な情報のことであり、企業がどのESG課題を優先的に開示すべきかを判断する基準となります。マテリアリティを特定することの重要性としては、多岐に渡るESG課題に対して、重要なものに経営資源を集中させる必要があるためです。

社会資本

社会資本の項目では、企業と社会、顧客との関わりや、製品の品質、データセキュリティに関する情報の開示が求められます。ヘルスケア産業ではマテリアリティ・マップに分類されている7つのうち5つが課題と定められています。また、食品・飲料産業では製品の品質と安全性などがとくに重視されています。

具体例:
・地域社会との関係構築や人権尊重の取り組み
・顧客情報の保護とデータセキュリティ対策
・製品やサービスの品質と安全性確保の仕組み
・サービスへのアクセシビリティ確保の取り組み
・製品表示や販売慣行の適切性
・不当な契約や詐欺からの救済措置の設置

人的資本

人的資本の項目では、従業員に関する方針や労働環境、人材育成についての情報の開示が求められます。とくに従業員の健康や安全については業界を問わず重要視されています。
また、資源採掘や製造業では、労働慣行も重要な課題となっています。

具体例:
・従業員の健康と安全を確保するための制度や取り組み
・多様性と包摂性(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進
・従業員の能力開発や研修プログラム

ビジネスモデルとイノベーション

ビジネスモデルとイノベーションの項目では、企業の持続可能な成長に向けた製品開発や事業モデルに関する情報開示が求められます。とくに食品・飲料産業では、調達リスクや気候変動への脆弱性といった業界特有の背景をふまえ、これらに対応するマテリアリティが設定されています。これは、持続可能な事業運営において優先的に取り組むべき領域であることを示しています。

具体例:
・製品のライフサイクル全体での環境への影響評価と対策
・外部環境の変化に強い柔軟なビジネス構造
・持続可能なサプライチェーンマネジメントの実践
・原材料の効率的な利用と資源節約の取り組み
・気候変動による物理的リスクへの対応計画

リーダーシップ

リーダーシップの項目では、企業の経営体制や意思決定のプロセス、リスク管理が関連する法規制に即した対応になっているかどうかの情報開示を求められます。とくに金融機関では、この分野の課題の多くがマテリアリティ候補とされており、その背景にはシステミックリスク管理などが重視されていることがあります。

具体例:
・ビジネス倫理や腐敗防止のための方針と実践
・公正な競争を行うための取り組み
・法規制の遵守と政策への関与の透明性
・重大インシデントに対するリスク管理体制
・業界全体に影響を与えうるシステミックリスクへの対応
システミックリスクとは?
ある1か所での金融的な機能不全が連鎖的に波及し、決済システム全体を機能不全に陥れてしまうリスクのことです。たとえば、ある金融機関が決済不能になり、その金融機関からの支払いを見込んでいた別の金融機関も連鎖的に決済不能となる事態を指します。

SASBスタンダードとGRIスタンダードの違い

SASBスタンダードと同様、主要なESG情報開示基準としてGRIスタンダードがあります。どちらもよく用いられるものですが、ここでは両者の違いについて解説します。

比較項目SASBスタンダードGRIスタンダード
主な対象者(開示先)投資家幅広いステークホルダー(投資家、消費者、市民社会など)
サステナビリティの捉え方企業にとってのサステナビリティ(企業の長期的存続)地球・社会のサステナビリティ(将来世代のニーズ充足)
情報開示の焦点企業の財務状況・業績に影響を与える要素企業が経済・環境・社会に与える影響
評価の視点企業視点(企業への影響)社会視点(社会への影響)
業界特性77業種別に特化した基準業種を超えた汎用的な基準

GRIスタンダードはGlobal Reporting Initiative(国際的な非営利団体)が提供している、企業が社会に与える影響を開示するためのフレームワークです。どちらもESG情報を開示するフレームワークですが、SASBスタンダードが「企業視点」であるのに対し、GRIスタンダードは「社会視点」である点が大きな違いといえます。

この違いは、それぞれが重視するサステナビリティの考え方にも表れています。たとえば、SASBスタンダードが「企業が存続するためのサステナビリティ」を重視するのに対し、GRIスタンダードは「地球や社会全体の持続可能性」を重視しています。また、SASBスタンダードは主に投資家向けに財務に影響する情報を開示するのに対し、GRIスタンダードは投資家だけでなく、幅広い関係者に向けて情報を開示することを前提にした基準です。

両者とも近しいものではあるため、企業は目的に応じて使い分けたり、組み合わせたりすることが多いでしょう。

SASBに取り組むメリット

・企業価値の向上が図れる
・業界特有の重要課題への対応ができる
・国際的な信頼性を確保できる

さまざまな項目があり、取り組むのに労力がかかるようにみえるSASBですが、投資家だけでなく企業にとっても取り組むメリットがあります。ここからは、SASBに取り組むことで得られる3つのメリットについて詳しくみていきましょう。

