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経営・戦略

脱炭素経営とは?取り組むメリットや始め方、企業事例を解説

脱炭素経営とは?取り組むメリットや始め方、企業事例を解説

脱炭素経営とは、温室効果ガスの削減を経営戦略に組み込み、持続可能な成長を目指す取り組みです。パリ協定以降、企業価値や競争力を高めるうえで不可欠であり、大企業だけでなく中小企業にも対応が求められています。本記事では、環境省が推進する脱炭素経営の考え方をもとに、取り組むメリットや実践ステップ、注意点、事例までを紹介します。

脱炭素経営とは?

脱炭素経営とは?

脱炭素経営とは、気候変動対策の視点を企業の経営全体に組み込み、温室効果ガス排出削減に計画的に取り組む経営方針のことです。

かつては、CSR活動の一環として行われることが多く見られました。しかし、現在では経営上の重要課題として位置づけられ、全社的に推進する企業が増えています。

日本の温室効果ガス排出量の約8割は企業や公共事業によるものであり、事業活動そのものが気候変動対策の鍵を握っています。当初は大企業が中心でしたが、最近では取引先に対して排出量の開示や削減を求める動きが広がっており、中小企業にも脱炭素経営の波が及んでいます。

脱炭素経営が注目を集める背景

脱炭素経営が注目を集める背景

脱炭素経営が注目を集める背景にあるのは、世界的な気候変動問題の深刻化です。地球温暖化の影響が顕在化するなか、企業には自社の排出削減を通じて社会全体のカーボンニュートラル実現に貢献することが強く求められています。

2015年に採択されたパリ協定では、気温上昇を1.5℃以内に抑えるという国際的な目標が掲げられ、世界各国が長期的な温室効果ガス削減の枠組みを共有しました。日本も2020年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2030年度までに2013年度比46%削減を目指す明確な方針を示しています。

こうした国際・国家レベルの目標を達成するには、企業の脱炭素経営が欠かせません

さらに、ESG投資の拡大やISSB基準の導入により、脱炭素への取り組みは企業価値を測る重要な要素へと変化しています。環境配慮を重視する消費者の増加も後押しとなり、今や脱炭素経営は社会的信頼を得るための必須条件といえるでしょう。

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日本企業における脱炭素経営への取り組み状況

日本企業における脱炭素経営への取り組みは、年々広がりを見せています

現在、日本企業はTCFDSBTRE100といった国際的な環境イニシアチブにも積極的に参加している状況です。

・TCFD:気候変動に対応した経営戦略やリスクの開示を推進
・SBT:科学的根拠に基づいた目標設定を支援
・RE100:事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目指す

たとえば、TCFDに賛同を表明している日本企業・機関は1,488にのぼります(2023年11月時点。新規の賛同受付は終了)。SBT認定を取得または目指す企業は2,010(2025年10月時点)、RE100の参加企業は94社(2025年9月末時点)となっています。

これらの取り組みは業種を問わず幅広く展開されており、とくに多くの取引先を抱える大企業が先導的な役割を果たしています

企業は、製造業に限らず事業活動を行う以上、規模に関係なく温室効果ガスを排出しています。サプライチェーン全体での脱炭素化が求められるなか、中小企業も取引先からの要請を受けて排出量の開示や削減に取り組む必要が高まっています

企業が脱炭素経営を実践するメリット

・事業継続リスクの低減
・市場・顧客からの信頼確保
・資金調達・IRの優位化
・ESG観点の施策によるコスト削減・中長期的な経営指標改善

脱炭素経営の実践は、企業にとってどのような利益をもたらすのでしょうか。ここでは、主な4つのメリットについて解説します。

事業継続リスクの低減

脱炭素経営への取り組みは、将来の事業継続リスクを低減する重要な戦略となります。

気候変動による異常気象の増加や資源価格の変動は、サプライチェーンの混乱を招き、事業活動に直接的な影響を与える可能性があります。また、今後強化が見込まれる環境規制への対応が遅れれば、事業展開の制約や追加コストの発生につながるでしょう。

早期に脱炭素経営を推進することで、こうした将来的なリスクを予測し、適切な対策を講じることが可能です。環境変化への適応力を高め、長期的に安定した事業基盤を構築できる点は大きなメリットといえます。

