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CO2排出量の削減が重要な理由とは?企業の具体的な取り組みについても解説

近年、国際的な要請や取引先からの要望により、企業に対してCO2排出量の削減が強く求められるようになっています。しかし、「何から始めればいいのか」「どこまでやればいいのか」といった不安や、専門的な情報量の多さに戸惑いを感じてしまう方も多いでしょう。本記事では、企業が取り組むべき具体的なステップや実践的な削減方法についてわかりやすく解説します。

企業のCO2排出量の削減が重要な理由

企業のCO2排出量の削減が重要な理由
・法的要件の強化と義務化
・国際的な枠組みへの対応
・取引先からの要求増加

現在の地球は温暖化などの環境問題が深刻であり、世界中で対策が急務とされています。企業活動はその活動において環境に与える影響が大きく、企業における環境対策はさまざまな方向から推進、あるいは義務化されつつあるのです。

ここでは、企業がCO2削減に対応するべき具体的な理由として、3つの側面から解説します。

法的要件の強化と義務化

地球温暖化対策の推進や脱炭素化に向け、国内外でCO2排出量に関する法的な要件の強化と義務化が急速に進んでいます。

国内では、政府の「カーボンニュートラル宣言」を背景に、温対法が温室効果ガス排出量の算定・報告・公表を、省エネ法がエネルギー使用状況の報告を、それぞれ特定の事業者に義務づけています。これらの法律は、企業の排出量情報のデジタル化を推進するなど、改正を重ねるたびに規制を強化しており、今後もこの傾向は続くと見られています。

国外でもEUの「欧州グリーンディール」に基づく規制が進んでおり、法令を理解し、事業支援を活用したCO2削減が企業に強く求められています。

国内外の環境法規について要件を理解し、CO2削減に取り組むことが企業に求められるでしょう。国内では事業支援も整備されているため、これらを活用し負担を少なく削減を実現するためにも法令について理解しておくことが大切です。

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国際的な枠組みへの対応

企業価値の評価において、パリ協定などの国際的な枠組みに沿った取り組みを示すことが、現代の企業に強く求められています。

2015年のパリ協定採択以降、GHG排出量削減に向けた国際的な枠組みが多数生まれています。代表的なものは、事業運営を再エネ100%で行うことを目指すRE100や、科学的根拠に基づいた削減目標を推進するSBTです。

また、CO2排出量の算定・開示の国際的な枠組みとしてISSB(TCFDから機能を承継)などがあり、これらと整合した開示システムを提供するCDPも広く活用されています。これらの枠組みは、企業に詳細なサステナビリティ情報の開示を求めています。

IT化が進み国境のないビジネス環境において、これらの国際的な枠組みに対応することは、グローバル企業としての信頼性を獲得し、企業価値の向上につながるでしょう。実際にRE100には2025年9月現在で94社の日本企業が参加し、認証を受けています。

取引先からの削減要求増加

サプライチェーン全体での排出削減が求められる現在、自社がCO2排出量の開示義務の対象でない場合でも、取引先からの削減要求に対応することが重要です。

CO2削減の国際的な枠組みがサプライチェーン全体での算定・開示・削減を求めるため、大企業からサプライヤーへの削減要求が急速に拡大しています。

たとえば、Appleは取引先110社以上に再生可能エネルギー100%の表明を求め、トヨタは部品会社にCO2排出量3%減を要請しています。国内の中小企業でも10社に1社以上が大手取引先から削減を求められており※、この要求は今後も増加すると考えられるでしょう。

※出典:「NewsRelease中小企業の脱酸素に関する実態調査 第一弾」(フォーバル GDXリサーチ研究所調べ)

企業のCO2排出量削減へのステップ

企業のCO2排出量削減へのステップ
1.自社のCO2排出量を算定する
2.削減目標と削減計画を策定する
3.具体的な削減を実行する
4.結果の集約し改善策を立てる

企業にとってCO2削減はもはや義務ではなく、競争優位性を確立するための戦略的な投資といえます。ここでは、企業がCO2を削減する際の具体的なステップを解説します。

1.自社のCO2排出量を算定する

CO2削減を成功させるためには、まず自社が現在どれだけ排出しているかを正確に数値で把握することが最初のステップです。原則として、CO2排出量は以下の計算式で求めます。

CO2排出量=活動量×排出原単位
活動量とは、使用した原材料の量や生産時のエネルギー利用量、輸送量や廃棄量など、排出活動の規模を示す指標を指します。一方で、排出原単位とは、その活動量に対し、原料やエネルギーごとに規定された単位当たりのCO2排出量のことです。排出原単位の数値は環境省の「排出原単位データベース」で公開されています。