企業価値の向上が図れる

SASBスタンダードに沿った情報の開示を行うメリットとして、企業価値の向上が図る点があります。SASBの項目はそれぞれの業界における社会的、環境的重要課題を設定しているため、これに取り組むことで投資家から長期的市場競争力が高いと判断されるでしょう。

また、グローバルな評価機関による格付けにより、投資指標構成銘柄に組み込まれる可能性も高まります。

業界特有の重要課題への対応ができる

SASBスタンダードは77の業界ごとに最適化された指標のため、各企業に適した形でサステナビリティ課題に対応することが可能です。取り組むことで業界特有のリスクを特定し、それらが財務に与える影響を把握できます。そのため、リスクを長期的な視点で捉え、経営方針を立てることができ、企業価値を毀損するリスクを排除できるでしょう。

国際的な信頼性を確保できる

グローバルな適用可能性を持っているSASBスタンダードに取り組むことは、国際的な信頼を確保することにつながります。たとえば、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やIIRC(国際統合報告評議会)などの他の国際的フレームワークとも互換性があるため、企業のグローバルな評価の向上が見込めるでしょう。

世界中の企業や投資家に関連した指標を提供している部分が、SASBスタンダードの強みといえます。

SASBを導入するには?

SASBを導入するにはまず、自社がどの業種に分類されるかをSICS(Sustainable Industry Classification System)で確認することから始めましょう。SICSは、サステナビリティの関連リスクと機会の共通性に基づき、企業を77業種に分類する産業分類システムです。

自社の業種が確認できたら、その業種の重要課題(マテリアリティ)について、自社の現状を調査し数値を把握します。把握した情報は「SASB参照表」という形式で整理し、年次報告書やサステナビリティレポートなどで公開するとよいでしょう。情報の信頼性を高めるために、第三者機関に内容を確認してもらうとよりよいものになります。

他のレポーティングやフレームワークとの関係

・ESGレポート
・TCFD
・ISSB

SASBは、他のレポーティングやフレームワークとの適用可能性が高い指標です。ここからは、SASBに関連してよく名前が挙げられるレポーティングやフレームワークについて解説していきます。

ESGレポート

ESGレポートとは、企業が自社のESG活動(CO2削減、多様性推進、透明な経営など)について情報開示する報告書のことです。SASBスタンダードは業界ごとに重要なESG課題を特定しているため、ESGレポート作成の指針となります。これにより効率よく投資家に役立つ情報を開示が可能です。

また、企業はSASBスタンダードを活用することで、ESG情報を財務的視点から整理できるだけでなく、自社の持続可能な取り組みの価値を明確に投資家に伝えられるでしょう。

TCFD

TCFDは、企業などに対して、気候変動に関する取り組み・方針や、それが財務に与える影響などの情報開示を推奨する国際的な組織です。気候変動に伴うリスクと機会に関する開示の枠組みを提供しており、投資家との建設的な対話や長期的な企業価値の向上に資するものとして注目されています。2015年にG20からの要請を受け、金融安定理事会(FSB)により設置されました。一方、SASBスタンダードは、その実践に役立つ具体的な指標を提供しています。

SASBは、業界特有の財務的に重要なESG情報の開示を促進し、TCFDは気候変動リスクと機会に特化した財務情報の開示を推奨します。両者を組み合わせることで、企業は業界ごとのESG課題と気候変動への対応を両立させ、より包括的かつ透明性の高い情報開示が可能になります。

TCFDについて詳しくはこちら

ISSB

ISSBとは、国際サステナビリティ基準委員会の略称で、世界の会計基準を決める団体(IFRS財団)が2022年に新しく作った組織です。現在、SASBの管理を行っていますが、SASBの業界別アプローチとTCFDの気候変動報告書の考え方を取り入れた、世界共通のサステナビリティ報告の仕組みづくりを進めています。そのため、将来的にはISSBの基準がSASBに取って代わる可能性がありますが、それまではSASBの継続使用が推奨されています。

ISSBについて詳しくはこちら

SASBスタンダードを活用し企業価値を高めていきましょう

SASBスタンダードは、業種別の実務的な指標により、ESG情報と財務的影響を効果的に結びつける開示基準です。GRIやTCFDなどの他のサステナビリティ関連フレームワークと組み合わせて活用もでき、投資家に向けた情報開示の精度と信頼性を高める手段として注目されています。今後のESG開示対応を進めるうえでも、SASBスタンダードの活用は実務上の有効な選択肢となるでしょう。

弊社の「e-dash」は、「脱炭素を加速する」をミッションとして掲げています。クラウドサービスと伴走型のコンサルティングサービスを組み合わせ、脱炭素にまつわる企業のあらゆるニーズに応える支援を行っています。

弊社では、TCFDなどの国際的な開示基準への対応支援も行っておりますので、環境情報の開示に関するお悩み・課題はぜひe-dashにご相談ください。

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