市場・顧客からの信頼確保

脱炭素経営に積極的に取り組む姿勢は、市場や顧客からの信頼を獲得する重要な要素です。

環境配慮を実践する企業としてブランド価値が向上し、取引先や顧客からの信頼強化、新たなビジネス機会の創出にもつながります。とくに、サプライチェーン全体での脱炭素化が重視される現在、取引先との関係強化や新規取引先の獲得において優位性を持つことができるでしょう。

さらに、環境意識の高い消費者が増加するなか、脱炭素への取り組みを明確に示すことで、企業イメージの向上や顧客ロイヤルティの強化も期待できます。

資金調達・IRの優位化

脱炭素経営は、資金調達やIR活動における優位性をもたらします

気候変動対策を重視する投資家や金融機関が増加しており、ESG投資やサステナブルファイナンスの観点からも注目が高まっています。脱炭素経営を推進することで、グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンといった有利な条件での資金調達が可能になるでしょう。

また、脱炭素への取り組みは企業価値を測る重要な要素へと変化しています。環境への配慮を経営戦略に組み込むことで、株式市場での評価向上や投資家からの信頼獲得につながります。

ESGについて詳しくはこちら

ESG観点の施策によるコスト削減・中長期的な経営指標改善

脱炭素経営は、短期的なコスト削減だけでなく、中長期的な経営指標の改善にも寄与します。

たとえば、事業で使用する電力を太陽光発電などの再生可能エネルギーに切り替えることで、電力価格の変動リスクを回避できます。また、省エネルギー性能の高い機械や効率的な空調設備の導入により、エネルギー使用量の削減を通じてランニングコストを着実に減らせるでしょう。

初期投資は必要ですが、長期的な視点では事業効率の向上と持続可能な収益構造の構築が実現します。さらに、環境負荷の低減は企業の社会的責任を果たすだけでなく、将来的な規制強化に備えた先行投資としても位置づけられ、経営の安定性を高める効果が期待できます。

脱炭素経営におけるデメリット

一方で、脱炭素経営には、初期費用やコストといったデメリットも存在します

たとえば、再生可能エネルギー設備や温室効果ガス排出量の少ない製造設備の導入、環境価値(非化石証書・Jクレジットなど)の購入には一定の資金が必要になります。

また、脱炭素方針に沿って取引先を見直す場合、これまで築いてきた企業間の関係性が変化することも考えられます。

■設備投資には補助金・支援金を活用できる
日本政府は国の脱炭素社会の実現を目指しており、脱炭素経営に積極的に取り組む事業者への補助金や支援制度を整備しています。利用可能な制度は、環境省の脱炭素化事業支援情報サイト(エネ特ポータル)で確認できます。

脱炭素の取り組みを始めるための3ステップ

脱炭素の取り組みを始めるための3ステップ
・1.知る
・2.測る
・3.減らす

脱炭素に取り組むには、まず何から始めればよいのでしょうか。ここでは、環境省が提唱する3つの基本ステップをもとに、企業の排出量の多くを占めるCO2に焦点を当てて解説します。排出量算定には、専門的な知識やデータ整理が必要となることもあるため、専門家や支援サービスの活用も有効です。

出典:環境省「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック

1.知る

脱炭素経営の第一歩は、自社を取り巻く動向を正しく「知る」ことです。政府や自治体の政策、補助制度、業界全体のカーボンニュートラルへの動きなどを把握することで、自社に必要な対応の方向性が見えてきます。

セミナーや講演会への参加、取引先や顧客との対話も有効な情報源です。こうして得た情報を整理し、2050年カーボンニュートラルの達成を見据えた自社の脱炭素経営方針を検討していきます。

2.測る

次に重要なのは、自社のCO2排出量を「測る」ことです。排出量は次の基本式で算定します。

CO2排出量=活動量×排出係数

活動量とは電力使用量や燃料消費量などの実際の使用量を指し、排出係数はそれぞれのエネルギー源がどれだけCO2を排出するかを示す数値です。エネルギー種別ごとに係数が異なるため、環境省の公表値などを確認しましょう。