現在、算定対象の範囲には国際的なデファクトスタンダードである「GHGプロトコル」に基づくScope 1, 2, 3という区分を使います

Scope 1は自社の事業活動において直接排出されるCO2排出量。Scope 2は他社から供給された電力・熱・蒸気などに伴う間接的なCO2排出量。Scope 3はScope 1・2以外の、サプライチェーン全体におけるその他の間接的なCO2排出量を指します。

企業でCO2を含む温室効果ガスの排出量を算定する場合、最終的な総排出量はこれらScope 1~3の合計です。なお、実際は膨大な数値の計算となるため、専用のツールやソフトウェアを活用するのがおすすめです

参考:環境省 グリーン・バリューチェーン・プラットホーム「排出原単位データベース

CO2排出量の計算方法について詳しくはこちら

GHGプロトコルとScope 1~3の算定について詳しくはこちら

Scope 2について詳しくはこちら

Scope 3について詳しくはこちら

2.削減目標と削減計画を策定する

正確に算定した現在の排出量の数値をもとに、実現可能な削減目標と、それを達成するための具体的な計画を策定することが次のステップです。

CO2排出量を活動別に算定することで、自社の活動のなかで排出量の多い活動が明確になります。ここで削減すべき活動に優先順位をつけ、順位の高いものから実行する計画を立てることが効率的です。

そして、目標と費用を考慮しながら具体的な削減方法を選定するとよいでしょう。省エネ機器の導入など、国や行政から補助金などの支援を受けることができる方法もあります。

CO2排出量の削減には10年、20年の中・長期的な計画が必要です。

3.具体的な削減を実行する

次に、策定した削減計画に基づき、CO2排出量削減の具体的な施策を実行に移します

施策の実行には、社内の部署間の連携はもちろん、活動によっては他企業との協働が不可欠です。担当者が中心となり、すべての従業員に削減の目的と具体的な行動を周知し、実行を徹底してください。

具体的な環境イニシアチブや認証制度に対応する場合はそれぞれの基準や要件に従い、求められる削減目標や報告形式に沿って削減を実行する必要があります。

実行する際には、国や行政による補助金の交付などの支援事業も行なわれているので利用するとよいでしょう。

4.結果を集約し改善策を立てる

一定期間後、実施した施策の成果を集約し、報告書としてまとめることで、次の改善につなげることが重要です。

集約した結果を精査して改善点を明確にし、より効率的な削減を目指しましょう。具体的な国際的なイニシアチブに参加している場合は、その要求事項に沿って結果を報告(開示)します。

CO2削減の結果集約は、通常、長いスパンで行われることが一般的です。そのため、目標を達成するための前提条件が変わり、目標そのものも見直しを迫られる場合があります。結果の集約ができない期間であっても、年に一度は前提条件や目標を見直し、軌道修正を行うことが大切です。

企業ができるCO2削減のための具体的な取り組み

・自社から排出されるCO2を削減する(Scope 1の削減)
・購入したエネルギーに伴うCO2排出量を削減する(Scope 2 の削減)
・サプライチェーン全体におけるCO2排出量を削減する(Scope 3の削減)

企業ができるCO2削減の取り組みは、上記の3つの対策が挙げられます。

CO2排出量を減らすための取り組みは、自社の燃料消費や工場での排出といった直接的な活動に留まりません。他社から購入する電気や熱といった間接的なエネルギー利用、さらには原材料調達や製品の輸送といったサプライチェーン全体にわたる広範な活動が対象となります。

これらの排出源すべてに対して戦略的に取り組むことで、企業は単なる環境対策を超えた、持続的な成長と企業価値の向上を実現できるでしょう。

【対策1】自社から排出されるCO2を削減する(Scope 1の削減)

・製品生産における省エネ設備の導入
・燃料や製造プロセスの見直し

ここでは自社から排出されるCO2を削減する方法の例を紹介します。自社の活動で排出されるCO2はScope 1という区分に分類されます。

製品生産における省エネ設備の導入

製品生産プロセスや企業活動で使用する設備を省エネ設備に切り替えることは、CO2排出量を削減する効果的かつ持続的な方法です。

具体的な方法としては、燃焼効率を高めて燃料使用を減らす高効率ボイラーの導入や、製品を製造する工場設備のインバータ制御による電力最適化、あるいは冷凍設備や空調設備の最新機種への更新などがこれにあたります。

これらの方法は、一度導入すると設備を使用しているだけでCO2削減に貢献できるため、日々の業務に新たな負荷がかからないのが大きなメリットです。ただし、これらの導入には初期投資が必要な点に注意しましょう

燃料や製造プロセスの見直し

自社におけるCO2排出を伴う燃料や製造プロセスを、より排出量の少ない燃料・代替プロセスに見直すことが、排出量削減につながるでしょう。

この見直しは、新たな設備の導入も含めて大きな見直しが必要となります。また、単にプロセスの代替を検討するだけでなく、設備の点検や整備のプロセスを増やし、効率を維持・向上させることも有効です。

プロセスの詳細な分析と改善のためには、専門のチームを立ち上げるなど従業員に負担がかかる可能性があります。この負担を減らす方法として、外部の専門家に助言を依頼し、知見を借りることもおすすめです。

【対策2】購入したエネルギーに伴うCO2排出量を削減する(Scope 2 の削減)

・エネルギー管理システムの導入
・再生可能エネルギー電力プランへの切り替え
・自家消費型太陽光発電の導入

企業活動を行ううえで、電力を中心としたエネルギーの使用は欠かせません。多くの企業は他社の電力事業者や電気小売事業者から電力を購入しています。この他社から購入するエネルギーを使用して排出されるCO2はScope 2という区分で分けられます。ここではこのScope 2におけるCO2量の削減例をご紹介します。

エネルギー管理システムの導入

エネルギー管理システム(EMS:Energy Management System)とは製品の生産プロセスや企業活動で使用するエネルギーを見える化し、一括管理できるシステムです。

このシステムを導入することで電力の需要と供給が最適化され、使用者が不便を感じることなく不要な電力の消費を抑えることができます。消費を抑えることで他社から購入した電力の使用によるCO2排出量の削減につながるでしょう。

店舗、オフィス、工場用などさまざまな形態にあわせたシステムが販売されており、経済産業省による導入補助金の交付も行われています。

再生可能エネルギー電力プランへの切り替え

再生可能エネルギー電力とは、CO2を含む温室効果ガスを排出しない太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスといったエネルギーを電源とした電力です。多くの電力会社や電気小売事業者から、これらの電力を使用した電力プランが販売されています。

従来の化石燃料を電源とした電力からこれらの電力プランに切り替えることで、電力を使用してもCO2が排出されないので全体的なCO2削減に大きく貢献するでしょう。

再生可能エネルギー電力プランへの切り替えは、一度契約すると通常の業務に特別な制限なくCO2量を削減できるメリットがあります。ただし、プランによっては電気料金が通常の電力よりも高い場合があるためプランの選択が重要です。

再生可能エネルギーとは?種類や特徴、必要性とこれからの課題

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自家消費型太陽光発電の導入

自社の敷地内に太陽光発電システムを設置し、発電した電力を自社で使用することで、外部からの電力供給に伴うCO2排出量を削減できます

太陽光は再生可能エネルギーのため、導入によって電力由来のCO2排出を実質ゼロにできます。この方法は、CO2排出量の削減に加え、電気料金の節約や災害時の非常電源が確保できるのもメリットです。

ただし、設置場所の確保や初期費用がかかることに注意しましょう。初期費用については、国や自治体の補助金を活用できるほか、事業者に設置を依頼し、電気料金を支払うオンサイトPPAという手法も有効です。

【対策3】サプライチェーン全体におけるCO2排出量を削減する(Scope 3の削減)

・製品の輸送、物流プロセスの見直し(カテゴリ3,9)
・リモートワークの推進(カテゴリ7)
・回収・再資源化の仕組み構築(カテゴリ12)
一つの企業内部におけるCO2排出量だけでなく、サプライチェーン全体で排出されるCO2排出量はScope 3という区分で表されます。Scope 3はさらに15のカテゴリに分類され、それぞれに対策があります。Scope 3に関しては、下記でも解説しておりますのであわせてご覧ください。

Scope 3について詳しくはこちら

製品の輸送、物流プロセスの見直し(カテゴリ3,9)

製品やサービスを輸送する際に伴う燃料によるCO2排出を削減するためには、サプライチェーン全体において物流プロセスを抜本的に見直すことが重要です。

具体的な対策として、取引先の輸送コースの最適化を提案したり、トラック輸送から鉄道や船舶を利用する「モーダルシフト」などの輸送方法への変更を検討したりすることが挙げられます。