算定結果をグラフ化して事業所や活動単位で分析すれば、排出の傾向や重点対策領域が明確になります

CO2排出量の算定について詳しくはこちら

e-dashは、CO2排出量の可視化から削減までを一気通貫で支援するサービスプラットフォームです。クラウドサービスと専門家によるコンサルティング支援を組み合わせて企業の脱炭素を総合支援しています。ぜひお気軽にご相談ください。

CO2排出量の可視化を支援するe-dashの資料はこちら

3.減らす

次のステップは、CO2排出量を「減らす」ことです。まず、算定したデータをもとに排出源を分析し、削減対策をリスト化しましょう。

照明のLED化や省エネ機器の導入など、すぐに実行できる取り組みから始めるのが効果的です。また、取り組みを進める中で、進捗や効果を確認しながら計画を見直すことも重要です。

具体的な削減対策の例は、次で詳しく紹介します。

脱炭素経営への具体的な取り組み

・減らす:エネルギー使用量を削減する
・改善する:設備のエネルギー効率を高める
・切り替える:エネルギーの低炭素化を進める
・作る:自社でエネルギーを作る
・創る:ESGを志向した新製品/サービスの開発、展開

脱炭素経営を実現するためには、CO2排出量を減らすための具体的なアクションを実践していくことが重要です。環境省はその基本的な方向性として、次の4つのステップを示しています。

・減らす:エネルギー使用量を削減する
・改善する:設備のエネルギー効率を高める
・切り替える:エネルギーの低炭素化を進める
作る:自社でエネルギーを生み出す

さらに、これらに加えて、ESGを志向した新製品やサービスの開発・展開も重要な取り組みとしてご紹介します。

出典:環境省「中小企業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック

減らす:エネルギー使用量を削減する

【例】
・休憩時間の消灯
・照明を減らす

エネルギー使用量の削減は脱炭素経営の第一歩であり、コスト低減と排出削減を同時に実現できます。たとえば、照明や空調の最適化、設備稼働の最適化などは初期投資が小さく効果が見えやすい取り組みです。

さらに、休憩時間の消灯や不要な照明の調整などの省エネ活動は、社員の意識改革にもつながり、組織全体で持続的な改善を進める基盤となります

改善する:設備のエネルギー効率を高める

【例】
・照明のLED化
・高効率コンプレッサーの導入
・空調設備を高効率のものに買い替え

省エネルギー性能の高い設備へ更新することは、脱炭素経営を加速させる有効な手段です。LED照明や高効率空調、インバーター制御機器などは消費電力を大幅に抑えられ、長期的には運用コスト削減にも直結します。

さらに、最新設備の導入は企業の先進性を示し、取引先や顧客からの信頼向上にもつながるでしょう。

切り替える:エネルギーの低炭素化を進める

【例】
・太陽光・風力・バイオマスなどの再エネ発電設備の利用
・CCS(二酸化炭素回収・貯留技術)付き火力発電の利用
・太陽熱温水器・バイオマスボイラーの利用

エネルギーの低炭素化は、温室効果ガス削減を加速させる重要な取り組みです。再生可能エネルギーの導入やグリーン電力の調達は、直接的に排出を抑えられます。さらに、都市ガスや重油を利用する設備を電化やバイオマス・水素燃料へ転換することも有効です。

これらの取り組みは、長期的なコスト安定と企業価値の向上にも結びつきます

作る:自社でエネルギーを作る

【例】
・太陽光発電設備の導入
・コージェネレーションシステムの導入

自社で再生可能エネルギーを生み出すことは、外部からのエネルギー調達に依存しない脱炭素対策として有効です。たとえば、工場や倉庫の屋根に太陽光発電を設置したり、コージェネレーションシステムで発電と排熱利用を同時に行ったりすることで、使用エネルギーの一部を自前で賄えます。

こうした取り組みは、災害時や供給制約時にも事業を継続しやすくするメリットもあります。

創る:ESGを志向した新製品/サービス開発、展開

【例】
・環境配慮型製品の開発
・循環型ビジネスモデルの構築

脱炭素経営は社内の取り組みにとどまらず、製品やサービスそのものに環境価値を組み込むことでさらに大きな効果を生み出します。環境負荷の低い素材の採用や製品ライフサイクル全体でのCO2削減、リサイクル可能な設計など、ESGの視点を取り入れた開発は市場での差別化要因となります。

こうした取り組みは、取引先企業のサプライチェーン排出量削減や、環境意識の高い消費者のニーズに応えることで、新たな収益機会の創出につながります。企業の競争力強化と社会貢献を同時に実現できるでしょう。

参考にすべき脱炭素経営に取り組む企業の事例

ここでは、脱炭素に取り組む企業3社をご紹介します。ぜひ自社で取り組む際の参考にしてください。

アスクル株式会社

アスクル株式会社は、法人および個人向けの通信販売事業を展開する企業です。

同社では、2050年までにScope 1, 2, 3すべてをネットゼロにする目標を掲げており、とくにScope 3削減のためにサプライヤーへの働きかけを重視しています。

そこで同社は、対象93社に向けた段階的支援を実施しました。具体的には、説明会・勉強会による意識醸成、Scope 1, 2, 3算定ツールの提供、目標設定の支援などを行いました。特徴的なのは、サプライヤーをアンケート結果に基づいて4グループに分類し、優先度をつけて効率的に支援を展開している点です。

一連の取り組みの成果として、ほかのサプライヤーにも展開できる支援策を構築することに成功しました。同社は、この支援策をもとに2028年のサプライヤーエンゲージメント目標達成を目指しています。

出典:環境省「脱炭素経営フォーラム2024年度」(当日資料 各社資料 アスクル株式会社)

山形精密鋳造株式会社

山形精密鋳造は、ロストワックス鋳造法により自動車部品を製造する山形県の中小企業です。

同社では、消費エネルギーの6割を占める溶解工程の省エネが困難な中、他の工程での省エネを着実に進めてきました。具体的には、山形県工業技術センターの電力測定事業や省エネルギーセンターの無料診断を活用し、インバーター付きコンプレッサー、高効率貫流ボイラー、LED照明などを国の補助金を活用して導入しています。

特徴的なのは、トップダウンとボトムアップの両面からの取り組みです。経営トップの環境への関心から始まった省エネ活動を、月1回の省エネ推進委員会で現場のアイデアを吸い上げる仕組みを構築することで継続させています。

これらの取り組みが評価され、令和2年度には山形県環境保全推進賞、東北七県電力活用推進委員会委員長賞を受賞しました。同社は「いずれサプライチェーン全体での環境取組が求められる時代がやってくる」との見通しのもと、早めの対応を心がけています。

参考:環境省「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック

ジェネックス

ジェネックスは、太陽光発電の建設・運営事業のほか、自社保有の太陽光発電の売電を展開している会社です。

2017年より太陽光発電施設を自社で建設しており、現在150か所、40MWの太陽光発電所を保有しています。

事業における二酸化炭素排出量削減のため、ガソリン車の利用をハイブリッド車へ切り替えることによる削減率を整理し、社有車のカーリースの期限をふまえ、CO2削減計画を策定しました。

排出量は約半分削減できる見込みで、出張制度や社用車の利用ルールの整備を進めています。

参考:環境省「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック

脱炭素経営を競争力へとつなげるために

脱炭素経営を競争力へとつなげるために

脱炭素経営は環境対応にとどまらず、企業の持続的な競争力を高める戦略です。省エネや再生可能エネルギーの導入はコスト削減を実現し、同時に社会的評価の向上にも寄与します。

さらに、大企業だけでなく中小企業にも求められる取り組みであり、将来の安定した経営基盤を築く要素となります。ますます脱炭素経営の重要度が高まるなか、早めに行動することで新たなビジネス機会を獲得し、企業価値を確実に高められるでしょう。

弊社の「e-dash」は「脱炭素を加速する」をミッションに、クラウドサービスと伴走型のコンサルティングサービスを組み合わせ 、脱炭素にまつわる企業のあらゆるニーズに応える支援をしています。脱炭素の取り組みを強化したい企業の皆さまは、ぜひe-dashにご相談ください。

また、以下の資料では企業のCO2削減の方法について、より詳しく紹介しています。こちらもぜひご参考にしてください。

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