ただし、このアプローチは自社内だけで完結できるものではないため、CO2排出量の削減を実現するためには、企業同士の緊密な協働が欠かせません

リモートワークの推進(カテゴリ7)

従業員のリモートワークを推進することは、通勤時に使用する乗り物から排出されるScope 3のCO2排出量を削減するための有効な方法です。

この施策は、主に仕組みの構築のみで済むため、初期費用があまりかからず、どの企業も比較的取り入れやすいアプローチだと言えます。

導入にあたっては、出社による生産性との比較を考え、まずは少ない日数から導入するのがおすすめです。そのほかにも、会社に徒歩や自転車で通勤できる距離への引っ越しに対し住宅手当を支給するなど、従業員の行動を変えるさまざまな方法があります。

回収・再資源化の仕組みの構築(カテゴリ12)

製品の廃棄に伴うScope 3のCO2排出量を削減するためには、製品の回収・再資源化の仕組みを構築することが非常に有効なアプローチです。

この仕組みを構築することで、製品が廃棄される際の排出量を減らし、サプライチェーン全体のCO2排出量を削減することにつながります。

また、製品の長寿命化製品の開発もこの区分(主にカテゴリ12:販売した製品の廃棄)の削減につながります。製品寿命を延ばすことで廃棄の頻度自体を減らし、環境負荷の低減に貢献できます。

CO2排出を埋め合わせる方法「カーボンオフセット」とは?
CO2排出量の削減が目標に達しない場合、カーボンオフセットという方法があります。カーボンオフセットとはCO2排出量の削減を試みたあと、さらに削減しきれないCO2の排出に対してカーボンクレジットの購入や植林などを行い自社のCO2排出を「埋め合わせる」方法です。詳しくは下記の記事をご覧ください。

カーボンオフセットとは?クレジットや仕組み、取り組み事例

日本企業のCO2排出量削減の事例

日本企業のCO2排出量削減の事例

ここでは日本企業のCO2排出量削減の事例について、「中小企業の温室効果ガス削減目標に向けた脱炭素経営促進モデル事業」から事例をご紹介します。

出典:環境省「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入 事例集

来ハトメ工業株式会社

来ハトメ工業株式会社はアルミのプレス加工を手掛けており、主にアルミ電解コンデンサ用アルミケースを電子部品メーカーなどに納めているBtoB企業です。

洗浄機をボイラー加熱からオイル加熱へ転換し、重油を廃止することでCO2排出量の削減に成功しました。その結果、環境コミュニケーション大賞を受賞し、講演会の登壇も通して知名度が向上したそうです。

また、社外への脱炭素経営の取り組み発信による社員のモチベーション向上にもつながりました。

株式会社パブリック

株式会社パブリックは廃棄物の収集運搬、 廃棄物の処分及びリサイクルを主な事業とする企業です。

同企業は、17ある事業所においてそれぞれの全体のCO2排出量を算定し、削減対策を優先的に行う事業所を選定。選定した事業所に対して外部診断を活用することで、電力使用の見直しと、燃料使用の見直しを行いCO2排出の削減に成功しました。

また、脱炭素経営企業としての認知度向上により、自治体からリサイクルに関する引き合いが生まれたそうです。

株式会社艶金

株式会社艶金は衣料品の染色整理業として創業しました。現在はレディス・スポーツ衣料に採用される高機能・高付加価値生地の染色が中核事業の企業です。

環境省の支援事業を受け、自社のCO2排出量からサプライチェーン排出量まで算定し、現在は自社単体で算定を継続しています。もともとはバイオマスボイラーを導入していたため、燃料に関する削減の余地はありませんでした。そのため電力に関する削減を行うべく、「空気配管の漏れ防止徹底」「照明のLED化」「インバータ制御スクリューコンプレッサーの導入」を行いCO2排出量の削減に成功しました。

メディアでの紹介や業界新聞等の掲載を通し、過去に取引のなかったアパレル企業から問い合わせがあり、知名度・認知度が向上したそうです。

企業のCO2削減にはいろいろな方法がある!自社に合ったやり方をみつけよう

環境問題が深刻化する現在、これからの成長を望む企業にとってCO2削減は必須の課題といえるでしょう。企業ができるCO2排出量削減の方法はさまざまです。事業内容や事業規模と照らし合わせて、自社に効果があり負担が少ないものを選び算定から開示までのステップを計画的に行いましょう

以下の資料では、CO2排出量の具体的な削減手段についてより詳しく解説しています。こちらもぜひ参考にしてください。

CO₂排出量は、どうやって削減するの?
企業が取り組むべき理由と削減手段を解説!

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